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〜番外編〜
『石田京介という男⑤』
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あれから数ヶ月が経った。娘も落ち着き、反論しなくなった。……しなくなったというより諦めたという方が正しいか。
時折、カナの担任である成宮茜に近況報告をしている。彼女はカナをとても心配しており、カナが透に依存していることに薄々勘付いている節があった。
それについては自分のせいでもあるので何とも言えないのだが……だが、最近のカナは友達も増えてとても楽しそうだと言われていた。
だから安心していた。今日、この日までは……
『私、松崎透さんと結婚します!』
とんでもないことを口走った。だって何もかもが間違っている。まず、カナが結婚する相手は鈴木春人だ。急にそんなことを言われたら婚約者だって――!と思っていたが、
『ねぇ。お父様、私……ずっと不満だったんです。私や春人くんの意思を無視して無理矢理婚約させようとしていることも腹が立ったし、私の好きな人を馬鹿にすることも許せなかった。よって私は鈴木春人と婚約破棄します!』
婚約破棄。その言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。まさかこんなことになるとは思わなかったのだ。しかも、相手もノリノリで婚約破棄を受け入れた。
もうどうしようもない状況に追い込まれてしまった。
「……何だこれ」
今まで思い通りの人生だった。欲しいものは何でも手に入った。金も地位も女も全て手に入れた。なのに何故だろう?今になって、人生で初めて挫折したような気がしてならない。
上手くいった……と思ったものは上手くいってなかった。そう思うと全てが虚しく感じた。そして――。
「………はっ」
バカバカしい。何もかもがもうどうでもよく見えてきた。
「は、春人!おま、お前どういうことだ!」
そんな男の声が聞こえてくるが、そんなもの今更気にする必要などない。京介はただ、ため息を吐いた。
△▼△▼
そして今、カナは完全に鈴木春人と婚約破棄をして透と愛し合っている。
そして透もまたカナと愛し合っている。つまり、これは共依存なのだ。お互いに依存し合うことでしか生きていけないようになっていった。
最初は茜とカナがお互いのことを公認し三人で付き合っていたが、いつの間にか、茜はこの家に来なくなった。原因なんて言わなくても分かってる。でも、京介は黙認することにした。
それに、カナのお陰で会社は更に大きくなった。だからもうどうでもよくなってしまった。実際、カナも透も幸せそうだし、これ以上自分が口を挟むのも野暮というものだろう。
それに――。
「………俺に何かを言う権利なんて、ない」
だから今日もまたこっそりため息を吐くことしか出来なかったのだった――。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回の話で京介編は終わりです。次回の話は和馬と春香の話をする予定です。
時折、カナの担任である成宮茜に近況報告をしている。彼女はカナをとても心配しており、カナが透に依存していることに薄々勘付いている節があった。
それについては自分のせいでもあるので何とも言えないのだが……だが、最近のカナは友達も増えてとても楽しそうだと言われていた。
だから安心していた。今日、この日までは……
『私、松崎透さんと結婚します!』
とんでもないことを口走った。だって何もかもが間違っている。まず、カナが結婚する相手は鈴木春人だ。急にそんなことを言われたら婚約者だって――!と思っていたが、
『ねぇ。お父様、私……ずっと不満だったんです。私や春人くんの意思を無視して無理矢理婚約させようとしていることも腹が立ったし、私の好きな人を馬鹿にすることも許せなかった。よって私は鈴木春人と婚約破棄します!』
婚約破棄。その言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。まさかこんなことになるとは思わなかったのだ。しかも、相手もノリノリで婚約破棄を受け入れた。
もうどうしようもない状況に追い込まれてしまった。
「……何だこれ」
今まで思い通りの人生だった。欲しいものは何でも手に入った。金も地位も女も全て手に入れた。なのに何故だろう?今になって、人生で初めて挫折したような気がしてならない。
上手くいった……と思ったものは上手くいってなかった。そう思うと全てが虚しく感じた。そして――。
「………はっ」
バカバカしい。何もかもがもうどうでもよく見えてきた。
「は、春人!おま、お前どういうことだ!」
そんな男の声が聞こえてくるが、そんなもの今更気にする必要などない。京介はただ、ため息を吐いた。
△▼△▼
そして今、カナは完全に鈴木春人と婚約破棄をして透と愛し合っている。
そして透もまたカナと愛し合っている。つまり、これは共依存なのだ。お互いに依存し合うことでしか生きていけないようになっていった。
最初は茜とカナがお互いのことを公認し三人で付き合っていたが、いつの間にか、茜はこの家に来なくなった。原因なんて言わなくても分かってる。でも、京介は黙認することにした。
それに、カナのお陰で会社は更に大きくなった。だからもうどうでもよくなってしまった。実際、カナも透も幸せそうだし、これ以上自分が口を挟むのも野暮というものだろう。
それに――。
「………俺に何かを言う権利なんて、ない」
だから今日もまたこっそりため息を吐くことしか出来なかったのだった――。
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今回の話で京介編は終わりです。次回の話は和馬と春香の話をする予定です。
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