神の甲虫は魔法少女になって恩返しします

中七七三

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8.魔法少女は空を飛ぶ その1

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「くさいよぉぉぉ、くさいよぉぉぉ!! 死にそうだよぉぉ!!」
「あああ、ハエがぁぁぁ! このクソバエどもがぁぁ!!」
「水! 水をもってこい!! 早くしろ!!」
「あああ、鼻がまがりそうだよぉぉ!!」
「こんな、くさいにおいは、田舎いなかでもかいだことがないよぉぉ!」

 魔法少女ロガシーの魔法で、カキクケ皇国の軍隊は大混乱だいこんらんです。
 黄土色のドロドロに全身ぜんしんをつつまれ、そのまわりを数えきれないほどのハエがたかってくるのです。
 ミドリ色のテカテカにひかっった大きなハエです。



「くそぉぉ! からだをあらっても、全然においにおいがおちないぞ!」
「こっちへくるな! くさいぞ! おまえ!」
「あああ、はなにそうだぁぁ!! はいがくさりそうだあぁぁ!!」

 こんなカキクケ皇国の軍勢くんぜいのようすを、魔法少女ロガシーとアイウエ王国の兵隊さんのサシス・セーソはいわのかげからみていたのです。
 カキクケ皇国の兵隊たちは、大混乱だいこんらんで、ふたりにがつくわけがありませんでした。

「すごいや、ロガシー。でも、このにおい…… いったいなんの魔法なんだい?」

 サシスはこれ以上ちかづいたら、見つかるより前に、はながくさってちるのではないかと思ったのです。
 ロガシーの魔法で作ったドロドロの黄土色おうどいろをした、ヌルヌルの泥沼どろぬまは、本当ほんとうに、本当ほんとうに、本当ほんとうに、ガチで、まったくもってしんじられないほどにくさかったのです。

「ボクの魔法かい。うーん…… 神さまの魔法とでもいえばいいかな」
「神様だって!」
「ああそうだよ。神様のつくりだしたモノが、つくりだしたものを自由自在じゆうじざいにあやつったり、生成せいせい(つくりだすこと)できる魔法といえばいいのかな」
「すごいなぁ、ロガシー」

 サシスはおどろきました。
 だって、魔法というのは風・火・土・水の精霊せいれいの力をつかうものだと思っていたからです。
 それが、「神様」なのです。神様といえば、この世界せかいで一番えらくて、すごいに決まっています。
 神様はこの世界を創って、そして人間だって作ったのです。
 精霊だってかなうはずがありません。

 サシスだってそれくらいは分かります。

 ヌルヌルドロドロの黄土色おうどいろのシチューかスープのような泥沼どろぬまは、兵隊たちの体にくっついて、凄いにおいを出しています。体温たいおんであたたまりくっさい湯気ゆげがでているようでした。


 そして、いくら水であらってもにおいが全然ぜんぜんちないのです。
 ハエの大軍は、4万5000人以上のカキクケ皇国の軍勢ぐんぜい何倍なんばいも数が多そうでした。
 ミドリ色に光る吹雪ふぶきのように、カキクケ皇国の軍隊をつつみ込んでいます。

「あれ?」
「ん、どうしたんだいサシス」

 カキクケ皇国の軍隊がきた道をもどりだしたのです。
 サシスは、要塞ようさいの「秘密ひみつの門」から、街道かいどうではない道なき岩山をつっきって、先回りしました。
 サシスの本当ほんとう役割やくわりは、カキクケ皇国の大軍が、王国にせまってくることを知らせる伝令でんれいだったのです。



「ここでしばらくまってしまうかと思ったのに……」

 サシスはくさい泥沼どろぬまを前にしても、カキクケ皇国軍は、なんとかしようとして、ここで立ち止まると思ってました。
 泥沼どろぬまを埋めてしまうとか、いそいで橋をかけるとか…… そんなことをするかなと思っていました。
 それくらい、敵はねばり強く王国を攻めてくるのではないかと思っていたのです。

 しかし、カキクケ皇国の将軍しょうぐんは「要塞ようさい包囲ほういにもどる、いったんもどってのこしてきた1万人の兵と合流する」と命令めいれいしたのです。

 いったいなぜでしょう。

 ロガシーが魔法で作った泥沼どろぬま滅茶苦茶めちゃくちゃくさすぎて、近くにいることができなかったのです。
 うめてしまうとか、橋をかけるとかをすれば、くささににガマンできなくなった兵隊を交代こうたいで仕事させなければならないのです。でなければ、くさすぎて、兵隊は死んでしまうでしょう。

 それには、すごく時間じかんがかかってしまいます。

 そういうことで、カキクケ皇国の将軍しょうぐんはこのくさい泥沼どろぬまをうめるか、橋をかける兵隊5000人を残して、要塞ようさいに戻ることにしたのです。
 4000万人の兵隊と残した1万人の軍勢ぐんぜいで、カキクケ峠の要塞ようさいを攻めてほろぼせばいいのです。
 そして、後ろの心配がなくなったころには、このくっさい泥沼どろぬまもうめるか、橋がかかっているでしょう。

 カキクケ皇国の将軍しょうぐんはそう考え、軍勢をまた分けて要塞ようさいに向かって戻っていくのです。
 それは、退却ではなく、要塞ようさいにむけた進軍であるとカキクケ皇国の将軍しょうぐんは思いました。

「これは、大変だ! 早く要塞ようさいにもどって知らせないと!」

 サシスはおおあわてで、走り出そうとしまいした。
 
「うっ!」

 しかし、サシスはきゅう背中せなかにずきーんというイタみを感じたのです。
 それは、とてもいたく背中せなかから頭のてっぺんまで太いはりでつらぬかれたようなイタさでした。

「うーん…… くそぉぉ」
「サシス、どうしたの?」
「きのうころんだときのイタみが今でてきたみたいだ」

 ぶつけたときは平気へいきでも、あとから急にいたくなってくることはよくあることです。
 サシスも、農作業のうさぎょうをしているとき、田んぼでころんで、ウシに背中せなかをふみつぶされたことを思い出しました。
 あのときも、三か日目みっかめくらいから、いたくなったものです。
 やさしいサシスはそれでもウシをうらんだりなんてしませんでしたが。

(どうしよう…… 背中せなかがイタくてはしることなんてできそうにない)

 カキクケ皇国の軍隊がまたふたつに分かれて、要塞ようさいに向かっていることを早くしらせなければいけないのです。

 サシスはこまってしまいました。本当ほんとうに、本当ほんとうにこまってしまったのです。
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