悪役令嬢の妹に憑依した私は、全力で姉の味方をすることにしました。

ひめめ

文字の大きさ
5 / 11

05.皇宮舞踏会

しおりを挟む
「お嬢様!」

背後から大きな声が聞こえて振り向くとそこにはサディがいた。サディはお父様に呼び出され今の今まで執務室にいたのと小さく走りながらに伝えた。きっと私のせいでお父様に酷く叱られてしまったはず。

「お嬢様、申し訳ございません。自分があんなことを言ったばかりに」
「ううん。サディは私がレベッカを助けたいっていう気持ちを尊重してくれただけだもの。それに、最終的に決めたのは私よ。サディは悪くない」
「ありがとうございます…お嬢様」

サディは悪くない。あの時、必死だった私に向けて解決策を提案してくれただけで、結局決めたのは私だし、怒られることも覚悟していた。それでもレベッカを見捨てるような形をとるわけにはいかなかったのだ。今のレベッカはヒロインではなく、一人の少女なのだから。

サディは部屋まで送ると言い、私の一歩後ろに付いて歩き始める。薄暗い廊下に夕日が差し込んで綺麗だ。庭の薔薇がこちらを見ているように綺麗に咲いていて硬い表情は少しほぐれた。

「ねえサディ」
「はいお嬢様」
「今度の舞踏会、公爵家の娘としてでなければならないと姉様に言われたんだけど、パートナーとして出てくれる?」

この世界では、ストレートに女性からパートナーを申し込むことは礼儀として良しとされていない。基本的に男性から申し込むものだ。もし女性から申し込みたい場合はハンカチに自分で刺繍をして、それを渡すというやり方でなければならない。

ただ、今はサディを他の女性に奪われてしまうのではないかという心配が先走ってしまったのかもしれない。

「あ!ごめんね。ハンカチは渡す…!もしパートナーが既にいるのなら断って構わないわ」

そう言っても、サディから返事は返ってこない。少し俯いてしまったサディの顔を覗き込むとサディは、ハッとしたように顔を上げた。

「あ、あの、舞踏会というのは皇宮舞踏会の事ですよね…自分なんかがお嬢様のエスコートなど…」

そう言うことか。皇宮舞踏会に自分は相応しくないと、そうサディは思っているのか。

「そんなことないよ。私はサディが良いの。サディが嫌と言わないなら…」

正直なところ、サディ以外に親しい男性がいないというのも一つの事実だ。舞踏会でパートナーがいないなど姉様に何と言われるか…きっと厳しいに決まっている。サディなら公爵家の騎士として、充分資格があるし、何と言っても美形…!美形万歳!ザ・好みの顔!

「自分は嫌ではありません...し、お嬢様の命令に逆らうことなどできません」
「…サディ、これは命令ではないわ。私はただの一女性としてお願いしているの。それを決めるのはあなたよ」

主人だからって嫌な相手をエスコートするなど、どれほど苦痛なことか。それにサディに想い人がいるのなら私が邪魔をすることは許されない。

「自分はお嬢様のパートナーになりたいです…」
「なら…」

サディは覚悟を決めたような表情をする。きっと皇宮の舞踏会など、サディも初めてだろう。それだけ緊張するのもわからなくはない。まあ私も初めてだけれど。

「上手くエスコートできるかはわかりませんが、精一杯努めますので自分で良かったらお嬢様をエスコートさせてください」

優しい手つきでサディは私の手の甲に口付けする。一人の女性として、今は主と従者ではなく対等な関係になれたような気がして少し嬉しい。もちろん私は頷き、これでパートナーが決まったことになる。

お互い恥ずかしくて部屋に着くまでほとんど会話はなかったが居心地が悪いものではない。送ってくれたサディにお礼をすると、別れる直前にサディは「ドレスを送ります…!」、と言って去って素早く帰って行った。ドレス、というのは安いものでも貴族ではない人からすれば高価なものだ。それも、他人にプレゼントだなんて、相当な出費のはず。でも、あそこまで張り切って送ります!なんて言われてしまえば、どう気遣ったらいいものか、わからなくなってしまった。

「ふぅ…」

ベッドに飛び込んで枕に顔を埋める。
初舞踏会、初パートナー…。異性と出かけるなど無縁だった日本にいた頃とは随分とかけ離れたイベントだ。舞踏会ってどんな感じなんだろう…?

「楽しみ…」

小声で呟いたその言葉は広い広いこの部屋ではすぐに散ってしまう。この時の私は舞踏会で何が起こるかも知らない無知な一人の少女だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...