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6.狂った二重螺旋の生命は踊る

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 ザッと草を踏み鳴らし、跳ぶ音が聞こえた。

「あががが、ああがうぅぅ、がうる、ががが、うま、かゆぅぅぅーー!!」

 闇に異形の声が響いた。ビリビリと大気を震撼させ、原初の恐怖を掘り起こす咆哮だった。

 そして、木々の隙間から流れ込む月灯りが、おぼろげな異形の姿を闇に浮かび上がらせるのだ。

 二重らせんに刻まれた情報が狂気とカオスを解放したかのような生物が闇の中に踊りだす。
 手のひらに牙を持ち、胴に巨大な目玉を持つ。そして、無数の咢。頭部には無数の目玉。
 ネジくれた角が全身から生えているだ。
 
 湿った月光を映し無数の眼球が敵を捉えていた。

「あびゅるぅぅぅ、あがはぁああああああああ!!!」

 吼えた。まるで、哀しみを込めた叫びのように聞こえた。

 そして、殺戮の開始だった。

 肉が千切れ、骨の砕ける音が響き、濃厚な血の匂いが後を追う。
 死の匂いを乗せた倶風が森の中にあれ狂っていた。

 野盗の腕が千切れ跳び、血に転がる。すでに二ケタは超えている。
 首が無くなった胴体が次々に量産され、大量の血を森の夜気に流し込んでいく。

「な、何だコイツはぁ!!」

「ママ奴隷マスターの武器さ―― 無敵のクリチャー。俺とママ奴隷の愛の結晶だぜ」

 俺は闇の中で呟くように言った。
 ただ、俺の言葉を聞いている者はもういるようには思えなかった。
 
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」
「あがは!!!!」
「た、助け―― ぼがぉぉああああああ!!」

 死に行く人間の声だけが闇にこだましていく。
 阿鼻叫喚の悲鳴だ。闇が地獄の釜をひっくり返した様相を隠しているだけだ。

 俺とママ奴隷の愛が生み出した最終兵器。

 ショタ族の魔導が生み出す、魔獣兵器だ。
 ショタ族の精子によって、受精したママ奴隷の卵子。
 それが、狂気の殺戮生物を生み出すのだ。
 俺とママ奴隷以外の全て、その視界の中にある者を殲滅しない限り止まることは無い。

 最強の剣士も、最強の魔法使いも、どのような武器をもってしても――
 俺とママ奴隷の生み出したモノを止めることはできない。
 目の前に存在する、息をする者は全て殺される。
 戦いにすらならない。一方的な虐殺だ。

 俺のショタ族の精子でママ奴隷が受精することで、生物の持つ全ての可能性――
 この異世界におけ生物進化の可能性。そういったもの全てを解放し、狂気の中で受肉化させるのだ。
 それは、ケモノであり、トリであり、ヘビであり、サカナであり、ムシであった。
 ありとあらゆる異世界の生命の状態がカオスとなり現出したものだ。 

「あががあ、アガ、かゆ、うま、ががががが――」

 すでに、人の悲鳴はなくなった。 

 もにゅもにゅもにゅ――
 がりいがりがりがり――
 もぐもぐもぐもぐもぎ――

 ただ、肉と骨を砕く咀嚼音だけが響いているのだった。
 喰らっているのだ。
 生まれてすぐで、腹が減っていたのだろう。
 俺の精子とママ奴隷の卵子で生まれた生命体は、野盗たちを喰らっていたのだ。

「ん、もう全部死んだのかな? ママ、ママもうみんな殺しちゃったみたいだよ」

「そうね、ボクちゃん。悪い人たちはみんな死んじゃいましたねぇ。うふふふ」

 ママはそう言って立ち上がった。

「坊や、さあ、おいで、ママの中に戻りましょう―― うふふふ、ママの温かい胎内に……」

 ママ奴隷は草の上に座り、股をおおきく開いた。
 今、そのクリチャーを出産した場所を晒した。
 まだ、血の匂いが残る場所だった。

 クパァ――

 ママ奴隷は、その存在が生れ出た故郷を指で大きく開いた。

「あががが、あああはあがががっがっががあああああ」

 そのクリチャーはズルズルと這いつくばる様にして、ママ奴隷に向かっていく。
 そして、股間に頭を突っ込んだ。

「あはぁあああ、あああ、産んだばかりで敏感なのぉぉ、あああ、奥にぃぃぃ、奥に入ってくるのぉぉぉ――」
「ママ、ママ、ママ、頑張ってよ。ママ、大好きだよ」
 
 俺はママの手をギュッと握るのだ。
 出産と全く逆であるがその痛み、辛さは同じほどのものであろう。 
 俺にはママ奴隷の手を握りしめることしかできない。

 おっぱいへの刺激は子宮を収縮させ、吸収を阻害するからだ。

「あはぁん、ボクちゃん。ああああ、ママのオマタが熱いのぉぉぉ」

 ママ奴隷に生み出されたクリチャーはズルズルとママの身体の中に戻っていく。
 自分が生み出された場所に強引に戻っていくのだった。

 すでに、ウロコの生えた足だけが、バタバタと外で暴れているだけだった。
 やがてそれも中に入り、ママのお腹がまたパンパンになった。

 しかし、それもすぐにまた平らになるのだ。

 ママ奴隷の身体の中で溶けて、ママ奴隷の肉の一部になる。
 そして、また俺の精子で受精すれば、この生命体は誕生するのだ。
 それはそういう生命体なのだから。
 ただ「意識」に連続性があるのかどうか、それは分からない。
 ただ、敵を殲滅するためだけの生命体だから。それはどうでもいいことだ。

「あはぁん、いいのぉぉ、奥に入って、あああ、タプタプよぉぉ、もう溶けてしまったのね。うふふ」

 ママはゆっくりと二五〇センチの身体を立ち上げた。
 
「ママ、お仕事が終わったよ! これで五〇〇〇グオルドだね!」

「うふふ、そうね。ボクちゃんと美味しいモノをいっぱい食べて、また、ボクちゃんとエッチなことするのかしら―― ふふ」

「ママ、だってボクはママのことが好きなんだもん! エッチなことするよ!」

「うふふ、そうね。また、ママを孕ませてね―― ふふふふ」

 空がうっすらと白みだし、死と破壊が照らし出されていく。
 それは、俺たちが仕事をした証以上の意味はなかった。

 俺とママ奴隷は来た道を戻る。ギルドの保証人にこの証拠を見せるためにだった。

―了―
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