星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

文字の大きさ
60 / 72
第12章 トラブル、トラブル、トラブル

(5)

しおりを挟む
「ああ、びっくりした。お父様は見た目が怖いのですからあんな登場の仕方をしないでください。ただでさえまだ戻ってきてから少ししかお会いしていないので、心の準備が出来ていないのです」

「心の準備……」
 モロク大公は茫然と呟いた。

 そのとき。

 部屋の扉が乱暴にノックされた。
「姫様? セルリア様? 何かございましたか?」
 控えの間の侍女長の声である。
 今の物音が外にも聞こえたようだった。

「だ、大丈夫です」
 セロリは慌てて答える。
「しかし何か物音と、それから『ふんが~』と云う声が」
 セロリはあきれ顔でモロク大公を睨みつける。
 大公は、ペロリ、と舌を出して、てへへ、と、笑いながら頭を掻いた。
 可愛くはない。むしろ不気味である。

「大丈夫です。あの声はラフィンが居眠りをして鼾をかいた声です。物音はそのあと寝ぼけて、テーブルに一本背負いをした音です」
「ええ? 姫様、それは……」
 抗議しようとするラフィンをセロリが手で制する。

 そんな言い訳でごまかせるだろうか?

「ああ、さようでございますか。わかりました、姫様。それから、ラフィン、あなたも姫様付きならば自覚を持ちなさい!」
「は、はい。申し訳ございません」
 落ち着きを取り戻したラフィンが反射的に答える。

(姫様、言い訳とは云え、鼾とか一本背負いとか、それはあんまりです。私はそんなに滅茶苦茶ではございませんのに)
 侍女長に答えながらも抗議の言葉をぐっと噛み殺すラフィンであった。

「まったく、最近の侍女はたるんでいて困ります」
 扉の向こうで侍女長がぶつくさ云うのが聞こえた。
 何とかごまかせたらしい。平和ボケのリスタル公国ならではである。
 セロリが、ほっ、と胸を撫で下ろした。

 イザベラ妃はマイペースの笑顔で侍女長の声が聞こえた入り口の扉を眺めている。
「ごまかせたみたいね。よかったわ。この城の使用人がお間抜けばかりで。でもそれはそれで心配ですけれどね。ところでセロリ……」
 イザベラ妃が、セロリの顔を覗き込んだ。
   
「泣いていたの?」
「ええ……。はい」と、セロリ。
「そう。あの『運び屋』さんたちのことね? 処刑される、とか聞きましたが?」
「はい、そうなのです。……お母様、ラスバルトの凶行を止めてください。このままでは私の恩人のおふたりが……」
「ええ、わかっていますよ。そのためにわざわざここまで来たのですから」
 イザベラ妃は愛おしそうにセロリの髪とネコ耳を撫でた。
 その優しい感触は久しぶりだな、と、セロリは目を閉じて身を任せる。

(ああ、そう云えば、サンタと羽衣もこんなふうに優しく撫でてくれたっけ)

 だからこそあのふたりを助けなければならないのだ。

「ところで、お母様。どうやってここまで? お父様とお母様はラスバルトによってトナーク宮に軟禁されていたのでは?」
「ええ。けれど、トナーク宮には私たちの味方になってくださる者が大勢いるの。その者たちが私たちをここまでつれて来てくれたのよ。トナーク宮にはもともとラスバルトのやり方に馴染めない者たちが集められていたのだし」
「協力者?」

 そのセロリの声にモロク大公が破壊した壁の穴から顔を出したのは、リステリアス宮の馬車守の喜助、御用馬車の馬車守の弥平次のふたりであった。
「そろそろ、わしらの出番かの?」
「わっしらがその協力者だ」
 喜助じいさんと弥平次じいさんが、へらへら、と笑って手を振る。
 緊張感のないじいさんたちである。

「この者たちは、トナーク宮の牢に監禁されていたのを忠義な侍女たちの働きで解放させて、こうしてここまで私たちを運ぶ役目をしてくれたのです」
「そうなんですね。ありがとう、喜助、弥平次」
 セロリは嬉しそうな笑顔を見せると、ふたりに抱きつこうとした。

 しかしふたりは揃って人差し指を立てると、ちっちっ、と舌打して、ラフィンを指差した。

「わしらはどちらかと云うと貧弱なボディの姫様でなく、そっちのオッパイ侍女殿に、こう、ハグされたいんじゃがのう」

 セロリは反射的に手近の花瓶をふたりに向かって投げつけたのだった。

  ***

「それで」と、気を取り直したセロリ。
「お母様、これからどうなさるおつもりですか?」

 それへ答えたのはどうやら娘の毒舌から立ち直ったモロク大公であった。
「まずはリステリアス宮にわしが戻ったことを知らしめす。と、同時にラスバルトから権限を剥奪せねばなるまい」
「しかし、それは簡単なことではないのでは?」
「少なくともわしがここに戻った、となれば、ラスバルトが今のように振舞うことはできない。あくまでかれはわしの代理で政務を執り行っていたのだからな」

 大公はセロリに向かって親指を立てて、ウインクして見せた。

「相変わらず、お父様のそう云う仕種は不気味ですね」
 にっこりと笑うセロリ。
 大公の顔が強張った。

「それで、お父様、ここに戻ったことを皆に知らせるのは、どのようにするおつもりですか? 大声で城中に触れ回る訳には行かないでしょうし」
「う、うむ……。それは、だな」
 口篭る。あまり考えがないらしい。

「つくづく考えのない方ですね、お父様」
 あきれたようにセロリが云う。
 大公が、また、しゅん、となって俯いた。

 その様子にイザベラ妃が、まあまあ、と、割って入る。
「もう、セルリア、あまりパパを苛めないであげて。そう云う行き当たりばったりなところはあなたもそっくりなんだから。本当に似た者親子よね?」

 今度はセロリがショックで固まった。
 結局、大公家で一番の毒舌家はイザベラ妃なのであった。

「でも、それは簡単なことではないかしら? だってこの城の中枢と云えば大公執務室しかないし、あそこに行けば宮殿中に即時で指示命令を出せる設備も整っているのですから、まずは大公執務室に入れば万事解決ですわ」

「おお」と、大公が感心したように唸った。
「その通りだ、イザベラ。さすが、我が最愛の妻」
「まあ、パパったら。最愛だなんて。私も、あ・い・し・て・る」

「あの、お父様、お母様、……そう云うのは夜までとっておいてくださいませんか?」
 うんざり顔のセロリ。

 それに向かってイザベラ妃は微笑する。
「セルリアったら、パパとママの夜の生活のことまで心配してくれるなんて、おませなことを云うようになったのね」
「そんな生々しい心配はしてません!」

 頬を染めて抗議するセロリの体を、イザベラ妃は自分に引き寄せてその耳許に囁いた。
「ところで、セロリ。あなた、あの『運び屋』さんが好きなんでしょ? パパに聞かれるとまた大騒ぎになりそうだけども……。で、どこまで行ったの? キスはしたの? それとももっと先まで? ママだけにこっそり教えて」
 セロリは顔中真っ赤にして慌ててかぶりを振った。
「な、な、何にもありません。そんなことよりも早く脱出して執務室まで行きましょう! 行動を起こしましょう!」
「まあ、初心なのね。じゃ、落ち着いたらゆっくり聞かせてね? うふふ」

 そしてイザベラ妃は、つとモロク大公に向き直る。
「さ、それではセルリアの云う通り行動に移しましょう。パパ、よろしく」
 満面の笑みでモロク大公を促すイザベラ妃。
 それを見るなりさながらパワーを充電されたかのように、モロク大公は全身に力を込めて気合を入れた。

「おお。久々の実戦、腕が鳴るぞ。じいさんたちも元は騎士であったな? 期待しておるぞ」

 その言葉にふたりのじいさんは膝をつき、正式な騎士の礼をする。
「仰せの通りに、モロク大公殿下。我らは常に殿下の御心のままに!」
 そう云う台詞だけは一丁前のじいさんズであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

錬金術師と銀髪の狂戦士

ろんど087
SF
連邦科学局を退所した若き天才科学者タイト。 「錬金術師」の異名をかれが、旅の護衛を依頼した傭兵は可愛らしい銀髪、ナイスバディの少女。 しかし彼女は「銀髪の狂戦士」の異名を持つ腕利きの傭兵……のはずなのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...