ボクが女体化したのは、初恋の最強女教師を倒して恋人にしたいから

中七七三

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12.ボクが女の子になったら戦ってくれますか?

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百鬼なぎり先生、試合のことなんですけど……」

 先生といっしょに進路指導室に入り、ボクは質問をぶつけていた。

「いつもあんな仕合をしてるんですか?」

 百鬼先生は一瞬、瞳の奥に戸惑いの色を見せた。
 質問の意図を測りかねてるかのように。

「う~ん、ちょっと刺激がつよすぎたかな」

「正直に言えばそうかもしれないです」

 確かにボクは衝撃を受けた。でも、それだけじゃなかった。
 上手く言えないし、考えを言葉にすることもできない。
 でも、百鬼先生と同じ場所に立って、先生と戦うことは、凄く濃い先生とのコミュニケーションになるのではないかと思うようになっていた。
 ボクの思い、先生への思いを伝えるには――
 真剣なボクの思いを伝えるにはどうすればいいのか?
 考えた結果、ボクは先生と仕合をしなきゃいけないと思うようになっていた。

 ――いや、少し違う。
「いけない」じゃない「したい」だ。
 ボクは百鬼先生と仕合をしたいんだ。
 格闘技経験なんてほとんど無いけど、ボクはそうしたかった。

「打撃を覚えてから、寝技専門より打撃を組み合わせた方が早く決められるようになったの。わたしの仕合はいつもあんな感じかも」

 確かにそうだった。
 サンボの選手を寝技でコントロールするより、倒れたときからボコボコに殴りまくる方が確実なのかもしれない。
 相手の寝技の技量は相当に高いかもしれないのだから。

「アナタのソフトでは賭けはできなくなっているけど、本当は全試合が賭けの対象になっているの」

「そうみたいですね」

「で、わたしの仕合は年に2回か3回かな――」

 それは、ボクが思っているよりずっと少なかった。
 ボクは「少ないですね」と思ったことをそのまま言った。

「賭けが成立しにくいから。てら銭が五パーセント。この場合、掛け率が二〇対一以上に離れてしまうと、勝ってもギャンブルとして成立しなくなるの。理屈は分かるわよね」

「はい」

 数学教師らしい物言いを垣間見せて、先生は言った。

「美礼が――」
「秩父賀さん?」
「そう」
「美礼が、わたしを男と戦わせようとしているみたいなんだけどね。賭けが成立しないからって」
「そうなんですか」

 先生は男と戦うことに、あまり価値を見出していない。
 それは生物としての条件があまりに違いすぎるからだ。
 男の側からみれば「勝って当然」だし「負ければ」――全人格、これまでの人生の否定、矜持も木っ端微塵になるだろう」

「中堅クラスの男子選手なら負けないと思う。でも、それに意味があるかどうかっていうと疑問よ」

「でも男子に勝てるとすれば凄いです」

「本当の、一流以上には勝てる気はしないわ。知ってる? 平均的女性の上半身の筋肉量は男性の半分もないのよ」

「そうなんですか」

「しかも、女性はその特性上、自分の身体を徹底的に追い込むような練習はできないのよ。男性のような筋肉の超再生を促すトレーニングは困難」

 先生はトンっと、両肘をついて、口の前で指をからめた。

「もしかして、御楯君はわたしに挑戦したいとか? ふふ」

「いえいえいえいえ! そんな。ボクなんか瞬殺ですよ」

「そうね」

 先生は迷いもなく率直にそれを肯定した。

「それに、御楯君がトレーニングを積んで、何年か後にわたしに勝てたとしても――」

 先生は一旦、言葉を切って、ちょっと視線を上に向けた。
 言葉を選んでいるようだった。

「たぶん、御楯君に恋愛感情を持つ可能性は低いと思うの。以前も似たようなことを言ったかもしれないけど」

「そうですね」

 先生のこの言葉は想定内だった。

「百鬼先生。じゃあ先生よりずっと強い女子選手が出てきたらどう思います」

「ふふふ、恋愛感情を持つかって?」

「いえ、なんというか、その選手に対する尊敬とか敵愾心とか、色々思うところは出てくると思うんです」

「うーん、仮定の話しだしね」
 
 先生は少し思案げにした後、言葉を続けた。

「そんな強い女の子がでてきたら、ちょっと憧れちゃうかも。なーんて」

 先生は冗談めかしてボクに言った。
 でも、この言葉をボクは冗談を切り捨てることができなかった。
 先生と戦い、先生に認められたい。
  
 そのためには、やはり女になって、格闘技を覚えて、そして地下格闘場「カタコンペ」に立つ必要があるんだ。
 
「先生―― 少し変なことを言うかもしれませんが、本気で聞いてください」
「はい」

 先生はすっと背筋を伸ばし、真正面からこちらを見つめた。
 一輪の美しい花がそこに出現したかのようだった。

「先生は、ボクが女の子になったら戦ってくれますか?」

 ボクの言葉に先生は「え?」という軽い驚きの表情を見せていた。
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