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2話:女帝デボネア登場!
耳朶を叩く歓声、地鳴りのような声が重なる、空間がびりびりと震える。
音が物理的な力であることをボクはこのとき知った。
「こんな場所が、研究所の地下に……」
「ふふ、地下十三階―― ここがキャットファイトの聖地『ヘルキャットファイト』の闘技場よ」
ボクの首から伸びる鎖を手にした女が言った。
研究所の所長だ。ボクの身体を女に変えた張本人だ。
ボクは女の身体になっていた。
胸はやや小ぶりだけども、そのラインは綺麗だった。
そして、それは女性であることを目一杯主張していた。
「ここで、ボクは……」
「そう、戦ってもらうわ。ふふ。亜里沙」
「亜里沙?」
「アナタの新しい名前、素敵でしょ」
真紅の唇の右端をすっと持ち上げ、女は言った。
妖艶で猛毒を含んだ笑みだった。
ボクは周囲を見やる。
それにしても、なんということだ。これだけの人を収容する大規模な施設が地下にあったなんて……
観衆なのか?
すり鉢状になったこの空間の底。
ガラスで囲まれたリングあった。
ボクシングとも、プロレスとも、総合格闘技とも違うリング――
狂気の色彩を孕み、血の匂いに染まったリングだ。
「そうよ、あそこで戦うのよ。亜里沙」
ボクの視線の先をなぞり、女所長は言った。
「リングの周囲は厚さ一八インチ(約四六センチ)のアクリルガラスで囲まれているの」
「ここは水族館かい?」
「ふふ、アナタはお魚さんかしら? それとも餌かしら?」
「さあね……」
どちらにせよ、最悪だ。
ジャリッと、ボクの首に装着された鎖が鳴った。
ボクはそのまま引っ張られる。
リングに繋がる小さな階段。
ボクはその一歩を踏み出した。
地獄につながる階段が上りだとは知らなかった。
◇◇◇◇◇◇
『退屈な日々よ、終わりなき平凡たる日常よ! さらばだ! さらばぁぁ! 餓えろぉ!! 渇望を胸に秘め、焔を燃やせ! バイオレンス&セクシー! 暴力と淫靡と血と肉の爆ぜるこの聖地ぃぃ! 今日もこの地に美しき獣が舞い降りる! 無敵、無敗、その美貌と暴力は地上最高にし最強! 生贄は誰だ! 誰だ! 誰だ! 涎がとまらねーぜ! もう股間がびんびんで先っちょが濡れ濡れだぜぇぇ!』
極めて下品なアナウンスの声。
実況者の声だ。
ボクはその声を聞きながら、リングに立ち、周囲を見る。
三六〇度、強化アクリルガラスで覆われたリング。
真っ白なキャンパスは全ての虚飾を廃し、ただこれから血に染まることを求めているかのようだった。
(バカな…… なぜだ)
ボクはこの研究所に潜入していた工作員だ。
それが、捕まり、このざまだ。
肉体は改造され女体となってしまった。
強化アクリルガラスに薄く映るわが姿を見つめる。
そこにはどこか儚げで美しい女がいた。
キュッと胸が熱くなる。
(ボクだ。これはボクだぞ)
訳の分からない感情が生まれたことでボクは少し混乱する。
息を吸い込み、心を落ち着けた。
(くそ、戻るのか? この身体は……)
ボクは少し冷静になり、薄く浮き上がる自分の姿を見つめる。
細い肢体は、柔らかなラインを描いている。
格闘技――
いや、女子プロレスのコスチュームのような物を着ている。
身体に密着した服。女性の肉体であることを殊更強調するかのようになっていた。
(う、う、う、う……)
キュンと下腹が熱くなる。
男のときには無かった感覚だった。
子宮の感覚だ――
ボクは完全に女の子になっていた。
『さあ、女帝の登場だぁぁ! 待っていた! 今宵もアナタの登場を待ち焦がれていた。あああ、生贄を存分に蹂躙しぶちのめし、完食する姿! 今宵の生贄は、亜里沙ぁぁ! 特殊工作員だぁぁ!』
――うらやましいぞぉぉ!
――犯せぇぇ! 殺せぇぇ! ひひひひ!
――最高だぜぇぇ、女帝・デボネアァァァ!
――亜里沙、結構可愛いじゃねぇか! ひぎぎぎぎぎ!
実況の声がスピーカーから響き、観衆の声が重なる。
空間に重奏する人の声。血に餓えた人の声だった。
(か、彼女が女帝…… デボネア……)
ボクはゆっくりとリングに向かってくる存在を見た。
見た瞬間に眼が釘付けになる。呼吸が止まる。視線を動かすことができない。
それは、圧倒的な存在だった。
女帝―― 慥かにそう言うしかない存在が接近してくる。
身長は二メートルを超えるだろう。
長いストレートな髪。
身体は引き締まり、撓るように動く筋肉で包まれている。
実戦的な、大型の捕食獣を思わせる肉体。それは、周囲の空間の色彩を奪ってしまうほどに圧倒的存在感を持っていた。
「女帝・デボネア…… あ、あ、あ、あ……」
心が折れそうになる。屈服しそうになる。
いや違う。
なんだ、この感覚は。
まるで生贄であることを喜んでいるかのような感覚……
ボクは自分の胸の内に生じた感覚に戸惑っていた。
しかし、そんな戸惑いとは関係なく、デボネアはリングに上がった。
周囲を睥睨するかのように視線を送る。
圧倒的すぎた。
戦力も――
美貌も――
圧倒的な存在だった。
『さあ、試合が開始するぅぅ! 蹂躙の宴! 殺戮の宴の開幕だぁぁ!』
実況の声。そして試合開始を告げるゴングが鳴った。
音が物理的な力であることをボクはこのとき知った。
「こんな場所が、研究所の地下に……」
「ふふ、地下十三階―― ここがキャットファイトの聖地『ヘルキャットファイト』の闘技場よ」
ボクの首から伸びる鎖を手にした女が言った。
研究所の所長だ。ボクの身体を女に変えた張本人だ。
ボクは女の身体になっていた。
胸はやや小ぶりだけども、そのラインは綺麗だった。
そして、それは女性であることを目一杯主張していた。
「ここで、ボクは……」
「そう、戦ってもらうわ。ふふ。亜里沙」
「亜里沙?」
「アナタの新しい名前、素敵でしょ」
真紅の唇の右端をすっと持ち上げ、女は言った。
妖艶で猛毒を含んだ笑みだった。
ボクは周囲を見やる。
それにしても、なんということだ。これだけの人を収容する大規模な施設が地下にあったなんて……
観衆なのか?
すり鉢状になったこの空間の底。
ガラスで囲まれたリングあった。
ボクシングとも、プロレスとも、総合格闘技とも違うリング――
狂気の色彩を孕み、血の匂いに染まったリングだ。
「そうよ、あそこで戦うのよ。亜里沙」
ボクの視線の先をなぞり、女所長は言った。
「リングの周囲は厚さ一八インチ(約四六センチ)のアクリルガラスで囲まれているの」
「ここは水族館かい?」
「ふふ、アナタはお魚さんかしら? それとも餌かしら?」
「さあね……」
どちらにせよ、最悪だ。
ジャリッと、ボクの首に装着された鎖が鳴った。
ボクはそのまま引っ張られる。
リングに繋がる小さな階段。
ボクはその一歩を踏み出した。
地獄につながる階段が上りだとは知らなかった。
◇◇◇◇◇◇
『退屈な日々よ、終わりなき平凡たる日常よ! さらばだ! さらばぁぁ! 餓えろぉ!! 渇望を胸に秘め、焔を燃やせ! バイオレンス&セクシー! 暴力と淫靡と血と肉の爆ぜるこの聖地ぃぃ! 今日もこの地に美しき獣が舞い降りる! 無敵、無敗、その美貌と暴力は地上最高にし最強! 生贄は誰だ! 誰だ! 誰だ! 涎がとまらねーぜ! もう股間がびんびんで先っちょが濡れ濡れだぜぇぇ!』
極めて下品なアナウンスの声。
実況者の声だ。
ボクはその声を聞きながら、リングに立ち、周囲を見る。
三六〇度、強化アクリルガラスで覆われたリング。
真っ白なキャンパスは全ての虚飾を廃し、ただこれから血に染まることを求めているかのようだった。
(バカな…… なぜだ)
ボクはこの研究所に潜入していた工作員だ。
それが、捕まり、このざまだ。
肉体は改造され女体となってしまった。
強化アクリルガラスに薄く映るわが姿を見つめる。
そこにはどこか儚げで美しい女がいた。
キュッと胸が熱くなる。
(ボクだ。これはボクだぞ)
訳の分からない感情が生まれたことでボクは少し混乱する。
息を吸い込み、心を落ち着けた。
(くそ、戻るのか? この身体は……)
ボクは少し冷静になり、薄く浮き上がる自分の姿を見つめる。
細い肢体は、柔らかなラインを描いている。
格闘技――
いや、女子プロレスのコスチュームのような物を着ている。
身体に密着した服。女性の肉体であることを殊更強調するかのようになっていた。
(う、う、う、う……)
キュンと下腹が熱くなる。
男のときには無かった感覚だった。
子宮の感覚だ――
ボクは完全に女の子になっていた。
『さあ、女帝の登場だぁぁ! 待っていた! 今宵もアナタの登場を待ち焦がれていた。あああ、生贄を存分に蹂躙しぶちのめし、完食する姿! 今宵の生贄は、亜里沙ぁぁ! 特殊工作員だぁぁ!』
――うらやましいぞぉぉ!
――犯せぇぇ! 殺せぇぇ! ひひひひ!
――最高だぜぇぇ、女帝・デボネアァァァ!
――亜里沙、結構可愛いじゃねぇか! ひぎぎぎぎぎ!
実況の声がスピーカーから響き、観衆の声が重なる。
空間に重奏する人の声。血に餓えた人の声だった。
(か、彼女が女帝…… デボネア……)
ボクはゆっくりとリングに向かってくる存在を見た。
見た瞬間に眼が釘付けになる。呼吸が止まる。視線を動かすことができない。
それは、圧倒的な存在だった。
女帝―― 慥かにそう言うしかない存在が接近してくる。
身長は二メートルを超えるだろう。
長いストレートな髪。
身体は引き締まり、撓るように動く筋肉で包まれている。
実戦的な、大型の捕食獣を思わせる肉体。それは、周囲の空間の色彩を奪ってしまうほどに圧倒的存在感を持っていた。
「女帝・デボネア…… あ、あ、あ、あ……」
心が折れそうになる。屈服しそうになる。
いや違う。
なんだ、この感覚は。
まるで生贄であることを喜んでいるかのような感覚……
ボクは自分の胸の内に生じた感覚に戸惑っていた。
しかし、そんな戸惑いとは関係なく、デボネアはリングに上がった。
周囲を睥睨するかのように視線を送る。
圧倒的すぎた。
戦力も――
美貌も――
圧倒的な存在だった。
『さあ、試合が開始するぅぅ! 蹂躙の宴! 殺戮の宴の開幕だぁぁ!』
実況の声。そして試合開始を告げるゴングが鳴った。
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