Olympus Quest

狩野 理穂

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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~

暴走

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 完全に折れていたはずの腕が治っている。しかも痕一つなく。こんなことはあり得ない。
 だが、隣にいるイザナギは、どこか納得した様子で考え事をしている。

「響君、質問だ。ルーシュ君の話では、次の大きな出来事は何だった?」

 ……何を言ってるんだ? まず、ルーシュの話というのが分からない。しかも次って、何の次だよ。
 もし仮にこのミノタウロス事件に関連しているとしたら、次は、彼が初めてケラウノスを手にしたことだろうか。
 そのことをイザナギに伝えると、彼は何も言わずに宝玉を袂から取り出して掲げた。時間移動をするつもりなのだろう。俺がイザナギに触れた瞬間、大きな渦に巻き込まれるような感覚がして、時空を超えた──



 日が昇り切らないような朝方、そこには彼がいた。
 天から遣わされた雷槍の電撃にやられた自分を、彼は眺めていた。その目は虚ろで、何を考えているのかも読み取れない。今までのようにしっかりした身体ではなく、時折テレビの砂嵐のようになる。今の彼は、精神体なのだろう。

「ルーシュ」
「キミは……だれ?」

 衝撃だった。彼は記憶を失っていた。精神体の空間事消されていたのだ。何があってもおかしくはないが、やはりショックだ。

「あまり近づくな」

 イザナギが小声で俺に言う。何を言ってるんだ? この神は今までに何度も意味不明なことを言ってきたが、今回だけは納得できない。どうして再開した友達に近づいたらダメなんだよ!
 だが、いくら俺が睨みつけても、イザナギは身じろぎ一つしない。ただひたすらにルーシュの一挙手一投足を見守っている。

「コレ……ぼくと同じ形」

 ルーシュが呟く。一人称も変わっている。まるで生まれてのようだ。
 イザナギなんて関係ない。俺がルーシュに近づこうと一歩踏み出した途端、ソレは起きた。
 風景が大きく変わった。いや、風景自体は何も変化していない。ただ、一瞬にして夜になったのだ。本物のルーシュが寝ていることから、さっきまで早朝だったのは確かだ。それなのに夜になるなんて……時間移動以外考えられない。
 イザナギも不思議そうな顔をしている。つまり、今回は宝玉の能力でないってことだ。だったら誰が──ルーシュ?
 いや、そんなはずない。だって彼にはそんなことできっこないのだから。そうだろ? そう思ってイザナギの顔を見ると、彼は笑っていた。

「──確定だ」

 イザナギが言った。確定って……
 僕の首を掴むイザナギ。そのまま宝玉をかざす。

「少年、よく見たまえ」

 周囲の風景が変わる。ミノタウロスに襲撃された村、黒い王宮、白い神殿、カオスが居たような闇……視界が僕が見た事もない場所に移り変わるなか、僕とイザナギとルーシュだけがそこにいた。どうしてルーシュがいるんだ? この宝玉は触れている人しか時間移動できないはず……

「分かったかい? 彼は既にルーシュくんではない」
「どういうことだ?」
「昔話をしよう。古の対戦により欧州の神々に大きな格差がついた。その格差に憤りを感じた女神は己の力量を発揮し、反乱を起こした。だがその望みが果たされることは無かった。それでも諦めなかった女神は長期的戦略を実行した。外側から崩せないならば内から壊す──合理的な判断だ。しかし、女神はその影響を読み間違えた。オリンポス神を凌駕するその隠れた力は原初の神まで壊し始めた」
「どうして、時間差が?」
「これは一種の"薬"だ。身体、精神、格──様々な要素があるが、大きいもの程効きにくい。人間の場合、判別が面倒だが神は楽だ。旧いものが強力である絶対法則は不変のものなのだから」
「それでニュクスが遅れたのか……!」
「空間を司るカオスまで発症した今、次が何かは分かるだろう」

 空間と同列であり、欧州に関係している神……

「時間神──クロノス!」

 ルーシュの瞳孔が開いた。
 手錠によく似たものを持ったイザナギが走り出す。だが、それがルーシュに触れた瞬間、イザナギは僕の隣に戻っていた。俺は、ルーシュがクロノスでありイザナギとその周辺の時間を戻したのだと気づいた。
 ルーシュの口が三日月のように開く。

「──ぼくを封印から解いてくれて、ありがとう」

 ルーシュが消えた。いや、時間を跳んだのだ。

「ルーシュは、封印から解けたと言った。どんな封印だったんだ」
「クロノスは禁忌を犯し、人間の肉体に囚われていた。それから解離している時にカオスと接触したことで解放されたんだろうな」

 宝石を介してイザナミと連絡を取る。人類とは全く異なる言語のため、内容は分からない。
 十数分が経過し、彼らの会話は終わった。

「クロノスの居場所を掴んだ。彼は……カオスの世界に居る」
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