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5章

第6話

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 前線の状況を草むらに隠れて見守っていたゼノは、居ても立ってもいられずにその場から立ち上がってしまう。

「どうしましょう、ゼノ様!?」

「……こんなの、嘘だろッ……」

 モニカもアーシャも、形勢が一気に逆転してしまったことに動揺が隠せない様子だ。

「……っ。このままじゃ、ベルたちも……」 

 過去のトラウマがフラッシュバックしたのか。
 ベルが肩を震わせながら、ゼノにぎゅっとしがみついてくる。

「くっ……」 

 ゼノもまた、師団員の者たちがバハムートによって次々となぎ倒されていくその様を、拳を握り締めながら眺めることしかできなかった。

(……これだけの攻撃を浴びせても倒れないんだ。俺が敵う相手じゃない……)

 体は鉛のように重くなり、その場からまったく動こうとしなかった。
 そのため、ゼノは相手の攻撃に気付くのが一瞬遅れてしまう。

(!?)

 いつの間にか、近くまで飛来してきたバハムートが、突如炎の塊を吐き出してきたのだ。

 デュゴゴゴゴゴゴゴゴゴッーーーーー!!

 その攻撃に、瞬時に反応したのはベルだった。

「〔エンペラーシールド〕」 

 巨大な青色の光の盾を手の甲に出現させると、ベルは体を張ってその場にいる仲間を死守する。

 ガギイイィィーーンッ!!

 盾が敵の攻撃を防ぎ、炎は四方へと分散された。
 
「ベルちゃん!」

「助かったぜ、ベルっ!」

 その間に、アーシャは背中に装着したクロノスアクス・改を引き抜くと、それを前に構えた。

「こうなったらアタシの出番だぜ! マスクス最強の戦斧使いの実力……今ここで見せてやる!」

 彼女は盾の外に飛び出すと、大斧を振りかざしながらバハムートへと突撃していく。

「うりゃぁっーーー! 〈ブーメラントマホーク〉!!」 

 勢いに乗ったアーシャがクロノスアクス・改を振り抜くと、切れ味の鋭い円斬波がバハムートに向かって飛んでいく。

 が。

「なっ!?」 

 バハムートは、それを巨大な翼で簡単に防いでしまう。
 
「ギュオオオオォォォッーーーー!!」 

 そのまま咆哮すると、アーシャに向けて再び高速で炎を吐き出してくる。

「アーシャ姉!」 

 アーシャの前に駆け出したベルが、寸前のところで〔エンペラーシールド〕を展開させた。

「っ!」 

 光の盾でバハムートによる攻撃を防ごうとするベルだったが……。

「「きゃああぁっ!?」」 

 炎に押し切られる形で、そのままアーシャと共に吹き飛ばされてしまう。

(!)

 これまで〔エンペラーシールド〕で一時的に防げなかった攻撃はなく、ゼノはベルの光の盾が壊れる瞬間を初めて目にした。

 バハムートはそれで興味を失ったのか、赤色の眼を細めると、残存している師団員のもとへと飛来していく。

「アーシャさん! ベルちゃん……っ!!」

 モニカが悲鳴にも似た叫び声を上げながら、2人のもとへと駆け出した。

「〈キュアプラムス〉!」 

 ボロボロとなって倒れたアーシャとベルに、モニカはすぐさま〈回復術〉による治療を行う。
 
「……っ」 

 仲間が簡単にやられてしまったそんな光景を目の当たりにしつつも、ゼノはやはりその場から動くことができず、立ち尽くしてしまっていた。

 辺りはすでに火の海と化し、3分の2以上の師団員はその場で倒れていた。
 このままだと、バハムートはサザンギル大湿原を抜け出し、王都サーガへと向かってしまうかもしれない。

 王都には、王国の重要施設が密集している。
 仮にそこが壊滅するようなことになれば、アスター王国は一瞬のうちにして存続の危機に陥ることになる。

(ダメだ……。みんな、バハムートにやられる……)
  
 言いようのない絶望感がゼノに襲いかかった。

「ゼノ様っ!」 

 けれど、モニカにはっきりと名前を呼ばれ、ゼノはふと我に返る。

「お願いします! 今、この状況を変えられるのは……ゼノ様しかいません!」

「……いや、俺には無理だよ……。ディランさんたちでも敵わない相手なんだ……」

 それは、仲間の前で口にする初めての弱音だった。
 天才魔導師などと呼ばれているが、ゼノも1人の弱い人間なのだ。

 本物の天才であった、かの大賢者とは大きく異なる。
 それは、ゼノが一番よく分かっていることでもあった。

 ぐっと奥歯を噛み締めて、ゼノは3人の前で俯いてしまう。
 
 ――だが。

 それを耳にしたアーシャがすぐに反論する。

「……アタシの……惚れた男は、んな弱音を吐くような、ヤツじゃねぇーぜ……。ゼノは……いつも前だけを、見てる男だ……」

 次に声を上げたのはベルだった。

「お兄ちゃんは……最強の魔導師……。だから、絶対に……バハムートだって倒すんだから……」

「……アーシャ……ベル……」

 不思議と彼女たちの言葉が、ゼノの胸にスッと入り込んで来る。
 これまで築いてきた関係の中で、2人が本心からそれを言っているのが分かったのだ。

 最後に、背中を押すようにモニカが続ける。

「わたしたちは信じています。ゼノ様が、この場にいる皆さんを……いえ、王国の危機を救ってくださるって……。だから、どうかお願いします……。バハムートを倒してくださいっ!」 
 
「!」

 彼女のその言葉を耳にして、ゼノはハッとした。

(……そうだ。今ここで敵を倒さなければ、いずれ王都は焼き尽くされてしまう。そんなことは、絶対にさせちゃダメだ……)

 バハムートを倒す。
 果たして自分にそんなことができるのだろうか。

 その時。

 ゼノの瞳に、3人の少女たちの姿が映った。
 彼女らは皆、力強く頷いている。

 それを見て、ゼノはようやく目が覚めた。

(……いや、やるしかないんだ。大賢者様から〝ゼノ〟の名を引き継いだこの俺が、バハムートを倒すんだ……! 今の俺が……大賢者ゼノなんだ!)



 ゼノは、彼女たちの方を向くと、笑顔で口にする。

「ありがとう、3人とも。信じてくれるみんなのためにも、俺がバハムートを倒してくるよ」

「ゼノっ……!」

「……お兄ちゃん……」

 そして、火の海を前にして、縦横無尽に暴れ回る獄獣に目を向けながら呟いた。

「モニカ。アーシャとベルを連れて、安全な場所まで退避してくれ」

「……はいっ! ゼノ様、あとのことはよろしくお願いします……!」



 ◆



 モニカが、アーシャとベルを連れて遠くへ逃げて行くのを確認すると、ゼノは魔導袋の中から赤クリスタルを取り出す。

「今こそ、これを使う時だ。頼むぞ」

 赤クリスタルをぎゅっと握り締めると、ゼノは足元に魔法陣を発生させる。
 そして、その中に赤クリスタルを投げ入れた。

「〔魔導ガチャ〕――発動!」

 シュピーン!

 すると、ゼノの周りに赤色のサークルが出現し、キラキラと光り輝く10個の魔石が浮かび上がる。
 ほとんどは、これまで手に入れたことがない強力な魔石だった。

 その中に、☆5の魔石が含まれていることをゼノは確認する。

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〇ガチャ結果

①☆3《幻覚》
②New! ☆3《フライ》
③New! ☆3《分身》
④New! ☆3《具現絵画》
⑤New! ☆3《バリア》
⑥New! ☆4《契約》
⑦New! ☆4《言語理解》
⑧New! ☆4《超次元の渦矛ブラックバースデイ
⑨New! ☆4《絶世の鎮魂歌メギドレクイエム
⑩New! ☆5《彗星の終止符パーフェクトエンド

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 〝赤クリスタル、黒クリスタル、金クリスタルのいずれかで魔石を召喚すると、それぞれ☆5、☆6、☆7の魔石が1個確定するんだよ〟

 迷宮を出る際に、エメラルドに言われた言葉が甦る。
 分かっていたことだとはいえ、実際に☆5の魔石を見ると興奮せずにはいられなかった。

 すぐに、10個の魔石を魔導袋の中にしまい込んで、光のディスプレイを目の前に表示させる。
 タップする項目は、もちろん☆5の魔石だ。

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☆5《彗星の終止符パーフェクトエンド
内容:対象相手に星魔法によるダメージ特大/1回

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 その内容を確認してゼノは頷く。

(ひょっとしたら……。これでなんとかなるかもしれない)

 腰にぶら下げた聖剣クレイモアをホルスターから抜き取ると、ゼノは《マジックエンチャント》の魔石を使って、魔法攻撃力を一気に上げる。

 くるりと踵を返すと、バハムートが暴れ回る方へ目を向けた。



 ◆



 現在、宮廷近衛師団は、ディランを中心とした本隊が最後の抗戦を繰り広げていた。
 しかし、戦況は変わらず、バハムートの一方的な優勢となっている。
 
「し……師団長っ……! もう無理です、こちらは持ちません……!」
「このままだと、全滅です……」
「師団長! どうか一時撤退のご命令を!」 

 本隊残りの師団員たちは、ディランのもとへ集まり、撤退を訴えかけていた。

「……ぐっ」

 幾多の戦火を潜り抜けてきた歴戦のランサーであっても、このように劣勢となっては、なす術がないのだろう。
 槍を地面に突き刺すと、無念の表情でディランが声を絞った。
 
「全部隊に……撤退命令を告げる。総員、ただちに持ち場を離れ――」
 
 すると、ちょうどそんなタイミングで。

「ギュオオオオォォォッ!!」
 
 一時、上空へと浮上していたバハムートが、ものすごい勢いで降下しながら、両爪による攻撃を仕掛けてくる。

「「「うあぁあぁあぁっ!?」」」

 師団員の全員が、手で兜を押さえながらその場でうずくまった、その瞬間――。

「《残響の戯曲キリングギフト》!」

 後方よりそんな声が響き渡る。
 
 バッヂゴォォォォルルルルルーーーーンッ!!

 続けて歪んだ重力の塊が、翼竜の巨大な体躯に目がけて飛んでいく。

「ギュオオォッ、ギュオオォッ~~!?」
 
 その直撃を受けて、翼が大きくねじ曲がったバハムートは、あらぬ方角へと墜落するのだった。

「っ!?」

 とっさに後ろを振り返ると、ディランは駆けつけて来た者の姿を見て唖然と声を上げる。
 
「……き、君は……!」

 その場には、光り輝く聖剣を構えたゼノが立っていた。

「何をしたんだッ……!?」

 眼前で繰り広げられた得体の知れない魔法を目にして、ディランは混乱した様子だ。

「ディランさん。皆さんを連れてここから逃げてください」

 ゼノがそう唱えるも、まだ現実が受け入れられないのか、彼はなおも食い下がる。

「ま、待ってくれッ……! 君は、一体何を……」

「……俺は……未発見の魔法が使えるんです」

「未発見の魔法だと……!?」

 ディランは、槍をぐっと強く握り締めた。
 エリート術使い集団の先頭に立ってきた者だからこそ、ゼノの言っていることが上手く理解できないのだ。

「バハムートは俺がここで食い止めます。ですから、ディランさんたちは、早くこの場を離れてください」

「……っ」

 そんなやり取りをしているうちに、
 
「ギュオオオオォォォッーーッ!!」

 バハムートは黒い翼を大きく広げながら、再び浮上してくる。
  
「……ディランさん、お願いです! 皆さんと一緒にここから下がってくださいっ!」

「だ、だが……。私は師団長として、バハムート討伐という責務が……」

「このままだと全員、本当に死んでしまいます! どうかお願いです!!」

「くッ……」

 はっきりとそう迫られ、ディランはようやく決心したようだ。

「……わ、分かった……。すまんが、あとは任せた……」

「はい!」

「……総員に告ぐッ! 動ける者は仲間を連れて、今すぐこの場から退却しろぉぉーーーッ!!」 

 伝令の旗役にディランが大声で指示を送ると、師団員たちは一斉に退避を開始するのだった。
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