当て馬ポジションに転生してしまった件について

花宮

文字の大きさ
38 / 98
三章〜出会いと別れ〜

三十八話 『素直な気持ち』

しおりを挟む
どうしてここに……?てゆうか、この人どうやって…入ってきたの?この前はお父様と許可出したらしいから入れたっぽい感じだったのに……。


「不法侵入じゃない」


「不法侵入じゃないわ。ちゃんと貴方達のお父様とお母様には許可を得たから」


花音さんの言葉に対して、香織様は堂々とそう言った。今度もお父様とお母様に許可を取ったのか。とゆうか、あの二人いないと思ったら……!


「あら、残念ね。もう少しで悠真の本音が聞けたところなのに。まあ、でも丁度いいわ。私がこの手で殺してあげる。私の方が優れているということを証明してあげる」


「殺す?……殺せると思っているの?私を?……ふふっ」


香織様は嘲笑うかのように笑った。
花音さんは、自信満々に笑みを浮かべている。
二人の間に火花が見えるような気がするのは、多分気の所為ではない。
そして


「ええ、殺すわ。望むなら今ここで」


と、花音さんが言った瞬間、二人は戦闘態勢に入った。
花音さんは右手にナイフを持ち、左手にスタンガンを持っている。
対する香織様は、何も持ってなかった。武器を持っていない。素手だ。


「あら、武器を使わないの?私には武器を使う必要がないということかしら?」


「そうよ。私は武器を使わなくても強いもの」


「……馬鹿にして!なら、これでどうかしら!」


花音さんはそう言って、香織様に向かって走り出し、スタンガンを当てようとした。しかし、その攻撃は簡単に避けられてしまった。


「なっ!?」


花音さんは驚愕の表情を見せた。まさか避けれるとは思っていなかったようだ。


「……ほら、どうしたの?早く次を仕掛けてきなさいよ」


「ぐっ!」


花音さんは苛立ちながら、もう一度攻撃を仕掛ける。今度は、先程よりも素早く、鋭い攻撃を繰り出したが、また避けられてしまう。


「なんで……なんで当たらないのよ!」


花音さんの叫び声が部屋に響く。彼女は、怒りを露にしながら何度も何度も攻撃を仕掛けるが、全て避けられてしまっている。
まるで花音さんの全ての動きを読んでいるかのような完璧な回避だ。


「こんなものなの?」


「う、うるさい!」


花音さんは更にスピードを上げ、連続で攻撃を繰り出す。
だが、それでも香織様は全ての攻撃を避け続ける。


「くそ!くそ!くそ!死ね!死ね!死ねえぇ!!」


花音さんは狂ったように叫ぶ。その姿はもう正気を失っているように見えた。完全に我を忘れている。


……目の前で繰り広げられる光景が怖すぎて、私の体は震えていた。
このままじゃ本当に香織様、殺されちゃうかも……どうしよう……。


私がそんなことを考えていた時だった。お兄様が急に立ち上がり、花音さんが持っていたナイフとスタンガンを取り上げて、


「これ以上はもう辞めろ、花音」


「うるさい!あの女が死んで悲しむのが嫌だからそんなこと言ってるんでしょ?でもね!!そんなこと関係ない!!あの女が死んだ方が私にとっての幸せなんだから!」


花音さんは、狂気じみた目で叫んだ。
お兄様は何も言わない。ただ黙って俯いているだけだ。お兄様はきっと、心の中では香織様のことを大切に思っているはずなのだ。


どうでもいいって言うのは嘘だ。だってここ半年の間お兄様ってば香織様のこと話すとき、楽しそうな顔していたし。それこそ、華鈴様が諦めたくらいだし。まぁ、私が何度言ってもお兄様は認めてくれなかったけど。


でも――、


「……ああ、そうだ。俺は九条のことが大切だよ。……俺は、あいつが死ぬのを見たくない」


お兄様はそう呟いた。その言葉を聞いた瞬間、私の胸は昂ってゆく。お兄様はようやく自分の気持ちに正直になったのだ。


「………そう」


先まで興奮し、暴れていた花音さんだったが、お兄様の言葉を聞いて冷静さを取り戻したのか、静かにそう言った。


「……ゆ、悠真くん……?」


「九条…ごめんな。俺、ずっと前からお前の気持ちに気づいてたんだ。だけど、それに向き合おうとしなかった。……臆病者なんだ、俺は」


「……」


お兄様は申し訳なさそうに言った。香織様は何とも言えない表情をしている。てゆうか、今この状況で告白するとか凄いなお兄様……いくら花音さんが冷静さを取り戻しても、まだ戦闘中なのに……。


でも、二人の会話を邪魔するつもりはなかった。皆黙って二人を見守っている。
そして二人は見つめ合う形になる。……てゆうか、花音さんはいいのだろうか?     


「……つまんない」


沈黙を破ったのは花音さんだった。彼女は不機嫌な様子で舌打ちをして玄関の方へ歩き出す。


「花音さん!?どこ行くんですか!?」


「帰るに決まってるじゃない。あんな茶番見せられてたら、やる気無くすに決まっているでしょう?」


そう言い残して、花音さんは部屋から出て行った。茶番……か。確かにそうかもしれない。だってみんな気づいていたもの。二人が両思いなことに。


まぁ、王子の妨害のせいで上手くはいかなかったみたいだけれど。ようやく、二人は本当の意味で結ばれた。そして二人は幸せになって欲しいと私は思う。


「……好きだ。九条……いや!香織!俺はお前のことが大好きです!だから……付き合ってください!」


お兄様は顔を真っ赤にしてそう言った。香織様の顔も赤く染まっている。この二人、完全に自分の世界に入っていて周りが見えていない。 


花音さんのことも忘れているんじゃないだろうか? しばらくの静寂の後、香織様は口を開いた。
彼女の答えはもちろん、


「はい!私も悠真君のことが好きです!これからよろしくお願いします!」


乙女のように、満面の笑みを浮かべながら彼女は返事をした。完璧な彼女と完璧な彼氏だ。……うん、お似合いだと思う。


しかし、まだ問題はある。王子のことだ。彼はどうするのだろう?失恋したことを受け入れるのかな……?後、華鈴様のこともあるし。


華鈴様は諦めムードになっているけど、王子は全く諦めてないと思うし……香織様は問題は無いと思うけど王子の方は大丈夫なのだろうか?でも、まあ……


「おめでとうございます。お兄様に香織様」


今はとりあえず、お祝いの言葉を言うべきだと思った。だって、これは喜ばしい出来事なのだから。王子のことや、華鈴様のことも花音さんのことも後になって考えればいい話だ。


今はただ、目の前で愛し合っている二人を見て、素直に祝福したい。私は心の底からそう思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一
恋愛
織原朔真16歳は人前で話せない。息が詰まり、頭が真っ白になる。そんな悩みを抱えていたある日、妹の織原萌にVチューバーになって喋る練習をしたらどうかと持ち掛けられた。 織原朔真の扮するキャラクター、エドヴァルド・ブレインは次第に人気を博していく。そんな中、チャンネル登録者数が1桁の時から応援してくれていた視聴者が、織原朔真と同じ高校に通う国民的アイドル、椎名町45に属する音咲華多莉だったことに気が付く。 彼女に自分がエドヴァルドだとバレたら落胆させてしまうかもしれない。彼女には勿論、学校の生徒達や視聴者達に自分の正体がバレないよう、Vチューバー活動をするのだが、織原朔真は自分の中に異変を感じる。 ネットの中だけの人格であるエドヴァルドが現実世界にも顔を覗かせ始めたのだ。 学校とアルバイトだけの生活から一変、視聴者や同じVチューバー達との交流、eスポーツを経て変わっていく自分の心情や価値観。 これは織原朔真や彼に関わる者達が成長していく物語である。 カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...