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34.血まみれおっぱい

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「あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ――!!」

 甘美な痺れと痛みが同時に襲ってきて、ボクは悶絶寸前だった。
 四試合目――
 
 仕合開始早々にピンチになっていた。

「私の握力は一三〇キロを超える。それでおっぱいを握られる感触はどうだい」

 身体の状態は悪くなかった。怪我も晶姉の遺伝子治療でほぼ完治していた。
 前の仕合で噛み付かれたおっぱいも、完治していたはずだけども、そんなの関係なかった。
 クーパー靭帯がビチビチと引き千切れそうな音をたてる。
 
 ボクは仰向けに転がされ、マウントをとられていた。
 フェイントパンチにつられ、顔面をガードした瞬間に、おっぱいを掴まれたのだった。

 おっぱいへのアイアンクロー。
 おっぱいへの握撃。
 女の攻撃はそのようなものだったのだ。
 全く想定していなかった。師匠のおっぱいへの攻撃はどちらかと言えば乳首に集中したものだった。
 おっぱい全体を、ここまで強烈に握られる経験は初めてだった。

 ギチギチと、ボクのおっぱいに牙のような指が食い込んでくる。 
 敵の女は、歯を食いしばり、ギリギリとおっぱいを握り潰そうとしてくる。
 傷だらけの顔はとても堅気には見えず、真っ当な人生を送ってきた女には見えない。
 まるで地図ののような顔をしている。傷痕が路線図のようだ。
 顔形が整っているだけに、妙に迫力があった。

「ふだんは、これで男の金玉を潰してきたんだ――」と、ゾッとする言葉を吐く。
 
「がはぁぁぁぁ――」

 ボクは呻くことしかできなかった。
 指が一段と深く食い込み、とうとう流血した。
 ボクの双丘は、処女膜より先に破られることになった。
 しかも、合計一〇箇所に穴があいた。指の数だ。

 ――顔が遠い。
 顔面への攻撃は腕が届かない。マウントポジションの特性だ。
 ボクからの敵へのおっぱい攻撃も難しい。
 伸ばされた二本の腕が太い。
 それが、自然におっぱいをガードする形となっていた。

 ボクは痺れる頭で反撃の方法を考える。
 このままでは、おっぱいを具ぐちゃぐちゃにされてしまう。
 女体化の象徴のひとつともいえるおっぱいを破壊されるのは、今のボクのアイデンティティの破壊と同義だった。
 遺伝子治療で、元に戻すことはできるだろうけど……

 ――足は?
 ボクは思考する。苦悶の泥沼の中でも考えることは辛うじてできる・
 辛うじて相手の背中を蹴ることができるが、おっぱい痛みのため、足をつかったエスケープ(相手の身体の前に足をいれる)はできない。

 そして――

 パーン!!

 まるで水の入った風船が弾けるような音がした。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 左のおっぱいが破裂した。
 激痛が全身を貫いた。まるで、おっぱいを握り潰されたような痛みだった。

 吹きだした血のぬめりのせいで、疵女の手をおっぱいを握りきれなくなった。
 ただ、止めとばかりに、乳首を一気に引き千切られた。
 強烈な痛みに激烈な痛みが上書きされる。 

 ボクは思い切り疵女の乳首を突いた。
 指を立て、的確に乳首を穿つ。

「がふッ!」

 女は体勢を崩した。
 その瞬間を逃さず、ボクは身体をひねり、なんとかマウントから脱出した。
 つくばるようにして、距離をとった。
 立ち上がる。
 胸を隠していたブラジャーも引き千切られ、ボクのおっぱいは血まみれになっていた。
 左のおっぱいは、皮膚が爆発したかのように、ボロボロになっている。
 血まみれ、真っ赤なおっぱいだ。
 脂肪にも血が混じり、乳腺には、何箇所も切断されているようだった。
 
 ――痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 もう、それ以外の語彙が頭に浮かばない。
 真っ白な頭の中に極太ゴシック体で「痛い」という文字が七十二ポイントのサイズで次々に浮かんでくる。

 それでも――

 それでもボクは勝利を諦めてはいない。

「まだやるのかい?」

 疵女は訊いてきた。

「元気いっぱい♥」

 ボクはそう言った。そう言わざるを得なかった。
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