幸せですか?

月羽ミホ

文字の大きさ
4 / 7

第2話 傷

しおりを挟む

父となった男の人と出会ってから3年が経ち、僕が8歳の時。
僕は父【セムズ】さんに呼ばれ、普段は立ち寄る事の無い場所に手を引かれて向かった

「ここから先で起きた事に絶対に逆らってはなりません。」

僕がいた場所とは明らかに違い、白くてピカピカした場所を目前に、セムズさんにそう忠告された

いいですね?と、念をおされて3年の内にセムズさんに教わった事を思い出し、緊張に震えそうな声で返事をした

「っ承知しました」

僕の様子にセムズさんは頷くと、重圧感のある他とは明らかに違う扉の前に向かい、扉の端にいた人達に何かを告げて扉が開かれた

「失礼いたします」

頭を上げて最初に目に入ったのは僕より少しだけ小さな女の子だった
肩より少し長めの真っ黒な髪に光がさして煌き、真っ白で柔らかそうな肌に、外側から内側にかけて薄い紫色の瞳はつり目で可愛いよりも綺麗な子だと思った

それが僕の叶わぬ恋の始まりだった——

「早く早くっ
遅いわよリデル!」
「っお、お嬢様!
そんなに走られては危ないです!」

僕があの日、セムズさんに連れられた先で僕はセムズさんのお仕えする旦那様の娘であるお嬢様にお仕えする事となった

【ゼフィリア・ライネラール】様こと、お嬢様にお仕えして早一年。
最初は僕がお嬢様にお仕えするとあって、遠巻きに見られるだけだったけど今では子供らしい笑顔で走り回っている

特別何かある訳ではないけど、執事として慣れてきた僕は偶に花開くように笑うお嬢様の笑顔が好きで、少しの無茶ぐらい聞いた

「きゃっ!?」
「お嬢様!?」

楽しそうに笑って走っていたお嬢様を追いかけていた僕は、石につまずいたらしいお嬢様の下敷きとなった

だが庇い切れなかった手が擦りむいてしまった事を僕は3日後に聞いた
下敷きになった僕は打ち所が悪かったようで、頭を打ち付けて3日も目覚める事がなかったらしい

やっと仕事に復帰出来たのは目覚めた翌日だった
僕はお嬢様に怪我をさせてしまった事を知り、慌ててお嬢様に会いに行った

旦那様には目覚めた日に会い、1ヶ月給料半減の罰を受けたけど、何とか捨てられる事はなかった

だからお嬢様に捨てられるなんて、考えもしなかった

「お、お嬢様
リデルです
入っても——」

突然扉が開き、乾いた音が左から聞こえた
突然過ぎて何が何だか分からず、いつの間にか目の前に居たお嬢様に視線を向け、何も見ていないような冷めた目とぶつかった

「貴方、いらないわ」
「……えっ…?」
「私に怪我をさせたのよ?
見習いの癖に私に怪我をさせるなんて、身の程を弁えなさい」

何を、言っているのか、僕には理解出来なかった
いらないって、僕の事?
そればかりが僕の頭に浮かんで、いい天気だと、お嬢様に会えると浮かれて朝から訪ねて来たはずなのに、目の前は光すらない暗闇のように見えて、漸く僕はお嬢様に捨てられるのだと理解した

「ぃ…ゃ……おじょ…!」

どうにか捨てないでと口を動かす前に扉が音を立てて閉まった
普段は重圧感も感じない扉が、重圧感のある巨大な扉に見えて絶望した

だって、僕にはお嬢様しかいない
セムズさんは僕の父となってくれたけど、父として接する事はなかった
お嬢様だけが僕を必要として、僕が僕である事を認めてくれた
ここが僕の居場所なのだと、言ってもらえた

僕はまた失う?
気づいた時には僕は一人だった
僕と同じような子と一緒に過ごした事もあったけど、いつも僕だけを置いて逝ってしまう
だから期待なんてしないようにしていた

それでも僕をあそこから救い出して下さったお嬢様にだけは捨てられたくない

あの笑顔を見られるなら、僕がお嬢様の為に何かできるのなら、僕はお嬢様の手となり、足となる
この命すら惜しくはない
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

永久就職しませんか?

氷室龍
恋愛
出会いは五年前。 オープンキャンパスに参加していた女子高生に心奪われた伊達輝臣。 二度と会う事はないだろうと思っていたその少女と半年後に偶然の再会を果たす。 更に二か月後、三度目の再会を果たし、その少女に運命を感じてしまった。 伊達は身近な存在となったその少女・結城薫に手を出すこともできず、悶々とする日々を過ごす。 月日は流れ、四年生となった彼女は就職が決まらず焦っていた。 伊達はその焦りに漬け込み提案した。 「俺のところに永久就職しないか?」 伊達のその言葉に薫の心は揺れ動く。 何故なら、薫も初めて会った時から伊達に好意を寄せていたから…。 二人の思い辿り着く先にあるのは永遠の楽園か? それとも煉獄の炎か? 一回りも年下の教え子に心奪われた准教授とその彼に心も体も奪われ快楽を植え付けられていく女子大生のお話

最強魔術師の歪んだ初恋

黒瀬るい
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。 けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】亡くなった妻の微笑み

彩華(あやはな)
恋愛
僕は妻の妹と関係を持っている。 旅行から帰ってくると妻はいなかった。次の朝、妻カメリアは川の中で浮いているのが発見された。 それから屋敷では妻の姿を見るようになる。僕は妻の影を追うようになっていく。  ホラー的にも感じると思いますが、一応、恋愛です。     腹黒気分時にしたためたため真っ黒の作品です。お気をつけてください。 6話完結です。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

初夜った後で「申し訳ないが愛せない」だなんてそんな話があるかいな。

ぱっつんぱつお
恋愛
辺境の漁師町で育った伯爵令嬢。 大海原と同じく性格荒めのエマは誰もが羨む(らしい)次期侯爵であるジョセフと結婚した。 だが彼には婚約する前から恋人が居て……?

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

処理中です...