迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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序章

第2話

 暗い夜道を馬車が走る。
 ハワード家を出発してからどれくらい経っただろうか。
 
 狭いワゴンに揺られて、すでにルイスの中では時間の感覚が麻痺してしまっていた。
 去来するのは、父ウガンに言われた言葉だ。

 〝この出来損ないの欠陥品が!〟

(ひっ!)
 
 その言葉を思い出すたびに、ルイスの体はまるで金縛りに遭ったように動けなくなってしまう。

「……着きました。坊ちゃん、降りてください」

 使用人にそう言われて、ルイスは馬車からゆっくりと降りる。
 彼は普段から寡黙な男で、ルイスはこの使用人とほとんど話をしたことがなかった。

 ただ一つ分かっていることは、この使用人がウガンに絶対的な忠誠を誓っているということだった。

 ウガンの言うことには絶対に従う。
 たとえ、それが倫理に反した行為であったとしても。

「ひっく……うっく……。ちちうえぇ……ごめんなさいぃ……」

 ルイスは、使用人の男と森の中を歩きながら、ウガンに対してずっと謝っていた。
 もちろん、その言葉がウガンに届くはずもない。



 馬車を降りてしばらく歩くと、目的の場所へ到着する。
 真っ暗でほとんど何も見えなかったが、周りが異様な雰囲気に包まれていることだけは、ルイスにも分かった。

 使用人の男が静かに口にする。

「ここは、死神の大迷宮の入口となります」

「死神の……大迷宮……」

 その名前をルイスは聞いたことがあった。

 財宝がたくさん眠るダンジョンだが、その生還率は恐ろしく低いと噂されている。
 また、生還できたとしても、そのほとんどの者は記憶を失った状態で発見されるらしい。

 ダンジョンの中には、魂を奪うおぞましい死神が徘徊していると言われており、ベテランの冒険者でも滅多なことがない限り、絶対に足を踏み入れない場所なのだ。
 
「坊ちゃん、悪く思わないでくださいね。これも、お館様のご命令ですから」

「ぅっ……」

 男に簡単に持ち上げられると、ルイスはそのまま迷宮の入口に突き落とされてしまう。

 ドスン!

「……いたぁっ」

 お尻を擦りながら辺りを見渡す。
 目の前には、ルイスの背丈ではどう足掻いても登ることのできない壁が高々とそびえ立っていた。
 
 本当に廃棄されたのだ。
 その事実が分かると、途端にルイスの中に恐怖心が芽生えてくる。

「うわぁぁんっ……! ごめんなさぁぁいぃ……ちちうえぇぇっ……!」

 こんな出来損ないの息子に育ってしまったこと。
 魔法適性ゼロとなり、ハワード家の名を汚してしまったこと。

 ルイスは、自分がとても情けない存在に思え、声を枯らしてウガンに対して謝り続けた。










 ――それから。
 どれくらいそうしていただろうか。
 
 目元は真っ赤に腫れて、声はカラカラとなっていた。

 今、ルイスの手には、ハワード家の紋章が刻まれたメダルが握られている。
 それは、ルイスとハワード家とを結ぶ唯一の繋がりだった。

 こうして大事にメダルを握り締めていれば、いつかウガンが迎えに来てくれるのではないか、と。

 そう思いながら、メダルをずっと握り続けるルイスだったが、いつまで経ってもウガンがやって来るようなことはなかった。

 次第に頭上の空は明るくなり始め、自分はこのままここで死んでしまうんだ、とルイスは覚悟を決める。

(……こんな僕を、父上が迎えに来るわけがないよね……。僕は廃棄されたんだから)

 あとは、父上の望み通りにしよう……。 

 けれど、そう思うも体は正直なもので、ルイスは空腹感に抗うことができず、思わず迷宮の中へと足を踏み入れてしまう。

 内部には、強力な魔獣が潜んでいるとも知らずに。



 ◆



「……父上、ごめん、なさい……父上、ごめん……なさい……」

 ルイスは朦朧とする意識の中、そんなうわ言のような言葉を呟きながら、迷路のようなダンジョンをゆっくりと歩いていた。

 自分は死んで当然だと思っているのに、何か食べる物を探し求めているという矛盾した行動に、ルイスの感情は追いつかない。
 ぐちゃぐちゃな精神状態のまま、ルイスはただ闇雲に歩き続けた。

「グオォォッ……」

 そんな中、ルイスの姿を前方から捉える魔獣がいた。
 ウェアドレイクだ。

 ウェアドレイクは、鋭い爪と硬い尻尾で攻撃を仕掛けてくる有翼系の魔獣である。
 いわゆる下級魔獣であるが、魔法も術式も使えないルイスでは、間違いなく敵わない相手だった。

「……え?」

 通路の真ん中に浮遊するウェアドレイクの姿を見て、ルイスは一瞬、目の前の出来事が現実なのか判断できない。
 なぜなら、それはルイスが実際に目にした初めての魔獣だったからだ。

「グオォォォッ~~!」

 威嚇するような唸り声を上げると、ウェアドレイクはルイス目がけて突撃をしてくる。
 何かを選択しているような余裕はなかった。

「うわぁっ!?」

 ルイスは、転げるようにして逃げるも、頭上からウェアドレイクの尻尾が巻きついてきて、身動きが取れなくなってしまう。

「うぐっ……」

 強靭な鱗に巻き取られ、ルイスの小さな体は押し潰されようとしていた。

 殺される……と。
 突然、魔獣に襲われて何がなんだか分からないルイスであったが、それだけは確かな感覚として理解できた。

 目をぎゅっと閉じて死を覚悟した、その時。



「我の敵を無慈悲に喰らいつくせ――《深淵の捕食マーダーリプレイ》」

 どこからかそんな声が聞えたかと思えば、

 ドギュギュギュルルルルルルッーーーーー!! 

 次の刹那。
 ダンジョンの床から無数の触手が伸びてきて、一気にウェアドレイクの体に絡み付く。

「グオォォォッ!?」

 ウェアドレイクはそのまま触手に握り潰される形で、ぺしゃんこになってしまう。

 この間、わずか一瞬の出来事だった。

「……っ」

 まばたきするのも忘れて、ルイスはその光景を唖然と眺めていた。
 なぜなら、目の前で展開された魔法は、ルイスがこれまでまったく見たことのないものであったからだ。

 ルイスの前には、手元に魔法陣を浮かべた黒いローブを羽織った少女が立っていた。

 とんがり帽子をかぶった少女は、艶やかな緑色のストレートヘアを翻し、綺麗な青瞳を一瞬ルイスへと向ける。

(!)

 その瞬間、ハッと息が止まるような感覚をルイスは抱く。

 透き通ったその顔立ちは、見る者の心を吸い込むような不思議な魅力があった。
 豊満な胸とすらっとのびた長い脚は、まさに美を象徴している。

 まるで、絵画からそのまま飛び出してきたかのような、美しい少女がそこに立っていた。

「まだいたか」

 少女が口にする方へ目を向けると、通路の奥から数体のウェアドレイクがこちらへ向かって飛んで来ていることにルイスは気付く。

 とんがり帽子のつばに触れると、少女は一度距離を取って、手元に新たな魔法陣を作り出した。

「塞ぐものをすべて押し流せ――《超圧の水檻アクアオリハルコン》」

 バシャバシャバババババババーーーーンッ!!

 詠唱すると、少女の両手から大量の水が溢れ出し、飛行するウェアドレイクの群れに見事命中する。

「「「グオォォォォッ~~!?」」」

 ウェアドレイクたちは、狂乱する洪水に飲み込まれる形で、そのまま奥へと押し流されて行った。

「残念だったね。私に出会ったのが不運だったよ」

 黒いローブを羽織った少女は、そこでパンパンと手を叩く。
 そして、青色の大きな瞳を改めてルイスへ向けた。

「っ」

 少女に見つめられて、思わず一歩後ずさってしまうルイス。
 得体の知れない魔法を二度も目撃したため、魔獣同様に彼女に対しても恐怖を感じてしまったのだ。

(まさか……この人が、死神……?)

 少女は目を細めて、じーっとルイスの顔を覗き込む。

「なんで、こんな小さな子供が……。まさか捨て子?」

「ッ……」

「恐怖でしゃべれないのか。たまたま、私が上がって来たからよかったものの」

 それから彼女は、何やらぶつぶつとひとり言を口にし始める。
 一方のルイスはというと、どうにかして目の前の少女から逃げなければと考えていた。

 すぐに意を決すると、ルイスはその場から駆け出した。

「っ!」

 こんな相手に捕まったら最後だ。
 ルイスは、懸命になって通路を走った。

 が。

「我の代わりとなり、かの者を捕らえよ――《時空手》」

 シュン!

「どぁっ!?」

 見えざる手によって後ろ首を掴まれ、逃亡を阻止されてしまう。

(こ……これも、魔法なのっ!?)

 ルイスは激しく混乱した。
 少女が操る魔法は、これまでルイスが学んできたものの中に無かったからだ。





 ――魔法。
 それは、人族の中でも選ばれた者にしか扱えない異能である。

 現在、発見されている魔法の数は全部で13種類だ。

----------

 〇下級魔法
《発火》《達筆》《疾走》
《アナライズ》《ライト》《クレアボヤンス》

 〇中級魔法
《バリア》《幻覚》
《リフレクション》《テレポート》

 〇上級魔法
《転送》《時間停止》《支配》

----------

 しかし、少女が操った魔法は、この13種類の中に含まれていなかった。
 そこでルイスはあることに気付いて、体を硬直させてしまう。

(……まさか……未発見魔法!?)

 少女は、見えざる手を使って、ルイスを自分の近くまで呼び寄せた。

「せっかく助けたんだ。お礼の一つも言ってほしいものだね」

 面倒くさそうにそう声を上げる。

「っ! は……離してくださいっ……嫌だぁ……誰か助けてえぇぇ……」

「見た目は利口そうでかわいいのに。なかなか生意気だね、君は」

「……ぅっ」

 くいっと少女が手を挙げると、ルイスの体は宙に持ち上げられてしまう。

「さて。言うことを聞かない悪い子にはお仕置きが必要だね。《肥満化》の魔法で、ぶくぶくに太らされたいかな? それとも、《悪夢》でうなされたい? 《反転》の魔法なんてのもいいぞ? これで逆さ吊りにできちゃうから」

「……ど、どれも嫌ですぅ……助けてくださいっ……ぅぅっ……」

「はぁ……。そういう反応をされると、私が本当に悪者みたいじゃないか」

 とんがり帽子を被った少女は諦めたように、ルイスの体をゆっくりと下ろす。

「冗談だよ。逃げられたから、ちょっと悲しくなってしまってね」

「……ぐすん……うぅぅぅ……怖いですぅ……」

「うーむ。ぜんぜん泣き止んでくれないな。君、名前は?」

「……(ふるふる)」

「なんでこんな所にいる? 親はどうしたんだ?」

「……(ふるふる)」

「ダメか……。相当強い恐怖を感じてしまったようだね。ちょっとだけ失礼するよ」

 再び手元に魔法陣を作り出すと、少女は次もルイスが見たことのない魔法を発動させる。

「かの者の過去を我の前に提示せよ――《ヒストリー》」

 ピカーン!

 そう唱えた瞬間、ルイスの体は眩い光によって包まれる。

 そして。
 その光の波がおさまると、少女はハッと目を大きく見開いた。

「――!」

 しばらくの間、信じられないものでも見るように、ルイスの顔をまじまじと覗き込む。
 もちろん、ルイスは自分が一体何をされたのか分からなかった。

 やがて……。

 黒いローブを翻すと、少女はぽつりとこんな言葉をこぼす。

「……生まれ持った魔力値が9999……。君は一体何者なんだ……?」
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