我が忠義を、あなたに ー 命の恩人が前世で読んだ漫画で厄災の使者として討伐されるキャラクターみたいなので、彼の悲惨な運命を回避したい ー

Leon

文字の大きさ
8 / 16

第8話 決意と…

しおりを挟む
そういえば、前話から文章を一人称視点から三人称視点に変更しました。
ルアンが名前を得たためです。
読み辛いなと思われた方には申し訳ありませんが、今後は三人称固定の予定です。
よろしくお願いします。

………………………………………


「では、また11時にお迎えにあがります」
「ああ、わかった」

自分の正面のソファに腰掛けている主人に、ルアンは貴族家の使用人らしく美しく腰を折った。
様々な工作から主人の家の不穏な空気感を感じ取ったからと言って、毎日の仕事がなくなるわけではない。
ルアンは、常にアルトゥールの隙を探りながら、彼に仕えていた。

拾われた時、アルトゥールからは執事見習いになるようにと言われたが、実はルアンは現在、一介の使用人として雇われている。しばらく働かせて、様子を見た後、正式に執事見習いにするか決めるのだそうだ。
なんでも、いくら「見習い」とはいえ執事というのは上位職なのだそうで、なんの技術も身につけていない子供を任ずることはできないらしい。
また、そもそも執事は貴族でなくとも由緒ある家の人間が受け持つもので、何処の馬の骨ともしれない卑しい身分のルアンは分不相応なのだと、性格が悪そうに顔のひん曲がった使用人がルアンに教えてくれた。だが確か、奴は格上の婚約者がいるにも関わらず浮気して、家を没落させて下級使用人になった下貴族ではなかったか。少し前に同業者から聞いた記憶があった。ただの孤児と不貞で社会の信用を失った貴族、果たして卑しいのはどちらだろうか。まあ、ルアンは決してただの孤児ではないけれど。

思い出してふと口の端を持ち上げながら、ルアンは目的の部屋へと向かう。本日は、12時からアルトゥールに客人が尋ねてくる予定だ。突然の訪問のようで、応接室の準備を急いで終わらせなくてはならなかった。

教えられた手順の通りに部屋の掃除を進め、最後に、テーブルをきれいに拭いて上に皺なく真っ白なクロスをかけた。

「よし、こんなもんかな」

一度、部屋の隅まで行き、部屋全体の完成度を確かめる。
ふと、部屋の棚の装飾が取れかけているのに気がついた。
調度品の位置をずらしたりしてなんとか誤魔化す。

こうして、この家の不具合を見つけるのも何度目だろうか。

思わず、ルアンはため息をこぼした。

伯爵家の不可思議な状況を知ってから色々難しく考えていたが、最終的に、アルトゥールは今代の当主である父親から疎まれているのではないだろうか、という考えに至っていた。

アルトゥールが住まうこの屋敷は別邸であって、当主は別の本邸に住んでいるのではないか?

そう考えれば、この屋敷の資金繰りの悪さ、屋敷や調度品の質の低さ、使用人の質の悪さ…は1人に限ったことだが…、についても説明がつく。
要するに、理由がなんであれ、アルトゥールの親は彼に会うことを避けているのだろう。

ルアンは、再度ため息をついた。

実際、親に疎まれている貴族令息など、泥舟でしかないのだ。一人っ子だろうがそうじゃなかろうが、跡取りに困れば都合のいい養子を取ればいいだけなのだ。下手に地位が高いだけ、その身に背負う危険も大きい。

本当にどうしたものか、とルアンは宙を仰いだ。

「あ、いたいた」

突然、ノックも無しに、背後の扉が開く。振り返れば、アルトゥールが立っていた。

「どうなさいました?アルトゥール様。そろそろお客様がいらっしゃる時間では?」
「さっき渡し忘れたんだ。これを」

ルアンが素早く近寄れば、アルトゥールが懐から小さな布の袋と小瓶を取り出した。

「これはアロマでね、この袋の中に垂らして匂いを嗅ぐんだけど」

彼は、はいこれ、とその2つをルアンに向かって差し出した。

「君、雨の日は傷が痛むんじゃないかい?このアロマには、リラックス効果があるんだ。よかったら使ってみてくれ」

ルアンはひどく驚いて、思わずアルトゥールを見つめた。彼は、優しく微笑んでいた。

「役に立つかはわからないが、まあ気休めにはなるだろう。もっておくといいよ」

アルトゥールの手から直接、袋と瓶を受け取る。ルアンが未だ驚きから醒めない中、アルトゥールは要件はそれだけだから、と言って部屋から出ていった。

なんなんだ、急に。何を考えているんだあの人は。

半ば呆然としながら、ふと窓に近寄る。目に入った窓のサッシの埃を払いながら、自分の着ている使用人服を見下ろした。
少し前までの俺だったら絶対に着ることのなかった上等な生地に、身長に合った服の裾。
袖から覗く手は、今までで1番血色がいい。

窓ガラス越しに早朝の空を見上げる。紺碧の空には、雲ひとつ浮かんでいない。その曇りのなさを少々憎らしく思った。

本当に、本当に困る。こんなことをされては、自分の考えに自信が持てなくなる。

せっかく、一度死の淵から生き返ったのだ。もう二度と窮地に立たされたくはない。沈む可能性の高い船など、今すぐ降りた方が己のため。そんなこと、よく分かっている。分かっているのだ。

ここ最近、俺は今世で最良の生活をしている。恩は明らかにアルトゥールにあって、それを仇で返すことを俺は躊躇してしまっているのだろうか。

手の中の、小瓶を開ける。鼻に近づけると、ほのかに金木犀の匂いがした。主人の、優しい笑みを思い浮かべる。

勘の鋭さには自信があった。アルトゥールには絶対に何か裏があるはずだ。
だが。その不審さを補って余りあるほどの恩があるのも事実。それに、アルトゥールが先ほど見せたあの笑顔が偽物だとは思いたくなかった。

きっちり調べよう。全て。
そしてできるなら、受けた恩を返したい。

ルアンが密かにそう決意した数時間後。
その応接室にて、ルアンとアルトゥールの未来を大きく変えることになる接見が行われた。













しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...