悪役令嬢の妹に憑依した私は、全力で姉の味方をすることにしました。

ひめめ

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09.不器用皇太子

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「お嬢様。サディさまからドレスが届きました!」

ヴェラはいつも以上に張り切って、ドレスを抱えてやってきた。それもそうだ。皇宮舞踏会でのパートナーからドレスが届いたのだから。それも、超絶イケメンから!!

「わあ…綺麗ね」

ピンク生地にパールで飾りつけされており、ドレスと共に靴も送ってきたらしい。まさに男性からの贈り物はこれが初めてで、浮かれているのだと自分でもわかった。

「当日の髪型はどういたしましょうか。大人しめのピンクの様ですし、大人っぽい髪型が良いでしょうか」
「うん、そうね。私は髪型について詳しくないからヴェラに任せるわ」

貧乏だった幼少期は美容室に行くことなど当然出来ず、家にある大きな大きなはさみで母に切ってもらう生活だった。そんな私に髪型に愛着など湧かないのだ。

「お嬢様!皇太子殿下がお越しです!」
「えっ!?」

ドレスの試着をしようとしたところだった。どたばたと廊下が騒がしくなったと思ったら姉様の専属侍女…まさに姉様を陥れようとした女が大きな声で私を呼んだ。まだ何も行動を起こす前だから証拠も何もなく、ストーリーを知っているからと言って勝手に罰せられないのだ。

「皇太子殿下…は、姉様に用があるのでは...」
「ナターシャお嬢様は現在お出かけ中でして、皇太子殿下はマリアお嬢様を...と」

何よそれ。婚約者がいないのならさっさと帰るべきでしょう。それに未婚の女性と婚約している男性が同じ部屋で二人っきりなんて誤解を招きかねない。

「ご挨拶だけでも、お願いしますお嬢様…」

侍女…シャロネと言ったかしら。シャロネは切実そうに言う。大方、皇太子殿下の機嫌でも悪いのだろう。

「わかったわ。少しだけ、ね」

ヴェラに軽く髪を梳かしてもらい、シンプルなドレスを隠すように上着を羽織る。皇太子殿下の前で質素な服は厳禁だ。

「ヴェラと、シャロネも来てくれるかしら。婚約中の異性と二人きりというのはいけないから」
「「はい、お嬢様」」

長い長い廊下を早歩きで急ぐ。

噂では暴君だという皇太子だけれど、ご令嬢たちの間ではまさにサッカー部のエース、というくらいに...いや、それ以上にモテているらしい。そんな殿下の婚約者だという姉様に敵は多かった。殿下はそんな姉様を見捨てたお方だから、気を付けないと。

ノックを三回。「失礼します」という声と共にドアを開けた。

「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
「面を上げよ。マリア嬢」

顔を上げるとそのイケメンな面はすぐに近くにあった。

「本当にイケメンね…」
「はあ?」
「お、お嬢様...!」

ハッと口を押えた。どうしてこうも私は余計なことを言ってしまうのか。皇太子を目の前に本当のこととはいえあんなこと言ってしまうなんて。ヴェラもシャロネも驚いたように口を開けている。

「申し訳ありません、皇太子殿下」
「別に良い。言われ慣れていると言ったらおこがましいが、不愉快な言葉ではないからな。悪意があったわけではないだろう?」

紅茶の香りがこちらまでふわりと届いた。スウィーティーな香りの紅茶を殿下は啜りながら横目でこちらをちらりと見ると、席に座れとでも言いたげに手招きをする。思っていたより、意地悪な人ではなさそうだ。

「ナターシャが不在だったのは、実は知っていたんだ。彼女に秘密にしたくて事前に知らせなくてすまない」

姉様に秘密。もしこれが悪意のあるものだったら私は皇太子を許さない。とはいえ、害を与えることなんか一国の皇太子に出来るわけないからただの気持ちの問題になってしまうだろう。

「実は…」

皇太子は恥ずかしそうに目を逸らしてぼそぼそと言った。口元を手で隠しており多少はの読唇術を使うことも出来っこない。

「えっと、なんて?」
「だから…!今度の皇宮舞踏会の前に送るドレス…ナターシャの好みを教えて欲しい!」
「はあ!?」
「「お嬢様…!」」

あの皇太子が姉様の好みを教えて欲しい!?
嘘だ。姉様に興味を示さない皇太子がわざわざ妹の私に姉様の好みを聞きに来たと?
まるで原作とは違う展開に頭を追いつかせることすら難しい。

「ナターシャはいつも似たようなドレスしか着ていないからな。舞踏会くらいはもう少し派手なドレスでもいいと思うんだが、如何せん好みがわからない。頼む!妹君であるマリア嬢に教えていただきたい!」

なんだ、いいやつじゃない。


なんてなるかボケぇぇぇぇぇ!!
何か裏があるに決まってる。原作の小説で二人の関係性は最悪だった。皇太子は姉様に興味がない、姉様は皇太子に夢中。挙句の果てに皇太子は婚約中の姉様を差し置いてヒロインであるレベッカに恋をしたのだ。私は信じない。

「えっと、私も姉様の好みを詳しくは知らないので、本人に聞いたら良いのでは?」
「それが一番だというのはよくわかっている。だが、ナターシャは私のことを避けている気がするのだ」

今の姉様は確かに皇太子を避けている。仕方なく婚約した、という発言も不可解だし、姉様に心境の変化でもあったのだろうか。

「姉様は、暗めの色がお好きみたいですよ。後は小さめの宝石がちりばめてあるものとか…。もし皇太子殿下のその気があるのなら『お揃い』にしてあげては?」

皇太子相手にしては素っ気ない。
もし、皇太子が本当に姉様を想って訪ねてきたのならお揃いにしては、という提案を断りはしないはず…。

「で、でもそれはナターシャが嫌ではないか...」
「そんなことありませんから!皇太子殿下はどうなのですか?嫌ですか?姉様とお揃いは」
「そんなことない!!」

ばさっと皇太子の服が舞ってその勢いで何かが落ちた。

「これは…」

それは確かに姉様と皇太子のツーショット写真が挟まったネックレスだった。その写真に写る二人は今よりも随分と幼く、姉様は花冠を被っている。

「み、見るな!!」

皇太子はすぐにネックレスを私から強引に奪った。
まさか、本当にこいつは姉様のことが好きなの…?信じられない。でも、嫌いな人の顔写真なんて持ち歩かないだろう、普通。

「殿下の気持ちはわかりました。ですが私は姉様が世界一です。つまり、二人の仲を応援する...わけにはいきません。実際姉様は殿下との婚約を望まれていたわけではありませんから」
「え…それはつまり、この婚約が政略結婚だと...?」
「はい、そうです。姉様はそう仰っていました」

私が立てた仮説はこうだ。

壱、皇太子は姉様に恋をしている。
弐、それを姉様は気づいていない。
参、この婚約は政略結婚ではない。
肆、姉様は政略結婚だと思っている。

原作と離して考えてみると、この説が一番近いはずだ。皇太子はこの後、ヒロインに恋をする展開になっていくだろう。だから姉様への恋心もきっとそれまで。結局、姉様の婚約が政略ではないとしても捨てられてしまう運命なのだ。

「皇宮舞踏会でも姉様をきちんとサポートすることを誓ってください」
「え?」
「姉様は殿下との間に私的な感情はないし、殿下もそうだと思っています。もしも姉様のことが本気で好きなのなら、まずは私を認めさせてからにしてください」

未来の皇帝相手に随分と生意気な口をきいたと思う。今すぐに罰せられても文句は言えない立場なのに皇太子は以外にも私の態度について何も言わなかった。

「わかった。ナターシャの事は精一杯サポートしよう。今すぐ応援しろなんて言わないが、必ずマリア嬢を認めさせる。だから、もう少し詳しくナターシャの好みを…」

今度こそ確かに、少しは良い奴かも。
原作で姉様を苦しめたことは絶対に忘れないけれど原作が始まるぎりぎり監視して善か悪か暴いてやる。

背筋をきれいに伸ばして優雅にお茶を飲む皇太子の姿はどこか姉様に似ていて、その姿は確かに一国の皇子であると主張していた。窓から通る風に姉様の帰宅を知らせる従者の声が乗り、皇太子は窓から素早く帰っていく。少しくらいあって行けばいいのに。

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