星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第6章 《歪空回廊(トンネル)》抜けて、星海へ

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 お誂え向きにコンボイ・ドック区画に人影はほとんどなかった。
 深夜、と云う時間帯だったこともあるが、今が輸送業の繁忙期でなかったことも関係しているのであろう。
 クロード、ユズナ、マミの三人はリストにあった『運び屋』のコンボイが停泊しているはずのドックに向かっていた。
 フタバは電話番をしつつ、ドック内の監視カメラで状況を三人に伝えるために《自由な鳥フリーバーズ商会》の事務所で待機していた。

「コンボイのコンテナの中身を調べます。コンテナに防犯装置がついていたり、あるいはドライバーが中で仮眠などしていると厄介ですが」

 クロードが周囲を油断なく見回し、抜き足、差し足、で先頭を行く。
 その後ろにはバールを肩に担いだユズナと愛用の工具箱をぶら下げたマミが、平然と続いている。

「羽振りのいい連中やさかい、この時間はコンボイの中にいることはあらへんやろな。今頃は街で女遊びでもしとるやろ。まあ、いたらいたでそんときはこいつでどついてやればいいねん」

 ユズナが肩に担いだバールを顎で示す。
 さすがにクロードが振り返ってユズナを睨みつけた。

「物騒なことを云わないでください。これでも警察なんですよ」
「やっとることは泥棒と変わらんけどな」
「そ、そりゃ、そうですが」
 マミはマミで鼻歌を唄いながらスキップをしている。
 ハイキング気分だ。
「あなたたちは緊張感がないんですか?」
「慣れとるからなぁ」
「こんなことに慣れてるんですか?」
「あほ、いちいち真に受けるな、冗談や。お、あのコンボイやないか? コンテナもついとるな」

 ユズナが示したのはごく一般的なコンボイである。
 牽引しているコンテナも普通サイズが二連。
 最後尾の扉には封印ステッカーが貼り付けてある。

「運んできたばっかしやな。ん、ビンゴやで。このステッカーは確かにリスタルからや」

 観音開きの二枚扉を塞ぐように貼り付けてあるステッカーは、たちの悪い『運び屋』や輸送会社による輸送中の盗難を防止するためのもので、荷主と出国検印が印字されている。
 それがリスタル公国から運び出されたものであることは確かのようだ。

「この型は低温貯蔵用のコンテナだにゃ」

 マミがコンテナの底部の機器を指差す。
 そこには低温貯蔵のためのクール・ユニットとそのコントローラが装備されていた。

「低温貯蔵?」
「にゃ。もしも亜人売買なんかを本当にやっているならばたぶん眠らせて低温睡眠状態で運んでくるはずだにゃん。騒がれないように、と、云うこともあるし、輸送中の食事とかも必要ないからにゃ」
「なるほど」と、クロード。
「ボクはてっきり難民船みたいな状態でつれて来ているのだとばっかり思っていた」
「まあ、アホはそんなことくらいしか考えないだろうにゃ」
「アホ?」

 えらい云われようだ、とは思いつつ、マミが天才工学博士であることを思い出し、またこの場所で云い争いをする訳にもいかずクロードは怒りをぐっと堪えた。
 それに何を云っても、どうせこのふたりに口で敵う訳がないことは十分にわかっていた。

「ほんじゃ、さっさと始めるか? ウチがバールでロックを壊したらええねんな?」
「ま、待ってください。過激過ぎです、ユズナさん。深夜とは云えここでそんなことしたら人に気づかれます」
「ああ、そやな。何せ泥棒すんのは初めてやし、よう勝手がわからん。クロード、おまえがやれや」
「いや、ボクだって初めてですよ。警官なんですから。ともかくコンテナを開けないとならないですが……」
「仕方ないにゃん。どうせそんなことだろうと思ってマミちゃんがわざわざついて来たんだからにゃ。マミちゃんがやるにゃ。そのために七つ道具も持って来たし」
「うん。任せるわ。首尾よくやったってくれ、マミ」

 マミはユズナの言葉にピースサインで返事をすると、七つ道具、と、呼んでいた工具箱からいくつかの工具を取り出し、手際良くコンテナのロックを外した。
 もちろん、警備装置の有無を確認しつつ、大した装置でもないことを瞬時に判断して無効化した上で、であった。

「開いたにゃん」
「おまえ、プロ並やな」
「えへん」
 小柄な身体で大きく胸を張って、威張って見せる。

 クロードはそれを眺めつつ、プロって、泥棒のプロか? いいのか、こんな奴を連邦警察が使ったりして、と、複雑な感情を抱いたのだった。

「んじゃ、開けるで」

 今度はユズナが扉に手をかけるとそれを一気に開いた。
 躊躇なし、である。
 絶対、このふたり、罪悪感とかとは無縁だな、と、クロードは思う。
 やはり連邦警察としての正義感が痛むのであった。


 開いたコンテナは低温無菌コンテナであった。
 かすかな冷気とアルコール臭が漂ってくる。
 中はもちろん照明などなく真っ暗であったが、電子機器のパイロットランプだけが明滅していた。
 機械は停泊中の今も作動しているようだ。

「おい、クロード、ライトは?」
「ああ。はい」

 かれは周囲から光が見えないよう指向性レンズをつけた警察御用達のペンライトでコンテナの中を照らしてみる。
 コンテナの中の電子機器からはチューブやシールドコードが伸び、その先はカプセルのような積荷に接続されている。
 それが十台ほど並んでいた。
 カプセルの表面はグラサイト――ガラス様強化素材――であったが内側が曇っていて中身がはっきりとは見えない。

「ライフ・カプセルだにゃ」
「調べるで」

 ユズナが身軽にコンテナに飛び乗りそれから小柄なマミを引っ張り上げる。
 クロードもコンテナによじ昇った。

 積荷に近寄ってみると、マミの云うように確かに病人などを緊急長距離搬送するために利用されるライフ・カプセルのようだ。
 覗き込んで見る。
 表面のグラサイト窓が曇っているのではっきりとは断言できないが、確かに人が横たわっているようだ。それもかなり小柄である。

「亜人の子供かにゃ?」

 マミがライフ・カプセルを回って調べている。
 クロードは、誰か人が来ないだろうか、と心配げに外を見たりカプセルを確認したりしている。
 緊張しているのが端からも見え見えだった。

(こいつ、意外と小心者やな)

 ユズナが苦笑した。
 もっともこの状態で緊張していない方がおかしいのではあるが。

 マミが「やっぱりだにゃ」と云いながら、立ち上がった。
「ここにあのリストに書いてあった情報が記載されているにゃ。間違いないにゃん。あとはライフ・カプセルを開いて見ないとわからにゃいけど、開くまでには二時間程度、蘇生時間が必要だからにゃあ。どうする?」
「さすがにこれから二時間、このまま待つって訳には行かないですね」
 クロードが思案顔をする。
「連邦警察の応援も実は頼んでありますし、首都警察の信頼できる方にも内々に連絡はしてあります。なのできっかけさえあればすぐに対応はとれます。あとはこのコンボイを差し押さえるための『事件』でもでっち上げられれば完璧です」
「手回しがいいやないか。令状はとってないくせに」
「全部、内々ですよ、ユズナさん。何せ証拠がないんですから」
「まあ、そやな。んで、事件をでっちあげる、って、どないするんや?」
「それは考えてませんが」
「肝心なところ、ダメダメやんか!」
 そこで、マミが、ふふふふ、と笑い声を上げる。

「そこは任せるにゃ。ちょっと爆破事件でも起こしちゃえばいいかと思ってにゃ、準備はして来たんだにゃん」
「爆破事件?」
「中の子供たちに影響がないように、コンボイとコンテナのジョイントあたりに爆弾を仕掛けて、どかん、とやればいいにゃん。五分で出来るから待ってて」
「グッド・アイデアやな、それ。んじゃ、頼むわ、マミ」
「いや、頼むって、それじゃ警察が来るじゃないですか?」
「おまえが警察やろ。ともかくそれでコンテナの足止めが出来ればええねん」
「そうなんですが……」
 いいのかな、それで、と、思いつつ、クロードは渋々納得する。
 もっとも納得するよりも前に、すでにマミは爆発物を仕掛けてしまっていたが。

 それから一行は現在停泊中のさらに二台のコンボイを調査し、同様な状況であることを確認した。と、同時にマミがすべてに爆発物を仕掛けた。

「よっしゃ、じゃ、事務所に戻って、どかん、やな。景気良くやろうや」

 クロードの肩を乱暴に叩きながらユズナが上機嫌で云う。
 クロードは半ば後悔しつつも、ここまで来たら仕方ない、と必死に自分を納得させるのだった。

  ***

 翌朝。
 コンボイ・センターは爆破テロ事件で大騒ぎであった。
 もちろん、爆破テロではない。
 事件の真相を知っている(と、云うか犯人だが)《自由な鳥商会》の面々はいつも通りに仕事をしていた。
 だがその中で所長のユズナだけが苛立たしげな表情で、事務所の中を行ったり来たりしながら、ときおり文句を口にしている。

「ちぃ、ちょっとも連絡がつかへん」

 夕べの経緯をサンタ一行に知らせようと、何度か事務所のフォン端末や自分のフォン端末で連絡をするのだが、サンタにも羽衣にもまったく繋がらないのだった。

「どうしたんですの、ユズナさん?」
「連絡がとれん。《歪空回廊》の通信障害らしい。このことをサンタに教えたろ、思ったんやが……。あいつ、リスタルに向こうてるし、おおもとの情報はあのシスターやからな。夕べの件を知らんとなるとヤバイことに巻き込まれるんちゃうかと」
「そうですね。たぶんこの件はリスタルの方にもすぐ連絡が行くでしょうし」
「ヤバイな。……よっしゃ、決めたで」
 ぽん、と手を叩く。
「はい?」

「ウチらもリスタルに行く」

「ウチ、ら?」

「フタバ、おまえとマミとウチ、や。準備せえ。あとクロードにも声かけとかんとな」
「ええ? ほ、本気ですか?」

 と、驚いて見せるが、そう云う時のユズナが本気なのは十分わかっているフタバである。
 そこは永年の付き合いでユズナの性格はきっちりと押さえていた。
 その証拠に、すでに整備ドックにいるマミのフォン端末の呼び出しボタンを無意識に押しているフタバであった。
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