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1.結婚相手は辺境伯

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 当然のことながら、顔もみたことはなかった。
 私の婚約者。
 私の結婚相手。
 私は嫁ぐ先の男の人。

 辺境伯という大領主で、隣国の交易などで豊かな領地だと聞いている。

「ねえ、お母様、私の殿方となる方はどのような方なのですか?」

 と、訊いてみたことはもう数知れず。

「ファルネール、貴女は何度もそれを訊きますね」

 お母様は、笑いながら私に言った。

「でも……」

「それはもう、素敵で優しくで、堂々とした貴族で、王国でも将来を有望視されている逸材ですよ。若くして広大な領土をきちんと治め、交易でも手腕を発揮しています」

「そうですか」

 それは毎回同じような答えだった。
 素敵っていっても、どんな風に素敵なのか?
 背は高いのだろうか?
 ああやっぱり、高いほうがいいかな。でも、低くてもそんな気にしない。
 堂々としているって、もしかして「太っている」の良い言い方かも?
 でも、どうだろう。別に太っているからといって嫌でもない。

 一番不安なのは、どんな性格をしているかということかな。

 私の家は「都市貴族」で、いろいろな商品を取り扱っている半分商人みたいなものだ。
 でも、王国の方で父のような有力商人を貴族にするということが進んでいる。 
 お父様は「まあ、王国に繋いで、どこかに行かないようにするためだろ」と笑っていました。
 貴族とか、そんなことは気にしていないのでしょう。
 で、私自信ももあまり貴族となったという感じはなく、まさか結婚相手が大領主の「辺境伯」になるとは思っていなかったのです。

 言ってしまえば、政略結婚だけど、それに特に文句はないのです。
 ただ、相手のことが気になるだけ。

「本当にどんな方なのだろうか?」

 私の良人と出会う日まで――

 私はいろいろなことを想像して日々を過ごしたのです。
 期待をあまり大きくしないように注意しながら。
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