39 / 73
蒼の魔法士-本編-
Seg 38 清か彩かと遙けし声 -01-
しおりを挟む
叫んだ拍子に熱気を思いきり吸い込んでしまったユウ。むせて咳を繰り返すその頭にポンッと細くしなやかな手が置かれる。
「無理はするものじゃないよ。ここは少し息がしづらいから気を付けて」
初めて聞いた、優しい言葉。
衝撃を受けたのは、ユウ一人ではなかった。
「な……なっ……!?」
わなわなと身も声も震わせている人物が約一名。
「なんやのんっ! ミサギどんとは思えぬ優しい発言っ!」
約一名は喚く。一緒にいた時間は、長いとは言えないが、それでも出会ってから一度も聞いたことのない言葉だ。
にわかに信じることができず、一つの仮定が脳裏に浮かぶ。
「さては偽物か! 偽ミサギどんかっ!」
「……」
無言で見返したミサギ。
その白眼視たるや。
灼熱地獄の中で、みっちゃんとユウは駆け巡る寒気に身震いした。
「……ミシェル殿、ミサギ様は本物のミサギ様です」
「…………知っとる……今、確信したわ」
木戸とみっちゃんが確信した時には、二人は既にミサギの不機嫌の犠牲になっていた。
「僕から離れないで。死にたくないなら、ね」
彼は木戸に何やら指示を告げ、ユウに背を向けた。
その背中は木戸よりも小さく、長い銀髪が揺らめき、華奢な体つきだったが、ここにいる誰よりも凛として強く見えた。
「失礼します」
「……うわ!?」
木戸はユウに抱きかかえられた。
「ミサギ様のご指示です」
勝手に動き回るなという事なのだろう。ユウはおとなしくした。
ェエーラーリアァー……
サルがミサギを見上げ、妖しい旋律を漏らして牙を剥く。
その後に聞こえる唸り声が、耳にした者の身を揺るがし血を震わせ、本能的に耳を塞がせる。
そんな中、ミサギだけは平然とサルを見下す。
「うるさいなあ。君、さっきまで犬コロと遊んでただろ? 勝手に相手を変えないでくれるか?」
彼の言葉はアヤカシに通じているのか。
巨大なサルは急に吠えるのを止め、ミサギをじっと睨む。
と、ミサギは小馬鹿にしたように笑った。
「グルォアアアアア!」
触発されたアヤカシがミサギに攻撃を仕掛けた。叩きつけるように手を振り下ろし、鋭い爪で彼を引き裂こうとする。
風圧が彼の髪を激しくあおり、アヤカシの凶爪が迫る。
ミサギは微動だにせず、小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「何だいソレ。攻撃のつもり?」
「ミサギさん――!」
ユウの叫びが空に響く。
ッズウゥン
重たい地鳴りとともに、アヤカシの手は大きく弾かれた。
「グルォオ……?」
アヤカシが自らの手を見る。いや、既にアヤカシのそれではなくなっていた。
寄せ集められた花びらが手の形を模し、はらはらと解けるように崩壊していく。
その様子を見て、意地悪そうに微笑むミサギ。
「どうした? 君の手はどこにいったんだい?」
「ウグォアアアア」
ミサギに挑発され、興奮するままに残る片手を振り回しはじめた。
目標も定めず闇雲に繰り出される攻撃は、ことごとく空振りし、まぐれも奇跡もなかった。
直情径行な攻撃に、ミサギはムッとする。何をするかと思えば、彼は矢庭に片手を伸ばす。繊美な片手は、アヤカシの振り回す巨大な指を掴んで、いとも簡単に動きを止めてしまった。
『ええぇぇえええ!?』
突然の光景にユウどころか、みっちゃんまでも間抜けな声を上げる。
「無理はするものじゃないよ。ここは少し息がしづらいから気を付けて」
初めて聞いた、優しい言葉。
衝撃を受けたのは、ユウ一人ではなかった。
「な……なっ……!?」
わなわなと身も声も震わせている人物が約一名。
「なんやのんっ! ミサギどんとは思えぬ優しい発言っ!」
約一名は喚く。一緒にいた時間は、長いとは言えないが、それでも出会ってから一度も聞いたことのない言葉だ。
にわかに信じることができず、一つの仮定が脳裏に浮かぶ。
「さては偽物か! 偽ミサギどんかっ!」
「……」
無言で見返したミサギ。
その白眼視たるや。
灼熱地獄の中で、みっちゃんとユウは駆け巡る寒気に身震いした。
「……ミシェル殿、ミサギ様は本物のミサギ様です」
「…………知っとる……今、確信したわ」
木戸とみっちゃんが確信した時には、二人は既にミサギの不機嫌の犠牲になっていた。
「僕から離れないで。死にたくないなら、ね」
彼は木戸に何やら指示を告げ、ユウに背を向けた。
その背中は木戸よりも小さく、長い銀髪が揺らめき、華奢な体つきだったが、ここにいる誰よりも凛として強く見えた。
「失礼します」
「……うわ!?」
木戸はユウに抱きかかえられた。
「ミサギ様のご指示です」
勝手に動き回るなという事なのだろう。ユウはおとなしくした。
ェエーラーリアァー……
サルがミサギを見上げ、妖しい旋律を漏らして牙を剥く。
その後に聞こえる唸り声が、耳にした者の身を揺るがし血を震わせ、本能的に耳を塞がせる。
そんな中、ミサギだけは平然とサルを見下す。
「うるさいなあ。君、さっきまで犬コロと遊んでただろ? 勝手に相手を変えないでくれるか?」
彼の言葉はアヤカシに通じているのか。
巨大なサルは急に吠えるのを止め、ミサギをじっと睨む。
と、ミサギは小馬鹿にしたように笑った。
「グルォアアアアア!」
触発されたアヤカシがミサギに攻撃を仕掛けた。叩きつけるように手を振り下ろし、鋭い爪で彼を引き裂こうとする。
風圧が彼の髪を激しくあおり、アヤカシの凶爪が迫る。
ミサギは微動だにせず、小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「何だいソレ。攻撃のつもり?」
「ミサギさん――!」
ユウの叫びが空に響く。
ッズウゥン
重たい地鳴りとともに、アヤカシの手は大きく弾かれた。
「グルォオ……?」
アヤカシが自らの手を見る。いや、既にアヤカシのそれではなくなっていた。
寄せ集められた花びらが手の形を模し、はらはらと解けるように崩壊していく。
その様子を見て、意地悪そうに微笑むミサギ。
「どうした? 君の手はどこにいったんだい?」
「ウグォアアアア」
ミサギに挑発され、興奮するままに残る片手を振り回しはじめた。
目標も定めず闇雲に繰り出される攻撃は、ことごとく空振りし、まぐれも奇跡もなかった。
直情径行な攻撃に、ミサギはムッとする。何をするかと思えば、彼は矢庭に片手を伸ばす。繊美な片手は、アヤカシの振り回す巨大な指を掴んで、いとも簡単に動きを止めてしまった。
『ええぇぇえええ!?』
突然の光景にユウどころか、みっちゃんまでも間抜けな声を上げる。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる