辛いときは…

あきや

文字の大きさ
上 下
1 / 1

ねぇ。

しおりを挟む
「ねぇ。」
私は、あなたの制服の裾を少し引っ張った。
「どうしたの?」
あなたは振り向いてくれた。
私はそれが嬉しくて、あなたに抱きついた。
「止めてよ、もう。君はいつもそうなんだから。」
あなたはそう言っていつも私を剥がした。


「ねぇ。」
私はあなたの袖の端を少し引っ張った。
「どうしたの?」
あなたは今日もそう言って振り向いてくれた。
私は嬉しくて、あなたに抱きついた。
この温度を忘れないように。
「止めてよ、もう。あなたはいつもそうなんだら。」
そう言って、今日も私を剥がすのだった。

「ねぇ。」
机で勉強しているあなたのスボンの裾を少し引っ張った。
「今は忙しいの。後にしてね。」
あなたはこっちを見ようともせず、素っ気なく言った。
私はそれが嫌で、もう一度引っ張った。
「止めてよ、もう。」
私は今日も後回しにされるのだと、少し辛くなるとあなたは続けた。
「しょうがないわね。少しだけよ。」
少し参ったような笑顔で言ったその言葉に私は嬉しくなり、あなたに抱きついた。
窓の外を照らす月で2匹のうさぎがお餅をついていた。


「ねぇ。」
リビングに訪れたあなたの裾を私は頑張って引っ張った。
「ほんとに今はダメなの、ごめんね。」
あなたは辛そうな顔をしていた。
私はそれが嫌で、裾を少し強めに引っ張った。
あの時のように諦めて私と遊んでくれるように…。
でも、今は違っていた。
「ほんとに、今はダメなの。今度遊ぼうね。」
苦しそうに笑うあなたの表情は、辛さを押し殺している表情であり、私を突き放す表情だった。

私はずっとあなたが好きであなたと一緒にいたかった。
ただ、一緒にいたかっただけなの。
だから、最期に私はあなたに思いっきり抱きついたんだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...