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第1.0章_探索
12.自衛隊と難民Ⅰ
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♢
「んん……っ」
東の空から昇った朝日が放つ眩い光が、ミラを眠りから目覚めさせた。
ミラはまだ眠い瞳をこすり、光が差し込む方に視線を向ける。そこには透明な板が二枚はめられた窓があり、眩い陽の光をそのまま室内に届けている。
ミラは上体を起こすと、自身を覆う布団に手を置いてその感触を確かめた。
「ふわふわ……」
これほどの上質な布をミラは生まれてこの方目にしたこともなければ、触ったこともない。そして自分の身体を預けているベッドもまた、同様に上質なものであることに思い至る。
普段見慣れた部屋でも、まして、逃避行中の野営テントでもない。ここは……。
「……あ」
そのとき、ようやくミラの寝ぼけていた脳が眠りから覚めた。ここは日本という人《ヒト》種の国の軍事施設。その兵舎の一室であることをミラはようやく思い出した。
ミラたち避難民はあの後、陸上自衛隊の回転翼輸送機CH‐47JA、通称、チヌークに乗り、東岸拠点に移動した。
CH-47JAはその回転翼を機体前部と後部に持つ独特な形状をしたヘリであり、最大で55名の乗員を乗せ飛行することができる。その輸送能力の高さから災害派遣に使われることが多いが、今回はミラたち避難民の救出に利用された。
彼らが東岸拠点の地を踏んだのは夜の八時過ぎ。すでに陽は西の空に沈んでいた。
その後、モロたちは東岸拠点内にある自衛隊宿舎の一つで、入浴、食事、診察、検査などを済ませた。負傷者や病人は医務棟で治療。食事は食堂から相馬らの手で運ばれた。そして就寝。
ミラにとって……いや、ミラだけでなく、避難民全員にとってそれは驚きの連続であった。
無限に溢れるお湯の雨、初めて入るお湯の池、温かく味のバリエーションに富んだ食事、そして暖かな布団。もっとも、ミラはその間、必死に顔を綻ばせないように必死だった。
ミラが今いる場所はその自衛隊宿舎で、ここが臨時の難民収容施設となっている。
なぜ、避難民を営内の宿舎に収容しているのだ。というのももっともな話であるが、利用者はミラを始めとする避難民だけだ。
東岸拠点には、今後の自衛隊増派や研究者などの宿泊も考慮して、宿舎が余分に作られていたのである。
故に、数十人規模であれば避難民を収容しても問題ないだろうと判断された。
現在、拠点から少し離れた森と川のそばにプレハブの難民キャンプを設営中である。ずっとこのまま宿舎に置いておくわけにもいかないからだ。
最終的には彼らが自活できるようにしなければならない。そういう意味では、今の状態はいいとは言えないのだが。
「ぐがぁぁぁあ」
と、そのとき、大きな音が室内に響き渡った。ミラはビクリとして、音源を振り返る。しかしそれはミラの見知った音であった。
室内には同じようなベッドが六つ置かれている。その内の一つに祖父、モロの姿を見つけたミラは少しばかり安心したように顔を綻ばせた。
もっとも、この部屋にいるのはモロとミラだけだ。部屋割りは家族ごとに決められた。
ミラはベッドから足を下すと、そのままモロの下へと移動する。そしてモロの身体を両手で揺さぶった。
「おじじ」
「……んがぁっ」
年寄は朝が早いと言うが、モロに関して言えばそんなことはなく、むしろモロは朝に弱い。
「……なんじゃ、ミラ」
モロは眠そうな顔でミラを仰ぎ見た。ミラは覗き込むようにモロを見つめている。
「おはよう。おじじ」
ミラはそう言ってニコリと笑った。赤の混じったミラの髪が、陽光に照らされて輝く。
「……ん、あぁ。もう朝か。おはようミラ」
モロはミラに微笑みかけると、ゆっくりと身体を起こす。
と、そこに。部屋の扉をノックする音が響く。
―――コンコン。
「おはようございます。松野です」
声の主は相馬小隊の女性自衛官、松野美希三等陸曹。彼女はモロたち避難民と意思疎通が可能な隊員のうちの一人であったから、このように彼らとの調整役として駆り出されている。
現地調整隊の編成後はこのように戦闘以外の任務も増えることだろう。
「もう起きております……どうぞお入りください」
モロがそう言うと、松野は「失礼します」と一言断ってから入室した。
「本日の予定について確認に参りました」
松野は手元の資料に視線を落とし、そう告げた。
「この後、〇八〇〇……いえ、八時に朝食を。朝食は宿舎裏で自炊していただきます。あぁ、食材、機材等含めて、最初は我々が手伝いますので心配しないでください」
松野はそう言って拳を握った。
しかし、ミラは嫌そうに顔を顰《しか》める。
「私たちだけでいいじゃない……なにも……」
なにも人種の手なんて借りなくても。ミラはその言葉を飲み込んだ。すでに松野らに頼りきりであることに思い至り、自身の言葉の矛盾に気づいたからだ。
自炊するのは朝食と昼食だけで、夜は普通に食堂の食事を個室でいただく。毎食、食堂から調理済みの食事を届けることも可能だがそうしないのは自活の手助けにはならないからだ。
難民キャンプが完成すれば、彼らはそちらで自炊もしなければならないのだから。それに、部屋ごとに分けられている避難民たちが集まる機会にもなる。
ちなみに、昼食という概念はこの世界、少なくとも彼ら狼人種にはあるらしい。
松野はミラの嫌そうな顔をちらりと見て、私なにかまずいこと言ったかな。と、内心冷や汗をかいていた。しかしそんなことはみじんも顔に表さず、話を先に進める。
「後、新留……この部隊の司令官が避難民の代表との面会を求めています。なので、モロさんは一〇時に相馬と一緒に面会をお願いします」
松野の言葉にモロも頷く。
「その後、昼食を作るので一二時半にはまた裏に。あ、それと、布団などは畳んでベットの上に置いてください。シーツ類は後で回収しますので入口付近に纏めておいてください」
「わかりました。なにからなにまでお世話になります」
モロはそう言って頭を下げた。実際、モロは松野ら自衛隊の施しに感謝している。
と、同時に、彼らが何者なのか、いまいち掴めずにいた。いい人たちであることは確かだ。獣人種である自分たちにこれほど親身に接してくれるのだから。
しかしいい人であるだけではないと、モロは思っている。道中、モロは相馬から日本という国、日本人、そして自衛隊について簡単な説明を受けていた。
日本は人種だけで構成されたミンシュシュギの国であること、ジエイタイは日本国の軍隊に類する実力組織であるということ。
だが、単に、言葉で説明されただけでは、一度に理解することは不可能だ。モロはゆっくりと彼らについて知ろうと思った。
「では、これで失礼します。八時に、時間厳守でお願いしますね」
松野は時間を確認するとそう言い残して、その場を後にする。彼女はまだほかの部屋にいる狼人種たちのところを回らねばならない。
松野が去った室内で、ミラは不機嫌そうに扉を見つめていた。
「んん……っ」
東の空から昇った朝日が放つ眩い光が、ミラを眠りから目覚めさせた。
ミラはまだ眠い瞳をこすり、光が差し込む方に視線を向ける。そこには透明な板が二枚はめられた窓があり、眩い陽の光をそのまま室内に届けている。
ミラは上体を起こすと、自身を覆う布団に手を置いてその感触を確かめた。
「ふわふわ……」
これほどの上質な布をミラは生まれてこの方目にしたこともなければ、触ったこともない。そして自分の身体を預けているベッドもまた、同様に上質なものであることに思い至る。
普段見慣れた部屋でも、まして、逃避行中の野営テントでもない。ここは……。
「……あ」
そのとき、ようやくミラの寝ぼけていた脳が眠りから覚めた。ここは日本という人《ヒト》種の国の軍事施設。その兵舎の一室であることをミラはようやく思い出した。
ミラたち避難民はあの後、陸上自衛隊の回転翼輸送機CH‐47JA、通称、チヌークに乗り、東岸拠点に移動した。
CH-47JAはその回転翼を機体前部と後部に持つ独特な形状をしたヘリであり、最大で55名の乗員を乗せ飛行することができる。その輸送能力の高さから災害派遣に使われることが多いが、今回はミラたち避難民の救出に利用された。
彼らが東岸拠点の地を踏んだのは夜の八時過ぎ。すでに陽は西の空に沈んでいた。
その後、モロたちは東岸拠点内にある自衛隊宿舎の一つで、入浴、食事、診察、検査などを済ませた。負傷者や病人は医務棟で治療。食事は食堂から相馬らの手で運ばれた。そして就寝。
ミラにとって……いや、ミラだけでなく、避難民全員にとってそれは驚きの連続であった。
無限に溢れるお湯の雨、初めて入るお湯の池、温かく味のバリエーションに富んだ食事、そして暖かな布団。もっとも、ミラはその間、必死に顔を綻ばせないように必死だった。
ミラが今いる場所はその自衛隊宿舎で、ここが臨時の難民収容施設となっている。
なぜ、避難民を営内の宿舎に収容しているのだ。というのももっともな話であるが、利用者はミラを始めとする避難民だけだ。
東岸拠点には、今後の自衛隊増派や研究者などの宿泊も考慮して、宿舎が余分に作られていたのである。
故に、数十人規模であれば避難民を収容しても問題ないだろうと判断された。
現在、拠点から少し離れた森と川のそばにプレハブの難民キャンプを設営中である。ずっとこのまま宿舎に置いておくわけにもいかないからだ。
最終的には彼らが自活できるようにしなければならない。そういう意味では、今の状態はいいとは言えないのだが。
「ぐがぁぁぁあ」
と、そのとき、大きな音が室内に響き渡った。ミラはビクリとして、音源を振り返る。しかしそれはミラの見知った音であった。
室内には同じようなベッドが六つ置かれている。その内の一つに祖父、モロの姿を見つけたミラは少しばかり安心したように顔を綻ばせた。
もっとも、この部屋にいるのはモロとミラだけだ。部屋割りは家族ごとに決められた。
ミラはベッドから足を下すと、そのままモロの下へと移動する。そしてモロの身体を両手で揺さぶった。
「おじじ」
「……んがぁっ」
年寄は朝が早いと言うが、モロに関して言えばそんなことはなく、むしろモロは朝に弱い。
「……なんじゃ、ミラ」
モロは眠そうな顔でミラを仰ぎ見た。ミラは覗き込むようにモロを見つめている。
「おはよう。おじじ」
ミラはそう言ってニコリと笑った。赤の混じったミラの髪が、陽光に照らされて輝く。
「……ん、あぁ。もう朝か。おはようミラ」
モロはミラに微笑みかけると、ゆっくりと身体を起こす。
と、そこに。部屋の扉をノックする音が響く。
―――コンコン。
「おはようございます。松野です」
声の主は相馬小隊の女性自衛官、松野美希三等陸曹。彼女はモロたち避難民と意思疎通が可能な隊員のうちの一人であったから、このように彼らとの調整役として駆り出されている。
現地調整隊の編成後はこのように戦闘以外の任務も増えることだろう。
「もう起きております……どうぞお入りください」
モロがそう言うと、松野は「失礼します」と一言断ってから入室した。
「本日の予定について確認に参りました」
松野は手元の資料に視線を落とし、そう告げた。
「この後、〇八〇〇……いえ、八時に朝食を。朝食は宿舎裏で自炊していただきます。あぁ、食材、機材等含めて、最初は我々が手伝いますので心配しないでください」
松野はそう言って拳を握った。
しかし、ミラは嫌そうに顔を顰《しか》める。
「私たちだけでいいじゃない……なにも……」
なにも人種の手なんて借りなくても。ミラはその言葉を飲み込んだ。すでに松野らに頼りきりであることに思い至り、自身の言葉の矛盾に気づいたからだ。
自炊するのは朝食と昼食だけで、夜は普通に食堂の食事を個室でいただく。毎食、食堂から調理済みの食事を届けることも可能だがそうしないのは自活の手助けにはならないからだ。
難民キャンプが完成すれば、彼らはそちらで自炊もしなければならないのだから。それに、部屋ごとに分けられている避難民たちが集まる機会にもなる。
ちなみに、昼食という概念はこの世界、少なくとも彼ら狼人種にはあるらしい。
松野はミラの嫌そうな顔をちらりと見て、私なにかまずいこと言ったかな。と、内心冷や汗をかいていた。しかしそんなことはみじんも顔に表さず、話を先に進める。
「後、新留……この部隊の司令官が避難民の代表との面会を求めています。なので、モロさんは一〇時に相馬と一緒に面会をお願いします」
松野の言葉にモロも頷く。
「その後、昼食を作るので一二時半にはまた裏に。あ、それと、布団などは畳んでベットの上に置いてください。シーツ類は後で回収しますので入口付近に纏めておいてください」
「わかりました。なにからなにまでお世話になります」
モロはそう言って頭を下げた。実際、モロは松野ら自衛隊の施しに感謝している。
と、同時に、彼らが何者なのか、いまいち掴めずにいた。いい人たちであることは確かだ。獣人種である自分たちにこれほど親身に接してくれるのだから。
しかしいい人であるだけではないと、モロは思っている。道中、モロは相馬から日本という国、日本人、そして自衛隊について簡単な説明を受けていた。
日本は人種だけで構成されたミンシュシュギの国であること、ジエイタイは日本国の軍隊に類する実力組織であるということ。
だが、単に、言葉で説明されただけでは、一度に理解することは不可能だ。モロはゆっくりと彼らについて知ろうと思った。
「では、これで失礼します。八時に、時間厳守でお願いしますね」
松野は時間を確認するとそう言い残して、その場を後にする。彼女はまだほかの部屋にいる狼人種たちのところを回らねばならない。
松野が去った室内で、ミラは不機嫌そうに扉を見つめていた。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
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イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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【作者より、感謝を込めて】
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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