アラクネマスター ~地球丸ごと異世界転移したので、サバイバルする羽目になりました~

サムライ熊の雨@☂

文字の大きさ
28 / 33
二章

28.女神様のお仕事

しおりを挟む

三人称です

======

「いない……いないいないいない! なんで!? 何でどこにもいないのよ!?」

 そこは果てしなく続く真っ白な空間で、その中でぽつんと一つだけデスクがあり、その前に黒いスーツを着て眼鏡を掛けた若い女が一人いた。髪は黒くて長く、しかし艶があまりなく、どこか傷んでいるように見える。
 そんなどこか疲れた様子の彼女は、三つのモニターに囲まれ、そこに映し出された風景を端から端まで眺めて喚き立てた。

 彼女の名はインテクェス。この星、地球の管理者を名乗る者である。
 一見すると日本人にも見えるのだが、彼女は日本人ではない。それどころか“人”ですらなかった。
 より正確に言うなら、彼女はホモ・サピエンスではないのだ。
 彼女は何万年も前に地球上で生きていた人類、八世代前の人類の生き残りである。

 八世代前の人類は戦争で滅んだ。
 彼女は自分たちの世界で、全ての人類が滅ぶその“最終戦争アルマゲドン”が訪れる前には、すでに只人を超えた存在となっていた。
 彼女の力があれば、恐らく戦争を止めることは出来ただろう。だが彼女は、そんなことには興味が無かったのである。
 すでにその時には、彼女の知人は残らず天寿を全うしており、世界を守る必要を感じなかった。
 それに、世界が滅ぶなどどうでもいいほど忙しかったのだ。

 そもそも彼女が人を超えることになったきっかけは、“知りたかった”からだ。
 命とは何なのか、命はどこから来て、どこへ行くのか。
 それが知りたいのに、人が絶滅するのを放っておくのは矛盾しているように思えるが、命というのは何も地球人類だけではない。
 地球人類のことはすでにわかりきっている。
 宇宙の始まりから終わりまで、全ての生命を観測する必要が彼女にはあったのだ。
 それでも人類が滅んだ後は、地球に再び自分のいた世界に近い人類を創造し、観測することにした。
 もしかしたら、彼女と同じように人を超える存在が現れるかもしれない。
 だが、結局そんなものは現れず、人類は同じように何度も滅びへの道を辿るだけだった。

 その度に彼女は人を創造した。
 実際のところ、それは最早神の御業と言っても過言ではない。
 しかしそれは人から見た神であり、彼女自身は自分を神だとは思っていなかった。
 神とは、人、そして彼女より階梯の高い存在だ。
 人は遥かに高い次元にいる神を理解することができない。どんな意味においても、である。
 彼女とて、そういった存在があるかもしれないと考えている程度だ。
 もし彼女がそんな高次元の存在であったなら、人由来の知的探究心など持つことは無く、この星の管理者となることもなかっただろう。

 故に、彼女が何より優先するのは知識であり、そのために必要なのは実験と観測だった。
 それ以外のこと、地球人類の命など二の次、三の次だったのである。

 だがそんな中、地球は異世界に召喚されてしまった。
 もちろん彼女は異世界の存在は知っている。地球があった世界とは違う法則で成り立っている世界であり、主な違いといえば、魔素という地球にはない物質が存在し、そのせいで魔法が使えるということだ。
 そんな世界では、彼女の今まで行ってきた実験は成り立たない。出来なくはなかったが、また一から実験と観測を繰り返さなくてはいけなかった。

 しかしそれは同時にチャンスでもある。
 新しい実験ができるという事、そして彼女の求めるものを得ることができるかもしれなかった。
 それにはまず、異世界ディアラの管理者を見つけ出さなくてはいけない。
 彼女は便宜的に管理者と名乗ってはいるが、実際ディアラでその者が自分を何と名乗っているかなんてことまでは知らない。
 もしかしたら支配者かもしれないし、超越者なんていうのも言い得て妙ではある。
 それに、不遜にも神を僭称している可能性もあった。

 だが別に、異世界の管理者が自らをなんと呼んでいようと、彼女はどうでも良かった。彼女の目的はその人物を見つけ出すことなのだ。
  無論、見つけ出して終わりではない。
  今回こんな事が起きてしまったのは、間違いなくディアラ側の責任であり、彼女には何らかの賠償を請求する権利がある。
  そして彼女は、すでに何を請求するか決めていた。

  それは星の命力マナである。
 今の人類が死滅してしまったとしても、次の人類に繋げれば彼女はそれで良かった。それでも本来であれば長くとも・・・・、あと二百年人類は生き残れたはずであり、新たな実験もできると考えて、人類が生き残るのに必要な手段は講じたのである。
 また、彼女の欲しいものを手に入れるためには、今いる人類のどこかにある遺伝子が必要なのだ。もちろん遺伝子情報は保存してあるので、たとえその人物が死んでしまったとしても、何とかはなる。時間は余計にかかってしまうが。
 ともかく、地球が丸ごと異世界に召喚され、その異世界に侵食されるという事態に陥ってしまったが、マナさえあればどうとでもなるのだ。

 しかし肝心の管理者が見つからない事には、彼女はどうすることもできない。
 いないということは有り得ないはずだ。ディアラのマナにアクセスしようとして、拒否されたのだから。それを拒否できる者が必ずいるのである。

 そこで考えられることがいくつかあった。
 彼女はあまり考えたくなかったのだが、一つは相手が自分よりも階梯の高い存在の可能性である。
 そうなると、彼女にはもう手も足も出ない。
 しかしそれならば、すでに彼女はその存在を消されている可能性だってある。
 そもそも高次元の存在が人を支配しようとはしない。少なくとも、彼女にもそれがわかるようには。

 いないはずはないのに、いない。しかし、高次元の存在である可能性も低い。
 では、一体何なのだろう。
 その答えはモニターの一つ、彼女の作った異世界補助システムを映す画面にあった。
 その一つに移された数字、『758,314,664』という数字を彼女は凝視した。

「え? は? 嘘でしょ? 何でいきなり十分の一以下になってるの?」

 その数字は人類の総人口である。
 それが、異世界召喚された二日目に、すでに十分の一以下にまで減っているのだ。
 彼女は慌ててその原因を探る。
 地球に強力なモンスターが現れるのはまだのはずだった。
 せいぜい魔素の影響を受けて、虫や動物が巨大化する程度の事態しか起きていないはずなのである。
 それがいざ調べてみると、異形の怪物としか言い表せないようなモンスターが地球に溢れていた。

 しかもシステムに、勝手にマナが送られていた。
 欲しかったものではあるが、こんな形では欲しくなかった。
 マナは人体に直接送られているのである。これでは、彼女が取り出せないのはもちろん、持病を持った者や老人は、耐え切れずに死んでしまうだろう。

「やられた……」

 彼女はここに至って漸く何が起きているのか理解した。
 彼女は攻撃されているのだ。
 異世界の管理者の手によって。
 もしかしたらこの異世界召喚でさえ、仕組まれたものである可能性さえある。

「いいわ。そっちがやる気だって言うなら、私にだって考えがあるんだから」

 そう彼女がモニターに向かって呟いた瞬間、彼女の体はすでにこの空間のどこにもなかった。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...