ただひたすらゾンビを殺す終わり無き日常

中七七三

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15.銃の自動操縦

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 ガソリンをかき集めれば十分に行動力を確保できそうだった。
 ただ、かき集めるのは大変だった。

「うぇッ……」

 有紀は吐きそうになる。バールで壊したタンクの蓋からホースを突っ込み、ガソリンをくみ出すのだ。
 いや、くみ出すというより「吸い上げる」だった。
 思い切りホースを吸って、ガソリンを吸い上げる。「サイフォンの原理」でくみ出すのだが、吸い上げる際にガソリンの一部が口の中に入って来る。

 口の中にガソリンが入ってくれば当然咽る。同時に吐き気と眩暈も起こさせた。
 ただ有紀にとってはその不快な感覚も「不快を感じる自分」という物を明確に意識させる。
 自分がそこに存在しているという、意識を強く焼き付けた。

「大丈夫、有紀さん」

「まあ、なんとかね……」

 涙目になっていた。
 肺の中までいがらっぽくなってくる感じながら、なんとか有紀は返事をする。

「ガソリンは十分。で、これを」

「銃?」

「そう『AK-47』よ。私がいつも使っているのと同じ」

「ボクが使うの? 撃つの」

「アナタが使う、撃つのよ一郎」

 まるで、そこらへ買い物をお願いするかのように有紀は言った。
『AK-47』を一郎に渡す。

「これを……」

 一郎はおっかなびっくり、銃を抱え込むようにして持った。
 子どもらしい好奇心と、銃という人殺しのための道具への恐れがその表情に浮かんでいた。
 今のところは人ではなくゾンビを斃すための道具になっているのだが。

「免疫よ。行動免疫。身体の中――脳に自動操縦のシステムを作るらないと、それには、銃を撃つ経験をしないとダメだから」

 人間はパニックになると、脳と身体の連絡が上手くいかなくなる。
 思考して行動するということが難しくなるのだ。
 単純に引き金を引くという動作ですら、パニックを起こすと固まってなにもできなくなってしまう。
 それを避けるためには、何度も同じ行動を身に刻み込むしかない。
 古い言い方をすれば「体で覚える」ということだ。脳科学的視点でいえば、中脳に自動操縦のシステムを構築することになる。

 有紀がこのようなことを知っているの理由は自分でも分らなかった。
 そもそも、銃をなんの抵抗もなく使えた自分がどんな経験を積んできたか分らないのだ。
 
「とにかく、撃って、撃って、撃って、撃ちまくって、体に染み込ませて。それに弾倉交換、モード切替、こういった基本操作を叩き込むことよ」

「分った」

 そして、有紀は一郎に『AK-47』の基本操作を説明した。
 まずは使って慣れることが必要だった。

        ◇◇◇◇◇◇

 一郎に銃を渡して数日が経過していた。

「当たらないよ。有紀さん」

 屋上の上から一郎はゾンビを撃つ。七.六二ミリ弾はむなしくアスファルトを削ることが多かった。
 当たっても、頭部には中々命中しない。頭部に当てるか、脚でも吹き飛ばさない限りゾンビは止まらない。

『AK-47』はゲリラの少年兵でも使っているイメージがある。
 ただ撃つだけであれば、一郎でも撃つ事ができた。当たるかどうかはまた別問題だったけども。
 そして、当たらなかった。

単発セミオートで当たることより、弾倉交換を早くやれることが重要よ」

「弾倉交換はできる」

 ゲリラ、テロリスト、少年兵など御用達の銃――
『AK-47』は誰でも使える銃というイメージがあるが、弾倉交換などは癖があり簡単で誰でもできるとは言い難かった。
 それでも、一郎は手際よく弾倉交換を出来るようになっていた。

「マンションにはいつ行くの?」

「ん、一郎の弾が当たるようになったら」

 ニッと有紀は白い歯を見せ言った。

「そんな……当たらないよ」
 
 十二歳としてはしっかりした体格の一郎だ。しかし、結構強い『AK-47』の反動を操るまではいっていなかった。
 フルオートだと暴れる銃を押さえ込むのがやっとだった。

「ま、練習ね。銃は当たるようにできているんだから」

 有紀はそう言って自分の『AK-47』を構えた。

「闇夜に霜の降るごとく」と、射撃の極意を口にする。一郎はポカーンとしていた。
 
 パーンと甲高い音が響く、空薬莢がはじき出され、銃弾は――

「あら……外れたか。あははは。私だって百発百中じゃないし」

 さばさばした声で有紀は言った。
 一郎は、呆れたような顔で有紀を見つめた。
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