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第一章 海岸都市とビリビリ娘
港へ急げ
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雪はロドリゴさんを無事見つけていた。
あちらこちらに店の商品だったであろう物が散乱した港の市場、商売をしていたであろう屋台の物陰に隠れて騒ぎをやり過ごしていたところを発見し、事無きを得た。
「ロドリゴさん、ここまで来ればもう大丈夫ですか?私は一度ギルドへ行って今現在どういう状況かだけ確認してくることにします」
「あ、あぁ…助かった、本当に助かったユキくん、あそこであのまま死んでしまうんじゃないかって思ってたよ…僕はもう大丈夫、ここからなら家まで安心して帰ることができるよ…」
ロドリゴは雪の手をギュッとしばらく握っていると今まで不安そうだった表情を明るくさせて何度も頭を下げながらその場をあとにした。
「またあとでー!…さて、と、一度ギルドに向かって見ますか…どういう対応を取ってるのか確認しておかないと…」
去っていくロドリゴへと大きく手を振り、やがて姿が見えなくなった。
それではとギルドへ向かおうとしたところ、港の方からギルドの方向へと走って行く茶髪の少女を背負った赤髪の獣人の女の子が目に入った。
その表情には焦りと悔しさが滲んでいるように見える。
「あれは…?追いかけてみよう…!」
咄嗟に雪は彼女を追いかけた、なぜだかあの表情を見て放っておけないと思ってしまった。
その女の子はそのままの勢いでギルドに入っていった。雪は続けて入って目立つわけには行かないので入口を少しだけ開けて中の様子を伺った。先程の彼女は肩で息をしながら先程あったことを一生懸命デルガドへと捲し立てるように喋っている。
ここからではうまく聞こえないが、どうやらあの獣人の女の子の仲間が港へ残ってリヴァイアサンの攻撃が街へ向かないよう食い止めているらしい。
するとそこへ恰幅の良い中年の男がギルドへ入ろうと近づいてきた。
「すみません…ちょっとギルドへ入りたいのですが…と、あなたはこの間街門のところでお会いしたお嬢さんではありませんか…?」
「あれ?あぁあなたはこの間の!あの時は助かりました」
「いえいえ、大したことはしていません、私はフィリップと申します。しがない旅商人でございますよ」
男はそう言うと雪に握手を求め、雪もそれに快く応じた。
「こちらこそ、ユキって言います。そういえばあの門のところにいた人も解雇されたみたいですし、だいぶやりやすくなったんじゃないですか?」
「あぁそうなんですよ、どうやらあの男は色んな所で色々な事をやらかしていたみたいで、ここだけの話ギルドマスターが最近マークしていたみたいですよ…」
「だからあんなタイミングで現れたんですね…納得です」
「ですがこの街ももうおしまいかも知れませんね。リヴァイアサンが現れたみたいですし…この街の冒険者はB級までしかいないようで…そのB級の冒険者達も今は別の依頼で出払っているようでして…」
おじさんの後ろを見ると大きな荷馬車があり、それに売り物と思われる品が山のように積んであるのが見えた。
「ですので私もこの街をとりあえず出ようかと思いましてねぇ、今からその申請をしようと思って冒険者ギルドへ来たんです」
「冒険者ギルドでそのような申請ができるんですか?」
「えぇ、まぁ冒険者ギルドと一口に言ってもギルドというのは冒険者が所属している数が多いだけであって普通の商人もここで申請やらなにやらを行ったりするものなのですよ」
ニコリとおじさんは愛想よく微笑む、思わず私も微笑んでしまうが先程あった事をハッと思い出した。
「あっ、フィリップさん、どうやらあの子のお友達が海でリヴァイアサンとまだ戦っているようでして…できればあの荷馬車にある銅の剣を一つ私にお貸ししていただけませんか…?」
雪は慌ててギルドの中を指差し、懇願する。自分のようなフードを深くかぶった怪しい人物に自分の商品を貸すなんてことは出来ないであろうと思ったが言うだけ言ってみようと思ったのだ。
フィリップは状況を飲み込み、少し驚いたような顔をして口を開いた。
「まさか君が助けに行くとでも言うのですか?見ず知らずの他人でしょう、君がそこまでする義理はないんじゃないですか?…それにこの先もそんなことをしていたらやいずれ死んでしまうかも知れないですよ…」
「…そうかも知れません、でもフィリップさんが私を助けてくれたように…私も困った人を助けたくなってしまったんです…気まぐれかも知れません…でも今だけは、助けてあげたいと思ったからには行きたいんです…」
雪はうつむいて思ったことを口にしていく、フィリップはそれを真面目な表情でじっと見ている。やがて少しの沈黙が流れてフィリップが少し息を吐く。
「ふぅ…良いでしょうユキさん、あなたにあの銅剣を一本差し上げます」
「えっ…差し上げるって…」
「ははは…今しか生きれない若者に心を打たれた…っていう理由では駄目ですか?あぁ、でも一つだけ約束してください、これからあなたは色んな街へ行くかと思います…その先々でなるべく私の商会を使ってほしいのです、一振りの銅剣とこのコインを差し上げましょう。このコインを持っていれば私の商会でどの商品でも三割引にしてもらえますから、どうかなくさないように…」
フィリップはそう言うと銅剣と緑色のコインを手渡した、コインの中央には金貨の入った麻袋とフィリップという文字、それとよくわからない刻印が刻まれていた。
「あ、ありがとうございます…こんな良いものをいただけるなんて…約束は必ず守りますから、またどこかの街で出会えたら、その時はどうかよろしくおねがいします…ではまた!」
雪は深々とお辞儀をして銅剣とコインを受け取ると急いで港の方へとかけていった。
「あの娘はきっと大成する…必ずね…これは君への先行投資だよ、"峰藤 雪"くん…また会おう…」
やがて見えなくなった雪の背中目掛けてフィリップはそう呟いた。
あちらこちらに店の商品だったであろう物が散乱した港の市場、商売をしていたであろう屋台の物陰に隠れて騒ぎをやり過ごしていたところを発見し、事無きを得た。
「ロドリゴさん、ここまで来ればもう大丈夫ですか?私は一度ギルドへ行って今現在どういう状況かだけ確認してくることにします」
「あ、あぁ…助かった、本当に助かったユキくん、あそこであのまま死んでしまうんじゃないかって思ってたよ…僕はもう大丈夫、ここからなら家まで安心して帰ることができるよ…」
ロドリゴは雪の手をギュッとしばらく握っていると今まで不安そうだった表情を明るくさせて何度も頭を下げながらその場をあとにした。
「またあとでー!…さて、と、一度ギルドに向かって見ますか…どういう対応を取ってるのか確認しておかないと…」
去っていくロドリゴへと大きく手を振り、やがて姿が見えなくなった。
それではとギルドへ向かおうとしたところ、港の方からギルドの方向へと走って行く茶髪の少女を背負った赤髪の獣人の女の子が目に入った。
その表情には焦りと悔しさが滲んでいるように見える。
「あれは…?追いかけてみよう…!」
咄嗟に雪は彼女を追いかけた、なぜだかあの表情を見て放っておけないと思ってしまった。
その女の子はそのままの勢いでギルドに入っていった。雪は続けて入って目立つわけには行かないので入口を少しだけ開けて中の様子を伺った。先程の彼女は肩で息をしながら先程あったことを一生懸命デルガドへと捲し立てるように喋っている。
ここからではうまく聞こえないが、どうやらあの獣人の女の子の仲間が港へ残ってリヴァイアサンの攻撃が街へ向かないよう食い止めているらしい。
するとそこへ恰幅の良い中年の男がギルドへ入ろうと近づいてきた。
「すみません…ちょっとギルドへ入りたいのですが…と、あなたはこの間街門のところでお会いしたお嬢さんではありませんか…?」
「あれ?あぁあなたはこの間の!あの時は助かりました」
「いえいえ、大したことはしていません、私はフィリップと申します。しがない旅商人でございますよ」
男はそう言うと雪に握手を求め、雪もそれに快く応じた。
「こちらこそ、ユキって言います。そういえばあの門のところにいた人も解雇されたみたいですし、だいぶやりやすくなったんじゃないですか?」
「あぁそうなんですよ、どうやらあの男は色んな所で色々な事をやらかしていたみたいで、ここだけの話ギルドマスターが最近マークしていたみたいですよ…」
「だからあんなタイミングで現れたんですね…納得です」
「ですがこの街ももうおしまいかも知れませんね。リヴァイアサンが現れたみたいですし…この街の冒険者はB級までしかいないようで…そのB級の冒険者達も今は別の依頼で出払っているようでして…」
おじさんの後ろを見ると大きな荷馬車があり、それに売り物と思われる品が山のように積んであるのが見えた。
「ですので私もこの街をとりあえず出ようかと思いましてねぇ、今からその申請をしようと思って冒険者ギルドへ来たんです」
「冒険者ギルドでそのような申請ができるんですか?」
「えぇ、まぁ冒険者ギルドと一口に言ってもギルドというのは冒険者が所属している数が多いだけであって普通の商人もここで申請やらなにやらを行ったりするものなのですよ」
ニコリとおじさんは愛想よく微笑む、思わず私も微笑んでしまうが先程あった事をハッと思い出した。
「あっ、フィリップさん、どうやらあの子のお友達が海でリヴァイアサンとまだ戦っているようでして…できればあの荷馬車にある銅の剣を一つ私にお貸ししていただけませんか…?」
雪は慌ててギルドの中を指差し、懇願する。自分のようなフードを深くかぶった怪しい人物に自分の商品を貸すなんてことは出来ないであろうと思ったが言うだけ言ってみようと思ったのだ。
フィリップは状況を飲み込み、少し驚いたような顔をして口を開いた。
「まさか君が助けに行くとでも言うのですか?見ず知らずの他人でしょう、君がそこまでする義理はないんじゃないですか?…それにこの先もそんなことをしていたらやいずれ死んでしまうかも知れないですよ…」
「…そうかも知れません、でもフィリップさんが私を助けてくれたように…私も困った人を助けたくなってしまったんです…気まぐれかも知れません…でも今だけは、助けてあげたいと思ったからには行きたいんです…」
雪はうつむいて思ったことを口にしていく、フィリップはそれを真面目な表情でじっと見ている。やがて少しの沈黙が流れてフィリップが少し息を吐く。
「ふぅ…良いでしょうユキさん、あなたにあの銅剣を一本差し上げます」
「えっ…差し上げるって…」
「ははは…今しか生きれない若者に心を打たれた…っていう理由では駄目ですか?あぁ、でも一つだけ約束してください、これからあなたは色んな街へ行くかと思います…その先々でなるべく私の商会を使ってほしいのです、一振りの銅剣とこのコインを差し上げましょう。このコインを持っていれば私の商会でどの商品でも三割引にしてもらえますから、どうかなくさないように…」
フィリップはそう言うと銅剣と緑色のコインを手渡した、コインの中央には金貨の入った麻袋とフィリップという文字、それとよくわからない刻印が刻まれていた。
「あ、ありがとうございます…こんな良いものをいただけるなんて…約束は必ず守りますから、またどこかの街で出会えたら、その時はどうかよろしくおねがいします…ではまた!」
雪は深々とお辞儀をして銅剣とコインを受け取ると急いで港の方へとかけていった。
「あの娘はきっと大成する…必ずね…これは君への先行投資だよ、"峰藤 雪"くん…また会おう…」
やがて見えなくなった雪の背中目掛けてフィリップはそう呟いた。
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