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第一章

こうして俺の人生は始まった

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「って、死んでねーじゃん!!!」
辺りを見回した俺は“どこか”に叫んだ。
まぁ、なぜ“どこか”という表現になっているかと言うと、あのですね。
・・・ここがどこか分からないからですね。はい。
気づいたのは少し前。


朝の寝起きのような感覚を感じながら起きた俺は、辺りを見回した。
まず思ったのは、
ここはどこだ?
からだった。
理由は簡単!
真っ暗な部屋、どちらかというと、“空間”といった方が正しいだろう場所にいたからだ。
なぜ“空間”かといいますと、
奥がどこまであるか、どこまでいったら壁があるか分からない闇に包まれている
みたいな場所だからです。はい。
それからというもの、どうすればいいのか分からず、動き回っている自分だった。
「ってもしかして、ここって地獄?」
ぐらいの非現実的な単語が出てくるぐらいには動揺していた。
「地獄だったらどうしよう・・・」
なんて心配をしていると、急に何処からともなく、大きなスクリーンが現れた。
俺より断然でかいスクリーンの光に目を細めていると、スクリーンに映った、(多分)20代ぐらいのスーツを着た青年が、なにやら話し出した。
『ご機嫌はいかがですか。私は、あなたの担当となりました、キヌヤと申します。』
無表情で淡々と話す青年に、ただでさえ溜まっていた腹立たしさが爆発し、スクリーンに怒鳴る。
「お前誰だよ!!てか、ここどこだよ!!?俺は車に跳ねられて死んだんだ!なのになんで生きてんだよ!!?」
しかし、スクリーンの青年は表情1つ変えず、淡々と話し続ける。
『あなたには今から“人生シュミレーションゲーム”をして頂きます。ルールは簡単です・・・』
俺のことなど放ったらかしでどんどん進む話についていけなくなっていた。
「おい!!聞けよ!!俺はなんで生きてんだよ!!シュミレーションゲームってなんだよ!!」
どんなに叫んでもシカトをする青年に諦めがついてきた。
俺は、床かもわからない場所に仰向けに寝転んでスクリーンを見ると、画面の端に小さく“再生”と書いてあった。
「なるほど録画か。」
なるほど自分は録画を再生してるのに向かって叫んでたのか。完全に俺やばいやつだろ。
羞恥心に手で顔を隠す。
その間も映像は流れ続けてるし、青年は話し続けている。
俺はスクリーンと逆の方に寝転がり、スクリーンの内容をシャットアウトする。
と、


(ガコンッ)
機材が急に音を出して壊れた。
画面は暗くなり、声もなくなる。
「俺・・・じゃないよな・・・。」
誰もいないこの部屋で、誰かに助けを求める。
少し焦り、立ち上がってどうすればいいかわからず、そこら辺をぐるぐる歩きまわる。
『あー、あー、マイクテス、マイクテス。』
突然上から声が降ってきた。
『あー、大丈夫ですかー?』
さっきの堅苦しい声とは違う、もっと無邪気な声だ。
「だ、大丈夫だけど、お前、誰だよ!」
返事が返ってくるかわからないが、叫んでみる。
『僕は、さっきの映像を作ってる人だよ!なんか、ちょっと、機材の調子が悪いみたいだから、そっちに行くよ!ちょっと待っててね!』
無邪気な声の主は、マイクを切った。
弁償なんて言われたら困るな・・・
なんて思い、そわそわしながら待っていると、何処からともなく(多分)小学生ぐらいの少年と、スクリーンに映っていた青年がやって来た。
「こんにちは!ハヤト!」
無邪気にぴょんぴょん跳ねながら挨拶をする少年の後ろで、青年は軽く頭を下げた。
「お、お前誰だよ。てか、ここどこだよ。なんで俺の名前、知ってんだよ。てか、俺、死んだよな?」
他人に自分が死んだかなんて聞くことはおかしいぐらいのことは分かっているが、この状況を上手く呑み込めず、半パニック状態だった。
「急にいっぱいの質問しないでよ!僕、そういうの苦手なんだよぉー!」
ぷんぷんという効果音がお似合いのように頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。
ちっちゃい子ってなんでみんなこんなピュアピュアなの?
なんて思ってしまう17の俺であった。
すると、後ろにいた、青年が代役に入った。
「ご察し頂いているかと思いますが、説明させて頂きますと、再生している機械の方がショートしてしまいました。ですので、ここからは口頭での説明とさせて頂きます。」
エリートの話し方だ。
相変わらずの淡々さに嫌気が指してくる。
でも、これは怒らせてはいけない奴。
と、無言で話を聞いておく。
「どこまでお聞きになられましたか?」
急な質問に焦る。流石に、全く聞いてませんでしたーって言えるほど無神経ではない。
「え、えーっと・・・担当があんたってところ・・・?」
うろ覚えで覚えているところまでで返事すると、青年の表情が一瞬歪んだ。
やばい。これはやばい。怒るかも。
少し身構えて、目を逸らすと穏やかな声が返ってきた。
「そうですか。あまり進んでいなかったようですね。後で、下のものに言っておきます。」
これはやばいやつだろ。笑顔が怖い。下の人、誰かわかんねーけど大丈夫か?ごめんな・・・。俺の一言で・・・。でも、嘘じゃないぞ。本当にそこまでしか聞いてないからな。
少し震えながら下を向く。
「では、その続きからですが、あなたには今から“人生シュミレーションゲーム”をして頂きます。」
映像と同じように、聞いている方をおいて先々進んでしまう。
「キヌぅー。キヌの話し方はつまらないよ!もっと明るく、相手に伝わるように話さないと。」
俺の言えなかった部分を簡単に言ってのけた少年にこころの中で拍手する。
「これは失敬。申し訳ございません。私はあまり人と関わらないため、どのぐらいが“丁度いい”かわかりません。分からない部分がありましたら、どうぞご気軽にお申し付け下さい。」
まず、短文に長文で返してくるの辞めてくれ、とは口が裂けても言えないな。
「そんなんじゃダメだよー!もっと、楽しくじゃなきゃ!」
またぴょんぴょんして青年に教育する姿が英雄に見えてきそうだった。
「では、話しを進めます。あなた様に今からして頂くゲームで、あなた様の今後が決まります。」
急な重さに驚く。
人生が決まるゲームとか絶対やばいやつだ。
「あなた様のご質問にお答えすることになりますが、あなた様は、居眠り運転の車にぶつかられ、死にました。」
こいつさらっと死にましたって言ったぞ。
さらっと言ったぞ。こちとら人生が終わりましたー!って言われてるんだぞ。
おれが話も聞かず上の空になっている事に気付いた青年は、俺の目の前で手を上下に動かした。
「大丈夫ですか?上の空でしたよ?」
この気持ちがわからない青年は、話を進めようとする。
ここでまたもや少年(えいゆう)の登場だ。
「キヌ。ハヤトはね、死んだことを自覚しながら、やっぱり、現実を突きつけられて、悲しんでるんだよ。そっとしてやろ?」
なんだか言い方がフォローになってないフォローをしてくれて、青年はこっちを見たあと、申し訳なさそうにした。
「そうですか・・・。申し訳ございません。やはり、私にはそのような感情を持ち合わせていませんので、分かりかねます。ですが、時間がおしていますので、先に進ませて頂きます。」
そう言って、またすらすらと語り出す。
「ここは、あなた方人間のいうところの天国と地獄の間でして、今からやって頂くゲームでどちらに行くか裁定者、今で言う私が判断いたします。ここまでよろしいですか?」
さっきよりもほんの少し遠慮をもって話してくれたようで、後らへんに少年が入ってくる事はなかった。
「おう。理解出来た。要するに、『このゲームで裁定するから、お前はとりあえずゲームやれ』ってことだろ?」
要約した俺の言葉に言い直したいようだが、止めて頷いた。
青年も青年なりで遠慮をしてくれているようだ。
「ここからはゲームの説明です。
このゲームではあなた様の携帯電話が必要になります。お持ちですか?」
そういや事故った後に、119しようとして力尽きたことを思い出して、ポケットを探る。
俺の愛用の携帯はそこに確かにいて、ホッとしながら取り出す。
「このゲームは、日常をモチーフにしたゲームになっておりまして、題名のとおり、人生のシュミレーションゲームです。何をするにしても、携帯にその後の選択肢が映し出されている間はその場から動くことは出来ません。その分、周りの時間も同時に止まります。選択肢が出てきましたら、好きな方を選択して、選択した方の人生に進んで行きます。ここまで、ご理解頂けましたでしょうか?」
青年の目を見て、頷く。
「しかし、間違って選択した場合も、運の尽きです。戻る事は出来ません。」
まぁ、それはそうだろうなぐらいにしか思わないな。
「あと、これが一番の掟なのですが、あなた様のゲームが始まる前までの人生はゲーム内では誰にも話してはいけません。知られた場合には、私は知らないのですが、罰が下るそうです。」
なぜそこだけ、小学生じみたルールなんだ。
少し現実味が出てくる。
「これで説明は終了です。ご質問等ございますか?」
俺は横に首を振る。
青年は頷いて、何処からともなく出てきた電子パネルにサインか何かをして、OKを押した。
「最後に挨拶が遅れました。キヌヤと申します。今までは、管理などをする部署にいまして、今年から裁定するこの部署に配属されました。一年目です。よろしくお願いいたします。」
スクリーンと同じように礼儀正しく頭を下げられたら。
「よろしく。俺は、ハザマ ハヤト。特に出来ることとかないと思うけど、よろしくな!」
この空間の闇が光に包まれたとき、また気が遠くなった。

こうして俺の人生は始まった。
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