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第3章 事件の匂いがプンプンしてきた
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階段を下りて三人がホールに入って行くと、マスター・ジョーがにこやかに声をかけた。
「おはよう、サンタ。ご機嫌は……」
そこまで云って、サンタが目の下に青あざを作って憮然としていることに気づいた。
「……あまり、よろしくなさそうだな」
「ああ、おかげさんで」
ぶっきら棒に答える。
「朝食を頼む」
「ああ、わかった。テーブルでいいか?」
「サンタと一緒はイヤです!」
セロリがきつい声で一言。
彼女は、今朝は修道衣ではなくカジュアルな服を身に着けていた。
夕べ店を訪れた時には荷物を持っていなかったので、どうやら羽衣の服を借りているのだろう。
「それじゃサンタの分はカウンターに用意するよ。ふたりは昨日の席で。メニューはベーコンエッグとトーストとサラダしかないけどもな」
「はい、ありがとうございます。十分です。ベーコンの焼き方はウェルダンで。飲み物はホットミルクでお願いします」
すらすらと注文する。
「ウェルダン……。ベーコンの焼き方を指定されたのは初めてだな。了解だ。羽衣も同じでいいな。飲み物はコーヒー?」
「ええ。お願い」
ジョーはふたりをエスコートすると、何と椅子まで引いて歓待する。
「マスターは紳士なんですね」
セロリはきっちりと礼をしながら椅子に腰掛けるとにっこりと微笑んだ。
「見損なっては困るな、シスター。淑女にそれなりの礼を尽くすのは当然だろう?」
「そうですね。誰かさんとは大違いです」
サンタをちらりと横目で睨む。その様子にジョーがかすかに口許を歪めた。
(どうやらシスターとサンタに何かあったな。まあ、あいつのことだから着替えを覗いたとか、そんなところだろうが)
ジョーは考えながらとりあえずセロリのご機嫌とりをすることにした。
(これもサービスだ。感謝しろよ、サンタ)
「その服は羽衣から借りたのかい、シスター?」
「セロリ、と云います」
「そうか。レディ・セロリ。なかなか似合うじゃないか」
「お上手ですね、マスター」
と、云いつつ満更でもなさそうである。
セロリは、ネコ耳を隠すためにニット帽を被り、紫色の薄手のセーターを着ていた。
ミニスカート丈である。
それに茶色のキュロットスカートを合わせている。キュロットは膝下までの長さだったが、持ち主の羽衣が履けば膝上だろう。そのあたりは必ずしも身体にフィットしているとは云い難かった。
編み上げブーツのドロ汚れはきっちりと落としてある。
「さすがにブカブカなんですけど、ウエストとヒップがそれなりに、ほぼぴったりなのがいささかショックです。おまけにキュロットが膝下まで来てしまうのは屈辱的でさえあります」
「いや、それがなかなか素敵に決まっていると思うんだがね。だよな、羽衣?」
「うん。とっても可愛いわよ。それにサイズについてはあまり気にしなくていいよ。あたしは《バイオ・ドール》だからご主人様の趣味に合わせて多少体のサイズ変更をすることが出来るの。サンタの好みがわからないからいろいろと試してるんだけど」
(また、余計なことを云ってやがる)
サンタがカウンターで呟いた。
だが少なくとも、セロリの機嫌は少しはよくなったようである。
ジョーがサンタに目配せして見せる。サンタもそれに苦笑で答えた。
「では食事を作って来るから、少しだけ待っていてくれるかな?」
「ええ。ありがとう、マスター」
セロリはすっかり淑女気取りである。
ジョーがうやうやしく礼をすると、サンタの方にやって来た。
「何をやらかしたんだ?」
声のトーンを落として、面白そうに訊ねる。
「羽衣のバカが、ちょっとな。そのとばっちりだよ。それより部屋のスタンドを壊しちまったんだ。弁償するから勘定に載っけといてくれ」
「ああ、さっき騒いでいたようだったが、それか? わかった。がっつりいただくよ」
「まったく、余計な出費だ」
肩越しに羽衣を睨みつける。
それに気づいた羽衣が拳で自分の頭を軽く叩いて「てへ♪」と呟いた。
「『てへ♪』じゃね~よ」
「まあ、いいじゃないか。まったくおまえさんがうらやましいぜ。おれなんか、日がな一日店番した挙句、客はむさ苦しいおっさんばかりだぜ」
「そんなにうらやましがられるほど平和な日常じゃないよ」
サンタが首を振って見せる。
「ちっ、贅沢な奴だな。端から見れば恵まれ過ぎてるってのに。……と、そうだ。思い出した。今朝方、ちょっとあってな。おまえさんに云っておかないと」
サンタは、今朝、階下が騒がしかったことを思い出した。
夢うつつではあったが何となく不穏な気配だったような気がする。
「ふむ、おれに関係あることか? 何となくあんまり楽しい話じゃなさそうだけども」
「まあな。楽しい話ではないかも知れない。まずは食事をサービスしてからだ。亜人のお嬢さんのご機嫌がまた悪くなる前に、な」
「え? 亜人だって気づいてたのか?」
「可愛い尻尾が出てるじゃねーか。実は夕べもそうじゃないかとは思ってたんだよ。あの顔つきだからな。おれも亜人は初めて見る訳じゃない」
「そうか。尻尾は隠せなかったんでキュロットの尻に穴を空けて出させたんだが、ファッションの付け尻尾だってことでごまかせられないかな?」
「まあ、大丈夫だろう。亜人はそんなに一般的じゃないし。ただ亜人趣味の変態連中も多いから気をつけろよ」
「だな。聞いたところによると正確には亜人ハーフらしいが。両親が『美女と野獣』らしい。あいつは確実に野獣の血を引いてそうだが」
「いやいや、なかなかどうして、美女の血も引いていそうだぞ。将来が楽しみだ」
にやり、と意味深に笑って見せる。
「おっと、あんまり油を売っている訳にはいかね~な。お嬢さんたちに食事を出したら、今朝方の話を聞かせてやるよ」
そう云ってジョーは厨房に引っ込んで行った。
サンタはふっとため息をつき、セロリをちらりと見る。
(亜人ハーフ、か。確かに美少女ではあるかな。本人にそんな意識はまったくなさそうだが……)
「おはよう、サンタ。ご機嫌は……」
そこまで云って、サンタが目の下に青あざを作って憮然としていることに気づいた。
「……あまり、よろしくなさそうだな」
「ああ、おかげさんで」
ぶっきら棒に答える。
「朝食を頼む」
「ああ、わかった。テーブルでいいか?」
「サンタと一緒はイヤです!」
セロリがきつい声で一言。
彼女は、今朝は修道衣ではなくカジュアルな服を身に着けていた。
夕べ店を訪れた時には荷物を持っていなかったので、どうやら羽衣の服を借りているのだろう。
「それじゃサンタの分はカウンターに用意するよ。ふたりは昨日の席で。メニューはベーコンエッグとトーストとサラダしかないけどもな」
「はい、ありがとうございます。十分です。ベーコンの焼き方はウェルダンで。飲み物はホットミルクでお願いします」
すらすらと注文する。
「ウェルダン……。ベーコンの焼き方を指定されたのは初めてだな。了解だ。羽衣も同じでいいな。飲み物はコーヒー?」
「ええ。お願い」
ジョーはふたりをエスコートすると、何と椅子まで引いて歓待する。
「マスターは紳士なんですね」
セロリはきっちりと礼をしながら椅子に腰掛けるとにっこりと微笑んだ。
「見損なっては困るな、シスター。淑女にそれなりの礼を尽くすのは当然だろう?」
「そうですね。誰かさんとは大違いです」
サンタをちらりと横目で睨む。その様子にジョーがかすかに口許を歪めた。
(どうやらシスターとサンタに何かあったな。まあ、あいつのことだから着替えを覗いたとか、そんなところだろうが)
ジョーは考えながらとりあえずセロリのご機嫌とりをすることにした。
(これもサービスだ。感謝しろよ、サンタ)
「その服は羽衣から借りたのかい、シスター?」
「セロリ、と云います」
「そうか。レディ・セロリ。なかなか似合うじゃないか」
「お上手ですね、マスター」
と、云いつつ満更でもなさそうである。
セロリは、ネコ耳を隠すためにニット帽を被り、紫色の薄手のセーターを着ていた。
ミニスカート丈である。
それに茶色のキュロットスカートを合わせている。キュロットは膝下までの長さだったが、持ち主の羽衣が履けば膝上だろう。そのあたりは必ずしも身体にフィットしているとは云い難かった。
編み上げブーツのドロ汚れはきっちりと落としてある。
「さすがにブカブカなんですけど、ウエストとヒップがそれなりに、ほぼぴったりなのがいささかショックです。おまけにキュロットが膝下まで来てしまうのは屈辱的でさえあります」
「いや、それがなかなか素敵に決まっていると思うんだがね。だよな、羽衣?」
「うん。とっても可愛いわよ。それにサイズについてはあまり気にしなくていいよ。あたしは《バイオ・ドール》だからご主人様の趣味に合わせて多少体のサイズ変更をすることが出来るの。サンタの好みがわからないからいろいろと試してるんだけど」
(また、余計なことを云ってやがる)
サンタがカウンターで呟いた。
だが少なくとも、セロリの機嫌は少しはよくなったようである。
ジョーがサンタに目配せして見せる。サンタもそれに苦笑で答えた。
「では食事を作って来るから、少しだけ待っていてくれるかな?」
「ええ。ありがとう、マスター」
セロリはすっかり淑女気取りである。
ジョーがうやうやしく礼をすると、サンタの方にやって来た。
「何をやらかしたんだ?」
声のトーンを落として、面白そうに訊ねる。
「羽衣のバカが、ちょっとな。そのとばっちりだよ。それより部屋のスタンドを壊しちまったんだ。弁償するから勘定に載っけといてくれ」
「ああ、さっき騒いでいたようだったが、それか? わかった。がっつりいただくよ」
「まったく、余計な出費だ」
肩越しに羽衣を睨みつける。
それに気づいた羽衣が拳で自分の頭を軽く叩いて「てへ♪」と呟いた。
「『てへ♪』じゃね~よ」
「まあ、いいじゃないか。まったくおまえさんがうらやましいぜ。おれなんか、日がな一日店番した挙句、客はむさ苦しいおっさんばかりだぜ」
「そんなにうらやましがられるほど平和な日常じゃないよ」
サンタが首を振って見せる。
「ちっ、贅沢な奴だな。端から見れば恵まれ過ぎてるってのに。……と、そうだ。思い出した。今朝方、ちょっとあってな。おまえさんに云っておかないと」
サンタは、今朝、階下が騒がしかったことを思い出した。
夢うつつではあったが何となく不穏な気配だったような気がする。
「ふむ、おれに関係あることか? 何となくあんまり楽しい話じゃなさそうだけども」
「まあな。楽しい話ではないかも知れない。まずは食事をサービスしてからだ。亜人のお嬢さんのご機嫌がまた悪くなる前に、な」
「え? 亜人だって気づいてたのか?」
「可愛い尻尾が出てるじゃねーか。実は夕べもそうじゃないかとは思ってたんだよ。あの顔つきだからな。おれも亜人は初めて見る訳じゃない」
「そうか。尻尾は隠せなかったんでキュロットの尻に穴を空けて出させたんだが、ファッションの付け尻尾だってことでごまかせられないかな?」
「まあ、大丈夫だろう。亜人はそんなに一般的じゃないし。ただ亜人趣味の変態連中も多いから気をつけろよ」
「だな。聞いたところによると正確には亜人ハーフらしいが。両親が『美女と野獣』らしい。あいつは確実に野獣の血を引いてそうだが」
「いやいや、なかなかどうして、美女の血も引いていそうだぞ。将来が楽しみだ」
にやり、と意味深に笑って見せる。
「おっと、あんまり油を売っている訳にはいかね~な。お嬢さんたちに食事を出したら、今朝方の話を聞かせてやるよ」
そう云ってジョーは厨房に引っ込んで行った。
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