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第一章 海岸都市とビリビリ娘
厄介事は突然に
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「……バーン…」
雷は港の波止場の端っこの方へ来ていた。
海へ足を投げ出し、青く澄んだ空を見上げ、手で拳銃の形を作り空を自由に飛び回っている鳥型の魔物に対し拳銃を打つ真似をしていたが、やがてゴロリと横を向くとボソリとつぶやく。
ここは雷のお気に入りの場所の一つ、周りは停泊している船に積み込む荷物が置いてあり、量も量だけあってこの辺りに寝そべると良い死角ができて、一人でぼんやりとするには丁度いい場所なのだ。
「……はぁー…どこ行っちゃったんだよ雪…お前どこにも行かないって、追いかけてくるって言ってたじゃんか…」
雷はこの街に来てからしばらくして、この街のギルドマスターと共に一度自分たちが元いた村へと出向いた事があった。
そこにあったのは、燃えて炭になりきった少しの木材と少量の血痕の跡だった。
雷はその場で絶望し、姉である雪の名前を叫びながら辺りを走り回ったのをよく覚えていた、三日間その場所へギルドマスターと留まり、至るところを探し回ったが、ついになんの手がかりも掴めずにコルセアへと戻ってきていた。
「……へっ…あの時のみんなの顔ったらないよな…影に至ってはみんなから責められて何にも言えなくなってたもんな…あん時俺がかばってあげてたら良かったのかな…なぁ?雪…」
返ってくるはずのない質問を空中へと投げかける、目をつぶるとコルセアへと戻ってきた時の姉妹達の表情が昨日のことかというように蘇ってくる。
泣きじゃくる曇、表情の抜け落ちた影と雨、俺にちゃんと探したのかと詰め寄ってくる闇と陽、氷はずっとうつむいてたっけな。
「…あれから、仲直りはしたつもりだったけど…みんな立ち直って、前を向いて歩き始めていったのに…俺だけ未だ立ち上がれないままだ…みんなこの街から離れて行っちまったしよ…」
太陽に向かって手をかざしてみる、指の間から差し込む太陽の光に思わず目をしかめてしまう。
「あの時から俺たち姉妹の間には深い溝ができちまった気がする…たった一人…たった一人、お前がいないだけでこんなことになっちまうなんてな…俺は…俺たちはお前がいないと駄目なんだ、駄目なんだよ雪…」
別れ際に姉妹が言っていった一言を思い出していく。
「いつまでそこで腑抜けているつもりだ…雪がいないだけでお前はこんなに腑抜けてしまうのか!見損なったぞ…私は先に行く、もう、あいつはいないんだから…」
闇だ。
「あたしももう行く、こんなところにいたってなにもなりゃしないからな…めんどくせぇけどあたし達が前に進むことが雪への弔いになる気がするからな…じゃあ、な」
陽、一度もこっちを振り向かなかったなぁ。
「ボクがこんなこと言える立場じゃないのはもちろんわかっているつもりだけど、雷ちんはいつまでそうしているつもりなの?ボクももうこの街を出るよ、また会えたらいいね、さようなら…」
影…あいつも辛いのはわかっている、でも…。
「雷、貴方の責任じゃないんだからいつまでも塞ぎ込んでいたら駄目よ、私ももう行くわ、結局おんぶはしてもらえなかったけど…前を向いて歩き出すことが大切だと思うの、この街にいるのも私と貴方で最後だけれど、雪もソレを望んでいるんじゃないかしら?貴方が立ち直ってまた出会うことができる日を心待ちにしているわ、じゃあまた…」
氷が一番最後だったな、冷静に見えて一番雪の事にショックを受けてたってわけだ。
「まぁ…それでも俺よりはマシだったんだけどさ…まったく…みんなして好き勝手言いやがってよぅ…みんな泣き腫らして目が真っ赤になってたくせによ…ははっ…懐かしいなあ…」
クスクスとひとしきり笑ったあと、急に孤独感と虚しさが込み上げてくる。
今はもう"竜の息吹"という仲間たちがいるが、それでもやはり心の隙間は埋まってはくれない、自分の心の拠り所だったんだと、いつもこうなると思い直す。
「アイツラも良い友達なんだけどなぁ…はぁ、昼寝でもすっか…」
もう一度横になると雷は静かに目を閉じた。
そこへいつも一緒の三人組がそろそろと近づいてきた。
カルラは寝ている雷の顔を覗き込むとニシシと笑った。
「ライめっけ!こんなところにいたのか、どおりで見つからねーわけだ!」
さも自分が見つけたんだとばかりに誇らしげな顔をしているカルラの後ろから、ジータとリルが顔を出した。
「ここは、荷物もちょうど良くあるし海も一望できる、のんびりするにはもってこいの場所だな」
返事の返ってこない雷の横へジータは腰を下ろすとライと一緒に横になった。
「らしくないじゃないか……知っているぞ、決まっていつもどこかの誰かがジギーという名前を出した時、ライはここに来る、それと何か関係しているのか?」
「………るせぇ…」
リルは心配そうに雷とジータをじっと見たあと、カルラが見つけた波止場にくっついている蟹をどうにかして獲ろうと躍起になっているカルラを手伝い始める。
今までもジータは雷の事をよく見ていた、普段元気いっぱいで騒がしい程の雷が決まってジギーの名前で訪ねて来たやつがいると見るからに沈んでいる。人と話している時は明るく元気に対応するが、誰も見ていないところでは生気の失っている表情をしているのだ。
そんな雷をいつしかよく探すようになった、その話題が出るたびによくここに来ていることはジータも知っていた。
「……まぁ、言いたくないのなら深くは追求しないが…私達は君のことを結構気にかけているんだよ、元気がなければやはり気になる…いつでもいい、言いたくなったなら教えておくれ」
そう言ってジータは立ち上がろうとした。すると雷が静かに喋り出した。
「………人を…探してるんだ……もう何年も会えてない…アタシ達の合言葉はジギー…それしかない……ははっ、もう死んでるかも知れない人を、な…探してるんだよ、傑作だろ…?」
雷は自らを自嘲する。それを見たジータはなんとも言えない顔で雷の頭をなでた。
「……そうか…なら、探して見ないとだな」
「…は?」
雷は思わず身体を起こしジータを見る。
「デルガドさんが追い返したっていう人だよ、その人くらい探したってバチは当たんないだろう?探すだけ探して見ようさ、な?」
「ジータ…」
「女性だったみたいだしな、今までずっとハズレだったかも知れないけど今回は当たりかも知れないだろ?さぁ、行こう」
促されるまま雷はジータに手を引かれ立ち上がる、その後ろの方からはカルラの雄叫びとリルの拍手が聞こえてきた。
「ぃよっしゃー!!」
「おおー!カルラさんすごいです!やったやったー!ギルドで調理してもらいましょう!」
どうやら一生懸命やった結果、美味しそうな蟹が捕獲できたようだ。
カルラが蟹を掲げていると突然港全体が地響きによって揺れ始めた。街の方まで響きそうなくらいの大きな地響きだ。辺りはザワザワとし始め、"竜の息吹"の四人はかなり大きな気配が海の方から感じ、戦闘態勢に入った。
雷は港の波止場の端っこの方へ来ていた。
海へ足を投げ出し、青く澄んだ空を見上げ、手で拳銃の形を作り空を自由に飛び回っている鳥型の魔物に対し拳銃を打つ真似をしていたが、やがてゴロリと横を向くとボソリとつぶやく。
ここは雷のお気に入りの場所の一つ、周りは停泊している船に積み込む荷物が置いてあり、量も量だけあってこの辺りに寝そべると良い死角ができて、一人でぼんやりとするには丁度いい場所なのだ。
「……はぁー…どこ行っちゃったんだよ雪…お前どこにも行かないって、追いかけてくるって言ってたじゃんか…」
雷はこの街に来てからしばらくして、この街のギルドマスターと共に一度自分たちが元いた村へと出向いた事があった。
そこにあったのは、燃えて炭になりきった少しの木材と少量の血痕の跡だった。
雷はその場で絶望し、姉である雪の名前を叫びながら辺りを走り回ったのをよく覚えていた、三日間その場所へギルドマスターと留まり、至るところを探し回ったが、ついになんの手がかりも掴めずにコルセアへと戻ってきていた。
「……へっ…あの時のみんなの顔ったらないよな…影に至ってはみんなから責められて何にも言えなくなってたもんな…あん時俺がかばってあげてたら良かったのかな…なぁ?雪…」
返ってくるはずのない質問を空中へと投げかける、目をつぶるとコルセアへと戻ってきた時の姉妹達の表情が昨日のことかというように蘇ってくる。
泣きじゃくる曇、表情の抜け落ちた影と雨、俺にちゃんと探したのかと詰め寄ってくる闇と陽、氷はずっとうつむいてたっけな。
「…あれから、仲直りはしたつもりだったけど…みんな立ち直って、前を向いて歩き始めていったのに…俺だけ未だ立ち上がれないままだ…みんなこの街から離れて行っちまったしよ…」
太陽に向かって手をかざしてみる、指の間から差し込む太陽の光に思わず目をしかめてしまう。
「あの時から俺たち姉妹の間には深い溝ができちまった気がする…たった一人…たった一人、お前がいないだけでこんなことになっちまうなんてな…俺は…俺たちはお前がいないと駄目なんだ、駄目なんだよ雪…」
別れ際に姉妹が言っていった一言を思い出していく。
「いつまでそこで腑抜けているつもりだ…雪がいないだけでお前はこんなに腑抜けてしまうのか!見損なったぞ…私は先に行く、もう、あいつはいないんだから…」
闇だ。
「あたしももう行く、こんなところにいたってなにもなりゃしないからな…めんどくせぇけどあたし達が前に進むことが雪への弔いになる気がするからな…じゃあ、な」
陽、一度もこっちを振り向かなかったなぁ。
「ボクがこんなこと言える立場じゃないのはもちろんわかっているつもりだけど、雷ちんはいつまでそうしているつもりなの?ボクももうこの街を出るよ、また会えたらいいね、さようなら…」
影…あいつも辛いのはわかっている、でも…。
「雷、貴方の責任じゃないんだからいつまでも塞ぎ込んでいたら駄目よ、私ももう行くわ、結局おんぶはしてもらえなかったけど…前を向いて歩き出すことが大切だと思うの、この街にいるのも私と貴方で最後だけれど、雪もソレを望んでいるんじゃないかしら?貴方が立ち直ってまた出会うことができる日を心待ちにしているわ、じゃあまた…」
氷が一番最後だったな、冷静に見えて一番雪の事にショックを受けてたってわけだ。
「まぁ…それでも俺よりはマシだったんだけどさ…まったく…みんなして好き勝手言いやがってよぅ…みんな泣き腫らして目が真っ赤になってたくせによ…ははっ…懐かしいなあ…」
クスクスとひとしきり笑ったあと、急に孤独感と虚しさが込み上げてくる。
今はもう"竜の息吹"という仲間たちがいるが、それでもやはり心の隙間は埋まってはくれない、自分の心の拠り所だったんだと、いつもこうなると思い直す。
「アイツラも良い友達なんだけどなぁ…はぁ、昼寝でもすっか…」
もう一度横になると雷は静かに目を閉じた。
そこへいつも一緒の三人組がそろそろと近づいてきた。
カルラは寝ている雷の顔を覗き込むとニシシと笑った。
「ライめっけ!こんなところにいたのか、どおりで見つからねーわけだ!」
さも自分が見つけたんだとばかりに誇らしげな顔をしているカルラの後ろから、ジータとリルが顔を出した。
「ここは、荷物もちょうど良くあるし海も一望できる、のんびりするにはもってこいの場所だな」
返事の返ってこない雷の横へジータは腰を下ろすとライと一緒に横になった。
「らしくないじゃないか……知っているぞ、決まっていつもどこかの誰かがジギーという名前を出した時、ライはここに来る、それと何か関係しているのか?」
「………るせぇ…」
リルは心配そうに雷とジータをじっと見たあと、カルラが見つけた波止場にくっついている蟹をどうにかして獲ろうと躍起になっているカルラを手伝い始める。
今までもジータは雷の事をよく見ていた、普段元気いっぱいで騒がしい程の雷が決まってジギーの名前で訪ねて来たやつがいると見るからに沈んでいる。人と話している時は明るく元気に対応するが、誰も見ていないところでは生気の失っている表情をしているのだ。
そんな雷をいつしかよく探すようになった、その話題が出るたびによくここに来ていることはジータも知っていた。
「……まぁ、言いたくないのなら深くは追求しないが…私達は君のことを結構気にかけているんだよ、元気がなければやはり気になる…いつでもいい、言いたくなったなら教えておくれ」
そう言ってジータは立ち上がろうとした。すると雷が静かに喋り出した。
「………人を…探してるんだ……もう何年も会えてない…アタシ達の合言葉はジギー…それしかない……ははっ、もう死んでるかも知れない人を、な…探してるんだよ、傑作だろ…?」
雷は自らを自嘲する。それを見たジータはなんとも言えない顔で雷の頭をなでた。
「……そうか…なら、探して見ないとだな」
「…は?」
雷は思わず身体を起こしジータを見る。
「デルガドさんが追い返したっていう人だよ、その人くらい探したってバチは当たんないだろう?探すだけ探して見ようさ、な?」
「ジータ…」
「女性だったみたいだしな、今までずっとハズレだったかも知れないけど今回は当たりかも知れないだろ?さぁ、行こう」
促されるまま雷はジータに手を引かれ立ち上がる、その後ろの方からはカルラの雄叫びとリルの拍手が聞こえてきた。
「ぃよっしゃー!!」
「おおー!カルラさんすごいです!やったやったー!ギルドで調理してもらいましょう!」
どうやら一生懸命やった結果、美味しそうな蟹が捕獲できたようだ。
カルラが蟹を掲げていると突然港全体が地響きによって揺れ始めた。街の方まで響きそうなくらいの大きな地響きだ。辺りはザワザワとし始め、"竜の息吹"の四人はかなり大きな気配が海の方から感じ、戦闘態勢に入った。
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