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第8章 リステリアス宮のトラブル
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「サンタ、なんで帰ろうとしたの?」
セロリが頬を膨らませた。
彼女には今の騎士とのやりとりは、当然、聞こえなかっただろう。
友好なやりとりの末、こうしてセロリの元に戻って来たと信じているに違いない。
つまり、そう云うことだ。
やはりリステリアス宮はこの一件に関係しているのだ。
アズナガが捕らえられたことで追っ手はセロリの追跡をあきらめて、このリステリアス宮で待ち伏せする作戦に変更した。
そしてその逃避行をサポートしていた何者か(それはサンタと羽衣だったのだが)もろともに、セロリを捕獲することにしたのだ。
セロリはまだ気づいていないようだがまんまとトラの口の中に飛び込んでしまった訳である。
(やはり黒幕は大公家か。しかし……)
それでもどこか腑に落ちない。
(何だかすっきりしない……。おれたちはうまくやったのか? それともドジを踏んだのか?)
サンタと羽衣はセロリの後に従うようにエントリー・ロードを歩いて行く。
先頭を歩くセロリは先ほどまでの緊張した表情とはかけ離れた笑顔である。
半分、スキップである。
鼻歌さえ歌っている。
「♪エントリー・ロード、テイク・ミー・ホーム、……」
(いや、それ、エントリー・ロードでなく、カントリー・ロードだろ?)
ツッコミを声に出すと騎士から何をされるかわからないので、ここだけは内心で呟いた。
その長いエントリー・ロードの突き当たり。
リステリアス宮の母城の入り口に一人の貴族然とした男が立って、三人をじっと見つめているのにサンタと羽衣は気がついた。
(貴族か? しかし、ただの貴族ではないな)
ふたりは周囲に気づかれないように全身を緊張させる。
その若い男から発せられる雰囲気がふたりにとってはひどく禍々しいものに感じられたからである。
しかし、セロリはそうではないようだ。
彼女はその男を見つけると、満面の笑みを浮かべてかれに向かって駆け出して行った。
「ラスバルト!」
(ラスバルト? なるほど、セロリの母方の従叔父(いとこおじ)にして、現在はリステル公国の政務をとりしきっていると云うラスバルト卿ってのが奴か?)
セロリはそのままその貴族に抱きついた。
「久しぶりです、ラスバルト。お元気でしたか?」
「ええ、セルリア。ご無事で何よりです」
「はい。あのふたりが送ってくれました。ところでお父様とお母様は?」
そこでラスバルトは少し表情を曇らせた。
セロリが不安そうにラスバルトの顔を見上げる。
「それが、今、ご静養でトナーク宮の方にいらしておりご不在なのです」
「え? 静養? どこかお悪いのですか?」
「はい。多少、政務にお疲れ、と云う程度ですが。落ち着いたらセルリアもトナーク宮の方へお連れしますよ」
ラスバルトはセロリに微笑みかける。
「それよりもセルリア、まずはお着替えを。久々に今夜の晩餐をお付き合いいただけますか?」
「ええ、喜んで」
セロリがうやうやしく礼をする。
サンタと羽衣の前ではついぞ見せたことのなかった完璧な礼である。
(あんなことが出来たんだ。さすがにお姫様だ)
「それから、ラスバルト、あのおふたりですが私をここまで連れて来てくださった恩人です。是非、ご一緒に」
「ああ、それはもちろん。あの者たちが遠慮でもしない限りは」
云いながらラスバルトがサンタと羽衣を見る目は、セロリに向けるのとはまったく異なる冷酷な光を宿していた。
セロリは、しかし、それにも気づいていない。
幼馴染の従叔父と久々に会った喜びとリステリアス宮に無事に戻って来たという安堵感が、彼女らしい冷静な観察眼を奪っているようだ。
「わかりました、ラスバルト。……では、サンタ、羽衣、後ほど」
今度はふたりに礼をする。
ラスバルトにしたのと同じような正式な礼である。
それから小走りにリステリアス宮の奥に消えて行った。
それを見送った後、ラスバルトが向き直る。
その顔には先ほどまでの穏やかな表情はない。
きっとかれらふたりをただの置物か何かくらいにしか思っていない、そんな表情であった。
「さて『運び屋』、ひとまずセルリア姫をここまで送り届けてくれたこと、礼を云いましょう。名前は?」
サンタは不愉快そうに眉をひそめた。
「人に名前を聞くときはまず自分が名乗るものだと、おかあちゃんに教わらなかったかい?」
騎士たちが、ぴくり、と緊張する。
サンタはそれを横目で見る。
羽衣も全身を緊張させた。
「確かに、それはおっしゃるとおりですね」
ラスバルトが騎士たちを手で制しながら答えた。
「私はラスバルト卿。セルリアの母、大公妃殿下の従弟。すなわちセルリアの従叔父。今は大公殿下に代わりこの国の政務を行っています」
「ラスバルト卿、か。おれはサンタ・ウイード。あんたの云ったように『運び屋』だ。こっちはナビゲータの羽衣」
「ミスター・ウイードとレディ羽衣。憶えておきましょう。ところであなたたちと少し話がしたい。お疲れのところ申し訳ありませんが、ぜひこの後、私の私室に。よろしいですね?」
もちろん『ノー』の選択肢はないのだろう。
有無を云わさぬ、と云う口調が癇に障るが、拒否して得になりそうな雰囲気でもない。
(それに聞いておきたいこともあるしな)
「ああ、いいだろう」
サンタは、あえて横柄に答えると、頷いた。
セロリが頬を膨らませた。
彼女には今の騎士とのやりとりは、当然、聞こえなかっただろう。
友好なやりとりの末、こうしてセロリの元に戻って来たと信じているに違いない。
つまり、そう云うことだ。
やはりリステリアス宮はこの一件に関係しているのだ。
アズナガが捕らえられたことで追っ手はセロリの追跡をあきらめて、このリステリアス宮で待ち伏せする作戦に変更した。
そしてその逃避行をサポートしていた何者か(それはサンタと羽衣だったのだが)もろともに、セロリを捕獲することにしたのだ。
セロリはまだ気づいていないようだがまんまとトラの口の中に飛び込んでしまった訳である。
(やはり黒幕は大公家か。しかし……)
それでもどこか腑に落ちない。
(何だかすっきりしない……。おれたちはうまくやったのか? それともドジを踏んだのか?)
サンタと羽衣はセロリの後に従うようにエントリー・ロードを歩いて行く。
先頭を歩くセロリは先ほどまでの緊張した表情とはかけ離れた笑顔である。
半分、スキップである。
鼻歌さえ歌っている。
「♪エントリー・ロード、テイク・ミー・ホーム、……」
(いや、それ、エントリー・ロードでなく、カントリー・ロードだろ?)
ツッコミを声に出すと騎士から何をされるかわからないので、ここだけは内心で呟いた。
その長いエントリー・ロードの突き当たり。
リステリアス宮の母城の入り口に一人の貴族然とした男が立って、三人をじっと見つめているのにサンタと羽衣は気がついた。
(貴族か? しかし、ただの貴族ではないな)
ふたりは周囲に気づかれないように全身を緊張させる。
その若い男から発せられる雰囲気がふたりにとってはひどく禍々しいものに感じられたからである。
しかし、セロリはそうではないようだ。
彼女はその男を見つけると、満面の笑みを浮かべてかれに向かって駆け出して行った。
「ラスバルト!」
(ラスバルト? なるほど、セロリの母方の従叔父(いとこおじ)にして、現在はリステル公国の政務をとりしきっていると云うラスバルト卿ってのが奴か?)
セロリはそのままその貴族に抱きついた。
「久しぶりです、ラスバルト。お元気でしたか?」
「ええ、セルリア。ご無事で何よりです」
「はい。あのふたりが送ってくれました。ところでお父様とお母様は?」
そこでラスバルトは少し表情を曇らせた。
セロリが不安そうにラスバルトの顔を見上げる。
「それが、今、ご静養でトナーク宮の方にいらしておりご不在なのです」
「え? 静養? どこかお悪いのですか?」
「はい。多少、政務にお疲れ、と云う程度ですが。落ち着いたらセルリアもトナーク宮の方へお連れしますよ」
ラスバルトはセロリに微笑みかける。
「それよりもセルリア、まずはお着替えを。久々に今夜の晩餐をお付き合いいただけますか?」
「ええ、喜んで」
セロリがうやうやしく礼をする。
サンタと羽衣の前ではついぞ見せたことのなかった完璧な礼である。
(あんなことが出来たんだ。さすがにお姫様だ)
「それから、ラスバルト、あのおふたりですが私をここまで連れて来てくださった恩人です。是非、ご一緒に」
「ああ、それはもちろん。あの者たちが遠慮でもしない限りは」
云いながらラスバルトがサンタと羽衣を見る目は、セロリに向けるのとはまったく異なる冷酷な光を宿していた。
セロリは、しかし、それにも気づいていない。
幼馴染の従叔父と久々に会った喜びとリステリアス宮に無事に戻って来たという安堵感が、彼女らしい冷静な観察眼を奪っているようだ。
「わかりました、ラスバルト。……では、サンタ、羽衣、後ほど」
今度はふたりに礼をする。
ラスバルトにしたのと同じような正式な礼である。
それから小走りにリステリアス宮の奥に消えて行った。
それを見送った後、ラスバルトが向き直る。
その顔には先ほどまでの穏やかな表情はない。
きっとかれらふたりをただの置物か何かくらいにしか思っていない、そんな表情であった。
「さて『運び屋』、ひとまずセルリア姫をここまで送り届けてくれたこと、礼を云いましょう。名前は?」
サンタは不愉快そうに眉をひそめた。
「人に名前を聞くときはまず自分が名乗るものだと、おかあちゃんに教わらなかったかい?」
騎士たちが、ぴくり、と緊張する。
サンタはそれを横目で見る。
羽衣も全身を緊張させた。
「確かに、それはおっしゃるとおりですね」
ラスバルトが騎士たちを手で制しながら答えた。
「私はラスバルト卿。セルリアの母、大公妃殿下の従弟。すなわちセルリアの従叔父。今は大公殿下に代わりこの国の政務を行っています」
「ラスバルト卿、か。おれはサンタ・ウイード。あんたの云ったように『運び屋』だ。こっちはナビゲータの羽衣」
「ミスター・ウイードとレディ羽衣。憶えておきましょう。ところであなたたちと少し話がしたい。お疲れのところ申し訳ありませんが、ぜひこの後、私の私室に。よろしいですね?」
もちろん『ノー』の選択肢はないのだろう。
有無を云わさぬ、と云う口調が癇に障るが、拒否して得になりそうな雰囲気でもない。
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「ああ、いいだろう」
サンタは、あえて横柄に答えると、頷いた。
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