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牛タン屋へレッツラゴー
しおりを挟む「黄色のニット帽……黄色のニット帽……」
とある駅の改札口から少し離れた場所で、俺はその目印を探していた。
キリトと食事に行くにあたって、お互い顔が分からないため、目立つアイテムを身に着けて合流しようという話になっていた。キリトは黄色のニット帽、俺は紺色のアーミーハット。
「……ちょっとキョロキョロしすぎか」
いかにも“人を待ってます”という雰囲気が自分でも恥ずかしくなって、目深に帽子を被り直し、DEIMを開く。
「えーっと、『待ち合わせ場所に着きましたので、駅に着いたら教えてください。』……送信っと」
ふーっと息を吐く。あんなにゲームをしたり電話をしたりしてきたけれど、やはり実際に会うとなると、妙に緊張するものだ。
勝手な想像で申し訳ないが、キリトはきっと俺より若くて、今どきの子って感じのイメージだ。それに比べて俺は――パッとしない中年男性。若く見られたいわけじゃないが、せめて隣を歩いても違和感がないよう祈るしかない。
(……てか、キリトさんから返信ないな。既読にもなってな――)
「――あのっ!!」
突然話しかけられて、そこそこのアホ面で振り返る。そこには、黄色のニット帽を被った男が、ほんのり頬を赤らめて立っていた。
「あ、の……トナリさん、ですか?」
「あっ、はい! そうです……キリトさん、で、合ってますか?」
そう返すと、キリトの不安げな表情がぱっと輝くような笑顔に変わり、遠慮なく俺の両手を掴んできた。
「トナリさん!! やっと会えましたね!! わ~っ!! やばっ、感動だなぁ!」
「っ! キ、キリトさん、声が大きいっ」
俺はともかく、キリトは“有名人”といっても過言ではない。顔が知られていないとはいえ、こういう瞬間がきっかけで顔バレでもしたら大変だ。慌てて彼の手を握り返し、その場からすぐ移動した。
(……ここまで来たら大丈夫かな)
少し離れたところまで歩いて、ちょっと大袈裟だったかと心配になりつつキリトを振り返ると、彼は真顔で一点をじっと見つめていた。
(?)
なんだろうと、彼の視線の先を追うと――俺が彼の手をぎゅっと握ったままだった。
「あ、ごめ――!」
気持ち悪がらせてしまったかと、慌てて手を離そうとするが……
「……キリトさん?」
「はい?」
「……手、を……」
「え?」
「あの……手を、離しませんか……?」
俺の手は完全にパーになっているのに、キリトはしっかりと握ったまま離そうとしない。「手を離しませんか」と促すと、「あー……そうですねぇ……」と返事をし、それから三秒ほど経って――なぜか名残惜しそうに、ようやく手を離した。
そして改めてキリトと向き合えば、そこには想像通り、今どきのイケメン男子が立っていた。
(これは……ギリ、アウトか……。俺が隣を歩いても大丈夫か……?)
不安になりつつ、頭ひとつ分背の高いキリトの顔を見上げて、改めて自己紹介をした。
「えっと、改めまして……トナリです」
「っキリトです!き、今日はありがとうございますっ。俺、ほんとに楽しみにしてました!」
そんなふうに言われて、俺も思わず笑ってしまった。
「俺もです。そろそろ予約の時間だし、行きましょうか」
「はいっ!」
元気よく返事するキリトに、こっちもつられてニコニコになる。
「あ~、ほんと夢みたいだなぁ……」
「それ、俺のセリフですね」
「いや、そこは譲れないっす……あの、トナリさん。一つお願いがあるんですけど……」
急に真剣な顔になったキリトに「なに?」と返すと、出てきたのは意外と可愛いお願いだった。
「敬語、やめません? 多分俺より年上だと思うんで、俺はいいとして……トナリさんはタメ口で話してほしいなって」
「俺はいいですけど、だったらキリトさんもタメ口にして欲しいです。そっちだけ敬語ってのも変ですし」
「あっ、それと!“さん”も禁止です!」
タメ口は「お願い」で、敬称は禁止「命令」なのか。なんかその温度差が可笑しくて、俺はつい笑ってしまった。
「わかりました。じゃあ、なんて呼べばいいかな……キリト、くん?」
「はい、敬語。だめっす。でも“キリトくん”はいいですね……萌えます」
「燃え? あ、つい敬語に……よし、気をつけよう」
なにが“燃える”のかと疑問に思うが、キリトはちょいちょいよく分からないワードを会話に挟んでくるので、あまり深く考えないことにしている。
そんなふうに軽口を交わしているうちに、予約していた牛タンの店に到着した。
「いらっしゃいませ~」
「すみません、19時に二名で予約してた一色です」
「一色様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
案内されたのは個室だった。
「うわ~個室だぁ……なんか、やらしい感じがする」
「え、そう? 話しやすいかなって思ってさ。キリトくん、有名人じゃん」
「いやいや、俺は有名人じゃないっす。ただの一般人っす。ごく一部のゲーマーに知られてるだけ」
「またまた、ご謙遜を」
と軽く茶化して、キリトにメニューを渡す。
「あ、てか……トナリさんって“一色”って苗字なんですね。素敵な名前だなぁ」
「ん? あぁ、予約のとき言ったか。そう、一色っていうんだ。単色みたいであんま好きじゃないんだけどね。……ていうか、ほらキリトくん、敬語になってる。“さん”も禁止でしょ? 俺だけ“くん”呼びじゃ寂しいよ」
「……トナリさんは“トナリさん”がいいんすよ~。敬語もなんか混ざってるだけで、これが素ですし……」
だめ?と、子犬みたいにしょんぼりした顔で見られたら、断れるわけがない。
「……しょうがないな。まあ、いいけどね。で、何食べるか決まった?」
「決まりました! これにします!」
「オッケー。お酒は? 飲む?……って、成人してるよね?」
「してます、してます! トナリさん飲みます? 飲むなら俺も飲もうかなって」
よかった、と安心してから「じゃあ一緒に飲もうか」と言って、テーブルのタッチパネルを手に取る。今どきの店は注文も楽でありがたい。
「そうか……一色さん、かぁ。あ、ちなみに俺は“桐山”です! 桐山・誠(まこと)っていいます。ついでに言うと、28歳の独身です!」
「えっ! ちょっと待って、情報量が多いよ!? どこから処理すればいいんだ……。てか名前、言っちゃうんだね(笑)しかも“桐山”って、活動名そのままじゃん。“桐山キリト”でしょ?」
「そうなんです。正直、なんも考えないで決めちゃったんで……今更ながら、やっちまった感ありますね。でも意外と、身バレしないもんですよ」
「へぇ……そうなんだ」
「――ていうか、“独身”ってとこに食いついてほしかったんすけど……」
すこし拗ねたように言うキリトに、思わず「ごめんごめん」と笑って返した。
「じゃあ、俺も自己紹介しとこうかな。えーっと……一色・公孝(きみたか)です。歳は……35。おっさんです。あ、独身です」
そう名乗ったあと、なんだかお見合いみたいだなと、つい笑いそうになった。
するとキリ――いや、誠くんは、俺の名前を繰り返すように「きみたか……名前も素敵……そして独身」そう言って、なぜかうっとりとした表情を浮かべる誠くん。その表情に少し戸惑いつつも、俺も素直に返す。
「誠くんの名前も、俺は好きだよ。真っ直ぐで、優しそうな名前だなって思う」
そう伝えた途端、誠くんは「……天然タラシ」っと、ぽっと頬を赤らめた。
「というか、公孝さん! 公孝さんはおっさんじゃないです。こんな可愛いおっさんいてたまるかって話ですよ」
「ナチュラルに名前呼び(笑)……コミュ力のレベルが違う。キリトくんの会話って、ちょいちょい理解できないとこあるんだけど……可愛いとは……?」
「“誠くん”で、おなしゃす」
「うん、全スルー」
しかし、誠くんは止まらない。
「まず、“おっさん”の定義が公孝さんには当てはまってないんです。俺から見たら、公孝さんは全然おっさんじゃない。何より可愛いんですよ。それに――」
語る熱量がすごい。
“可愛い”とは……と、話を聞きながら頭をひねるが、正直まったくわからない。俺は本当に平凡で、どこにでもいるようなタイプだ。モテたこともないし、誠くん以外から“可愛い”なんて言われたこともない。
(……あ、世に言う“キモカワ”的な?)
なるほど、とひとりごちる。納得しかけたところで、誠くんの「おっさんが可愛い」理論は熱量を増していき――料理が運ばれてくるまで、休みなく続けられたのだった。
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キリトくん、隠すつもりあるんだかないんだか。
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