26 / 53
本編
27話
しおりを挟む
庭園で紅茶を飲む王妃は、少しだけ驚いた様な表情を作り娘であるレアに視線を送った。
「この茶葉は?」
「イリス様から頂きました。お口に合いませんでしたか?」
「……いえ。そう。彼女からですか」
ミュラー商会の新作茶葉。今まではイリスが王妃にも贈っていたのだがそれは届かなかった。仕方がないと思いながらも肩を落としていた王妃はレアの所には届いていたのかと少しだけ安堵の表情を浮かべる。
長い間第二王子の婚約者の地位にいたイリスは王妃との関係も良好であった。王族教育も問題なくこなし、たまに茶会に呼べば態度はいつも控えめで周りを立てる。戦場の華と謳われた風切姫程では無いが、それでも人目を引く凛とした佇まいが王妃は好きであった。
「本当にイリス嬢の事は残念です……わたくしもとても良くして頂いていましたのに」
口を開いたのは王太子妃である元公爵家の娘。王太子の婚約者候補はもう一人いたのだが、病弱であるのを理由に辞退した事もあり水面下ではさておき彼女は比較的トントン拍子に婚姻までたどり着けた。
彼女が婚約者になった頃には既にイリスは第二王子の婚約者の地位にいたのもあり既に周りとも馴染んでいた。そんなイリスは王太子妃となる彼女が馴染めるようにと色々と気を使ってくれていたのだ。
「あの……それで……こんな事をお聞きするのもどうかと思ったのですが……第二王子殿下の新しい婚約者の方はお決まりになったのでしょうか」
恐らく決まっていても表立って発表するのは婚約破棄から最低三ヶ月後だと言うことは王太子妃も当然知っている。ただ言ってしまえばこの身内だけのお茶会で内々に決まっているのなら聞きたいと思ったのだろう。そこには王太子の意志も入っている。それを察したレアは、咎めることもなく口を開いた。
「なにも、としか返事ができないわ」
「……それは……差し出がましいことをお聞きしました」
「いえ。候補は色々と上がっているらしいのですけれど、決定打不足とわたくしは聞いていますの。そしてお兄様自体も相変わらずで難航しているわ」
決して気を悪くしたわけでもなく本当になにも決まっていないから言えないのだと言うようにレアが言葉を重ねれば、驚いたように王太子妃が瞳を瞬かせた。
「ヴァイスのお陰でノイ伯爵が研究所を辞める程度で収まりましたけれど、結局それと引き換えに婚約破棄の取り消しの道は完全に塞がれましたわ。まぁわたくしとしても流石にそんな恥知らずな事はどれだけ臣下からの突き上げがあっても許容できませんけれど」
「レア」
嗜める様な王妃の声にレアは少しだけ頭を下げて詫びる。それに王妃はふぅっとため息を零し口を開いた。
「ヴァイスの失望も大きかったのでしょうね。あっという間にミュラー伯爵家に降りてしまって」
失望がどうこうと言うのならば聖女候補を生徒会に入れた時点で詰んでいたと言う発言から、とっくに見限っていたのではないかとレアは思うのだがそれに関しては黙っていた。表向きはずっとヴァイスはルフトをイリスと一緒に支えていたのだが、水面下では最悪の状況を予測して動いていたのを知っているからだ。
ただ、王妃にしてみればルフトの乳兄弟であるヴァイスのことも可愛がっていたので落胆しているのだろう。
「実はね、ヴァイスから内密に話も聞いていたの」
「本当ですか?お母様」
「ええ。ルフトが聖女候補に入れ込んでいる様だと。学生時代の火遊び程度かと思って心に止める程度にしていたのですけれど、あの時一言ルフトに言っておくべきでした」
後悔の滲む王妃の声色にレアは僅かに瞳を細める。恐らくそれは誰もが思っていただろうと。レアも正直に言えばイリスを蔑ろにされていることに腹は立っていたが、まさかイリスを降ろすとは夢にも思っていなかった。
「……ルフトは何とかあの聖女候補を婚約者の地位に据えたいとこそこそとやっているようですけど」
こそこそと、と言う言い方に王妃が聖女候補を快く思っていない事がありありと出ていてレアは思わず苦笑する。教会の方へ爵位の高い家に養女にだせないかと打診したり、高位貴族の礼儀作法を学ばせるために家庭教師を派遣したりとしているらしい。
「馬鹿な子。イリス嬢の八年を三ヶ月で塗り替えることなど無理な話だわ。それに、王族として政略結婚を受け入れるなど当たり前でしょう?勿論、気が合うに越したことはないでしょうけど、それならば最低イリス嬢を超えてもらわないと話にならない」
王太子も当然政略結婚であるし、レアもゆくゆくは国の為に例えば有力高位貴族や他国へ嫁ぐことは考えられた。王と王妃は仲睦まじいがそれでもやはり国の事を第一に考えての婚姻であったし、側室も血を繋げるのが大事だと許容している。
そして円満解消と言う方法があると知っていたのにも関わらず、それすら待てずにイリスを降ろしたのが問題なのだとレアはぼんやりと考える。
「側室では駄目だったのでしょうか……」
困惑したように王太子妃が言ったのも仕方がない。彼女の場合はゆくゆくは王妃となるのでその辺りは弁えている。王族に限らず高位貴族であれば政略結婚をしたが、それとは別に愛妾を囲うというのは珍しくもない。ただ、絶対的な序列はあるのだが。
「愛する人を日陰に置いておきたくなかったそうよ。ヴァイスが怒るのも無理はないわ。失望も仕方ないんじゃないかしら」
ヴァイスはルフトの王族としてのあり方に失望した。周りはそう思っただろうし、実際失望した者もいただろう。いずれ王太子に子ができれば公爵として臣下になるにしても、現在はまだ王族の一員であり王位継承権も高い。王太子になにか不測の事態が起これば第二王子は繰り上がりになるのだ。
今まで失点らしい失点が無かっただけに戸惑う者も多い様だった。
「……レア。少しイリス嬢の事を聞いても良いかしら」
「はい。イリス様はお元気ですよ。先日も軍の遠征予定地に出た飛竜を先にミュラー商会と組んで狩りに行かれたと聞きましたし、ロートスの友人領地で行われる花祭りにも行かれたとか」
「花祭り?」
「日頃の感謝と、これからも共に歩んで欲しいという思いを込めて黄色い花を贈り合うものなんですって。お土産に向日葵のコサージュを頂きましたわ」
「わたくしは、孤児院への寄付を内密に継続されていると言う話を王太子殿下から聞きました。ノイ家と神殿の折り合いが悪いので大っぴらに出来ないことに心を痛めていらっしゃるとか」
レアと王太子妃の話を聞き、王妃は小さく息を吐き出した。ふさぎ込んでいないのなら良いが、それでもやはり不義理な事をこちら側がしたので気にかかっていたのだ。
そっとしておいて欲しいと賠償金も辞退し今期は夜会にもお茶会にも出ていない。
「……あの……」
「何?」
「お母様の心配はわかりますが、余り心配されすぎるのも逆にイリス様が気にされます。夜会やお茶会に出席されないのは、その……元々お好きではなかったからだと……ノイ伯爵も風切姫も社交に積極的な方ではなかった影響かと思いますわ」
余りにも萎れる王妃を慰めるようにレアはそう言い放つと、申し訳無さそうに眉を下げた。実際イリスは行かなくていいなら行かないという、ノイ一族の典型的なタイプなのだ。
「そうでしたね。それなのに頑張っていつも参加してくれて、本当に良い子でした。余りにも卒なくこなすのですっかり忘れていたわ。……こういう所もいけなかったのかもしれませんね」
苦笑しながら王妃が思い浮かべたのは風切姫。ノイ伯爵の代わりに渋々社交に出たりもしていたが、出なくて良いのなら一生出たくないと言い切っていたのを思い出したのだ。それでも出ればきちんと役目を果たす。きっとイリスはそんな彼女に似ていたのだろうと思い王妃は瞳を伏せた。
「そういえば先程アインバッハ公爵令嬢がいらしてた様ですけど」
暗くなりつつある空気を遮るように王太子妃が言葉を上げると、レアは表情を綻ばせて口を開く。
「ええ。ローゼ様がイリス様から向日葵のコサージュを預かって下さってましたの。先日アインバッハ領へ三つ首討伐にイリス様が行かれたらしくて」
「まぁ……。領地への被害は?」
「対応が早かったのでほとんどなかったと聞いていますわ」
ローゼ・アインバッハ公爵令嬢は現在の国王陛下の姪……レアにとっては従姉妹に当たる。年齢的にはイリスやルフトと同じ学年でありイリスの後釜にと押されてはいるのだが、血が近すぎるのではないかと言う意見や、本人にその気がないというものあり話は進んでいない。
アインバッハ領自体は国の食料庫と呼ばれる小麦の産地であり、大型魔物等が出れば翌年の飢饉に繋がると領兵を持つことを許されている上に、国からの領兵維持のための補助金も出ている。
大型魔物が出やすい辺境伯領等もその様な形式を取っているのは、軍が平時であれば基本的に私兵を維持することのできない小さな領地をメインに魔物討伐をしているからである。
辺境や要地も軍は大規模討伐の時に魔物を狩るのだがそれを待っていては領地が維持できないと領兵を持ち、傭兵を雇い、自前でなんとかしている。
そんな中、三つ首のたてがみが欲しいとミュラー商会経由でノイ伯爵から打診があったのだ。そして水面下で話が決まり、ノイ伯爵領の魔物討伐部隊が三つ首を狩りに行った。
その時にローゼがイリスからのクラウスナー領の土産を預かったのだ。
「ローゼ様とコサージュがお揃いでしたの。フフッ」
「あら。今度見せて下さいまし」
嬉しそうに笑うレアを眺め王太子妃は瞳を細める。王太子妃自身はあくまで夫を通してのイリスとの関係であったが、レアやローゼは同じ学園に通う学友という立場もあるのでイリスも土産を渡したのだろうと思い少しだけホッとした。
この様子ならイリスが学園で孤立することもないだろうと思ったのだ。王族であるレアや、筆頭公爵令嬢であるローゼと今まで通りとは行かずとも、関係が悪くなければ然程問題はないだろうし、弟のロートスやヴァイスも恐らく彼女のそばにいてくれるだろうと。
しかしそうなれば逆にルフトが微妙な立場になる。それも危惧していた。
「この茶葉は?」
「イリス様から頂きました。お口に合いませんでしたか?」
「……いえ。そう。彼女からですか」
ミュラー商会の新作茶葉。今まではイリスが王妃にも贈っていたのだがそれは届かなかった。仕方がないと思いながらも肩を落としていた王妃はレアの所には届いていたのかと少しだけ安堵の表情を浮かべる。
長い間第二王子の婚約者の地位にいたイリスは王妃との関係も良好であった。王族教育も問題なくこなし、たまに茶会に呼べば態度はいつも控えめで周りを立てる。戦場の華と謳われた風切姫程では無いが、それでも人目を引く凛とした佇まいが王妃は好きであった。
「本当にイリス嬢の事は残念です……わたくしもとても良くして頂いていましたのに」
口を開いたのは王太子妃である元公爵家の娘。王太子の婚約者候補はもう一人いたのだが、病弱であるのを理由に辞退した事もあり水面下ではさておき彼女は比較的トントン拍子に婚姻までたどり着けた。
彼女が婚約者になった頃には既にイリスは第二王子の婚約者の地位にいたのもあり既に周りとも馴染んでいた。そんなイリスは王太子妃となる彼女が馴染めるようにと色々と気を使ってくれていたのだ。
「あの……それで……こんな事をお聞きするのもどうかと思ったのですが……第二王子殿下の新しい婚約者の方はお決まりになったのでしょうか」
恐らく決まっていても表立って発表するのは婚約破棄から最低三ヶ月後だと言うことは王太子妃も当然知っている。ただ言ってしまえばこの身内だけのお茶会で内々に決まっているのなら聞きたいと思ったのだろう。そこには王太子の意志も入っている。それを察したレアは、咎めることもなく口を開いた。
「なにも、としか返事ができないわ」
「……それは……差し出がましいことをお聞きしました」
「いえ。候補は色々と上がっているらしいのですけれど、決定打不足とわたくしは聞いていますの。そしてお兄様自体も相変わらずで難航しているわ」
決して気を悪くしたわけでもなく本当になにも決まっていないから言えないのだと言うようにレアが言葉を重ねれば、驚いたように王太子妃が瞳を瞬かせた。
「ヴァイスのお陰でノイ伯爵が研究所を辞める程度で収まりましたけれど、結局それと引き換えに婚約破棄の取り消しの道は完全に塞がれましたわ。まぁわたくしとしても流石にそんな恥知らずな事はどれだけ臣下からの突き上げがあっても許容できませんけれど」
「レア」
嗜める様な王妃の声にレアは少しだけ頭を下げて詫びる。それに王妃はふぅっとため息を零し口を開いた。
「ヴァイスの失望も大きかったのでしょうね。あっという間にミュラー伯爵家に降りてしまって」
失望がどうこうと言うのならば聖女候補を生徒会に入れた時点で詰んでいたと言う発言から、とっくに見限っていたのではないかとレアは思うのだがそれに関しては黙っていた。表向きはずっとヴァイスはルフトをイリスと一緒に支えていたのだが、水面下では最悪の状況を予測して動いていたのを知っているからだ。
ただ、王妃にしてみればルフトの乳兄弟であるヴァイスのことも可愛がっていたので落胆しているのだろう。
「実はね、ヴァイスから内密に話も聞いていたの」
「本当ですか?お母様」
「ええ。ルフトが聖女候補に入れ込んでいる様だと。学生時代の火遊び程度かと思って心に止める程度にしていたのですけれど、あの時一言ルフトに言っておくべきでした」
後悔の滲む王妃の声色にレアは僅かに瞳を細める。恐らくそれは誰もが思っていただろうと。レアも正直に言えばイリスを蔑ろにされていることに腹は立っていたが、まさかイリスを降ろすとは夢にも思っていなかった。
「……ルフトは何とかあの聖女候補を婚約者の地位に据えたいとこそこそとやっているようですけど」
こそこそと、と言う言い方に王妃が聖女候補を快く思っていない事がありありと出ていてレアは思わず苦笑する。教会の方へ爵位の高い家に養女にだせないかと打診したり、高位貴族の礼儀作法を学ばせるために家庭教師を派遣したりとしているらしい。
「馬鹿な子。イリス嬢の八年を三ヶ月で塗り替えることなど無理な話だわ。それに、王族として政略結婚を受け入れるなど当たり前でしょう?勿論、気が合うに越したことはないでしょうけど、それならば最低イリス嬢を超えてもらわないと話にならない」
王太子も当然政略結婚であるし、レアもゆくゆくは国の為に例えば有力高位貴族や他国へ嫁ぐことは考えられた。王と王妃は仲睦まじいがそれでもやはり国の事を第一に考えての婚姻であったし、側室も血を繋げるのが大事だと許容している。
そして円満解消と言う方法があると知っていたのにも関わらず、それすら待てずにイリスを降ろしたのが問題なのだとレアはぼんやりと考える。
「側室では駄目だったのでしょうか……」
困惑したように王太子妃が言ったのも仕方がない。彼女の場合はゆくゆくは王妃となるのでその辺りは弁えている。王族に限らず高位貴族であれば政略結婚をしたが、それとは別に愛妾を囲うというのは珍しくもない。ただ、絶対的な序列はあるのだが。
「愛する人を日陰に置いておきたくなかったそうよ。ヴァイスが怒るのも無理はないわ。失望も仕方ないんじゃないかしら」
ヴァイスはルフトの王族としてのあり方に失望した。周りはそう思っただろうし、実際失望した者もいただろう。いずれ王太子に子ができれば公爵として臣下になるにしても、現在はまだ王族の一員であり王位継承権も高い。王太子になにか不測の事態が起これば第二王子は繰り上がりになるのだ。
今まで失点らしい失点が無かっただけに戸惑う者も多い様だった。
「……レア。少しイリス嬢の事を聞いても良いかしら」
「はい。イリス様はお元気ですよ。先日も軍の遠征予定地に出た飛竜を先にミュラー商会と組んで狩りに行かれたと聞きましたし、ロートスの友人領地で行われる花祭りにも行かれたとか」
「花祭り?」
「日頃の感謝と、これからも共に歩んで欲しいという思いを込めて黄色い花を贈り合うものなんですって。お土産に向日葵のコサージュを頂きましたわ」
「わたくしは、孤児院への寄付を内密に継続されていると言う話を王太子殿下から聞きました。ノイ家と神殿の折り合いが悪いので大っぴらに出来ないことに心を痛めていらっしゃるとか」
レアと王太子妃の話を聞き、王妃は小さく息を吐き出した。ふさぎ込んでいないのなら良いが、それでもやはり不義理な事をこちら側がしたので気にかかっていたのだ。
そっとしておいて欲しいと賠償金も辞退し今期は夜会にもお茶会にも出ていない。
「……あの……」
「何?」
「お母様の心配はわかりますが、余り心配されすぎるのも逆にイリス様が気にされます。夜会やお茶会に出席されないのは、その……元々お好きではなかったからだと……ノイ伯爵も風切姫も社交に積極的な方ではなかった影響かと思いますわ」
余りにも萎れる王妃を慰めるようにレアはそう言い放つと、申し訳無さそうに眉を下げた。実際イリスは行かなくていいなら行かないという、ノイ一族の典型的なタイプなのだ。
「そうでしたね。それなのに頑張っていつも参加してくれて、本当に良い子でした。余りにも卒なくこなすのですっかり忘れていたわ。……こういう所もいけなかったのかもしれませんね」
苦笑しながら王妃が思い浮かべたのは風切姫。ノイ伯爵の代わりに渋々社交に出たりもしていたが、出なくて良いのなら一生出たくないと言い切っていたのを思い出したのだ。それでも出ればきちんと役目を果たす。きっとイリスはそんな彼女に似ていたのだろうと思い王妃は瞳を伏せた。
「そういえば先程アインバッハ公爵令嬢がいらしてた様ですけど」
暗くなりつつある空気を遮るように王太子妃が言葉を上げると、レアは表情を綻ばせて口を開く。
「ええ。ローゼ様がイリス様から向日葵のコサージュを預かって下さってましたの。先日アインバッハ領へ三つ首討伐にイリス様が行かれたらしくて」
「まぁ……。領地への被害は?」
「対応が早かったのでほとんどなかったと聞いていますわ」
ローゼ・アインバッハ公爵令嬢は現在の国王陛下の姪……レアにとっては従姉妹に当たる。年齢的にはイリスやルフトと同じ学年でありイリスの後釜にと押されてはいるのだが、血が近すぎるのではないかと言う意見や、本人にその気がないというものあり話は進んでいない。
アインバッハ領自体は国の食料庫と呼ばれる小麦の産地であり、大型魔物等が出れば翌年の飢饉に繋がると領兵を持つことを許されている上に、国からの領兵維持のための補助金も出ている。
大型魔物が出やすい辺境伯領等もその様な形式を取っているのは、軍が平時であれば基本的に私兵を維持することのできない小さな領地をメインに魔物討伐をしているからである。
辺境や要地も軍は大規模討伐の時に魔物を狩るのだがそれを待っていては領地が維持できないと領兵を持ち、傭兵を雇い、自前でなんとかしている。
そんな中、三つ首のたてがみが欲しいとミュラー商会経由でノイ伯爵から打診があったのだ。そして水面下で話が決まり、ノイ伯爵領の魔物討伐部隊が三つ首を狩りに行った。
その時にローゼがイリスからのクラウスナー領の土産を預かったのだ。
「ローゼ様とコサージュがお揃いでしたの。フフッ」
「あら。今度見せて下さいまし」
嬉しそうに笑うレアを眺め王太子妃は瞳を細める。王太子妃自身はあくまで夫を通してのイリスとの関係であったが、レアやローゼは同じ学園に通う学友という立場もあるのでイリスも土産を渡したのだろうと思い少しだけホッとした。
この様子ならイリスが学園で孤立することもないだろうと思ったのだ。王族であるレアや、筆頭公爵令嬢であるローゼと今まで通りとは行かずとも、関係が悪くなければ然程問題はないだろうし、弟のロートスやヴァイスも恐らく彼女のそばにいてくれるだろうと。
しかしそうなれば逆にルフトが微妙な立場になる。それも危惧していた。
2
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
貴方の知る私はもういない
藍田ひびき
恋愛
「ローゼマリー。婚約を解消して欲しい」
ファインベルグ公爵令嬢ローゼマリーは、婚約者のヘンリック王子から婚約解消を言い渡される。
表向きはエルヴィラ・ボーデ子爵令嬢を愛してしまったからという理由だが、彼には別の目的があった。
ローゼマリーが承諾したことで速やかに婚約は解消されたが、事態はヘンリック王子の想定しない方向へと進んでいく――。
※ 他サイトにも投稿しています。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる