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第6章 《歪空回廊(トンネル)》抜けて、星海へ
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コンボイ・センターでユズナたちがコンボイの調査をしていた頃。
サンタたちは《歪空回廊》に整備されているSA(サービス・エリア)のひとつにコンボイを停泊させていた。
SAはたいていは惑星上ではなく、トロヤ点と呼ばれる恒星と惑星の重力バランスの平衡点、またはそこに存在する小惑星などに作られる。
主に一般車両向けの休憩所の位置づけのため、長距離輸送業者向けのコンボイ・デッキなどはあまり整備されていないものだったが、このSAにはコンテナ三機程度までのコンボイであれば停泊出来る設備が併設されていた。
そのひとつにサンタは《赤鼻のトナカイ》を停泊させた。
「今夜はここに泊まるぞ。このSAは規模が大きくてホテル施設も揃っているんだ」
停泊のためのチェック処理をしながらセロリに向かってそう告げた。
「夕べはコンボイの簡易ベッドだったからな。今夜はちゃんとしたベッドで眠りたいだろ? シャワーも浴びたいだろうし」
「ええ。実はずっとコンボイの席に座っていたおかげで体中がぎしぎし云っています。ホテルのベッドでゆっくり眠れるのはありがたいです。ホテルでひとっ風呂浴びた後はマッサージを呼んでくつろぎたいですね。えっへっへ」
「おまえは出張先のサラリーマンかよ?」
「それに……」
セロリは窓の外を眺めて、うっとりとする。
「なんて素敵な眺めなんでしょうね。満天の星空です。やはり夜は《歪空回廊》の殺風景な景色ではなく、星空が一番です。こんな星空を見ながら眠れるのはしあわせです」
「まあ、SAってのは星海に浮かんでいるから、朝も昼も四六時中、星空だけどな」
「ああ、云われて見ればそれもそうですね。でもそうすると何となく時間感覚がなくてつまらないです」
「そりゃそうさ。だから人間は大地に住むのが一番なんだ」
「なるほど。その通りです。またいい事を云いましたね。サンタのくせに忌々しい」
「どう云う言い草だよ!」
サンタがセロリを睨みつけると、セロリは、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
その様子に羽衣が少し口を尖らせて見せる。
「ねえ、サンタっていつの間にか妙にセロリと仲良しだよね。何だか妬けちゃうな」
寂しそうな仕種で少し甘えるように。
その言葉にサンタは怪訝そうに眉をひそめる。
「どこが仲良しに見える? おれはこのお姫様のお姫様らしくない小憎たらしさに閉口しているんだぞ」
その台詞に今度はセロリが不満そうな表情を見せた。
「私だってサンタが私を子供扱いするのに閉口しています」
「子供を子供扱いして、何か問題か?」
「レディです!」
はあ~、と、羽衣がため息をつく。
(どっから見ても仲良しにしか見えないんだけどな。サンタのバカ)
このSAのホテルはビジネス用途とレジャー用途を併設しているタイプである。
眠れて、風呂につかれて、食事が出来る、と云う簡易な割り切ったサービスを提供することも、また星間長距離観光客向けに少しだけ贅沢なサービスを提供することもある。
そう云う意味では普通のビジネスホテルに較べれば、造りはなかなか豪華ではあった。
三人はそんなSAホテルの正面玄関を通り広々としたロビーに入って行った。
ビジネス客はあまりロビーでくつろぐこともないため、そこにいるのはほとんどはレジャー客のようであるが、すでに標準時間では夜中に近いためか、賑わっている、と云うほどではない。
セロリが物珍しげにきょろきょろと周囲を見回している。
しかしそれと同じくらい、ロビーの客は真っ赤な修道衣姿のセロリを、そして、キモノを思わすエキセントリックな服装をしたモデルばりの美女羽衣を、興味津々で見つめて何事が囁きあっている。
もちろん当の本人たちはそんな視線などどこ吹く風だ。
そう云う面では彼女らの態度は堂々としたものである。
無神経とも云えるのだが。
(こりゃあ、早いところ部屋に引っ込んだ方がよさそうだな。おれの方が恥ずかしい)
フロントを見つけてチェックイン手続きのためにそちらに向かおうとすると、セロリがサンタの腕を引っ張った。
「すみません、サンタ」
「ん? 何だ?」
「あの、電話をしたいんですが。今私がどうしているかきっと国でも心配しています。マグダラのバス・ステーションからこちら、慌しくて全然連絡をとっていませんので」
「ああ。《歪空回廊》の中は通信障害でフォン端末を使えなかったしな」
見回すとロビーの端に緑のパブリック端末が並んでいるのが目に入った。
今時では珍しい。
「あそこにパブリック端末があるからあそこからかけて来い。その間にチェックインしておくから」
「はい、わかりました」
そう云ってセロリはパブリック端末に向かいかけて、はたと立ち止まりサンタに向き直った。
「あの、チェックインするのならば部屋はひとつにしてくださいね」
「ああ、ちゃんとおまえの部屋は別にとってやるよ。シングルでいいな?」
「いえ、そうではなくみんなで一部屋です。ハリウッドツインのお部屋で雑魚寝しましょう。そうすれば夜這いする必要もないですから」
「おまえはまだ、そんなことを云ってるのか?」
ハリウッドツイン、と云えば、ダブルベッドを二台ぴったりと合わせた「新婚さん御用達」のメイクスタイルである。
確かに三人で雑魚寝するにはちょうどいいとは云えよう。
雑魚寝と云った時点で色っぽさは欠片もなくなってしまうが。
「だって……一人で寝るのが寂しいんです。修道院でもいつも仲間と一緒に寝ていましたし……」
そうか、夜這い、などと茶化して云ってはいるが実はセロリは心細いのだ、と云うことにサンタはこのとき初めて気づいた。
考えてみれば、羽毛恐竜レクスの森を抜けてきたり、得体の知れない追跡にあったり、ここ数日のセロリは緊張の連続だったのだろう。
ジョーの宿、《星海》での「夜這い行動」も恐らくは寂しさからなのだ。
(そうか。今さら気づくところがおれのダメなところなのかもな。そう云えば昔ユズナにもそんなことを嫌味ったらしく云われたっけな)
「わかったよ。そうするから早く電話をして来い」
「本当ですか? ありがとうございます」
と、セロリはぱっと笑顔を見せる。
「あ、でも、その……、すみません、テレカがないので……」
(相変わらず、テレカ、かよ?)
「あそこに自販機があるから、そこで買え」
さすがにこれだけ人目があるところで羽衣の特技を利用するのも憚られた。
サンタはポケットを探ると小銭をセロリに渡す。
「ありがとうございます。ではこれで国に電話をしてきます」
「ああ……」
と、答えて、ふとサンタは気がかりを憶える。
セロリを見た。
何かが気になる。
「……電話か。待てよ。おい、セロリ、バス・ターミナルからの電話の相手は両親か?」
その問いにセロリは怪訝そうな表情を見せた。
「いいえ、従叔父です。ラスバルト卿。大公執務室に直接電話したのでてっきりお父様が出るかと思ったんですけど不在でした」
「ふ~む」
サンタは少しだけ考え込む。
セロリは不思議そうにそんなサンタを見上げている。
(何か腑に落ちないな。大公家のしきたりなんかはよくわからないが、大公執務室の電話に、いかに親戚とは云え、大公以外が出るものなのだろうか? それにあの電話の直後に……)
「従叔父、ラスバルト卿、と云ったか? そいつは何者なんだ?」
「は? 私のお母様の従弟で、先代大公の弟君の息子です。今はお父様の補佐官として働いていると聞いています。もうしばらく会ってはいませんが、それが何か?」
「いや、何でもない。それより、セロリ、電話ではおまえは星船に乗ってリスタルに向かっていることにしろ」
「え? それでは迎えが来ないではありませんか」
「いいんだよ。おれたちが大公家まで送るから」
「それはありがたいですが何故ですか? 嘘をつくのは聖職者としてあまり気が進みませんが」
「どの口が、聖職者、だと云ってるんだ? いつもの態度から考えるに、おまえ、聖職者ってこと、普段忘れてるだろ?」
「い、いえ、そんなことはありません。天にまします我らの父にいつも気持ちを捧げていますから」
セロリは、とってつけたように胸で十字を切って、祈りのポーズをする。
「初めてみたな。おまえのそんなポーズ。まあ、ともかく、星船で向かっている、と、そう云うことにしておけ」
「はあ。でも……」
やはり気が進まないようだった。
サンタは仕方なくセロリの耳許に囁いた。
「サプライズだ。その方がおまえの両親たちも喜ぶだろ? 感激倍増だぞ」
「おお、なるほどです。それは確かに喜んでくれそうです」
ぽん、と手を叩く。
単純である。
「それからビデオはつなぐな。ボイスだけにしておけ。時間は一分以内だ」
「え? それもサプライズですか?」
「いや、その真っ赤な修道衣姿を見たら両親が卒倒するかも知れないからな」
別の意味で、サプライズ、である。
「ええ? そうですか? 可愛いと思うのですが……」
両親がマトモならばどう見てもそれがコスプレ衣装だと気づくだろう。
もっともセロリの両親が「マトモ」であるかは、娘の言動から想像するとどうも疑わしい気もするが。
セロリは多少は疑問を憶えながらも納得してパブリック端末に向かって行った。
セロリがいなくなったところで羽衣が、ここぞ、とばかりにサンタの腕に自分の腕を絡ませて来た。
「ねえ、なんで、通話を一分以内にしろ、って云ったの?」
下から見上げるように訊ねる。
羽衣がサンタに甘える時のいつもの仕種である。
「ああ。ないとは思うが逆探されないようにさ」
「ふーん、サンタ、何か思いついてるんだね?」
「取り越し苦労だといいんだがな。どうもセロリの件はただの家出だけじゃない。あの神父のことと云い、セロリの持ち込んだ写真のことと云い、しっくり行かない気がする。何だか道に迷っているみたいな気がするんだ」
「サンタが道に迷うなんてあり得ないけどね。必ず正しい道を選んでしまうのがサンタのスキルでしょ?」
「どうだかな。少なくとも人生の道は間違いだらけみたいな気がするが」
羽衣はそれには何も答えずかすかに笑っただけだった。
「それより羽衣、ひとつ調べてくれ。リスタル公国と大公家の状況だ。特にラスバルト卿って奴のことと、アズナガ神父のことを」
「やだな、サンタ。あたしを見くびってもらっては困るよ。もうネット経由で調べてあるよ。夕べ、サンタたちが仮眠しているときに。通信障害があったから《アクシデント・コンタクト》の回線をハッキングしたりして苦労したけどね」
羽衣が可愛らしくウインクをする。
「そうか。さすが、おれの相棒だな」
「えへへへ~♪」
サンタに褒められて羽衣はこの上なく嬉しそうに笑うと、サンタの腕にさらに強くしがみつく。
今までセロリに奪われていた気になっていたファーストレディの座を、ここで奪い返すぞ、とでも云うように。
「サンタにそう云ってもらえるだけであたしは十分嬉しいんだよ。いつもそうやって褒めてね?」
「ああ、わかっているさ」
サンタは苦笑すると、羽衣の頭を優しく撫でて、そう答えた。
サンタたちは《歪空回廊》に整備されているSA(サービス・エリア)のひとつにコンボイを停泊させていた。
SAはたいていは惑星上ではなく、トロヤ点と呼ばれる恒星と惑星の重力バランスの平衡点、またはそこに存在する小惑星などに作られる。
主に一般車両向けの休憩所の位置づけのため、長距離輸送業者向けのコンボイ・デッキなどはあまり整備されていないものだったが、このSAにはコンテナ三機程度までのコンボイであれば停泊出来る設備が併設されていた。
そのひとつにサンタは《赤鼻のトナカイ》を停泊させた。
「今夜はここに泊まるぞ。このSAは規模が大きくてホテル施設も揃っているんだ」
停泊のためのチェック処理をしながらセロリに向かってそう告げた。
「夕べはコンボイの簡易ベッドだったからな。今夜はちゃんとしたベッドで眠りたいだろ? シャワーも浴びたいだろうし」
「ええ。実はずっとコンボイの席に座っていたおかげで体中がぎしぎし云っています。ホテルのベッドでゆっくり眠れるのはありがたいです。ホテルでひとっ風呂浴びた後はマッサージを呼んでくつろぎたいですね。えっへっへ」
「おまえは出張先のサラリーマンかよ?」
「それに……」
セロリは窓の外を眺めて、うっとりとする。
「なんて素敵な眺めなんでしょうね。満天の星空です。やはり夜は《歪空回廊》の殺風景な景色ではなく、星空が一番です。こんな星空を見ながら眠れるのはしあわせです」
「まあ、SAってのは星海に浮かんでいるから、朝も昼も四六時中、星空だけどな」
「ああ、云われて見ればそれもそうですね。でもそうすると何となく時間感覚がなくてつまらないです」
「そりゃそうさ。だから人間は大地に住むのが一番なんだ」
「なるほど。その通りです。またいい事を云いましたね。サンタのくせに忌々しい」
「どう云う言い草だよ!」
サンタがセロリを睨みつけると、セロリは、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
その様子に羽衣が少し口を尖らせて見せる。
「ねえ、サンタっていつの間にか妙にセロリと仲良しだよね。何だか妬けちゃうな」
寂しそうな仕種で少し甘えるように。
その言葉にサンタは怪訝そうに眉をひそめる。
「どこが仲良しに見える? おれはこのお姫様のお姫様らしくない小憎たらしさに閉口しているんだぞ」
その台詞に今度はセロリが不満そうな表情を見せた。
「私だってサンタが私を子供扱いするのに閉口しています」
「子供を子供扱いして、何か問題か?」
「レディです!」
はあ~、と、羽衣がため息をつく。
(どっから見ても仲良しにしか見えないんだけどな。サンタのバカ)
このSAのホテルはビジネス用途とレジャー用途を併設しているタイプである。
眠れて、風呂につかれて、食事が出来る、と云う簡易な割り切ったサービスを提供することも、また星間長距離観光客向けに少しだけ贅沢なサービスを提供することもある。
そう云う意味では普通のビジネスホテルに較べれば、造りはなかなか豪華ではあった。
三人はそんなSAホテルの正面玄関を通り広々としたロビーに入って行った。
ビジネス客はあまりロビーでくつろぐこともないため、そこにいるのはほとんどはレジャー客のようであるが、すでに標準時間では夜中に近いためか、賑わっている、と云うほどではない。
セロリが物珍しげにきょろきょろと周囲を見回している。
しかしそれと同じくらい、ロビーの客は真っ赤な修道衣姿のセロリを、そして、キモノを思わすエキセントリックな服装をしたモデルばりの美女羽衣を、興味津々で見つめて何事が囁きあっている。
もちろん当の本人たちはそんな視線などどこ吹く風だ。
そう云う面では彼女らの態度は堂々としたものである。
無神経とも云えるのだが。
(こりゃあ、早いところ部屋に引っ込んだ方がよさそうだな。おれの方が恥ずかしい)
フロントを見つけてチェックイン手続きのためにそちらに向かおうとすると、セロリがサンタの腕を引っ張った。
「すみません、サンタ」
「ん? 何だ?」
「あの、電話をしたいんですが。今私がどうしているかきっと国でも心配しています。マグダラのバス・ステーションからこちら、慌しくて全然連絡をとっていませんので」
「ああ。《歪空回廊》の中は通信障害でフォン端末を使えなかったしな」
見回すとロビーの端に緑のパブリック端末が並んでいるのが目に入った。
今時では珍しい。
「あそこにパブリック端末があるからあそこからかけて来い。その間にチェックインしておくから」
「はい、わかりました」
そう云ってセロリはパブリック端末に向かいかけて、はたと立ち止まりサンタに向き直った。
「あの、チェックインするのならば部屋はひとつにしてくださいね」
「ああ、ちゃんとおまえの部屋は別にとってやるよ。シングルでいいな?」
「いえ、そうではなくみんなで一部屋です。ハリウッドツインのお部屋で雑魚寝しましょう。そうすれば夜這いする必要もないですから」
「おまえはまだ、そんなことを云ってるのか?」
ハリウッドツイン、と云えば、ダブルベッドを二台ぴったりと合わせた「新婚さん御用達」のメイクスタイルである。
確かに三人で雑魚寝するにはちょうどいいとは云えよう。
雑魚寝と云った時点で色っぽさは欠片もなくなってしまうが。
「だって……一人で寝るのが寂しいんです。修道院でもいつも仲間と一緒に寝ていましたし……」
そうか、夜這い、などと茶化して云ってはいるが実はセロリは心細いのだ、と云うことにサンタはこのとき初めて気づいた。
考えてみれば、羽毛恐竜レクスの森を抜けてきたり、得体の知れない追跡にあったり、ここ数日のセロリは緊張の連続だったのだろう。
ジョーの宿、《星海》での「夜這い行動」も恐らくは寂しさからなのだ。
(そうか。今さら気づくところがおれのダメなところなのかもな。そう云えば昔ユズナにもそんなことを嫌味ったらしく云われたっけな)
「わかったよ。そうするから早く電話をして来い」
「本当ですか? ありがとうございます」
と、セロリはぱっと笑顔を見せる。
「あ、でも、その……、すみません、テレカがないので……」
(相変わらず、テレカ、かよ?)
「あそこに自販機があるから、そこで買え」
さすがにこれだけ人目があるところで羽衣の特技を利用するのも憚られた。
サンタはポケットを探ると小銭をセロリに渡す。
「ありがとうございます。ではこれで国に電話をしてきます」
「ああ……」
と、答えて、ふとサンタは気がかりを憶える。
セロリを見た。
何かが気になる。
「……電話か。待てよ。おい、セロリ、バス・ターミナルからの電話の相手は両親か?」
その問いにセロリは怪訝そうな表情を見せた。
「いいえ、従叔父です。ラスバルト卿。大公執務室に直接電話したのでてっきりお父様が出るかと思ったんですけど不在でした」
「ふ~む」
サンタは少しだけ考え込む。
セロリは不思議そうにそんなサンタを見上げている。
(何か腑に落ちないな。大公家のしきたりなんかはよくわからないが、大公執務室の電話に、いかに親戚とは云え、大公以外が出るものなのだろうか? それにあの電話の直後に……)
「従叔父、ラスバルト卿、と云ったか? そいつは何者なんだ?」
「は? 私のお母様の従弟で、先代大公の弟君の息子です。今はお父様の補佐官として働いていると聞いています。もうしばらく会ってはいませんが、それが何か?」
「いや、何でもない。それより、セロリ、電話ではおまえは星船に乗ってリスタルに向かっていることにしろ」
「え? それでは迎えが来ないではありませんか」
「いいんだよ。おれたちが大公家まで送るから」
「それはありがたいですが何故ですか? 嘘をつくのは聖職者としてあまり気が進みませんが」
「どの口が、聖職者、だと云ってるんだ? いつもの態度から考えるに、おまえ、聖職者ってこと、普段忘れてるだろ?」
「い、いえ、そんなことはありません。天にまします我らの父にいつも気持ちを捧げていますから」
セロリは、とってつけたように胸で十字を切って、祈りのポーズをする。
「初めてみたな。おまえのそんなポーズ。まあ、ともかく、星船で向かっている、と、そう云うことにしておけ」
「はあ。でも……」
やはり気が進まないようだった。
サンタは仕方なくセロリの耳許に囁いた。
「サプライズだ。その方がおまえの両親たちも喜ぶだろ? 感激倍増だぞ」
「おお、なるほどです。それは確かに喜んでくれそうです」
ぽん、と手を叩く。
単純である。
「それからビデオはつなぐな。ボイスだけにしておけ。時間は一分以内だ」
「え? それもサプライズですか?」
「いや、その真っ赤な修道衣姿を見たら両親が卒倒するかも知れないからな」
別の意味で、サプライズ、である。
「ええ? そうですか? 可愛いと思うのですが……」
両親がマトモならばどう見てもそれがコスプレ衣装だと気づくだろう。
もっともセロリの両親が「マトモ」であるかは、娘の言動から想像するとどうも疑わしい気もするが。
セロリは多少は疑問を憶えながらも納得してパブリック端末に向かって行った。
セロリがいなくなったところで羽衣が、ここぞ、とばかりにサンタの腕に自分の腕を絡ませて来た。
「ねえ、なんで、通話を一分以内にしろ、って云ったの?」
下から見上げるように訊ねる。
羽衣がサンタに甘える時のいつもの仕種である。
「ああ。ないとは思うが逆探されないようにさ」
「ふーん、サンタ、何か思いついてるんだね?」
「取り越し苦労だといいんだがな。どうもセロリの件はただの家出だけじゃない。あの神父のことと云い、セロリの持ち込んだ写真のことと云い、しっくり行かない気がする。何だか道に迷っているみたいな気がするんだ」
「サンタが道に迷うなんてあり得ないけどね。必ず正しい道を選んでしまうのがサンタのスキルでしょ?」
「どうだかな。少なくとも人生の道は間違いだらけみたいな気がするが」
羽衣はそれには何も答えずかすかに笑っただけだった。
「それより羽衣、ひとつ調べてくれ。リスタル公国と大公家の状況だ。特にラスバルト卿って奴のことと、アズナガ神父のことを」
「やだな、サンタ。あたしを見くびってもらっては困るよ。もうネット経由で調べてあるよ。夕べ、サンタたちが仮眠しているときに。通信障害があったから《アクシデント・コンタクト》の回線をハッキングしたりして苦労したけどね」
羽衣が可愛らしくウインクをする。
「そうか。さすが、おれの相棒だな」
「えへへへ~♪」
サンタに褒められて羽衣はこの上なく嬉しそうに笑うと、サンタの腕にさらに強くしがみつく。
今までセロリに奪われていた気になっていたファーストレディの座を、ここで奪い返すぞ、とでも云うように。
「サンタにそう云ってもらえるだけであたしは十分嬉しいんだよ。いつもそうやって褒めてね?」
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