女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ

文字の大きさ
77 / 77
第3章

27話

しおりを挟む
 翌朝。
 リハーサル会場の広間にマルシルの驚きの声が響き渡る。

「えぇっ、ゲントさま・・・!? そちらの方は・・・」

「はじめまして王女さま♪ 魔族のルルムと申します~!」

「ま、魔族っ!?」

 黒い羽と2本の角に小ぶりのしっぽ。
 極めつきは、谷間が大きく覗ける裸同然のボンテージ衣装だ。

 すでにゲントはルルムのこの恰好にもう慣れてしまっているが、はじめて目にする者にとって彼女の姿はやはり衝撃的だったようだ。

 が、ルルムは特に相手の反応も気にならない様子で。

「うわぁぁ・・・感動ですぅ~! マスターぁ~~! ルルム、ようやく王女さまにご挨拶することが叶いましたぁぁ・・・!!」

「ちゃんとマルシルさまにも視えてるみたいでよかった」

「え? え? えぇっ・・・?」

 マルシルはひとり困惑の表情を浮かべている。
 さすがにこのまま事情を話さないわけにもいかなかったので、ゲントはルルムと出会った経緯を手短に伝えた。



 その話を聞き終えたマルシルは深いため息をつく。

「はぁぁ・・・驚きました・・・。まさか魔族の方と実際にお会いすることになるとは」

 実は魔族に関する記述も大聖文書の中にはいくつか残されていたらしい。

 正直、受け入れられないかもしれないという心配もあったが、マルシルは最初は驚いた表情を見せたものの、すぐにルルムの存在を受け入れてくれる。

「王女さま、これからお願いします~っ!」

「はい。よろしくお願いいたします。ルルムさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「ルルムちゃんがいいです~っ♪」

「うふふ。それではルルムちゃんとお呼びいたしますね?」

「はい~♡」

 すっかりお互いに打ち解けられたようだ。

 ほかの人と楽しそうに会話するルルムを見て、ゲントはようやく胸のつかえが下りた気がするのだった。



 ***



 そのあと。

 ゲントはマルシルに行先の変更を伝えた。
 もちろん、その理由も添えて。

「影属性の影魔法・・・。にわかに信じられない話です」

「ですが、『常影の書』は実在するようです。そうだよね、ルルム?」

「はいっ! この世界には実は6つの属性が存在するんですよぉー!」

「そして、ザンブレク城に張られた二重結界には、この『常影の書』の魔法が使用されてる可能性が高いんです」

「それは間違いないのでしょうか?」

「自分も直接見たわけではないので断言できませんが・・・。おそらく、ほとんど間違いないかと。『結界の書』にも二重結界を生じさせる魔法は記されてませんし。知人の天才魔術師から聞いた話などをまとめて総合的に判断すると、この結論にたどり着くんです」

 ゲントがそう告げると、マルシルは両手を口元に寄せる。

 ルルムの存在を受け入れた時とは異なり、このことはなかなか上手く受け入れられない様子だ。

 それもそのはず。
 この世界に6番目の属性が存在するとは、大聖文書にも載っていないのだから。
 
「それで、その二重結界を打ち破るためには『烈火の書』、『蒼水の書』、『翠風の書』、『轟雷の書』の4冊を揃え、同時に詠唱する必要があるみたいなんです」

 もちろんいくつか問題があった。
 マルシルからも指摘が入る。

 ひとつは、これらの旧約魔導書を同時に唱えるには相当高いMQが要求されるという点。
 もうひとつは、旧約魔導書はそれぞれの国から持ち出せないという点だ。

 特に後者の問題はシビアだ。

 旧約魔導書の所有権を渡すということは、マルシルたち四つ子王女はとたんに魔力が減少する体となってしまうことを意味している。

 ただこれらの問題は、エクストラスキルを手に入れ、【大賢者】となった今のゲントには余裕でクリアすることができた。

「MQなら今の自分は5000ありますし。問題なく詠唱することができます」

「ご、5000・・・ですか・・・?」

「それに旧約が持ち出せない点もたぶん解決可能です」

 今回、昨日のリハーサル会場の広間にマルシルを呼んだのはゲントだった。
 理由は主祭壇の前に設置されたガラスケースの中身にある。

「ちょっと見ててください」

 ゲントは主祭壇の近くまで歩みを進めると、ガラスケースを開け、その中に置かれた『烈火の書』に手をかざす。

 昨夜、魔剣を複製した時と同じ要領で【血威による剣製の投影】の力を解放し、己の中でイメージを膨らませていくと――。

「えっ!?」

 驚くマルシルの視線の先には、宙に浮かぶ複製された『烈火の書』があった。
 それを手に取るとゲントは小さく頷く。

(よし。やっぱりできたな)

 本来は刀剣を複製する際に使用するスキルのはずだったが・・・物は試しだ。
 やってみたところ、なんとできてしまった。

「・・・『烈火の書』が2冊あるなんて・・・」

「マスターなら当然ですね~☆」

 まだ状況が上手く飲み込めていないマルシルとは対照的にルルムはなぜか自慢顔だ。

「とにかくこういうわけなので。旧約魔導書が持ち出せない問題もなんとかなります」

「わかりました・・・。もはやゲントさまに不可能は存在しないと心得ました」

「それでこれから向かう先なんですけど。『水の国ウォールード』、『風の国カンベル』、『雷の国ダルメキア』。はじめにどちらの国からまわった方がよろしいでしょうか?」

 これこそが今回ゲントがマルシルに一番訊ねたいことだった。

 ザンブレクに関してはフェルンから伝え聞いていたこともあり、ある程度知識があったが、ほかの三国に関してはほとんど内情を知らない。

 クロノとして五ノ国を建国した当時から、だいぶ状況も変わっているに違いなかった。

「ロザリアと広い範囲で隣接しているのはウォールードですね。一応、ダルメキアとも隣接しておりますが、あちらの場合険しい山々を越えなければなりません」

「ウォールードの王都へ行くには山を越える必要はないんですかぁ~??」

「はい。平野で繋がっておりますので、行商人などは馬車を使って行き来していますね」

「おお~! そーなんですね♪」

 結果、利便性なども考えて。
 ウォールードから先にまわった方が効率がいいとの結論に達する。

 ゲントとしてはスピード系のアビリティを所有しているため、平野だろうが山だろうがどこからでも問題はなかったが、旧約魔導書を複製するのは話が別だ。

 王女たちと謁見する時間をもらい、事情を説明しなければならない。

 そのためにも。
 マルシルの協力はとてもありがたいものだった。



 経緯を簡単に話すということで、マルシルが『交信の書』を使ってウォールードの王女――ラヴィーネ姫へ連絡を入れてくれることに。

 なんでも彼女は四つ子姉妹の長女らしく、一番のしっかり者なのだという。
 
 が。

「・・・すみません、ゲントさま。ちょっとお姉さまと交信ができなくて・・・」

 その場で何度か『交信の書』の魔法を唱えるマルシルだったが、上手く相手のチャンネルに繋がらなかったようだ。
 
「なにか問題が発生したんでしょうか?」

「いえ。お父さまの場合と違って、ラヴィーネお姉さまとはつい先日も連絡を取り合っております。たぶん忙しくて今は交信ができないのだと思います」

 ウォールードは三国の中で一番王選の開催が遅れているようで、準備に追われているのではないかとマルシルは口にする。

「ラヴィーネお姉さまは完璧主義な部分がありますので。開催に向けていろいろと細部まで調整をはかっているのだと思います」

「そんな中で自分が行っても大丈夫なんでしょうか?」

「もちろんです。ラヴィーネお姉さまもお父さまの現状を知ったら、残念ですが王選を開催しているような余裕はなくなると思います。のちほどきちんと連絡を入れておきますので。ゲントさまとルルムちゃんは、どうぞこのまま出発なさってください」

「ありがとうございます、マルシルさまっ~♪」

「すみませんがよろしくお願いします」

 ゲントが頭を下げると、マルシルがそばへと近寄ってきた。
 そのまま小声で耳打ちをしてくる。

「ゲントさま。ラヴィーネお姉さまとお会いしても・・・くれぐれも誘惑されないようにご注意ください」

「はい?」

「だってこんなにも凛々しくて、聡明で、逞しくて・・・。まさに理想的な殿方であるゲントさまが目の前に現れてしまっては・・・。お姉さまなら、ぜったい自分のものにしたいとそう思うはずです」

 実は四つ子姉妹は、誰が一番優秀な花婿を見つけられるのかと、影ではお互いにバチバチと対抗心を燃やしているのだという。
 仲のいい姉妹だろうが、女の意地とプライドは捨てられないようだ。

 姉妹に誘惑されてはダメですと、マルシルに何度も釘を刺されてしまう。

「わたくしがゲントさまの一番なんですから! お姉さまや妹にはぜったいにお渡ししません」
 
 ゲントが頷くと、マルシルは納得したように笑顔で体から離れる。
 キスの時といい、どうしても譲れないことには強情のようだ。

(将来、パートナーに依存しないかちょっと心配だけど・・・)



 ***



 そんなわけで。

 リハーサル会場の広間を出て1階の入口まで向かうと、ゲントはルルムと一緒にロザリア城から旅立つことに。
 
「ゲントさま。それではよろしくお願いいたします」

「はい。行ってきます」

「マルシルさ~まぁ! 行ってきまぁ~~すっ♪」

 マルシルや騎士たちに手を振って見送られ、ロザリア城をあとにしながらゲントはひそかに決意する。

 今度こそ魔王を倒してこの異世界を平和にしてみせる、と。

 この時を迎えるために40歳童貞のままこれまで人生を過ごしてきたのだから。

(ごめん。銀助、虎松。そっちに帰るのはもうちょっと先になりそうだ)

 かつて憧れたRPGの主人公のように。
 弦人は自らの手で今、世界を救おうとしていた。
しおりを挟む
感想 13

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(13件)

ジュリエ
2024.01.08 ジュリエ

完結?
ここで?
ここまで面白く読ませてもらっていたのですが、こんな中途半端な所で完結なのでしょうか?

とても残念です。
気が変わって続けてもらえたらと…

2024.01.08 サイダーボウイ

感想ありがとうございます!
楽しんでお読みいただけたようで嬉しい限りです!

こちらの作品は一度ここで完結とさせていただきました。
プロットが決まれば、今後書くこともあるかもしれませんので、その時はまたお読みいただけると嬉しいです!

解除
Chiro
2024.01.07 Chiro

17歳で脂が乗った時期の国怖いな。それ以降下り坂のわけでしょ。アフリカより貧しいのかしら。

解除
Chiro
2024.01.07 Chiro

新宿から電車で20分で天神町といえば府中駅かな!?

2024.01.08 サイダーボウイ

感想ありがとうございます!

一応、主人公のマンションは神楽坂にあるという設定になっております。

解除

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。