16 / 72
第4章 シスターの正体
(3)
しおりを挟む
フリーウエイに入りビークルは速度を制限速度まで落とした。
追っ手の気配はないし、ここでスピード違反などで捕まっては元も子もない。
サンタはオート・ドライブに切り替えると、後部座席のセロリを振り返った。
「怪我はないか? ちょっと荒っぽかったか?」
「い、いえ……。大丈夫です。まるで絶叫マシンに乗っているようではありましたが」
「その割には絶叫してなかったな」
「はい。私は自制心の塊ですから……」
(実は声を出すことさえ、できなかったんですけどもね)
もしかしたら今のカーチェイスの間中、呼吸をしていなかったのではないか、と、セロリは改めて思った。
「さて、それはそれとして……、こうなった以上、バス・ステーションに戻る訳にもいかないだろうし、追加オーダーもいただいたことだし」
「あ、あれは、言葉のアヤです」
「いいよ。サービスしとくさ。港まで送ってやる」
「え? 本当ですか?」
「ああ。それこそ乗りかかった船って奴だ。あんな連中に追っかけられている娘をそこらで放り出す訳にはいかないからな。いずれにしてもそろそろゴルゴダは抜けるから地区警察はもう追っては来れない。あとはのんびりだと思うぜ。ただ……」
「何か?」
「いや、ちょっとな」
(それにしても何故バス・ステーションにおれたち、いや、セロリがいたのがわかったんだろう? 目立たないようにわざわざ修道衣でなく、羽衣の服に着替えさせていたのに……確かに『子供』ってだけで、このあたりでは目立つだろうが……)
先ほどの電話ボックスに細工がないのだとすれば、それを知っているのはジョーだけである。
だが、ジョーが密告をするような人間でないことは今までのつきあいでよくわかっていたし、またもしも信用できない類の男だったら、ヤバイ連中たちを相手にヤバイ町で永年商売を続けてなど来れなかっただろう。
「信用第一」が無法者との商売のキーワードなのだ。
(だとしたら……やっぱり盗聴? いや、しかし……羽衣がドジを踏むとは考えられないし)
釈然としない思いでサンタは運転席のシートをリクライニングさせる。
いずれにしても後は中央街区までオート・ドライブが運んでくれるのだからさほど気にするほどのことではないのかも知れないが……。
そんなことを考えていたとき出し抜けにフォン端末から着信音が響いた。
電話の主はそのジョーであった。
「どうした、ジョー? あんたが電話なんて珍しいじゃないか?」
『ああ、あの娘はもうバスの中か?』
「いや。今はフリーウエイだ。結局バスは止めて港まで送ることにした。どうして?」
『そうか。それは賢明な選択かも知れんな。実はな、思い出したんだ』
「何を?」
それからジョーがいくつかの情報を語り始めた。
サンタはそれに相槌を打ちながら、ときおりセロリを見て頷く。
どうやらその情報は、セロリに関わることらしい。
「……ああ。……ああ、なるほど……ふむ。そうか。わかった。そう云うことか……。じゃあな」
通話を終えるとかれは少しだけ真顔になり、それから後部座席のセロリを、もう一度、ちらりと見た。
セロリが怪訝そうな顔をする。
「何ですか? さっきから人の顔を、ちらちら、と……不愉快ですね」
「いや、別に……」
羽衣も不審そうな表情でサンタを下から覗き込むように見つめる。
「何だったの? 今の電話……何か悪い話?」
「そうじゃない。いや、もしかしたら悪い方へ転がるのかも知れないが」
「どう云うこと?」
サンタはリクライニングしたシートで腕を組んで、何かを考えているようである。
「あの、どうかしたんですか?」
そのサンタの態度に、今度は不安そうにセロリが訊ねる。
それにサンタが曖昧に頷いた。
それから。
「おまえ、星船で国へ帰る、と云ったよな? 国ってどこなんだ?」
唐突なサンタの質問だった。
「え? な、何故ですか?」
明らかに動揺しながら、セロリが逆に質問する。
しかしそれには答えず、サンタはポケットをまさぐり、セロリから『運び』の代金として受け取ったコインを取り出した。
「こいつは特殊なコインなんだってな」
「は? どう云うことでしょうか?」
「……リスタル金貨、だな?」
セロリが、わずかながらのためらいの後、ゆっくりと頷いた。
「ええ……、そうです」
「え? リスタルって、あの特別自治惑星のリスタル? ってか、リスタル金貨って、ものすごい価値があるんじゃなかったっけ? 確かリスタル大公家か、それにゆかりのある貴族しか持っていないのよね?」と、羽衣。
「そう云うことだ。ジョーがこのコインが何だったかを思い出したんで、連絡をくれたんだ。どうやらセロリが亜人ハーフだってことで思い出したらしい。何せリスタルと云えば、亜人の人権を連邦で初めて認めたことでも有名な公国惑星だからな」
「その通りです。よくご存知ですね」
セロリは少女らしからぬ寂しげな微笑を見せた。
その表情にどんな意味があるのかはわからなかったが。
「それでどうするつもりですか? ここでやめますか?」
「やめる? どうして? おれたちはおれたちの仕事をするだけさ。依頼された荷物、まあ、今回は荷物イコール依頼人だが……、それを無事に目的地まで送り届けるだけだ」
「でも、私なんかに関わると厄介ではないですか?」
「厄介さ。何せワガママで小憎たらしいからな」
「いえ、そうではなく……」
一人前に気をつかっている少女の姿に、サンタは思わず苦笑する。
「おれにとってはおまえが何者でも関係ない。云ったろう? おまえはただの依頼人だ。だからおれたちはちゃんとおまえの依頼は完遂するさ。だろ、羽衣?」
「ええ、もちろん」
羽衣は二つ返事である。
そのふたりの言葉にセロリは顔を曇らせた。
心苦しい、とでも云うような、そんな表情を見せる。
だがやがて心を決めたように、セロリは琥珀色の瞳に意志を込めた視線をふたりに向けた。
追っ手の気配はないし、ここでスピード違反などで捕まっては元も子もない。
サンタはオート・ドライブに切り替えると、後部座席のセロリを振り返った。
「怪我はないか? ちょっと荒っぽかったか?」
「い、いえ……。大丈夫です。まるで絶叫マシンに乗っているようではありましたが」
「その割には絶叫してなかったな」
「はい。私は自制心の塊ですから……」
(実は声を出すことさえ、できなかったんですけどもね)
もしかしたら今のカーチェイスの間中、呼吸をしていなかったのではないか、と、セロリは改めて思った。
「さて、それはそれとして……、こうなった以上、バス・ステーションに戻る訳にもいかないだろうし、追加オーダーもいただいたことだし」
「あ、あれは、言葉のアヤです」
「いいよ。サービスしとくさ。港まで送ってやる」
「え? 本当ですか?」
「ああ。それこそ乗りかかった船って奴だ。あんな連中に追っかけられている娘をそこらで放り出す訳にはいかないからな。いずれにしてもそろそろゴルゴダは抜けるから地区警察はもう追っては来れない。あとはのんびりだと思うぜ。ただ……」
「何か?」
「いや、ちょっとな」
(それにしても何故バス・ステーションにおれたち、いや、セロリがいたのがわかったんだろう? 目立たないようにわざわざ修道衣でなく、羽衣の服に着替えさせていたのに……確かに『子供』ってだけで、このあたりでは目立つだろうが……)
先ほどの電話ボックスに細工がないのだとすれば、それを知っているのはジョーだけである。
だが、ジョーが密告をするような人間でないことは今までのつきあいでよくわかっていたし、またもしも信用できない類の男だったら、ヤバイ連中たちを相手にヤバイ町で永年商売を続けてなど来れなかっただろう。
「信用第一」が無法者との商売のキーワードなのだ。
(だとしたら……やっぱり盗聴? いや、しかし……羽衣がドジを踏むとは考えられないし)
釈然としない思いでサンタは運転席のシートをリクライニングさせる。
いずれにしても後は中央街区までオート・ドライブが運んでくれるのだからさほど気にするほどのことではないのかも知れないが……。
そんなことを考えていたとき出し抜けにフォン端末から着信音が響いた。
電話の主はそのジョーであった。
「どうした、ジョー? あんたが電話なんて珍しいじゃないか?」
『ああ、あの娘はもうバスの中か?』
「いや。今はフリーウエイだ。結局バスは止めて港まで送ることにした。どうして?」
『そうか。それは賢明な選択かも知れんな。実はな、思い出したんだ』
「何を?」
それからジョーがいくつかの情報を語り始めた。
サンタはそれに相槌を打ちながら、ときおりセロリを見て頷く。
どうやらその情報は、セロリに関わることらしい。
「……ああ。……ああ、なるほど……ふむ。そうか。わかった。そう云うことか……。じゃあな」
通話を終えるとかれは少しだけ真顔になり、それから後部座席のセロリを、もう一度、ちらりと見た。
セロリが怪訝そうな顔をする。
「何ですか? さっきから人の顔を、ちらちら、と……不愉快ですね」
「いや、別に……」
羽衣も不審そうな表情でサンタを下から覗き込むように見つめる。
「何だったの? 今の電話……何か悪い話?」
「そうじゃない。いや、もしかしたら悪い方へ転がるのかも知れないが」
「どう云うこと?」
サンタはリクライニングしたシートで腕を組んで、何かを考えているようである。
「あの、どうかしたんですか?」
そのサンタの態度に、今度は不安そうにセロリが訊ねる。
それにサンタが曖昧に頷いた。
それから。
「おまえ、星船で国へ帰る、と云ったよな? 国ってどこなんだ?」
唐突なサンタの質問だった。
「え? な、何故ですか?」
明らかに動揺しながら、セロリが逆に質問する。
しかしそれには答えず、サンタはポケットをまさぐり、セロリから『運び』の代金として受け取ったコインを取り出した。
「こいつは特殊なコインなんだってな」
「は? どう云うことでしょうか?」
「……リスタル金貨、だな?」
セロリが、わずかながらのためらいの後、ゆっくりと頷いた。
「ええ……、そうです」
「え? リスタルって、あの特別自治惑星のリスタル? ってか、リスタル金貨って、ものすごい価値があるんじゃなかったっけ? 確かリスタル大公家か、それにゆかりのある貴族しか持っていないのよね?」と、羽衣。
「そう云うことだ。ジョーがこのコインが何だったかを思い出したんで、連絡をくれたんだ。どうやらセロリが亜人ハーフだってことで思い出したらしい。何せリスタルと云えば、亜人の人権を連邦で初めて認めたことでも有名な公国惑星だからな」
「その通りです。よくご存知ですね」
セロリは少女らしからぬ寂しげな微笑を見せた。
その表情にどんな意味があるのかはわからなかったが。
「それでどうするつもりですか? ここでやめますか?」
「やめる? どうして? おれたちはおれたちの仕事をするだけさ。依頼された荷物、まあ、今回は荷物イコール依頼人だが……、それを無事に目的地まで送り届けるだけだ」
「でも、私なんかに関わると厄介ではないですか?」
「厄介さ。何せワガママで小憎たらしいからな」
「いえ、そうではなく……」
一人前に気をつかっている少女の姿に、サンタは思わず苦笑する。
「おれにとってはおまえが何者でも関係ない。云ったろう? おまえはただの依頼人だ。だからおれたちはちゃんとおまえの依頼は完遂するさ。だろ、羽衣?」
「ええ、もちろん」
羽衣は二つ返事である。
そのふたりの言葉にセロリは顔を曇らせた。
心苦しい、とでも云うような、そんな表情を見せる。
だがやがて心を決めたように、セロリは琥珀色の瞳に意志を込めた視線をふたりに向けた。
0
あなたにおすすめの小説
錬金術師と銀髪の狂戦士
ろんど087
SF
連邦科学局を退所した若き天才科学者タイト。
「錬金術師」の異名をかれが、旅の護衛を依頼した傭兵は可愛らしい銀髪、ナイスバディの少女。
しかし彼女は「銀髪の狂戦士」の異名を持つ腕利きの傭兵……のはずなのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
花鳥見聞録
木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。
記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる