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2.婚約破棄と異端審問
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数日後、お父様に呼び出された。
「なんでしょうか? お父様」
「このような書状が来た――」
表情が一切抜け落ちた顔で、父は私に書状を渡した。
「告発状? 私への…… いったい?」
私はその書状を読んで、息を詰まらせた。
それは私が聖女などではなく、魔と通じる者――
つまり「魔女である」と指弾するものだった。
氷柱を背中に差し込まれたかのような感覚が私を襲った。
「こんな、私は……」
「動物を助けるために、公爵家ゆかりの者に魔力を使い、大怪我をさせたとあるが」
「私はそんなことは……」
「目撃者もおるようだ…… 愛しい我娘、ローザリンデよ」
父は首を振り、大きく息を吐いた。
私は説明した。
全く無抵抗な生き物をいたぶっていた若者がいたこと。
そして、それを止めさせたこと。
私は腕をつかまれ、それを振りほどいただけであること。
確かに魔力は使った。でも、それは決して相手を傷つけるものはなかった。
「我娘、ローザリンデよ、私も信じている。おまえの言うことは本当であろう」
「お父様……」
「が…… 相手が悪かった。全く相手が悪かった……」
父は頭を振り、ただ小さくつぶやき続けていた。
◇◇◇◇◇◇
「我婚約者たるローザリンデよ」
「はい。ベルゼル王太子殿下」
私は王宮に呼び出された。
それは、決して良いことではないという予感があった。
「魔力を人を傷つけるために使用した。これは真か?」
「決してそのようなことは……」
私は言葉を詰まらせた。
なぜか目には涙が浮かんでくる。
目の前のベルゼル王太子が自分の知っている、私を愛してくれた、その人のように思えない。
ある意味、政略結婚であったとしても、私はこの人を好きだった。
愛していたのだ。
そして、私も王太子の愛を信じていた。
でも、今のこの人の瞳の中には何も感じられなかった。
「では、我王国の栄誉ある家臣に連なるものが嘘をついていると? ローザリンデ」
「いえ、それは……」
「告発状のことでしたら、書いた者と会って話を……」
「それは言えぬ。ローザリンデよ、そなたが「聖女」であるか「魔女」であるか、それに関わらず、魔力を我臣下に向けた事実は変わらぬ」
「違います。それは――」
理不尽な暴力の前で、それを制するため、相手を傷つけることなく私は魔力を使った。
決して悪意などなかった。
「とにかくだ。もう、そなたとは終わりだ」
「終わり?」
「婚約を破棄する。そなたを迎え入れることはできないということだ」
私はその場に膝をついた。
床が崩れ落ちて、一緒に落ちていくような感覚。
「そして、膨大な魔力を持つそなたをそのままにしておくわけにもいかぬ」
「え、それは」
「異端審問を受けてもらうことになる」
私は婚約を破棄され「魔女」の容疑で異端審問を受けることになった。
「なんでしょうか? お父様」
「このような書状が来た――」
表情が一切抜け落ちた顔で、父は私に書状を渡した。
「告発状? 私への…… いったい?」
私はその書状を読んで、息を詰まらせた。
それは私が聖女などではなく、魔と通じる者――
つまり「魔女である」と指弾するものだった。
氷柱を背中に差し込まれたかのような感覚が私を襲った。
「こんな、私は……」
「動物を助けるために、公爵家ゆかりの者に魔力を使い、大怪我をさせたとあるが」
「私はそんなことは……」
「目撃者もおるようだ…… 愛しい我娘、ローザリンデよ」
父は首を振り、大きく息を吐いた。
私は説明した。
全く無抵抗な生き物をいたぶっていた若者がいたこと。
そして、それを止めさせたこと。
私は腕をつかまれ、それを振りほどいただけであること。
確かに魔力は使った。でも、それは決して相手を傷つけるものはなかった。
「我娘、ローザリンデよ、私も信じている。おまえの言うことは本当であろう」
「お父様……」
「が…… 相手が悪かった。全く相手が悪かった……」
父は頭を振り、ただ小さくつぶやき続けていた。
◇◇◇◇◇◇
「我婚約者たるローザリンデよ」
「はい。ベルゼル王太子殿下」
私は王宮に呼び出された。
それは、決して良いことではないという予感があった。
「魔力を人を傷つけるために使用した。これは真か?」
「決してそのようなことは……」
私は言葉を詰まらせた。
なぜか目には涙が浮かんでくる。
目の前のベルゼル王太子が自分の知っている、私を愛してくれた、その人のように思えない。
ある意味、政略結婚であったとしても、私はこの人を好きだった。
愛していたのだ。
そして、私も王太子の愛を信じていた。
でも、今のこの人の瞳の中には何も感じられなかった。
「では、我王国の栄誉ある家臣に連なるものが嘘をついていると? ローザリンデ」
「いえ、それは……」
「告発状のことでしたら、書いた者と会って話を……」
「それは言えぬ。ローザリンデよ、そなたが「聖女」であるか「魔女」であるか、それに関わらず、魔力を我臣下に向けた事実は変わらぬ」
「違います。それは――」
理不尽な暴力の前で、それを制するため、相手を傷つけることなく私は魔力を使った。
決して悪意などなかった。
「とにかくだ。もう、そなたとは終わりだ」
「終わり?」
「婚約を破棄する。そなたを迎え入れることはできないということだ」
私はその場に膝をついた。
床が崩れ落ちて、一緒に落ちていくような感覚。
「そして、膨大な魔力を持つそなたをそのままにしておくわけにもいかぬ」
「え、それは」
「異端審問を受けてもらうことになる」
私は婚約を破棄され「魔女」の容疑で異端審問を受けることになった。
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