女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ

文字の大きさ
34 / 77
第2章

8話

しおりを挟む
 ――フルゥーヴ伝承洞 第10層――

 それから。
 モンスターを倒しながらダンジョンを進み続けること30分。

 淀みも順調に断ち斬っている。
 あとは、叡智の占領者の正体を突き止めるだけだ。

『あれぇぇっ~~? なんか雰囲気がガラッと変わっちゃいましたよーーっ!?』

 下の階層へゲントが降り立ったところで、ルルムが驚いたように声を上げる。
 たしかにサキュバスの少女が言うとおり、ダンジョンのフロアはこれまでと違った雰囲気に包まれていた。

 冷気も一段と下がったように感じられる。

「もしかして、ここが最下層なのかな」

『そうかもしれませんねっ! マスター! なにが出てくるかわかりませんっ~! 用心しましょー!』

 ダンジョンの最下層といえば、やはりボスの存在が気になる。

(叡智の占領者がすでに倒してるのか。それとも・・・)

 どの道ギルドへ報告するなら、ボスまで倒しておかないと意味がないとゲントは思った。

 物音を立てないように静かに通路を進んでいくと。

(ん?)

 しばらく進んだ先に空間があることがわかった。
 そこに巨大なモンスターが潜んでいることをゲントは確認する。

(間違いない・・・。ダンジョンのボスだ)

 敵は人とクラーケンを合体させたようないびつな姿をしていた。

『ひええぇっ~~!? なんですかあのタコっ!?』
 
 その表面は硬い光沢のある鱗で覆われ、黒い斑点模様が浮かび上がっていた。

 無尽の螺旋とでも形容できそうなくらい長くて太い触手がいたるところから伸びており、その先端には鋭い棘が複数並んでいる。

 体長は8mくらいはあるだろうか。

 人型の胴体部分は筋骨隆々で、長い触手を駆使して相手を捕まえたり叩きつけたりしそうな恐ろしさがあった。

『ううぅっ~! 気持ちわるいですぅぅ・・・』

 敵は複数の触手をうねらせ、フロアの片隅で警戒するように固まっている。
 その姿はたしかにグロテスクだ。

 海中にいるはずのクラーケンがダンジョンの中にいるというアンバランスさが、なんともいびつでゲントたちの恐怖心を煽る。

 が、見たところボス以外の姿は見当たらない。

『あれれっ? でも、叡智の占領者さんがどこにもいらっしゃらないですよ??』

「ひょっとしたら・・・このダンジョンの中にはいないのかも」

『ええぇっ~!?』

優先権プライオリティの及ぶ区域エリアは自由に調整できるからね」

 ゲントが言うとおり、べつにダンジョンの中にいなくても、魔法の発動を承認したり、拒否したりすることはできる。
 叡智の占領者がこのダンジョンを根城にしているというのは、冒険者たちの間で流れているただの噂にすぎない。
 
 ひょっとすると、叡智の占領者は『フルゥーヴ伝承洞』の近くに潜伏していて、テラスタル領の領主の目を盗み、ここ周辺における魔法の承認否認を勝手に行っているのかもしれなかった。

 ただ、エコーズの西南北にあるダンジョンでは、ふつうに魔法が使えるようなので、やはりこのダンジョンの近くに魔力総量の高い何者かが潜んでいることは間違いないと言える。

(なんにしても。目の前のボスだけは一応倒しておかないと)

「ルルム、行けそう?」

『うぅっ~~。気持ちわるいですけど・・・倒さないとですよねっ!? が、がんばりますっ~!!』

「お願いします」

 自らを奮い立たせるルルムとともにゲントはフロアの中へと足を踏み入れた。

「おじゃましまぁーす・・・」

 ゲントが一歩足を踏み入れても、人型クラーケンは微動だにしない。
 触手をうねらせ、自身の縄張りを監視しているような感じだ。

(なんか、怯えてるようにも見えるけど?)

 その姿はどことなく、生まれたての小鹿のようにゲントの目には映った。
 そして、その考えはどうやら間違いではなかったようだ。

『あのぉ、マスター。不思議なんですけど、あのタコからは邪念のようなものが一切感じられませんっ』

「どういうこと?」

『ひょっとするとですねぇ~。生まれてまだ間もないのかもしれないですっ!』

 魔族だからだろうか。

 鉄巨人から高熱源が放出されるのを見抜いたように、魔剣化したルルムにはモンスターの特性を見抜く力が備わっているようだ。

「ってことは、今が倒すチャンスってことかな?」

『あの鉄巨人は邪悪な力に満ち溢れてましたっ! たしかにそうなる前がチャンスなのかもしれませんっ~!』

「そっか、ありがとう。わかったよ」

 魔剣を構えると、ゲントはさらに一歩足を踏み込んでいく。
 
 敵は依然としてフロアの片隅に固まってじっとしていた。
 
 が――。

(!)

 ドドドウッ!!

 ある一線に足を踏み入れた瞬間、人型クラーケンは無詠唱で火属性の攻撃魔法を連続で放ってきた。

「奥義其の22――〈天撃の構え〉!」

 素早く魔剣を振り抜くと、奥義を放ってゲントは敵の魔法を相殺する。

==================================

[奥義名]
天撃の構え

[威力/範囲]
B/単

[消費SP]
11%

[効果]
標的を確実に捉え、急所を突き一瞬で大きなダメージを奪う離れ業。
敵単体に大ダメージを与える。

==================================

『マスターっ! お怪我はありませんか~っ!?』

「ちょっと危なかったかも」

 魔剣を下ろし、ゲントはフロアの片隅に目を向ける。
 敵は何事もなかったかのように、巨大な触手をうねらせてじっと静かにしていた。

 特に続けて攻撃を仕掛けてくるつもりはないようだ。

(たしかあれは・・・火魔法レベル8の〈極大炎ブレイズインフェルノ〉だったか?)

 フェルンがその魔法を使うのを目にしたゲントはそのことを覚えていた。

 しかも、相手はそれを無詠唱でかつ複数同時に撃ち込んできた。
 MQが相当高くないとできない芸当だ。

 フェルンに匹敵する力を持っているのかもしれない。

 そこまで考えてゲントはハッとする。

(まさか、あのクラーケンが叡智の占領者なんじゃ・・・)

 ぜんぜんあり得る、とゲントはおもった。
 そのためにもまずは、敵の力量を確認しなければならなかった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...