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6章

第2話

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(たしか今朝、《ドレスアップ》の魔石が出たよな? これが使えるんじゃないか?)

 ゼノは、魔導袋の中から《ドレスアップ》の魔石を取り出すと、聖剣クレイモアにそれをはめ込む。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「ああ。ひょっとしたら、なんとかなるかもしれない」

 剣身ブレイドに手を当てると、ゼノはすぐさま詠唱した。

「我の仲間たちに煌びやかな衣服を与えよ――《ドレスアップ》」 

 すると。
 眩い光がゼノたちの体を包み込み、4人の衣服は、あっという間に豪華なものへと変化する。

「うぉっ!? すげぇーぜ、ゼノっ! んな魔法も使えたのかよ!?」

「わたしのシスター服も……なんか、ものすごーい高価なものに変わっちゃってます!?」

「こんな高そうな服……ベルも着たことがない……」

 身につける衣服が変わった途端、都を行き交う者たちからもヒソヒソ話をされることもなくなり、今度は打って変わって、いい意味で注目の的となっていた。

「ゼノ様っ! 皆さん、わたしたちのことを羨ましそうに眺めてますよ♪」

「この服で背中にクロノスアクス・改を装着してると違和感あるぜ……。まぁ、嫌な気はしねーけどな」

「……なんか、不思議な気分……」

 3人ともそれなりに、豪華となった衣服を楽しんで着こなしているようだった。





 そんな風にはしゃぎながら、中央の通りをさらに進んで行くと、目の前に巨大な城が見えてくる。

 両端には、天まで届くような見張り台ベルクフリートが2棟建てられており、それを囲むようにして頑丈な城壁が張り巡らされている。

 本館パレスの外壁には豪華絢爛な装飾がなされ、その光景は、ここがまさにアスター王国の中心であるということを皆に強く実感させた。

「すごい大きなお城……。ベル、感動っ……」

「アタシは、この城は何度か絵画で見たことがあるぜ。ホントにまんまなんだな!」

「これがアスター城なんですね♪ ゼノ様、さっそく中へ入りましょう~」

「ああ、そうだな」 

 城へと続く長い階段の前には、アスター王国の旗を掲げて監視に当たる数名の王国騎士団の姿があった。
 ゼノたちの姿に気付くと、そのうちの1人が声をかけてくる。

「失礼ですが、領民の方はここから先立ち入り禁止となります」

「あの……実は俺たち。ギュスターヴ女王陛下に呼ばれて、やって参りまして……」

 そう口にしながらゼノが招待状を見せると、すぐに騎士団員は胸に手を当てて敬礼をした。

「これは大変失礼いたしました。どうぞ、城の中へとご案内させていただきます」

 ゼノたち4人は、騎士団員の後に続いて、ついに城内へと足を踏み入れる。



 ◆



 公賓室へと通されて、しばらくその場で待っていると、やがて侍従の者に声をかけられる。

「謁見の準備が整いました。皆さん、どうぞこちらへ」

 案内され、煌びやかな玉座の間へと4人は通された。

 バタン!

 扉を開けて中へ入ると、すぐにゼノの目にある人物の姿が飛び込んでくる。


(あれが、ギュスターヴ女王……)

 大広間の中央上段には、黄金の椅子に腰を掛ける君主の姿があった。

(随分と若いな。俺たちとそこまで変わらないじゃないか) 

 ギュスターヴがブロンドの前髪を静かに払うと、その美貌が明らかとなる。

「……ふぇっ!? ホントに噂通りの美人さんですっ……!」

「……きれいなお顔……」

 モニカとベルは、その美しさに見惚れてしまっている。
 だが、アーシャだけは1人冷静だった。

「まずは挨拶だぜ」

 全員にそう声をかけると、アーシャは先立って頭を下げる。
 さすが、ゴンザーガ家の令嬢だなと思いながら、ゼノもモニカとベルと一緒に頭を低くした。

「よい、顔を上げよ」 

 ギュスターヴにそう言われると、4人は顔を上げた。

「そなたらが、マスクスの冒険者パーティー【天空の魔導団クランセレスティアル】か。我が名は、アスター王国第54代君主ギュスターヴ。よくぞ、王都まで参られた。歓迎するぞ」

 そう告げながら、女王はまずアーシャに顔を向ける。

「ゴンザーガ卿の令嬢……そなたが、アーシャ・ゴンザーガだな?」

「はい。お目にかかれて光栄です、女王陛下」
 
 ディランやクレルモン卿を前にした時とは異なり、アーシャは胸に手を当てながら、片膝を立てて頭を低くする。

(……すごい。いつものアーシャじゃないみたいだ……)

 アーシャは、普段のぶっきら棒な物言いは伏せ、礼儀正しく受け答えをした。

「そなたの活躍は耳にしておる。貴族出身で、術使いの冒険者というのは相当に珍しいからな。なんでもマスクスでは、赤髪の戦斧使いとして恐れられているらしいではないか」

「い、いえ……恐縮です」 

 珍しくアーシャは、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。
 まさか、女王に自分の存在が認知されていたとは思っていなかったのだろう。

 ギュスターヴはアーシャだけでなく、ほかの女子2人についても把握しているようであった。
 亜人族であるベルにも、ギュスターヴが差別するようなことはなく、人格者としての一面を覗かせる。

 そして、彼女は最後にゼノへ目を向けた。

「……それでそなたが、かの大賢者と同じ名を持つゼノだな?」

「はい。陛下、はじめてお目にかかります。ゼノ・ウィンザーと申します」

「ほう……なかなかに色男だ」

 ギュスターヴは脚を組み替えると、ゼノを舐め回すように一瞥した。

「そんな、とんでもないです……」 

 少しだけ居心地が悪くなって、ゼノは視線を逸らしてしまう。

「そなたの噂なら、いろいろと聞いておるぞ。先日も師団長から耳にした。なんでも、そなたは未発見の魔法が扱えるらしいな?」

「……」

 一瞬どう返答するか迷うゼノだったが、ここまで話が大きくなってしまった以上、今さら隠し通すことはできないと判断する。

 素直にこくんと、ゼノは頷いた。
 
「おっしゃる通りです」

「ならば、今日も《テレポート》の魔法を使って来たのだろう? そなたにとって、発見済みの魔法を扱うなどと、造作もないことなのだろうからな」

「え、えぇ……まぁ」

 本当は、魔石を入手しないと発見済みの魔法といえども使うことはできないのだが、ここで聖剣クレイモアや〔魔導ガチャ〕について打ち明けると、話があらぬ方向へと飛びそうだったため、ゼノはその件については黙っていることにした。

 まだ、ギュスターヴをすべて信用しているわけではないからだ。

「さて、そなたが扱う魔法については後ほど詳しく聞くとして……本題に入ろう。ゼノ、そなたを呼んだのは他でもない。そなたの功績を称え、褒美を与えたいと思い呼んだのだ」

「やりましたよ、ゼノ様っ! やっぱり、褒美があるんですよ♪」

「……食べ物……?」

「いや、きっとすっげー武器だぜ!」

 予感が的中したことに、モニカたちは小声で興奮気味に盛り上がる。
  
 だが。
 正直に言って、ゼノはべつに褒美などは欲しくなかった。

(俺が欲しいのは一つだけ……) 

 筆頭冒険者の称号。
 それさえあれば、魔大陸へ足を踏み入れることができる。

「まずは、宮廷近衛師団に代わり、獄獣バハムートを討伐してくれた件について、礼を伝えなければなるまい。余の期待に応えてくれたこと、本当に感謝しておるぞ」

「いえ。こちらこそ、自分たちを指名していただき、大変光栄に思っております」

 ゼノが頭を下げながらそう述べると、ギュスターヴは綺麗な長い脚を再び組み替えた。

「師団長の話によれば、上空から流星を落とす魔法を使ったようだな? そんな魔法を扱えるとは……なかなかに興味深い。そなたは、相当な魔力値を兼ね備えているのであろう。やはり、天才魔導師と噂されるだけのことはある」

「そんな……とんでもないです」

 謙遜するゼノの表情を、ギュスターヴはしたたかな笑みを浮かべて目にしていた。
 その視線に気付き、さすがアスター王国の君主だ、とゼノは思う。

(……つけ入る隙を狙ってるように感じる。うっかり口を滑らせないように、注意しないと……)

 ゼノには、エメラルドを迷宮から救い出すという最重要課題があった。

 王宮に囲われて、戦争の道具にされるなんてことは避けなければならないが、筆頭冒険者の称号は授かりたいという微妙な立場にいる。

 だからこそ、慎重に言葉を選ぶ必要があった。
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