戦場でネクタイを締めて

現代

1、企業戦士サラリーマン！

　2016年、日本のビジネスは大きな変化をとげていた。言葉ではなく力で商品を売りこむ「商戦」が主流となった時代。社内で銃声が轟くこの時代で勝率7割以上を誇る社員を人々は企業戦士サラリーマンと呼んだ！


　ナレーションはこれぐらいでいいかな。やあ、はじめまして、俺は隼　影斗、株式会社耕作に勤めているサラリーマンだ。一応、企業戦士サラリーマンの称号を持っている。まあ、ぶっちゃけ運だけどね。
「影斗ー、商戦が始まるぞー！」
「やべっ！　銃持たないと！」


「ようこそ谷中建設に」
　俺たちが訪れた会社は、株式会社谷中建設。ウチのお得意だ。
「今日は何の商品をウチに売ってくれるのですか？」
「鉄骨千本ほど」
「なるほど、お値段は？」
「九百万で」
「高いですね、五百万で」
「では、決着は商戦で」
　こういうふうに、話し合いで決着がつかない場合は、法律により商戦に持ち込まれることになっている。
「じゃあ、始めますか」
　その言葉を合図に四人の社員は机に置いてあったヘルメットをかぶり、銃を構えた。
「開始は一分後でよろしいですか？」
「了解です」
　各自散開！　部長が叫ぶ。
「ラジャー！」
　俺は机の影に隠れてヘルメットをかぶり、銃を構えた。
「それでは……スタートです！」
　パララララ、パンパン！
　乾いた音が会社の一室で響く。
「部長！　川谷がやられました！」
　川谷の方を見るとスーツの胸のあたりに穴が開いている。
「すなねぇ！　やられちまった！」
　川谷がひらひらと手を振った。
　俺たちが使用している弾は実弾だ。あ、でも中に防弾チョッキを着てるし戦闘保険にも入っている。あと、故意に人を殺すと犯罪になる。弾が心臓部分に当たると、スーツの胸の部分に仕込まれた火薬が爆ぜる仕組だ。
「わかったからお前の残弾よこせ」
　川谷はコクリと頷いてマガジンを滑らしてきた。
「サンキュ」
　でもまだ弾は残っているのでポケットにしまった。
「よし！　一人目！」
　部長が得意のナイフコンバットで一人仕留めた。
「ナイスです部長！」
　カンカララ。
　部長がいる場所に円形の筒が転がってきた。
「フラッシュグレネードだ！　目ぇつぶれ！」
　辺り一面に閃光が広がった。
「突撃！」
　相手は武器をナイフに切り替え、突撃してきた。
「目、やられたやつはいるか!?」
「大丈夫デス！」
「同じく！」
　部長は二本のナイフを、もう一人はマシンガンを、そして俺はネクタイをほどいて構えた。
「シッ！」
　俺はネクタイを鞭のようにしならせ、先端で相手の胸の部分を突いた。
　パァン！　大きな破裂音がした。
「よくやった！　よし、リー、お前も隼に続け！」
「Ｙａ－」
　彼は構えていたマシンガンの銃口を下に傾けた。
　パララララ、下に向けて銃を発射した。
　パァン！　いきなり相手の胸の部分が破けた。
「なっ!?」
　相手が驚いている。リーの得意技は跳弾だ。跳ねる弾はリーにしか軌道はわからない。
「よし、後は俺が！」
　部長がナイフを投げた。
「くっ！」
　相手はナイフをなんとか弾いたが、
「ハッ！」
　流石に二本目のナイフは無理だったようだ。
　パァン！　勝利を告げる音が鳴った。