星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第5章 コンボイセンターの魔女たち

(4)

 事務所の裏にある巨大な整備ガレージには3台のコンボイが同時に整備出来るドックが設置されていた。

 そのうちのひとつにサンタと羽衣のコンボイである《赤鼻のトナカイ》号が静かに停泊している。
 長距離の『運び屋』が利用するコンボイとしてはごく一般的な仕様であり、20トンコンテナを最大10台、合計で200トンまで牽引出来るタイプであるが、今は事前にサンタの指定した一台のコンテナだけが接続されていた。
 セロリは驚いたようにそんなコンボイを見上げて、目を輝かした。

「すごい。こんなに近くで生で見るのは、私、初めてです。初体験です。すごく大きいのですね。ドキドキします。触ってもいいでしょうか?」
「セロリったら、何かエロいよ、その台詞♪」
「え? どうしてですか、羽衣?」

 サンタが羽衣の頭を思い切り、どついた。

「やめろ、色ボケ・ドール」
「えへ♪」

 頭をさすりながら舌を出して見せる。
 一方のセロリの頭の上には『?』がいくつも飛んでいたが。

 さておき。 

 そのコンボイのすぐ脇に停車している整備用のリフト重機の上には、コンボイから伸ばされた何本かのシールドコネクタが接続された端末があり、ひとりの娘がキーボードからさまざまなコマンドを入力していた。
 彼女はドックにサンタたちが入って来たのに気づくと、作業を中断することなく、元気に叫んだ。

「ヤッホー、サンタちゃん、羽衣ちゃん、元気~? あっ、後ろの子が噂のシスターちゃんね?」

 やや能天気な挨拶をしつつ、えいや、と、最後のコマンドを入力すると、モニタを見て、よしよし、と頷いた。

「完了、っと」
 それから、にっこりとあどけない笑顔を見せると、彼女はサンタに向かって親指を立てて見せた。
「ナイス・タイミングだね、サンタちゃん。ちょうど終わったとこだにゃ」

 台車から身軽に跳び下りると、三人の前までちょこまかとやってきた。

 ドックを取り仕切っている整備士のマミ。
 小柄である。
 セロリとさほど変わらないと思われる身長で、幼児体型。
 ポニーテールにした黒髪に『ネコ耳付き』のキャップを斜めかぶり、ピンクのつなぎのあちらこちらにハートのワッペンが縫い付けてあるところが、ますます彼女を幼く見せている。

 しかし彼女はそんな外見とは裏腹に、コンボイの解体整備のみならずエンジン設計から星船の設計までもこなす、この分野では天才的な工学博士でもあった。
 それを知る人からすれば何故こんな場末の整備ドックで喜々として整備士などをやっているのか、と、不思議に思っただろうが、そのあたりについてはユズナもマミ本人も詳しく語ろうとはしなかった。

「組み直し、出来たのか? 悪かったな。オーバー・ホールを頼んだのに中断して」
「あは~。大丈夫だよ、サンタちゃん。マミちゃんってば天才だからにゃ」
 ピースサイン。陽気である。
「で、きみがシスターちゃんだにゃ? 始めまして。マミちゃんだよ」
 セロリに向かって握手を求める。
「あ、はじめまして、セロリです」
 セロリも慌てて、マミの手を握る。
「にゃるほど、可愛いにゃ~♪ それに何となく、他人に思えないにゃん」
 確かに、ふたりとも『ネコ』属性ではあった。

「ユズナちゃんが『サンタがロリ系に目覚めたから気をつけろ』って云ってたけど、確かにそうだね。マミちゃんもあまり近づいちゃいけないって云われたんだにゃ」
 きゃははは、と笑う。
「どうしてもみんな揃って、おれをロリにしたいらしいな」
 サンタは暗い気持ちになった。
「その方が面白いからにゃ。サンタちゃんの女遍歴も、ユズナちゃん、フタバちゃん、と来て、ついにマミちゃんの時代の到来ってことかにゃ? 早く、サンタちゃんにニャンニャンされたいにゃ~」

 セロリが、ぴくり、と反応する。

「サンタは、フタバさんにも手を出しているんですか?」
 サンタは頭を抱えて、深いため息をついた。
「出してない。マミ、変なことを云うな。このシスターは単細胞で、何でも信用しちまうんだから……」
「だ、誰が単細胞ですか!」
 セロリのパンチがサンタの脇腹へめり込んだ。

「きゃは。お約束の反応だね、よしよし」
 うんうん、と、したり顔で頷くマミ。
「セロリちゃん、サンタちゃんは見かけによらず堅物だからにゃ。心配しなくても、大丈夫」
「これで堅物なんですか? 私にはこんにゃくよりもフニャフニャに見えますが」
「きゃはは、そうなんだってさ、サンタちゃん?」
「ほっとけ!」
 脇腹をさすりながら吐き捨てる。

「あ、それよか、羽衣ちゃんに用事があるんだにゃ」
 マミが羽衣に視線を移す。

 羽衣が、えっ? と、云う顔で小首を傾げた。 
 マミはそんな羽衣の全身を観察するように上から下まで舐めるように見回し、そして、うふふふ、と奇妙な笑い声を上げた。

「え? やだ、マミさん、何?」

 羽衣は何故か、マミのことだけは、さん付けで呼ぶ。
 傍若無人の羽衣がマミにだけは比較的従順なのが、サンタには謎である。

「せっかく来たから診察していく?」
「え? 診察?」
 羽衣が満面の笑みを浮かべた。
「うんうん。していく」
 ふたつ返事である。
 マミは「診察」と云う言葉を使った。《バイオ・ドール》である羽衣の機能チェックをしておこう、と云うことだろうが、羽衣の『満面の笑み』が不自然である。

「何だ、診察ってのは? おい、羽衣、おまえマミに診察されたことなんて今まであったのかよ?」
「え? う、うん、以前来たときに……」

 顔を赤らめている。

「そうなのか」
(だが、何故、顔が赤い?)

「そうだにゃん」と、マミ。
「五分で終わるから時間はとらせないよ。どうせ荷物を積まなきゃならないんだろうし、それはサンタちゃんに任せとけばいいにゃん? たまに寄ったときくらいちゃんとチェックしておかないとにゃ。いざと云う時にサンタちゃんやセロリちゃんの足手まといになったら、羽衣ちゃんがイヤでしょ? どれくらいサンタちゃんに《愛玩人形ペットドール》として開発されたかも知りたいしにゃ」

「うん。それがそっちは全然なのよね~」
「あちゃあ、サンタちゃん、まだこだわってるの?」
 え~、残念、と云うようにマミは首を振るとサンタを非難するような目で見つめる。

「おい、ここにはセロリがいるんだぞ。そっち系の話はよせ。それにおれが羽衣に期待しているのは……」
「ああ、わかった、わかった。皆まで云わないでいいにゃん。ともかく診察だけはしておくから、サンタちゃんは荷物を積み込みなさい。マミちゃんと羽衣ちゃんがいないからと云って、セロリちゃんを襲ったりしないようにね」
 マミはにんまりと笑うと、自分よりだいぶ背の高い羽衣の背中を押して整備ドックの中二階にある精密機器整備室に羽衣をつれて行く。

(セロリを襲ったり、って、おれのことは堅物だって自分で云ったばかりだろうに)

 横を見ると、セロリがサンタを、じとっとした視線で見上げている。
「襲うつもりですか、こんにゃく男?」
「誰が、こんにゃく男だ?」
「まあ、サンタにそんな度胸があるとも思えませんが……」

 生意気な台詞である。
 サンタはそれを無視して、さっさと手荷物や身の回りの荷物をコンボイの運転席後ろにあるトランクに積み込み始めた。

「スルーですか? 何だか、傷つきますね」
「おれは、もっと、いろいろと傷ついてるよ」
「ふん、だらしない男ですね。高が、少女や、女整備士や、関西弁所長や、ふわふわ受付嬢や、《バイオ・ドール》に、可愛いジョークを連発された程度で傷つくとは」
「十分過ぎるだろ」
「まあ、いいですけどね」
「まあ、いいのかよ?」
「……それより、羽衣も診察なんかするんですね。てっきり医者要らずだと思っていました」
「羽衣が診察を受けているなんておれも知らなかった。いつそんなのを受けてたんだろう? でも、あいつも云ってみれば精密機器に変わりないからな。もっともそう云えるのは頭の中のAIくらいで、あとは神経網も筋肉やらの器官もすべて人工生体細胞だから機器とは云いがたいけど……」

 と、話していると――。

 突然、羽衣の何とも云えない嬌声が整備ドックの中に、響き渡った。

「え? い、今のは、羽衣?」

 セロリが目を丸くして精密機器整備室へ目をやる。
「なんか、変な感じの声でしたが……」

 さらに。

「あああ……。マ、マミさん、だ、ダメですぅ~。……、そ、そこは……」
「ええ? 羽衣、何をされてるんでしょうか?」

 そう云ってサンタを見たセロリをかれは無言で担ぎ上げる。
「……って、サンタ、何を?」
 サンタはそれには答えず、そのままセロリをコンボイの運転席の中に放り込んでドアを閉めた。

「おまえは聞くんじゃない!」
 それから精密機器整備室を見上げて、ため息をついた。

「いったいどんな診察だよ、あのふたり……」 
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