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四章 〜原作突入〜
七十二話 『不思議な夢と修羅場回避』
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――夢を見た。ずいぶん久しぶりの夢を見ている。また『貴方に花束を』の原作を読める!と喜んだのも束の間だった。
『ひっぐ……ひっぐ……どうして……なんで……こんなことにぃ……!』
誰かが泣いている。その泣き声を聞いた途端、頭が割れるように痛くなる。この人は誰だ?なぜ泣いているの?顔も名前も分からない。
でも、何故か愛おしい人だと感じるのだ。分からないけど分かる。私にとってかけがえのない大切な存在だということは理解できた。
私は目の前にいる女の子に手を伸ばす。しかし私の手が届く前にその子の姿が消えてしまう。待って、行かないで!そう叫ぶけれど届かない。
『ねぇ、何で私を置いて行くの!?』
分からない。誰に向かって叫んでいるのか自分でも分からない。ただ漠然とした不安だけが胸の中で渦巻いていた。
「貴方は、誰なの?」
そんな声に反応するかのように、意識が浮上していく感覚があった。
△▼△▼
目が覚めるとそこは見慣れた自分の部屋だった。窓から差し込む光を見る限り今は朝だろう。カーテン越しに差し込む光が眩しくて思わず目を細めた。
「何だったの……今の……」
妙な夢を見たせいか寝汗をかいていたようで身体中べっとりしている。不快さに顔をしかめながらベッドから起き上がる。
まだ頭の中にモヤがかかったような感じがする。いつもの頭痛とは違う痛みだ。頭を触ると濡れた感触がある。どうやら冷や汗をかいていたようだ。
『貴方に花束を』の詳細を知りたかっただけなのに、変な夢をみてしまったものだ。私は小さく溜息をつくと洗面所に向かった。
冷たい水で顔を洗い鏡を見ると少しすっきりとした気分になった。タオルで軽く拭いて再び鏡を見てみる。そこにはいつも通りの自分が映っていた。
城ヶ崎透華の容姿は美しく、そして誰もが目を引く美貌の持ち主である。絹のような黒髪は長く、艶やかな輝きを放っていた。
肌の色も白く、綺麗なものだし、スタイルだって抜群だ。出るところはしっかり出ている。モデル体型という奴だ。
本当、透華って悪役要素を取り除くと、完璧美少女だよなぁ……漫画だと悪役だから性格悪いし。
「まあ、今は違うけど」
原作が始まったばかりなんだ。あんなヘンテコな夢に惑わされている場合じゃない。さっさと忘れよう。
気持ちを切り替えようと両手で頬を叩き気合いを入れる。よしっと意気込んでいると、
「あら。おはよう。透華」
「透華、おはよう」
お母様とお父様に声を掛けられた。二人共既に身支度を整えていて、朝食を食べようとしていたみたいだ。
「今日は仕事の都合で早めに出なくちゃいけないんだ」
仕事……お父様とお母様の仕事って知らないんだよな…漫画じゃそんな掘り下げなかったし。
「そうなんですね。行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくるよ。お前も遅れないように学校に行くようにな」
「はい。分かりました」
お父様達は慌ただしく家を出て行った。残された私は一人寂しくご飯を食べることになった。お兄様は今日は朝が早く、もう学校に行っているらしい。残念なことだが仕方ない。
食事を終えた後、制服を着て鞄を持って玄関に向かう。靴を履いて外に出て学校に行こうとすると、後ろから呼び止められる声が聞こえてきた。振り返るとそこに居たのは――。
「あら。昨日の……」
「はい。花咲柚葉です。おはようございます。城ヶ崎さん!一緒に登校してもいいですか!?」
キラキラした瞳でこちらを見つめてくる彼女に思わず苦笑いしてしまう。犬のように尻尾を振る幻覚が見える気がする……この子、こんなキャラだったかな?昨日会った時はもっとこうお淑やかっていう印象だったんだけど……
「別に構わないけれど……」
「ありがとうございます!」
彼女は嬉しそうに微笑むと私の横に並んで歩き出した。……しかも腕まで組んでくる始末だ。
え?なんで?どうして急にこんな積極的な態度になってんのこの人? 困惑する私を他所に彼女は楽しげに鼻歌を歌いながら歩いていく。まるでスキップでもしているかのような足取りだった。
たわいもないことを話しながら歩いているとあっという間に校門が見えて来た。幸いなことに美月さんにも佐川にも美穂ちゃんにも華鈴様達とも会わずに済んだ。
ほっとしていると、
「城ヶ崎さん。お昼一緒に食べませんか?」
「え……?か、構わないけど…」
今日は美月さんも佐川も華鈴様も昼休みは用事があるらしいので、一人で食べる予定だったのだ。断る理由もないので了承すると、彼女の顔がぱーっと明るくなった。
「約束ですよ?」
そう言って笑う花咲さんの顔はとても可愛かった。思わずドキッとしてしまったのは内緒である。
△▼△▼
花咲さんと別れ、教室に入ると――、
「うるせーな!いらねーって言っただろ!!」
王子の怒鳴り声が響いていた。また緑川が王子にちょっかいを出したのだろうか……ったく。懲りないやつだなぁ……
「も、申し訳ありません…」
緑川の声が震えている。これは相当怖がっているようだ。そんなに怖がっているなら最初からやらなければいいのに。まぁ、何があったのかは大体想像つくけど。
そう思いながら私は席についた。
『ひっぐ……ひっぐ……どうして……なんで……こんなことにぃ……!』
誰かが泣いている。その泣き声を聞いた途端、頭が割れるように痛くなる。この人は誰だ?なぜ泣いているの?顔も名前も分からない。
でも、何故か愛おしい人だと感じるのだ。分からないけど分かる。私にとってかけがえのない大切な存在だということは理解できた。
私は目の前にいる女の子に手を伸ばす。しかし私の手が届く前にその子の姿が消えてしまう。待って、行かないで!そう叫ぶけれど届かない。
『ねぇ、何で私を置いて行くの!?』
分からない。誰に向かって叫んでいるのか自分でも分からない。ただ漠然とした不安だけが胸の中で渦巻いていた。
「貴方は、誰なの?」
そんな声に反応するかのように、意識が浮上していく感覚があった。
△▼△▼
目が覚めるとそこは見慣れた自分の部屋だった。窓から差し込む光を見る限り今は朝だろう。カーテン越しに差し込む光が眩しくて思わず目を細めた。
「何だったの……今の……」
妙な夢を見たせいか寝汗をかいていたようで身体中べっとりしている。不快さに顔をしかめながらベッドから起き上がる。
まだ頭の中にモヤがかかったような感じがする。いつもの頭痛とは違う痛みだ。頭を触ると濡れた感触がある。どうやら冷や汗をかいていたようだ。
『貴方に花束を』の詳細を知りたかっただけなのに、変な夢をみてしまったものだ。私は小さく溜息をつくと洗面所に向かった。
冷たい水で顔を洗い鏡を見ると少しすっきりとした気分になった。タオルで軽く拭いて再び鏡を見てみる。そこにはいつも通りの自分が映っていた。
城ヶ崎透華の容姿は美しく、そして誰もが目を引く美貌の持ち主である。絹のような黒髪は長く、艶やかな輝きを放っていた。
肌の色も白く、綺麗なものだし、スタイルだって抜群だ。出るところはしっかり出ている。モデル体型という奴だ。
本当、透華って悪役要素を取り除くと、完璧美少女だよなぁ……漫画だと悪役だから性格悪いし。
「まあ、今は違うけど」
原作が始まったばかりなんだ。あんなヘンテコな夢に惑わされている場合じゃない。さっさと忘れよう。
気持ちを切り替えようと両手で頬を叩き気合いを入れる。よしっと意気込んでいると、
「あら。おはよう。透華」
「透華、おはよう」
お母様とお父様に声を掛けられた。二人共既に身支度を整えていて、朝食を食べようとしていたみたいだ。
「今日は仕事の都合で早めに出なくちゃいけないんだ」
仕事……お父様とお母様の仕事って知らないんだよな…漫画じゃそんな掘り下げなかったし。
「そうなんですね。行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくるよ。お前も遅れないように学校に行くようにな」
「はい。分かりました」
お父様達は慌ただしく家を出て行った。残された私は一人寂しくご飯を食べることになった。お兄様は今日は朝が早く、もう学校に行っているらしい。残念なことだが仕方ない。
食事を終えた後、制服を着て鞄を持って玄関に向かう。靴を履いて外に出て学校に行こうとすると、後ろから呼び止められる声が聞こえてきた。振り返るとそこに居たのは――。
「あら。昨日の……」
「はい。花咲柚葉です。おはようございます。城ヶ崎さん!一緒に登校してもいいですか!?」
キラキラした瞳でこちらを見つめてくる彼女に思わず苦笑いしてしまう。犬のように尻尾を振る幻覚が見える気がする……この子、こんなキャラだったかな?昨日会った時はもっとこうお淑やかっていう印象だったんだけど……
「別に構わないけれど……」
「ありがとうございます!」
彼女は嬉しそうに微笑むと私の横に並んで歩き出した。……しかも腕まで組んでくる始末だ。
え?なんで?どうして急にこんな積極的な態度になってんのこの人? 困惑する私を他所に彼女は楽しげに鼻歌を歌いながら歩いていく。まるでスキップでもしているかのような足取りだった。
たわいもないことを話しながら歩いているとあっという間に校門が見えて来た。幸いなことに美月さんにも佐川にも美穂ちゃんにも華鈴様達とも会わずに済んだ。
ほっとしていると、
「城ヶ崎さん。お昼一緒に食べませんか?」
「え……?か、構わないけど…」
今日は美月さんも佐川も華鈴様も昼休みは用事があるらしいので、一人で食べる予定だったのだ。断る理由もないので了承すると、彼女の顔がぱーっと明るくなった。
「約束ですよ?」
そう言って笑う花咲さんの顔はとても可愛かった。思わずドキッとしてしまったのは内緒である。
△▼△▼
花咲さんと別れ、教室に入ると――、
「うるせーな!いらねーって言っただろ!!」
王子の怒鳴り声が響いていた。また緑川が王子にちょっかいを出したのだろうか……ったく。懲りないやつだなぁ……
「も、申し訳ありません…」
緑川の声が震えている。これは相当怖がっているようだ。そんなに怖がっているなら最初からやらなければいいのに。まぁ、何があったのかは大体想像つくけど。
そう思いながら私は席についた。
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