神の甲虫は魔法少女になって恩返しします

中七七三

文字の大きさ
10 / 10

10.タチツテ峠要塞攻防戦 その1

しおりを挟む
 ロガシーはサシスを背中の方からだきかかえて飛びました。

「ありがとう! ロガシー これなら要塞まであっという間だ」
「気にしなくていいさ。ボクの魔法ならこれくらい簡単だよ」

 サシスは感心してしまいました。本当にすごい魔法少女です。
 くさいドロドロヌルヌルの黄土色の沼が下の方に見えます。
 すごく広く沼が広がっているのが分かります。

(これじゃあ、カキクケ皇国軍も前に進めないぞ)とサシスは思います。
 
 道はグネグネ曲がっていますが、飛んでしまえば一直線です。
 そしてタチツテ峠の要塞が見えた来たのです。
 本当にあっという間についてしまいそうです。 

「あれ? なんだろう…… みんな大騒ぎしているみたいだ」

 サシスは不思議そうにいいました。

「ボクたちが帰ってきたから、だいかんげいしているんじゃないかな?」
「うーん。ちがうと思うよ。だって、ロガシーは要塞に入ったことないんだから」
「ははは、そうだね。ボクは要塞には入ったことないや」

 ロガシーは、すごい魔法少女なのですが、どこかうっかりサンな感じがするのです。

「あ!! 弓だ。弓を撃ってきた!」
「あははは、あんなへなちゃこ弓なんて届かないよ!」

 確かに、弓矢は放たれますが、ロガシーとサシスが飛ぶ高さまでは飛んできません。
 ヘロヘロと勢いをなくした弓がずっと下の方で落ちていくのが見えるのです。

「ボクだよぉぉ!! サシス・セソだよ!! みんな! 撃たないで!!」

 しかし、高い空からさけんでもサシスの声は届きません。
 弓も届きませんが、声もとどかないのです。
 お互いに全く、無意味なことをしているとしかいえませんでした。

 要塞の兵隊たちは味方です。アイウエ王国の仲間なのです。しかしどうでしょうか?
 サシスは、なんで弓で撃たれているのか考えました。
 
「うーん。もしかしたらボクたちを敵と勘違いしているのかもしれないぞ」
「え? なんで?」
「アイウエ王国には空を飛んでやってくる魔法少女なんていないんだ」
「ふーん。ボクがいるんだけど」
「だって、だれも知らないよ。ロガシーのことを」
「う~ん、そうなんだ。それはこまったな。ボクはどうすればいいかな? サシス」
「そうだなぁ…… 声の届くとこまで降りるしかないかなぁ」
「うん、ボクモそう思っていたよ!」

 ロガシーはそういうと、キュンと身をひるがえし、急降下しました。

「わぁぁぁあぁぁ!! 早すぎるよ!!」
「あはははははは!! 大丈夫だよ。これだけ速ければ、弓で狙えないし」
「わぁぁぁぁ!!」
「早く、サシス! 味方だって言ってよ」
「わぁぁぁぁ!!」

 あまりの高速急降下に、サシスはアホウのように「わぁぁぁぁぁ」としか言えませんでした。
 
 バーン!!
 バーン!!
 バーン!!

 大きな音がしました。
 鉄砲です。それは、要塞を守るために備えられた「秘密兵器」だったのです。
 それの一斉射撃がはじまったのです。

「わあああ!! 鉄砲だ! あんなので撃たれたら死んじゃうよ!」

 弓矢もびゅんびゅんとんできます。この高さになると、当たったら突き刺さって死ぬかもしれません。

「ボクだよぉぉぉ!! ボクだ! サシス・セソだよ。伝令から帰ってきたんだよぉぉぉ!!」

 サシスは魂を絞り出すような。肺の中の空気をすべて、声に変えたような絶叫をしたのです。

 すると、要塞の方では――

「え? サシスだって? あの兵隊か?」
「はい。軍曹殿、たしかにサシスの声であります!」
「そうなのか、しかし―― なぜ、空から? サシスはいいとして、サシスを抱えて飛んでいるのはなんなのだ?」
「軍曹! あれは、王国からやってきた新しい兵では?」
「兵だと?」
「そうです。もしかしたら、魔法使いかもしれません」
「魔法使いだとぉぉ!!」

 軍曹はびっくりぎょうてんです。
 魔法使いという者がいるというのは聞いたことがありました。しかし、会ったことも見たことも有りません。

「そんな、すごい者が王国にいるのか?」
「はい、軍曹。魔法使いはいるのであります!」

 その兵隊は自信たっぷりにいいました。おそらく、本当に魔法使いを見たことがあるのかもしれません。

「うーん。そうなのか……」

 軍曹は考えます。ただ、サシスがいるのですから、敵ということはないでしょう。
 軍曹はそう思ったのです。

「よし、撃つのをやめろ! 撃ち方やめ!」

 弓矢も鉄砲も撃つのをやめます。
 というか、鉄砲は次の弾を込めるのに時間がかかるので、すぐに撃つことはできないのです。

 サシスとロガシーは要塞から鉄砲も弓矢も飛んでこなくなったのを見て、安心しました。

「これで降りられるね。サシス」
「そうだね。でも、ゆっくりおりてくれないかな。怖いよ――」
「はは、分かったよ。大丈夫」

 そう言って、ロガシーはゆっくりと飛行して、要塞の見張の塔の上に「トン」と降りたのです。
 当然、サシスもいっしょです。

「サシス・セソ一等兵、恥ずかしながら戻ってまいりました!」

 サシスは言いました。そして軍隊ですので敬礼します。
 敬礼しないとビンタが飛んでくるからです。

「うむ、戻ってきたか…… で、このぉぉ…… 真っ黒な女の子は、魔法使いなのか?」

 軍曹は聞きました。

「違うよ、ボクは魔法少女ロガシーだよ!」
「魔法少女!!」

 軍曹はおどろきました。魔法使いは聞いたことありましたが魔法少女など聞いたことがなかったのです。
 それは、つまり魔法が使える少女。魔法使いの少女という意味ではないかと軍曹は勝手に思いました。
 それを確認するのはなんだか、自分がなにも知らないのを部下に知られてしまうようではずかしかったからです。

「魔法少女だったのか!(なんなんだ? 魔法少女って)」
「そうだよ。ボクは魔法少女。この要塞にサシスといっしょに来たんだよ」
「それは、見ればわかるが……」

 軍曹はそう言って、視線をサシスに向けました。

「サシス一等兵、説明しろ。命令だ」
「サシス一等兵説明するであります!」

 サシスはこれまでのいきさつを話しました。
 サシスは正直なので、本当に本当のことを言って説明しました。
 自分が転んで、魔法少女に出会い、魔法少女と協力して、カキクケ皇国軍を魔法のくさい泥沼で足止めしたこと。
 そして、カキクケ皇国軍が戻ってきていることを言ったのです。

 軍曹は話を聞いて真っ青になりました。
 つまり、それはこの要塞がまた5万人の兵隊で囲まれるということなのです。
 せんりゃくてきには、ただしく、たいきょくてき、立場にたっていれば、真っ青になることないのです。
 これは、要塞に敵を惹きつけるのが目的の籠城戦なのですから。

 軍曹は本来の目的を忘れてうろたえるのでした。

「大丈夫だよ!! ボクがきたら、全然平気だよ」
「え?」

 軍曹はロガシーを見つめました。呆けた顔でした。

「あ、その前に、『神の甲虫よろい』を脱いで、もとのかわいい魔法少女に戻らないと」

 そう言うとロガシーはいったん、すぅぅっと息を吸い込むのでした。

「にゅる にゅる にゅる ぷりぷる ぬるぬる ぷぷぷ ぬゅるりん ぬゅるりん ぷりぷり にゅるりん」

 ロガシーが呪文の詠唱をはじめたのです。

「りゅるりん ぷりぴっぴ ぷりぷり げりっぱぁぁ!!」

 その呪文をとなえると、ロガシーは元の魔法少女の姿に戻ったのです。
 長い一本にまとめてある黒髪が、塔の上を流れる風の中でゆれるのでした。

「魔法少女……」

 軍曹はおどろいています。
 というか、サシス以外の兵隊はみんな驚きました。

「そうだよ! ボクは魔法少女ロガシー! みんなを助けてあげるよ!」

「助けるって…… いったい」
「魔法少女だって…… しかし、こんな小さな女の子が」
「魔法が使えるのか? じゃあ……」

 兵隊たちは驚きの声で口々にいいました。

 ふん、と鼻から息を吹いて、ロガシーは小さく平べったい胸を張ります。
 ボクに任せておけという感じです。
 
「サシス!」
「なんだい、ロガシー」
「あの敵を全部やっつければいいだよね!」

 ロガシーは自信たっぷりにいいました。
 そして、それは簡単にできてしまうだろうということがサシスには分かります。
 なったって、ロガシーは魔法少女なのですから。

 でも……
 やさしすぎるサシスは、敵でも殺してしまうのはかわいそうだと思うのでした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

『ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ』

髙橋彼方
児童書・童話
一ノ瀬龍拓は新宿で行列の出来るラーメン屋『龍昇』を経営していた。 新たなラーメンを求めているある日、従業員に夢が叶うと有名な神社を教えてもらう。 龍拓は神頼みでもするかと神社に行くと、御祭神に異世界にある王国ロイアルワへ飛ばされてしまう。 果たして、ここには龍拓が求めるラーメンの食材はあるのだろうか……。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 ハアーイハロハロー。アタシの名前はヴーゲンクリャナ・オオカマって言ぅの。てゆうか長すぎでみんなからはヴーケって呼ばれてる『普通』の女の子だょ。  最近の悩みはパパが自分の跡継ぎにするって言って修行とか勉強とかを押し付けて厳しいことカナ。てゆうかマジウザすぎてぶっちゃけやってらンない。  てゆうかそんな毎日に飽きてるンだけどタイミングよく勇者のハルトウって子に会ったのょ。思わずアタシってば囚われの身なのってウソついたら信じちゃったわけ。とりまそんなン秒でついてくよね。  てゆうか勇者一行の旅ってばビックリばっか。外の世界ってスッゴク華やかでなんでもあるしアタシってば大興奮のウキウキ気分で舞い上がっちゃった。ぶっちゃけハルトウもかわいくて優しぃし初めての旅が人生の終着点へ向かってるカモ? てゆうかアタシってばなに言っちゃってンだろね。  デモ絶対に知られちゃいけないヒミツがあるの。てゆうかアタシのパパって魔王ってヤツだし人間とは戦争バッカしてるし? てゆうか当然アタシも魔人だからバレたら秒でヤラレちゃうかもしンないみたいな?  てゆうか騙してンのは悪いと思ってるょ? でも簡単にバラすわけにもいかなくて新たな悩みが増えちゃった。これってぶっちゃけ葛藤? てゆうかどしたらいンだろね☆ミ

処理中です...