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3話:ダウンペナルティ!?

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『さあ、試合が開始です! 亜里沙は特殊工作員…… ハイレベルの格闘技術を持つといわれますが。おおおっとぉぉぉ!』

 ボクは雑音のような実況の声を振り切り、ハイキックを繰り出す。
 いきなりのハイキックは普通は下策だ。
 しかし、この相手――
 女帝・デボネア相手に普通の手段なんか通用しない。
 そのことが、対峙して分かる。

 トラ相手に、ジャブを繰り出すか?
 ゾウ相手に、ガードを固めるか?
 クマ相手に、組みに行くか?

(くそぉぉ!!)

 ボクはありったけの力を根こそぎ込めて、右のハイキックを繰り出した。
 慥かにいきなりだけども、真っ正直ではない。
 上から叩きつけるローキックと見せかけ、軌道を変え頭を襲うキックだ。
 現代の格闘技でも最高の技術――

 ドンッと、足がデボネアの顔面に当たった。
 重い、硬い――
 まるで、鋼鉄の塊に、硬質ゴムをコーティングしたかのような感じだった。
 足が肉に食い込むことなく、簡単に弾かれた。

「いきなり? お行儀がなっていなくてよ」

 にぃぃっと鮮血のような色をした唇がつりあがる。
 焔をまとったような髪が揺れる。一本一本が意思を持っているようだった。
 ねうねと敵を求め、うごめくくメデューサの髪のようだった。
 毒蛇の髪だ。
 その瞳の奥底からは残虐な光がちろちろと漏れてくるようだった。
 視線がボクの首筋を舐めた。
 瞬間――

「あがぁッ!!」

 肺腑の中の空気を一気に吐き出した。
 痛みが脳天に突き抜けた。
 足で発生した濃厚で純粋な痛み。
 結晶と化して脳髄に突き刺さった。

 骨が「ボキボキ」と圧壊する音を響かせる。
 破壊音が肉を震わせ、ボクはその音を身体の内側で感じた。

「お行儀の悪い足ですわ」

 足首をデボネアに掴まれれていた。
 凄まじい握力だった。
 チタンのベアリングでも変形しそうなパワーだ。
 骨が砕け、肉が引き千切られ、皮膚が裂けそう―― 
 ではなく、実際に裂けた。
 ぶっ壊れた水道栓のように、ボクの足から血が噴出した。
 返り血が女帝・デボネアにかかる。

「うふふ、中々よろしくてよ。攻撃は手ぬるいですが…… 悲鳴、表情、そして血の味、匂い、絶望、圧倒的な絶望の中で歪んでいくのを感じますわ」

 すっと双眸が細くなる。
 夜天の繊月のようになった。
 狂気ルナティックを秘めた視線がボクに絡みつく。

 痛み、恐怖――
 絶望、暗黒――

 焼けつく痛みにボクの喉は空気を吐き出す。掠れた声が遠くに聞こえる。
 それはボクの悲鳴だ。

 ブンッと、暴風のような空気の塊―― 
 灼熱の温度を持ったそれがいきなりぶつかってきた。
 拳だった。
 女帝・デボネアの右拳。
 それを認識した瞬間、ボクの顔面に突き刺さる。
 とんでもない質力と速度と貫通力をもったパンチだった。
 鼻骨が砕け、眼底骨が粉砕されたのを感じた。

「うふふ、一発だけではなくってよ」

 ボクは足首を掴まれたまま、ぶん殴られ続けた。
 倒れることも出来ない。
 パンチングボールのように身体が舞った。
 デボネアはまるぬいぐるみをいたぶるかのように、ボクに容赦ない攻撃を続ける。
 意識が吹っ飛び、激痛で復活する。
 加虐の拳が肉を斬り、骨を絶つ。
 まだ命があるのが奇跡だった。

 不意に――
 身体から重力が消失した。
 デボネアが手を離したのだ。
 襤褸切れになってその場に落下した。
 白いキャンパスがボクの血で真っ赤になっていた。

『ダウン! ダウンです! さあ、一〇カウントで立ち上がれるのか! 立ち上がれない場合、恐るべき罰が待っています』

(一〇カウント…… 罰…… なんだいったい……)

 実況の声が薄れ行く意識に辛うじて届いた。
 ボクはその意味を考えようとするが、考えた瞬間、意識が消える。
 明滅する自分という入れ物中で、ボクはただ辛うじて存在を保っているだけだった。

『――セブン、ナイン、テ――ンッ!!』

 カウントが一〇になったようだった。
 だかどうした?
 温いじゃないか?
 あはははは、殺さないのか?
 くそ…… 足の骨が砕けて…… 目もかすむ……
 
 血まみれの顔面をキャンパスの上に置いたままボクは思考する。
 思考することだけは、辛うじてできたからだ。

「うふふ、いつまでおねんねしているのかしら」

 デボネアだ。
 女帝がボクの髪を掴んでぐっと持ち上げた。

『せいいん!、せいいん!、せいいん!、せいいん!、せいいん!、せいいん!せいいん!、せいいん!、せいいん!』

 ボクのぼんやりした頭はその言葉を音としてしか認識できなかった。
 だから「せいいん」って何だとしか思えない。推測する予想する、そんな余裕が無い。

『観衆の皆さんからは「精飲」のリクエストだぁぁ! ダウンペナルティは「精飲」だぁぁ!』

 ボクの頭の中でようやく「せいいん」が漢字となり意味をなす。
「せいいん」は「精飲」だ――
 バカか! ごめんだ! 精液を飲めといううのかッ!
 あああ、あ、あ、あ、あ……
 ボクは声にならない声で戦慄わなないた。

        ◇◇◇◇◇◇

 ボクは霞んだ視界の中で「それ」を捉えた。
 注射器?
 浣腸器?

 リングの中に黒い服にサングラスの男が立っていた。
 怪しさしか感じない男だ。
 いや正確には「男たち」だ。
 その手には常識を疑うほどに巨大な注射器? いや針がないので浣腸器か?
 とにかく、そんなものを持っていたのだ。

「あがぁぁぁ!! やめろぉぉぉ!! あばぁぁぁ!!」

 微かに残っていた生命力を燃やしてボクは叫んだ。
 しかし、無駄だった。
 口がこじ開けられ、浣腸器が口に突っ込まれた。

「どうかしら? 観客の皆さんから集めたしぼりたて、精液ミルクですわ。ありがたくお召し上がりなさい」
 
 浣腸器の中にはドロドロのとろみを感じさせる白濁液が入っていた。
 一気にボクの口の中に流し込まれた。

「こぼしちゃだめ」

 ボクの口から飲みきれない精液がダラリと流れ出した。
 浣腸器は、動き、止まり、動き、止まり、何度も、何度も、ボクの口の中にドロドロの精液を流し込んできた。
 舌が生臭くドロドロの体液の感触に溺れる。
 海馬の中に精液の味の記憶が流れ込んでくる。

(あああ、ああ、精液の味をぉぉ…… 覚えちゃうよぉぉ……)
 
 オスミルクがボクの身体の中を満たしていく。
 胃袋が妊娠しそうなほどの量の精液だ。
 ちゃぷちゃぷと音がする。

「ふふ、こんどは下の口ですわ――」

(な…… あ、下の…… まさか)

 精液のドロリとした粘りと苦味で少しは覚醒したのかもしれない。
 ボクは次に起きることを予測できた。
 しかし、それは何の役にも立たない。ただ恐怖を増幅するだけだった。

「あがはぁぁぁ!!」

 浣腸器が口から抜かれる。
 瞬間、尻の穴に、浣腸器が突き刺さった。
 直腸を押し広げ、一気に精液が流れ込んできた。
 
「ふふ、いい表情ですわ。そのまま、尻穴で妊娠してしまうのかしら」

 デボネアはたまらないという表情でボクを見つめていた。
 ボクの身体の中には二〇リットルを超える精液が流し込まれた。

 こんなことを考える奴は逮捕されるべきだ――

 ボクは薄れ行く意識の中でそんなことを思っていた。
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