【完結】お嬢様は納得できない!

花宮

文字の大きさ
11 / 34
一章 〜全ての始まり〜

十一話 『鈴木春香』

しおりを挟む
「(……春人)」


春香はため息を吐きながら双子の弟のことを考えていた。鈴木春人。春香の自慢の弟だ。春人はスポーツ万能、成績優秀、容姿端麗と自慢したくなるようなそんな弟だった。


そんな弟だった故、春香はその背中を追いかけることしか出来なかった。学力もスポーツも何もかも上で。


だから春香は別の観点から春人に勝とう、とそう思っていた。何もかも弟に劣られてはいけない、と思ってクラスでは明るく、そしてめげない女の子を演じてみせた。それはうまくいった。いち早く、春香はクラスの人気者になりクラスのムードメーカーになった。


初めは嬉しかった。こんな自分でもみんな人気者になれたのだ。嬉しくないわけがない。だけど…それは偽の『鈴木春香』だ。偽の自分は素の自分より好かれる。そしてやはり、みんな春人の方へと向く。自分なんかより春人がいいと。そう言ってくる気がした。


そんなとき、励ましてくれたのは和馬だった。和馬はどんな時も春香の味方をしてくれた。それが嬉しかったし、同時にそんな和馬をどんどん好きになっていくのを感じていた。


思い切って告白したら和馬は嬉しそうにうん、と首を縦にふってくれるものだからとても嬉しかった。


でも、その頃からだろうか?完全に春人と話さなくなったのは……正確に言えば春人が春香のことを避けたのだ。


初めは思春期だとそう思っていた。だけど、思春期という言葉は片付けられない程に春人は春香のことを嫌っていた。


そう気づいたときにはもうすでに遅く、春人は春香の距離を離し、完全に話さなくなった。


「…春香ちゃん!」


そんなことを思っていると、先生の声が聞こえてきた。


「茜先生。どうかしたんですか?」


成宮茜。春人と和馬の担任の先生だ。美人で頼り甲斐のある先生で春香も度々茜に相談するぐらいには頼りにしている先生だ。


「春香ちゃんの親が呼んでるわよ?春香はどこだって」



そんなことを思っていると、茜は酷くめんどくさそうにそういった。だが、それは春香も同じであった。


……春香が和馬と付き合って以来父親は学校に頻繁に電話をして来るのだ。これがまだ春香だけの問題なら全然いいのだが、今では学校全体の問題になる程だ。


「……春香ちゃんの親、過保護がやばすぎじゃない?いくら娘だからといって……」


「……私もそう思います」


春香がそう言うと、茜は深いため息を吐く。学校問題になったのも父親が授業中に電話を掛けてしまって、今は対応出来ないと春香が断ったところヘリコプターで学校に乗り込んでくる始末だったから。


あのときの春人の表情は呆れていたし、何処かほっとした表情をしていた気がする。


「(……まるで、あんな父親に執着されなくて本当によかったって思っているみたいに…)」


わかってしまうのは春香も同じ気持ちだからだ。仮に春香が春人の立場ならあんな表情をしていたと思うし。


「で、どうする?断ったら春香ちゃんのお父様……またヘリコプターで乗り込んでくるかもよ?」


脅迫じみた言葉だが嘘ではないし、春香もそれを危惧していた。だから春香はため息混じりに茜にこう言った。


「……今日は出ますよ。また学校に乗り込んできたらたまらないですから!」


そう言って春香は意を決して父親の電話へと出たが、出てすぐに後悔した。なにせ、父親の話はどうでも良い話が多く、今すぐ切ってしまおうか、とすら思った。しかし、父親は不意に春香にこう言った。


『……春人と変わってくれないか』と、そう言った。春香は一瞬自分の耳を疑った。あの父親が春人に変わってくれないか、と言う日が来るとは思ってもみなかったからだ。


「わ、わかった!探してくる!」


そう言って春香は春人を探し始めた。ーーこんな日が来るとは思っていなかった、と心の中で呟きながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「春人!」


大嫌いな人の声が聞こえて来る。また、か。とうんざりした。学校では春人から話しかけることはほとんどない。あったとするなら和馬関連だけだ。


「お父様が!あんたに用があるんだって!」


思わず、足を止めて春人の方を見る。…嘘をついているようには見えない。元々、嘘をつく奴ではなかったが。だけど……


「はは。それで信じられるとでも?」


あの父親が。こんな自分に用があるだなんて信じられない。父親は電話に断られたぐらいで学校にヘリコプターで乗り込んでくるぐらい春香を溺愛しているのだ。


「(それにあのときは安心したし)」


『あんな父親に執着されなくて本当に良かった』と、心の底からそう思ったし、父親が大嫌いな人から憐れな人に変わったのもそれからだ。


「と、とにかく!本当だから……!信じて!私嘘言えるタイプの人間ではないて春人なら分かってるでしょ!?」


必死に春香は懇願してきた。頭を下げて。何故、そこまでして自分に電話に出てほしいのだろう?怒られるのも自分だというのに。

「俺が電話に出なくても春香は叱られるわけではねーだろ?叱られるのは俺だけだ。なのに……何で……そんなに必死になってるんだ?」


「そ、それは……」


春人の疑問に春香は視線を彷徨わせていたが、やがて観念したようにポツリと春人にこう言った。


「か、和馬が春人とお父さんのこと心配していたし、私も心配だったから……」


………和馬が?春人は思わず春香の方に視線を向けるが、春香は視線を春人の方に決して合わせなかった。


「……そう。和馬が……」


…幼馴染である彼を傷つけてしまうのは癪だし、何より和馬と春香が自分のせいで心配になっているのはとてつもなく嫌だ。特に春香に関しては。

心配されるぐらいなら嘲笑ってくれた方が心も体も楽だ。春人はそう思いながら春香に向かってこう言った。


「……分かった。職員室だろ?」


「うん!そう!」


途端に春香の顔は輝いたが、春人は見ないふりをしてながら職員室に向かった。職員室に向かうと、茜と目が合う。まるで早く出ろ、とでも言いたげに。


「…そんな表情しなくたってちゃんと電話に出ますよ」


春人はそう言って職員室前にあった受話器を持ち父親に向かってこう言った。


「何か用ですか?」


父親は春香といるときには想像がつかないような声で春人にこう言った。


『春人。お前に婚約者が出来た』


「は?」


春人はこの男が言っていることが全く分からなかった。この男は急に何を言っているのだろう?婚約者?


「な、何で……」


もう少し遊びたかったというのに。何故今なのだろうか?


『何でかって……?お前は、女と遊びにばかり行っているだろ?そろそろ婚約者の一人ぐらいないとその行為も収まらないと思ってな』


……その答えに春人は心の中で笑った。どうせ、婚約者の一人や二人いようが関係ないというのに。


『婚約パーティーには来てもらうぞ!』


そう言って父親は電話を切った。……初めから春人の返事なんぞ聞くつもりはなかったのだろう。昔からそうだ。


春香のことを溺愛していても春香にはうざがられているし(自業自得と言えばそうなのだが)春人は放置気味で育てた癖に婚約者だとかそんなことを言ってくるし。そんな父親の身勝手さに笑えてくる。元々、春香に嫌気がさしたのも父親が原因だったし。


「はっ。本当に笑えない。あんな父親に期待した俺って馬鹿だな……」


少しだけ期待していた。父親が春香と同じように春人のことを少しだけでも見てくれるのではないか、と。しかし、蓋を開けてみたら春人が望んでもいない婚約者のことを言われたのだ。笑うしかないに決まっている。


「婚約パーティーねぇ」


めんどくさい、と思いつつ春人は教室へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...