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第5章
タイト危機一髪(2)
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「あ~あ、とんだ食事だったなぁ。……ただいま」
ツグミはモーテルの駐車場で律儀に『座って』いるオトマタさんに声をかけた。
タイトとの口論に加えて余計なドンパチのせいで不愉快極まりない気分ではあったが、いずれにしてもいつまでも引きずっていては仕事に差し支える、と、生真面目にそう思っていた。
ただ今の一幕でひとりも殺さなかったことで、少しだけタイトに一矢報いたような気分だった。
(だからと云ってあいつが褒めてくれるはずもないし、所詮は手を血に染める仕事なんだから仕方ないよね)
無用な銃撃戦に巻き込まれたのは不本意だったが、久々に銃を使ってひと暴れしたことがストレス解消になっていることも残念ながら事実ではあった。
『あ、姐さん、何やっとったんや?』と、オトマタさん。
「だから食事して来るって云ったでしょ」
『それにしては何やら派手な音が聞こえたような気がすんねんけどな』
「あれ? そーお?」
惚ける。
『何や、それ? トラブルメーカーやな、姐さん。……あ、そやった。それどころやあらへん』
どこか緊張感を孕んだ合成声音であった。
「え? どうかした?」
『あんさんの様子がおかしい。あんさんの位置情報が、どんどんこっから遠ざかってるんや』
「どこかに遊びに行ったの? あいつらしくないね」
ツグミは首を傾げて、可愛らしく顎に人差し指を当てる。
『おおお、姐さん、萌えるポーズやな、それ。さすがに美少女キャラ……、って、そうやない。そんなにのんびりしとる場合やない。移動速度がおかしいんや。ビークル並みのスピードで移動しとる』
「どう云うこと?」
『わからんやっちゃな。もしも突然、あんさんがオリンピックの陸上選手になったんやないとすれば……』
「また、訳のわからん台詞を云うし、このAI」
『拉致されてビークルで移動中、ってところやろか?』
「ら、拉致?」
ツグミが思わず叫ぶ。
タイトが拉致される。
それは考えられないことではない。
かれの頭脳が連邦で重要視されているのと同様に、反連邦、その他の様々な組織や企業からも、当然かれは注目されているのだ。
時にはそう云う強硬な手段に出る連中がいてもおかしくはない。
(って云うか、今まではあたしがそばにいたから、手を出さなかった?)
(思った以上にタイトはマークされていたの?)
(いや、それよりも何でこのタイミング? 今のバンディトたちの襲撃ってもしかして陽動? 奴らがあたしの居場所を知っていたのもおかしいと云えばおかしいし……)
今さらながらに今回の仕事を甘く見て単独行動した自分を後悔した。
これではエージェント失格である。
「オトマタさん。拉致ってマジに?」と、ツグミ。
『状況を分析した結果、拉致の確率は九八%。ちなみに残りの二%の内容についても、一応、聞かせよか? なかなかシュールな可能性やで。陸上選手説も含めて』
「いらないよ! そんなことよりすぐに追うわよ」
『さよか。気張ってや』
「うん。……って、何よ、それ? あんたに乗って追うんでしょ?」
『そいつはアカン。ここで待機せよ、っちゅうのがあんさんからの指示やからな』
「だって非常事態じゃない?」
『命令は絶対や。それが機動メカが〈機械人形〉たる所以やからな』
「そんだけ無駄口叩けるくせに何でそう云うとこだけ律儀なのよ?」
『言語と動作はAIの回路が違っとるさかいに仕方あらへん。……口は達者やが、行動はきっちり管理されとるっちゅう、まあ、どこぞのお笑い芸人みたいなもんや』
意味がわからない。
が、ともかくオトマタさんは動くことが出来ないらしい。
「役立たず!」
『ひどい云われようやな。傷つくで。けど、安心しいや。あんさんの位置情報はきっちり追跡しとるさかい、逐一姐さんに報告するで』
「え? どうやって?」
『フォン端末くらい持っとるやろ? そいつに』
「わかった」
『じゃ、アドレスを』
ツグミはオトマタさんの差し出したマニピュレータの接続ケーブルに自分のフォン端末を接続する。
『ほい、わかったで。アドレス帳に登録、っと。……なあ、なあ、姐さん、これって、メアド交換、ちゅう奴かいな? わて、若い娘さんのアドレスをゲットしたのん、初めてや。おっちゃん、照れるなあ。うはは』
「バカ云ってると、スクラップにするわよ!」
『おおお、堪忍や。ともかくすぐに追いなはれ。時間との勝負やで』
「そう思ってるんなら余計なボケをかますな! あたしだって云われなくてもわかってるよ、プロなんだから!」
ツグミは云いながらもすでに駆け出していた。
相手がビークルとなれば、このまま町から出て行くつもりだろう。
そうなってはさすがに駆け足では追いつけまい。
オトマタさんが頼りにならないとなれば、何か追跡のための乗り物が必要である。
『ワンブロック先に宅配ピザ屋があるで。そこでバイクを借りたらどないや?』
通信をOPENにしたままのフォン端末からオトマタさんのアドバイスが聞こえた。
「OK、わかった。けど、貸してくれるかな?」
『アホやな。そう云う時こそ伝家の宝刀やろが。連邦エージェントや、云うて、IDカード見せたらええんやろ?』
「そっか。そうだね。その手が……」
と、答えてツグミが凍りついて立ち止まる。
「な、何で……それを?」
『何を今さらそないなこと云うてんねん。そんなん、さっきのメアド交換の時にきっちりフォン端末の隅々まで走査したからに決まっとるやないか』
(しまった。迂闊だった!)
ツグミの顔が蒼褪めた。
迂闊過ぎる。エージェントとして――。
その様子に。
『ああ、ああ、わかっとるて。あんさんに内緒にしとったら、ええんやろ? まあ、年頃の娘さんにはいろいろと秘密もあるねんからな』
オトマタさんのフォローの声。
「う……ちょっと意味は違うけど……、よ、よろしく、オトマタさん」
『もちろんや。パンツを見せてもろた仲やからな』
「それはあんたが、か、勝手に覗いただけでしょうが!」
『そないなことより、はよしいや。どんどん離れて行きよるで。このペースで半時間も走ったら、さすがにわてでも、よう追跡しきれん』
「りょ、了解!」
どちらが人間で、どちらが機械なのか、よくわからなくなっているツグミであった。
ツグミはモーテルの駐車場で律儀に『座って』いるオトマタさんに声をかけた。
タイトとの口論に加えて余計なドンパチのせいで不愉快極まりない気分ではあったが、いずれにしてもいつまでも引きずっていては仕事に差し支える、と、生真面目にそう思っていた。
ただ今の一幕でひとりも殺さなかったことで、少しだけタイトに一矢報いたような気分だった。
(だからと云ってあいつが褒めてくれるはずもないし、所詮は手を血に染める仕事なんだから仕方ないよね)
無用な銃撃戦に巻き込まれたのは不本意だったが、久々に銃を使ってひと暴れしたことがストレス解消になっていることも残念ながら事実ではあった。
『あ、姐さん、何やっとったんや?』と、オトマタさん。
「だから食事して来るって云ったでしょ」
『それにしては何やら派手な音が聞こえたような気がすんねんけどな』
「あれ? そーお?」
惚ける。
『何や、それ? トラブルメーカーやな、姐さん。……あ、そやった。それどころやあらへん』
どこか緊張感を孕んだ合成声音であった。
「え? どうかした?」
『あんさんの様子がおかしい。あんさんの位置情報が、どんどんこっから遠ざかってるんや』
「どこかに遊びに行ったの? あいつらしくないね」
ツグミは首を傾げて、可愛らしく顎に人差し指を当てる。
『おおお、姐さん、萌えるポーズやな、それ。さすがに美少女キャラ……、って、そうやない。そんなにのんびりしとる場合やない。移動速度がおかしいんや。ビークル並みのスピードで移動しとる』
「どう云うこと?」
『わからんやっちゃな。もしも突然、あんさんがオリンピックの陸上選手になったんやないとすれば……』
「また、訳のわからん台詞を云うし、このAI」
『拉致されてビークルで移動中、ってところやろか?』
「ら、拉致?」
ツグミが思わず叫ぶ。
タイトが拉致される。
それは考えられないことではない。
かれの頭脳が連邦で重要視されているのと同様に、反連邦、その他の様々な組織や企業からも、当然かれは注目されているのだ。
時にはそう云う強硬な手段に出る連中がいてもおかしくはない。
(って云うか、今まではあたしがそばにいたから、手を出さなかった?)
(思った以上にタイトはマークされていたの?)
(いや、それよりも何でこのタイミング? 今のバンディトたちの襲撃ってもしかして陽動? 奴らがあたしの居場所を知っていたのもおかしいと云えばおかしいし……)
今さらながらに今回の仕事を甘く見て単独行動した自分を後悔した。
これではエージェント失格である。
「オトマタさん。拉致ってマジに?」と、ツグミ。
『状況を分析した結果、拉致の確率は九八%。ちなみに残りの二%の内容についても、一応、聞かせよか? なかなかシュールな可能性やで。陸上選手説も含めて』
「いらないよ! そんなことよりすぐに追うわよ」
『さよか。気張ってや』
「うん。……って、何よ、それ? あんたに乗って追うんでしょ?」
『そいつはアカン。ここで待機せよ、っちゅうのがあんさんからの指示やからな』
「だって非常事態じゃない?」
『命令は絶対や。それが機動メカが〈機械人形〉たる所以やからな』
「そんだけ無駄口叩けるくせに何でそう云うとこだけ律儀なのよ?」
『言語と動作はAIの回路が違っとるさかいに仕方あらへん。……口は達者やが、行動はきっちり管理されとるっちゅう、まあ、どこぞのお笑い芸人みたいなもんや』
意味がわからない。
が、ともかくオトマタさんは動くことが出来ないらしい。
「役立たず!」
『ひどい云われようやな。傷つくで。けど、安心しいや。あんさんの位置情報はきっちり追跡しとるさかい、逐一姐さんに報告するで』
「え? どうやって?」
『フォン端末くらい持っとるやろ? そいつに』
「わかった」
『じゃ、アドレスを』
ツグミはオトマタさんの差し出したマニピュレータの接続ケーブルに自分のフォン端末を接続する。
『ほい、わかったで。アドレス帳に登録、っと。……なあ、なあ、姐さん、これって、メアド交換、ちゅう奴かいな? わて、若い娘さんのアドレスをゲットしたのん、初めてや。おっちゃん、照れるなあ。うはは』
「バカ云ってると、スクラップにするわよ!」
『おおお、堪忍や。ともかくすぐに追いなはれ。時間との勝負やで』
「そう思ってるんなら余計なボケをかますな! あたしだって云われなくてもわかってるよ、プロなんだから!」
ツグミは云いながらもすでに駆け出していた。
相手がビークルとなれば、このまま町から出て行くつもりだろう。
そうなってはさすがに駆け足では追いつけまい。
オトマタさんが頼りにならないとなれば、何か追跡のための乗り物が必要である。
『ワンブロック先に宅配ピザ屋があるで。そこでバイクを借りたらどないや?』
通信をOPENにしたままのフォン端末からオトマタさんのアドバイスが聞こえた。
「OK、わかった。けど、貸してくれるかな?」
『アホやな。そう云う時こそ伝家の宝刀やろが。連邦エージェントや、云うて、IDカード見せたらええんやろ?』
「そっか。そうだね。その手が……」
と、答えてツグミが凍りついて立ち止まる。
「な、何で……それを?」
『何を今さらそないなこと云うてんねん。そんなん、さっきのメアド交換の時にきっちりフォン端末の隅々まで走査したからに決まっとるやないか』
(しまった。迂闊だった!)
ツグミの顔が蒼褪めた。
迂闊過ぎる。エージェントとして――。
その様子に。
『ああ、ああ、わかっとるて。あんさんに内緒にしとったら、ええんやろ? まあ、年頃の娘さんにはいろいろと秘密もあるねんからな』
オトマタさんのフォローの声。
「う……ちょっと意味は違うけど……、よ、よろしく、オトマタさん」
『もちろんや。パンツを見せてもろた仲やからな』
「それはあんたが、か、勝手に覗いただけでしょうが!」
『そないなことより、はよしいや。どんどん離れて行きよるで。このペースで半時間も走ったら、さすがにわてでも、よう追跡しきれん』
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