False memories 偽の記憶

Raymond

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一番古い

嘘しかつけない

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「わたしは嘘しか話せません
では、いま話していることは真実ですか?嘘ですか?」

記憶が正しくない事は知っている。
知っているというよりは、嘘なんだろうとわかっている、なぜなら周囲は否定するからだ。
偽の記憶をもっているという事は、話す事が嘘になると言うこと、嘘つきで居なくてはならない。

そして、わたしにはこれは真実でもあるから。


一番古い記憶、それは10月5日、小学生になった年

わたしには弟がいる、ワガママでじぶんがだいすきで、やる気に満ちている。
自己主張があって乱暴者だが根は優しい。年は3歳下だ。

幼い弟と母が田舎の玩具店に入っていくのを寒い車内のガラス窓におでこを押し付けて眺めている。
駐車場に停めた車の外は暗く雨が降っている。明るい店内に走り回る弟のすがたがあった。

わたしはこの玩具店に入ったことがない。

わたしの誕生日は春、桜が散った頃。
忙しさを理由に祝ってもらった事がない。何かを欲しがる子供でもなかった、だから誕生日は普通の日で、そういうものなんだと何となく諦めていた。

弟は得意の自己主張で好きなものを手に入れる。ひとを操るのは天分の才かもしれない。

車の中で冷たいガラスに張り付いていた私は大きな箱を抱える弟を何となくモヤモヤした気持ちで後部座席から見ていた。

好かれている、そうでもない。
今でも思い出せば人は平等では無いんだと悟っていたあの頃に引き戻される。

母は私を育てるのを諦めた。
祖父と母が話しているのを聞いた、
『私は男の子が欲しかったから』

人生は平等ではない。

その会話があった数週間後私は1人で祖父の家に居た。

捨てられたらしい
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