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第参章

エピローグ 家老、迷う

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久利呉藩くりごはんの事件を聞いた弥七かろうは、マイクを取り落とした。
今まで楽しく歌っていたのに、急転直下の出来事だった。

「お上の待機命令なんて聞いてられるか。藩主さまをお助けに参る。」

お上の命令もそうだが、国元からの指示が無いのが気になって仕方なかった。

「待って弥七クン。お上に逆らったら命令違反で殺されちゃうよ!?」

るりっぺが悲痛な声を上げる。
たとえ藩主を助けられたとしても、重罪は免れ得ない。
もちろん弥七にはそのことも頭にあった。

だけども。

主君のピンチに助けに行かなくて何が武士もののふか。

「なにも大人数でいくわけではない。私とここにいる3人で様子を見てくる。」
「「「お供します」」」

「嫌だよ弥七クン。死んじゃうよ。」
「そう簡単に死にはしないよ。」
「あたし、、、あなたの子どもがいるの!」

急な告白に仰天する弥七。

「そうか。めでたいな!では、子の分まで頑張ってくる。」
「いなくなったら、二人きりになっちゃうよ!?」
「大丈夫だ。いなくならない。すぐ戻る。」
「嘘つき!死ぬ覚悟のくせに!」
「今、死ねなくなったな。」
ニコリと笑う弥七。
「じゃあ、このカンザシを持って行って。私だと思って。それで、帰ってきたら返してね」

「いってくる。必ず戻る。達者で暮らせ。」
そう言い、カラオケをあとにする弥七。





「それが瑠璃との最後であったのじゃ。」
家老は悲しそうにそう話を締めくくる。

「ひどいっス!今こうして生きてるってことは、また会いに行けたんじゃないっスか!?」
三雲が憤る。

「ダメじゃった。謀反した宇佐美憂憂うさうさは斬ることができた。だが、私は命令違反で10年幽閉されたのじゃ。」
藩主、佐竹松竹まつたけはお上に助命嘆願し、命拾いしたが、それでもやはり10年もの間、久利呉藩内の家老の家から出ることを禁じられた。

「本当に会いに行きたかった。るりっぺがどうしているか、馬場に調べさせていた。いつになるかわからないが、幽閉期間が終われば会いに行けると思っていたのじゃ。だが、それは叶わなかった。」

二人が別れて5年後、るりっぺは交通事故で他界した。遺された子どもは女の子であること以外わからず行方不明。

「どうすることも出来なかったのじゃ。さんざん探させたが、見つからなかった…。残ったのは、このカンザシだけ。女将よ、このカンザシ、受け取ってくれぬか?」

無言で受け取る女将。

「生前使ってたものじゃ、母さんのものかどうかわからないじゃないか。」

それでも、るりっぺが好きそうな色柄であると分かったのか、女将はカンザシを大事そうにしまった。

家老、斬っちゃったんですけど、どうしたらよかったですか?




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