【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

文字の大きさ
18 / 35

牛タン屋へレッツラゴー

しおりを挟む


「黄色のニット帽……黄色のニット帽……」

とある駅の改札口から少し離れた場所で、俺はその目印を探していた。
キリトと食事に行くにあたって、お互い顔が分からないため、目立つアイテムを身に着けて合流しようという話になっていた。キリトは黄色のニット帽、俺は紺色のアーミーハット。

「……ちょっとキョロキョロしすぎか」

いかにも“人を待ってます”という雰囲気が自分でも恥ずかしくなって、目深に帽子を被り直し、DEIMを開く。

「えーっと、『待ち合わせ場所に着きましたので、駅に着いたら教えてください。』……送信っと」

ふーっと息を吐く。あんなにゲームをしたり電話をしたりしてきたけれど、やはり実際に会うとなると、妙に緊張するものだ。
勝手な想像で申し訳ないが、キリトはきっと俺より若くて、今どきの子って感じのイメージだ。それに比べて俺は――パッとしない中年男性。若く見られたいわけじゃないが、せめて隣を歩いても違和感がないよう祈るしかない。

(……てか、キリトさんから返信ないな。既読にもなってな――)
「――あのっ!!」

突然話しかけられて、そこそこのアホ面で振り返る。そこには、黄色のニット帽を被った男が、ほんのり頬を赤らめて立っていた。

「あ、の……トナリさん、ですか?」
「あっ、はい! そうです……キリトさん、で、合ってますか?」

そう返すと、キリトの不安げな表情がぱっと輝くような笑顔に変わり、遠慮なく俺の両手を掴んできた。

「トナリさん!! やっと会えましたね!! わ~っ!! やばっ、感動だなぁ!」
「っ! キ、キリトさん、声が大きいっ」

俺はともかく、キリトは“有名人”といっても過言ではない。顔が知られていないとはいえ、こういう瞬間がきっかけで顔バレでもしたら大変だ。慌てて彼の手を握り返し、その場からすぐ移動した。

(……ここまで来たら大丈夫かな)

少し離れたところまで歩いて、ちょっと大袈裟だったかと心配になりつつキリトを振り返ると、彼は真顔で一点をじっと見つめていた。

(?)

なんだろうと、彼の視線の先を追うと――俺が彼の手をぎゅっと握ったままだった。

「あ、ごめ――!」

気持ち悪がらせてしまったかと、慌てて手を離そうとするが……

「……キリトさん?」
「はい?」
「……手、を……」
「え?」
「あの……手を、離しませんか……?」

俺の手は完全にパーになっているのに、キリトはしっかりと握ったまま離そうとしない。「手を離しませんか」と促すと、「あー……そうですねぇ……」と返事をし、それから三秒ほど経って――なぜか名残惜しそうに、ようやく手を離した。
そして改めてキリトと向き合えば、そこには想像通り、今どきのイケメン男子が立っていた。

(これは……ギリ、アウトか……。俺が隣を歩いても大丈夫か……?)

不安になりつつ、頭ひとつ分背の高いキリトの顔を見上げて、改めて自己紹介をした。

「えっと、改めまして……トナリです」
「っキリトです!き、今日はありがとうございますっ。俺、ほんとに楽しみにしてました!」

そんなふうに言われて、俺も思わず笑ってしまった。

「俺もです。そろそろ予約の時間だし、行きましょうか」
「はいっ!」

元気よく返事するキリトに、こっちもつられてニコニコになる。

「あ~、ほんと夢みたいだなぁ……」
「それ、俺のセリフですね」
「いや、そこは譲れないっす……あの、トナリさん。一つお願いがあるんですけど……」

急に真剣な顔になったキリトに「なに?」と返すと、出てきたのは意外と可愛いお願いだった。

「敬語、やめません? 多分俺より年上だと思うんで、俺はいいとして……トナリさんはタメ口で話してほしいなって」
「俺はいいですけど、だったらキリトさんもタメ口にして欲しいです。そっちだけ敬語ってのも変ですし」
「あっ、それと!“さん”も禁止です!」

タメ口は「お願い」で、敬称は禁止「命令」なのか。なんかその温度差が可笑しくて、俺はつい笑ってしまった。

「わかりました。じゃあ、なんて呼べばいいかな……キリト、くん?」
「はい、敬語。だめっす。でも“キリトくん”はいいですね……萌えます」
「燃え? あ、つい敬語に……よし、気をつけよう」

なにが“燃える”のかと疑問に思うが、キリトはちょいちょいよく分からないワードを会話に挟んでくるので、あまり深く考えないことにしている。
そんなふうに軽口を交わしているうちに、予約していた牛タンの店に到着した。

「いらっしゃいませ~」
「すみません、19時に二名で予約してた一色です」
「一色様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

案内されたのは個室だった。

「うわ~個室だぁ……なんか、やらしい感じがする」
「え、そう? 話しやすいかなって思ってさ。キリトくん、有名人じゃん」
「いやいや、俺は有名人じゃないっす。ただの一般人っす。ごく一部のゲーマーに知られてるだけ」
「またまた、ご謙遜を」

と軽く茶化して、キリトにメニューを渡す。

「あ、てか……トナリさんって“一色”って苗字なんですね。素敵な名前だなぁ」
「ん? あぁ、予約のとき言ったか。そう、一色っていうんだ。単色みたいであんま好きじゃないんだけどね。……ていうか、ほらキリトくん、敬語になってる。“さん”も禁止でしょ? 俺だけ“くん”呼びじゃ寂しいよ」
「……トナリさんは“トナリさん”がいいんすよ~。敬語もなんか混ざってるだけで、これが素ですし……」

だめ?と、子犬みたいにしょんぼりした顔で見られたら、断れるわけがない。

「……しょうがないな。まあ、いいけどね。で、何食べるか決まった?」
「決まりました! これにします!」
「オッケー。お酒は? 飲む?……って、成人してるよね?」
「してます、してます! トナリさん飲みます? 飲むなら俺も飲もうかなって」

よかった、と安心してから「じゃあ一緒に飲もうか」と言って、テーブルのタッチパネルを手に取る。今どきの店は注文も楽でありがたい。

「そうか……一色さん、かぁ。あ、ちなみに俺は“桐山”です! 桐山・誠(まこと)っていいます。ついでに言うと、28歳の独身です!」

「えっ! ちょっと待って、情報量が多いよ!? どこから処理すればいいんだ……。てか名前、言っちゃうんだね(笑)しかも“桐山”って、活動名そのままじゃん。“桐山キリト”でしょ?」
「そうなんです。正直、なんも考えないで決めちゃったんで……今更ながら、やっちまった感ありますね。でも意外と、身バレしないもんですよ」
「へぇ……そうなんだ」
「――ていうか、“独身”ってとこに食いついてほしかったんすけど……」

すこし拗ねたように言うキリトに、思わず「ごめんごめん」と笑って返した。

「じゃあ、俺も自己紹介しとこうかな。えーっと……一色・公孝(きみたか)です。歳は……35。おっさんです。あ、独身です」

そう名乗ったあと、なんだかお見合いみたいだなと、つい笑いそうになった。
するとキリ――いや、誠くんは、俺の名前を繰り返すように「きみたか……名前も素敵……そして独身」そう言って、なぜかうっとりとした表情を浮かべる誠くん。その表情に少し戸惑いつつも、俺も素直に返す。

「誠くんの名前も、俺は好きだよ。真っ直ぐで、優しそうな名前だなって思う」

そう伝えた途端、誠くんは「……天然タラシ」っと、ぽっと頬を赤らめた。

「というか、公孝さん! 公孝さんはおっさんじゃないです。こんな可愛いおっさんいてたまるかって話ですよ」
「ナチュラルに名前呼び(笑)……コミュ力のレベルが違う。キリトくんの会話って、ちょいちょい理解できないとこあるんだけど……可愛いとは……?」
「“誠くん”で、おなしゃす」
「うん、全スルー」

しかし、誠くんは止まらない。

「まず、“おっさん”の定義が公孝さんには当てはまってないんです。俺から見たら、公孝さんは全然おっさんじゃない。何より可愛いんですよ。それに――」

語る熱量がすごい。

“可愛い”とは……と、話を聞きながら頭をひねるが、正直まったくわからない。俺は本当に平凡で、どこにでもいるようなタイプだ。モテたこともないし、誠くん以外から“可愛い”なんて言われたこともない。

(……あ、世に言う“キモカワ”的な?)

なるほど、とひとりごちる。納得しかけたところで、誠くんの「おっさんが可愛い」理論は熱量を増していき――料理が運ばれてくるまで、休みなく続けられたのだった。


ーーーーーーーーーーーーー

キリトくん、隠すつもりあるんだかないんだか。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...