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40話:シコルノガスキーへの合格祝い

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 濃厚なアルコールの匂いが充満している。酒。それも相当に強い酒だ。
 そして、微かに聞こえる女の喘ぎ声。肉の内に生じる快感を無理に抑え込み、それが抑えきれず漏れくるような声だった。

「今年の合格者はどうだ?」

 重い岩が発したような声だった。
 岩石をそのまま、人間の顔にしたような男。
 ゴツゴツとした顔の作りの男だった。
 
 その手に酒の入った杯を持ち、ひざの上に獣人の女を乗せていた。
 顔と同じく、岩のような手が、白い太ももをまさぐっていた。

「悪くはないですわ――」

 明らかに女と思える者の声。
 ねっとりとした湿気を帯びた声音だ。血の色をした唇がゆっくり動いていた。

「代紋(エンブレム)ランカーが何人か確認できていますわ」

 ぬるりとした声が言葉を続けていた。
 肌が異常なほど白い女だ。まるで、陽のあたらぬ洞窟に棲むある種のヘビのような肌であった。
 黒く長い髪の毛に、妖艶といっていい双眸には、淫靡な光をたたえていた。

「毎年何人かいるけどぉ~ どうせ、200位以下のザコじゃないのぉ」

 この空間に場違いなほど、軽い声が響く。女というより少女の声だ。
 まるである種の昆虫の触角のように髪を2本に束ねている少女だ。
 ただ、その存在を少女とそのまま認識できるかどうかは難しかった。
 顔立ちは整っている。しかし、その大きな瞳が虚ろだった。
 人に、狂気を感じさせる空気を身にまとっていたのだ。
 両手で抱きかかえるように、長い棒状のものを持っていた。
 
「そういえば、エルフちゃんが合格したんだろ? なあ」

 金髪の男だった。左右にエルフの女を抱え、おっぱいを揉んでいた。
 着衣のエルフ。服を着せた上で腕を服の中に突っ込み、おっぱいを揉む。
 おっぱいが揺れるたびに、エルフが甘い声を上げていた。
 整った顔に、これ以上ないくらいの下卑た笑みを貼りつけていた。

「いますわよ―― しかし、ジオウさんもエルフがお好きなことで」

 ヘビのような滑る白い肌を持った女が言った。
 
「ハクジャ、文句あるかい?」

 ジオウと呼ばれた男は、座ったまま上半身を乗り出す。
 エルフを抱えたままだ。おっぱいを揉みながらだ。
 この男は、エルフのおっぱいをモミモミしながら、平気で人を殺せる。
 そのような雰囲気を持っていた。

「いいえ、別にありませんわ。ただ――」

「ん?」

「そのエルフ、代紋ランキング9位になっていますわ―― 手におえまして?」

「はぁ? 9位だとぉぉ? 一桁ランカー? バカか。あり得ねェよ」

 ジオウは椅子の背もたれに身をあずけると、バカにしたような笑みを浮かべる。
 ハクジャと呼ばれた女は、ただ妖艶な光を放つ双眸でそれを見つめるだけだった。

「月崩壊事件で、代紋(エンブレム)ランキング管理機構の本部は壊滅だ。その後発表されるランキングはどうも正確性に欠ける」

 岩石男が言ったことは、この世界では広く認識されていることであった。
 6年前に月が崩壊。その破片が代紋(エンブレム)ランキング管理機構を直撃していたのだ。
 そのため、ランキングの更新が遅れ、その正確性にも疑問がもたれている。
 ただ、上位5人のランカーについては、6年間全く不動のままだ。
 このゲドゥポリスを支配するライジング・ドラゴンは4位にランクインしていた。

 そもそも「月崩壊事件」がミーナコロシチャルのパンチの余波によるものだった。
 当時の彼女は1歳だった。

「でも、目安にはなるんじゃないのぉ、9位が本当なら、私も欲しいな」

 焦点の合ってない虚ろな瞳の少女が言った。

「ダメだぜ、ウツロ! 俺が先に言ったんだからな。早い者勝ちだ」

「そんなルールあったんだ?」

「俺が作った。今、作った。悪いか?」

「それって、『力ずく』と同じじゃないのぉ?」

 ウツロと呼ばれた少女がすっとその指を、抱えていた棒にかけた。

「おお、それでもいいぜ。抜くかい? 仕込み杖を」

「まて。ゲドゥ学園の教官同士の私闘は禁止だ」

 岩石のような重い声でガンキが言った。

「ガンキ、そのエルフちゃん、俺が欲しいなぁ~ いいだろう?」

「俺が決めることではない」

「そうだわ。ライジング・ドラゴン様次第ね。もう、あの方に資料は言っているはずよ」

 ゲドゥ学園の合格者、それがどの教官の担当となるのか、それを決めるのはライジング・ドラゴンであった。
 組織内の実力者である彼らでも、それは自由にできない。

「俺は、エルフが好きだ。エルフが大好きなんだ。俺はこの地上に存在する全てのエルフの女が好きだ。だから、俺がもらうぜ…… エルフちゃんは俺が色々仕込む」

「ジオウの子種まで仕込まれそうじゃないのぉ?」

「ウツロ、オマエにはやらん。俺の子種はエルフちゃんだけにやるんだよ」

「いらないぃ。絶対に~」

 ジオウは大きく両脚を広げていた。その脚の間で、ふたりのエルフが四つん這いで奉仕をしていた。
 彼は「ひひひひひ」と歯をむき出しこれ以下がないというくらいの下品な笑みを浮かべる。
 
「とにかく、9位であろうが、なんであろうが、このゲドゥ学園に入学した者の運命は我々が握っている」

 ガンキの言葉に、全員が首肯するかのような態度を示す。
 言葉ではなく、自明のことを自明のものとして受け入れる態度だった。

        ◇◇◇◇◇◇

「ふふん、全員合格かよ」

 ミーナコロシチャルたちの泊まっている宿にゲドゥ学園から合格の通知がきたのだった。 
 彼女の言葉はそれゆえのものだ。滅多にない若干の喜びの混じった言葉を口にしていたのだ。

 ミルフィーナ、シコルノガスキーはもちろんのこと、ポチルオまでなぜか合格していた。

「お姉さまぁぁぁ! 合格祝いを! この僕に合格祝いをくださぁーーーい!!」

 全裸&フルエレクチオンのシコルノガスキーが突っ込んでくる。
 右手でピストン運動しながらの突撃は、日に日にその鋭さを増している。

「いいぜ。なにがいいんだい。おっぱいくらい揉ませてやってもいい――」

 その言葉に、突撃を急停止させるシコルノガスキーだった。
 そして、そこの姉の言葉だけで、アサガオのツボミ器官が臨界を突破しそうになる。

「あああああ~ お姉さまぁぁ、おっぱいを、おっぱいを吸いたいであります! お姉さまのおっぱいを吸いたいのであります!」

「そうかい。吸いたいのかい? 俺のおっぱいを――」

 ミーナコロシチャルは、弟のその言葉を聞き、身体の芯が熱くなってくるような気がしていた。
 エルフの女に転生し、7年か経過。その肉の内に潜むメスの欲望が、徐々に最強ヤクザの精神を浸食しているかのようであった。

 雌堕ち――
 
 美しいエルフの肉体が、予定調和のように、彼を導いているかのようであった。

「ダメです。ミーナ様。エルフの戒律違反です」
「ダメ! ダメぇ! ミーナ様! ダメぇぇ!」

 ミルフィーナとポチルオだった。
 声を揃え、弟におっぱいを捧げることに、反対していた。
 
 弟はまだ、生まれて1年。外見が日本人に高校生にしか見えないとしても、この世界では1歳だった。
 1歳であれば、乳を欲するのは当然のことである。
  
 しかし、エルフの戒律はそれを許さない。
 いや、正確には母乳の直飲みを許さないのだ。

 シコルノガスキーは、授乳メイドの母乳を飲んでいた。
 飲むことはできる。
 しかし、それは一度、器にいれてからのものだ。

 言葉を話せる者は、乳首からの母乳直接吸引はできない。
 2億5000万年の歴史を持った固いエルフの掟だ。

「ぬぅ―― 掟かよ……」

 前世で極道の世界にずっぽり使っていたミーナコロシチャルは、そのような言葉には弱い。
 だが、この弟に対し姉としてなにかしらのご褒美はあげたかった。

「ああああ、お姉さま! お姉さま! もう、ダメです。ああああああ」

 激しいピストン運動。摩擦で煙を発しそうな勢いだった。
 右手のポンプアクションが、アサガオのツボミ器官を限界へといざなう。

「分かった。ここじゃだめだぜ。便所だ。来い。俺も一緒に行く」

 決然とした言葉だった。
 このような状態のシコルノガスキ-と便所に入る。
 ミーナコロシチャルはそこで、弟に合格祝いをやるつもりだった。

「ああああああああああ!! おねえっ様ぁぁぁ~」

「いいんだぜ―― シコルノガスキー」

 ミーナコロシチャルの口から、言葉がほろりとこぼれ落ちた。
 信じられない様な優しい声音の言葉だった。

「い…… 生きてて良かったのであります……」

 シコルノガスキーは涙ぐみながらも、右手の動きを止めなかった。
 左手で涙ぬぐった。

「泣くな……」
「は、はい、お姉さま……」

 そして、ふたりは便所へと消えて行ったのだった。
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