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6.全ての望みを叶えよう
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「酷すぎる。あんまりです…… お父様も…… お母様も……」
心の臓を抉られるような痛み。
それは悲しみという言葉で表現するにはあまりにも悲痛なものであった。
「復讐を望むか? 殺すか? それとも、手足を引きちぎり、それでも生かし続け、永劫の苦しみの中に沈めるか? かまわぬぞ。我が伴侶が望むことであれば、いかなることとて、叶えようではないか」
アゴールは言った。
傷ついた心の中に染み込むような声音。
なにもかも、委ねてしまいたくなる誘惑に駆られる。
「そなたが望むのであれば、我は望みを叶える。どのようなことがあろうともだ。そなたを悲しみの淵から救ってやることもできる」
「悲しみの淵から救う?」
そんなことできる訳はないと、セラフィーナは思う。
彼女は不死王を名乗る男を見た。己の伴侶となる男。
人ではない。そして神の御使いであるわけもない。
「ああ、救ってやろう。もしソナタが望むなら、今までの記憶を消そう。父も母も最初から存在しないことにすればいい。存在しない者に対し悲しみも生まれぬ」
「記憶を消す……」
禍々しいその言葉にセラフィーナは身を震わす。
(やはり、魔の者に違いない……)と、思う。
記憶を消すなど、とんでもないことだった。
それは今までの公爵令嬢として生きてきた自分を殺すことと同じだった。
そして、父と母は二回目の死を迎えるということになる。
「嫌! そんなのは絶対嫌!」
「では、悲しみの記憶とともにいるのがよいのか?」
「それでいいの。この悲しみは、お父様とお母様が生きていた証。記憶は消さない」
アゴールは細い顎に手をやり「ふむ」と納得したように頷く。
「よかろう。では、望みは復讐か? 死か? 永劫の苦しみか? 何でもかまわない。叶えよう」
「分かったわ。アゴール。王子と男爵令嬢トゥーリアをここに呼んで。できるでしょ」
「よかろう。簡単なことだ」
アゴールは人間に言葉ではない何かを呟いた。
呪文の詠唱のようであった。
独特の抑揚と旋律を持った言葉とともに、床には青く光る魔方陣ができていた。
◇◇◇◇◇◇
そこは、王城だった。
第一王子ステールの部屋。
目を見張るような豪華な装飾がなされた部屋であった。
そして部屋の中のこれも、大きな寝台に王子とひとりの女がその肉を絡めあっていた。
男爵令嬢トゥーリアだった。
「あふぅ♥ 王子、王子、あああ、素敵――」
「私もだ。ああ、蕩けてしまいそうだ……」
体の奥底で深く結びつき、ふたりは快楽の声を上げ続けていた。
そして、王子の激しい動きと、ふたりの絶頂の声。
体を震わせながら、ふたりは何回目かの快楽の絶頂を向かえ、そして動きを止めてていた。
「ふふ、王子は私のことが好きなのね」
「ああ、好きだよ。大好きだ。
「どこが好きなの」
「ここかな?」
「ふふ、いやらしいわ――」
「いや、冗談だ。みんな好きだ。その心も体も全部」
「あの女よりも」
「問題にならない。あんな固い氷のような女―― なんでもかんでも結婚してからだとッ」
王子は吐き捨てるように言った。
教会の教えに真っ向から背く言葉であったが、ふたりはそんなことは気にしてなかった。
「あんなつまらん、女のことなど忘れよう」
そういって王子は男爵令嬢トゥーリアに覆いかぶさっていく。
「公爵家が持っていた通商権も、男爵家のものとする。いや新たな公爵家か……」
「ふふ、私のお父様も喜びますわ♥」
ふたりは寝台の上でふたたび体を絡め始めた。
そして、悩ましい男女の声が混ざり合い、妖しい色に空気を染めていく。
夢中だった。
お互いの肉に夢中だったのだ。
だから、気づかなかった。
寝台を中心に大きな魔方陣が形成され、それが薄青い光を放っていることに。
心の臓を抉られるような痛み。
それは悲しみという言葉で表現するにはあまりにも悲痛なものであった。
「復讐を望むか? 殺すか? それとも、手足を引きちぎり、それでも生かし続け、永劫の苦しみの中に沈めるか? かまわぬぞ。我が伴侶が望むことであれば、いかなることとて、叶えようではないか」
アゴールは言った。
傷ついた心の中に染み込むような声音。
なにもかも、委ねてしまいたくなる誘惑に駆られる。
「そなたが望むのであれば、我は望みを叶える。どのようなことがあろうともだ。そなたを悲しみの淵から救ってやることもできる」
「悲しみの淵から救う?」
そんなことできる訳はないと、セラフィーナは思う。
彼女は不死王を名乗る男を見た。己の伴侶となる男。
人ではない。そして神の御使いであるわけもない。
「ああ、救ってやろう。もしソナタが望むなら、今までの記憶を消そう。父も母も最初から存在しないことにすればいい。存在しない者に対し悲しみも生まれぬ」
「記憶を消す……」
禍々しいその言葉にセラフィーナは身を震わす。
(やはり、魔の者に違いない……)と、思う。
記憶を消すなど、とんでもないことだった。
それは今までの公爵令嬢として生きてきた自分を殺すことと同じだった。
そして、父と母は二回目の死を迎えるということになる。
「嫌! そんなのは絶対嫌!」
「では、悲しみの記憶とともにいるのがよいのか?」
「それでいいの。この悲しみは、お父様とお母様が生きていた証。記憶は消さない」
アゴールは細い顎に手をやり「ふむ」と納得したように頷く。
「よかろう。では、望みは復讐か? 死か? 永劫の苦しみか? 何でもかまわない。叶えよう」
「分かったわ。アゴール。王子と男爵令嬢トゥーリアをここに呼んで。できるでしょ」
「よかろう。簡単なことだ」
アゴールは人間に言葉ではない何かを呟いた。
呪文の詠唱のようであった。
独特の抑揚と旋律を持った言葉とともに、床には青く光る魔方陣ができていた。
◇◇◇◇◇◇
そこは、王城だった。
第一王子ステールの部屋。
目を見張るような豪華な装飾がなされた部屋であった。
そして部屋の中のこれも、大きな寝台に王子とひとりの女がその肉を絡めあっていた。
男爵令嬢トゥーリアだった。
「あふぅ♥ 王子、王子、あああ、素敵――」
「私もだ。ああ、蕩けてしまいそうだ……」
体の奥底で深く結びつき、ふたりは快楽の声を上げ続けていた。
そして、王子の激しい動きと、ふたりの絶頂の声。
体を震わせながら、ふたりは何回目かの快楽の絶頂を向かえ、そして動きを止めてていた。
「ふふ、王子は私のことが好きなのね」
「ああ、好きだよ。大好きだ。
「どこが好きなの」
「ここかな?」
「ふふ、いやらしいわ――」
「いや、冗談だ。みんな好きだ。その心も体も全部」
「あの女よりも」
「問題にならない。あんな固い氷のような女―― なんでもかんでも結婚してからだとッ」
王子は吐き捨てるように言った。
教会の教えに真っ向から背く言葉であったが、ふたりはそんなことは気にしてなかった。
「あんなつまらん、女のことなど忘れよう」
そういって王子は男爵令嬢トゥーリアに覆いかぶさっていく。
「公爵家が持っていた通商権も、男爵家のものとする。いや新たな公爵家か……」
「ふふ、私のお父様も喜びますわ♥」
ふたりは寝台の上でふたたび体を絡め始めた。
そして、悩ましい男女の声が混ざり合い、妖しい色に空気を染めていく。
夢中だった。
お互いの肉に夢中だったのだ。
だから、気づかなかった。
寝台を中心に大きな魔方陣が形成され、それが薄青い光を放っていることに。
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