MaxVoltage

reiji

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入部

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「えー、みなさん、こんにちはー!」
見た目からは想像できない大きな声が部室中に響きわたる。部長は今回入部した30人、そして2,3年生の8人を前に話し始めた。
「いまから、新入生たちにそれぞれどの楽器をしたいか体験しながら決めてもらいたいと思います。えー、予想を遥かに超える人数が入部してるので全員分の楽器を部室にしまえるかは謎ですが、とりあえず今はみんなの興味のある楽器のパートのところへ集まってください。」
そういうと、部長は黒板にチョークで大まかに部室と外の廊下の図を描きそこに、ドラム、ベース、ギター、ボーカル、キーボードとそれぞれ名前を場所場所に書いた。
新入生たちは思い思いにその場所へ散ってゆく。

「彼」はギターの場所に集まっていた。ギター志望者は予想通り一番多かった。30人中半分はギターを選択した。部長はそれを見込んでギターは廊下に集まることになっていた。
「申し訳ないけどギター人数分ないから二人で一つ使ってください。」
部長の指示に新入生は素直に従って二人一組のグループをつくった。みんなほぼ初対面なのでよそよそしかったが、ギターが配られるとギターに対しての視線は熱かった。どうせ初対面の相手と話すのも嫌だったからちょうどいいってのもあった。
彼も真っ赤なストラトギターに胸を踊らせた。だが、それ以上に気になることもあった。ペアになった彼女。
彼の中では今までみたことのないぐらいの美人だった。
「ねえねえ、君名前は?」
ふいに声をかけられて言葉がでない。
「わたしは、石田楓。よろしくね。」
正直、興味本位で今いる新入生はギターより彼女に興味が湧いているだろう。
ヴぁーヴぁーヴぁーヴぁヴぁヴぁ
変なリズムの歪んだメロディーが聴こえる。部長が茶色のストラトギターをアンプに繋げてリフを刻んでいる。変態的なメロディーだった。部長はただ無言でひたすら弾いている。新入生は皆それに魅了さた。彼と石田楓も同様だった。
「レイジだよ。」
部長は独り言のように言った。
「社会に対して抱く怒りをぶつけてる。そういうバンドさ。」
社会に対する怒り。そんなこと考えたことがなかった。それはここにいる新入生誰しもがそうだった。身近なちょっとしたことにムカついたりすることは多々ある。だけど、自分達が生活している社会に何かを思うことはない。
「ロックってのはそういうもんだろ。」
部長は吐き捨てるように言った。今度は明確に誰かに向かって言っているように聞こえた。
彼にはその言葉がなぜか刺さった。
「怒りって、自ら奮い立たせないと生まれない感情なんだ。」
「え?」
部長の言葉に彼は聞き返した。
「自分の魂を燃やさない限り生まれない。燃やさないといけない。ぼくはそれが役割だと思っている。」
部長が何かを伝えようとしている。うまく言葉にできないのだろうけど、何か心をえぐる何かが部長の中にあることはわかった。
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