王太子に捨てられし聖女は精霊王の花嫁となる

中七七三

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2.婚約破棄と異端審問

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 数日後、お父様に呼び出された。
 
「なんでしょうか? お父様」

「このような書状が来た――」

 表情が一切抜け落ちた顔で、父は私に書状を渡した。

「告発状? 私への…… いったい?」

 私はその書状を読んで、息を詰まらせた。
 それは私が聖女などではなく、魔と通じる者――
 つまり「魔女である」と指弾するものだった。

 氷柱を背中に差し込まれたかのような感覚が私を襲った。

「こんな、私は……」

「動物を助けるために、公爵家ゆかりの者に魔力を使い、大怪我をさせたとあるが」

「私はそんなことは……」

「目撃者もおるようだ…… 愛しい我娘、ローザリンデよ」

 父は首を振り、大きく息を吐いた。
 
 私は説明した。
 全く無抵抗な生き物をいたぶっていた若者がいたこと。
 そして、それを止めさせたこと。
 私は腕をつかまれ、それを振りほどいただけであること。
 確かに魔力は使った。でも、それは決して相手を傷つけるものはなかった。

「我娘、ローザリンデよ、私も信じている。おまえの言うことは本当であろう」

「お父様……」

「が…… 相手が悪かった。全く相手が悪かった……」

 父は頭を振り、ただ小さくつぶやき続けていた。

        ◇◇◇◇◇◇

「我婚約者たるローザリンデよ」

「はい。ベルゼル王太子殿下」
 私は王宮に呼び出された。
 それは、決して良いことではないという予感があった。

「魔力を人を傷つけるために使用した。これは真か?」

「決してそのようなことは……」

 私は言葉を詰まらせた。
 なぜか目には涙が浮かんでくる。
 目の前のベルゼル王太子が自分の知っている、私を愛してくれた、その人のように思えない。
 ある意味、政略結婚であったとしても、私はこの人を好きだった。
 愛していたのだ。
 そして、私も王太子の愛を信じていた。
 でも、今のこの人の瞳の中には何も感じられなかった。

「では、我王国の栄誉ある家臣に連なるものが嘘をついていると? ローザリンデ」

「いえ、それは……」

「告発状のことでしたら、書いた者と会って話を……」

「それは言えぬ。ローザリンデよ、そなたが「聖女」であるか「魔女」であるか、それに関わらず、魔力を我臣下に向けた事実は変わらぬ」

「違います。それは――」

 理不尽な暴力の前で、それを制するため、相手を傷つけることなく私は魔力を使った。
 決して悪意などなかった。

「とにかくだ。もう、そなたとは終わりだ」

「終わり?」

「婚約を破棄する。そなたを迎え入れることはできないということだ」

 私はその場に膝をついた。
 床が崩れ落ちて、一緒に落ちていくような感覚。

「そして、膨大な魔力を持つそなたをそのままにしておくわけにもいかぬ」

「え、それは」

「異端審問を受けてもらうことになる」

 私は婚約を破棄され「魔女」の容疑で異端審問を受けることになった。
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