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第一章
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ヒライスの発言に俺は隣に座るルニーに視線を向ける。
ルニーはフルフルと首を横に振っていて、どうやらルニーも知らなかったようで、俺とルニーはヒライスの後ろで先程から控えている役人に視線を向ける。
俺達の視線を浴びた役人はコクコクと頷いていて、それを見て俺は再びヒライスに視線を戻す。
俺と目が合うとヒライスは悪戯が成功したような顔でニヤリ、と微笑んだ。
「ぎ、ギルド長さんがどうして…?」
「あ? そりゃお前…中々捕まらなかった札付きの盗賊共を生け捕りで捕まえてやって来た実力者が身分証不保持で街に入れなくて困ってる、って役人共が言ってたからだよ」
しかも、とヒライスはちらりと自分の後ろにいた役人を見てから続ける。
「それが誰がどう見ても美形の男が一緒、てなったら、助けてやりたくなる役人の気持ちも分からんでもないからな」
この場合の美形って…俺…なんですよね…嬉しいんだけど付け上がりそうになるから、そんなに褒めないで頂きたい…。
でもこの顔のお陰で門前払いにならなくて済んだのだと思えば悪くはないかも…?
(…ハッ! 落ち着け熙! これは美醜逆転世界だからこその扱いなんだ! 元の世界じゃ何処にでもいるありきたりなモブEにすぎないんだぞ!!!)
脳内会議で天狗になりかける自分を宥め透かして、ふと俺はヒライスが言っていた『札付きの盗賊』の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「あの…」
「あ?」
「あの盗賊って…そんなに悪い奴らだったんですか?」
「あー…まあ、盗賊は基本悪い奴らばっかりだが…アンタらが捕まえたのはその中でも悪どい事ばかりやる奴らでな。商人を襲っては身ぐるみ剥いで殺したりとか平気でやりやがる。中でも主犯の頭領は顔よし腕よしで通った、ある意味名の知れた男でな」
あの熊男もこの世界では美形認定なのか、そうなのか…。
「…ん? でも、ルニー、あいつらの事、めっちゃ簡単に倒してなかった?」
「…正直そんなに手強いとは思ってもみなかった」
心底驚いています、といった様子で俺の問いに答えたルニーを見て俺は察した。
これ、あれですね。盗賊が弱いんじゃなくて、ブチ切れたルニーが規格外に強かったって事ですね。
…ルニーを怒らせないようにしよう。
そっと心の中で誓う俺にヒライスが「続き話してもいいか?」と話を再開させる。
「まあ、そういう訳で、盗賊を捕まえたのが本当にお前達なのかどうかを確かめる為に俺が
直接様子見に来たって訳だ」
「…なるほど」
ヒライスの言葉にルニーはそれでか、とでも言いそうな雰囲気で納得していたが、俺は何も納得どころか理解すら出来ていないので、ルニーに説明を求める。
「…どういう事?」
「要するにこのギルド長さんは手練れの盗賊団を倒したかもしれない二人組がもし暴れたりしても対抗出来るくらいの実力者で、それをこの街の住人が周知している、という事だ」
「…んんん? ええっとつまり…ヒライスさんがめっちゃ強い人、て事?」
「まあ、簡単に言っちまえばそういう事だな! こう見えても若ぇ頃は冒険者として最前線で戦ってきたんでな。滅多な事じゃ負けやしねえから、こういった衛兵達じゃ対応出来そうにない場合は俺が直接来る事になってる」
このメソーゼの隠し玉みたいな存在か。
ほうほう、と頷く俺にヒライスは視線を向ける。
「実力者かどうかは大体この部屋に入る前の段階で分かってた。そいつは俺が殺気を出す前の段階で警戒していたからな。盗賊達を倒したのは真実だろう、と確証した訳だ。そうしたら後はその次。なんで二人共身分証を持っていないのか、だ」
ヒライスはそう言いながらルニーを指差す。
「そっちは奴隷出身って事で、納得出来る。問題はヒカル、お前だ」
「俺ぇ?」
「当たり前だろ。誰がどう見ても良い所の坊ちゃんな色男が、自身の出自を示す身分証を持ってない、てなると問題だろう」
実際には極一般家庭で生まれた平民も平民なんですけどね。まあ、この世界の出身じゃないから、いくら身分証を探した所で出てくる筈は絶対にないんだけど。
じい、と俺の様子を眺めているヒライスに向かって俺は笑みを浮かべる。
(なんだかなぁ…どうも、この人には見透かされてるような気がするんだよな…歴戦の勘ってやつかな? 下手に誤魔化しても良い事なさそうだし、大人しくしておくべきかな)
元冒険者で現ギルド長なら、他者の真偽を見透かす事くらいは出来そうだ。
現にヒライスは口にこそ出してはいないが、俺の記憶喪失っていう話も何処か嘘だと見破っていそうだし。
「…やっぱり、身分証?てやつがないと街には入れないですよね?」
「…まあ、普通はそうだろうな」
「そうですか…」
俺は自身の足元に視線を落としながら、ヒライスの視線から顔を隠す。
隣に座るルニーが心配そうに俺の名前を呼んでるのが聞こえた。
ごめんよ、ルニー。今、打開策を考えるから待っててな…。
「あーこれはあくまで参考までに聞いておいてほしいんだが」
ごほん、とわざとらしく咳払いをしたヒライスに俺は下げていた顔を上げる。
俺と視線が合ったのを確認するとヒライスは右手の人差し指を立てて、口を開く。
「今回の盗賊の捕獲成功に対して、ルニー…だったか? そいつには討伐報酬が出る。一般的な冒険者とかなら、その金は討伐した本人が受け取るもんなんだが…討伐したのが戦闘奴隷なら話は別だ」
ヒカルは嫌がるかもしれないけどな、と前置きしてヒライスは続けた。
「倒したのが奴隷なら、討伐報酬は奴隷の所有者に渡される。奴隷に身分証は必要はないが、奴隷の所有者には身分証が必要で、討伐報酬を受け取れる程の実力を持つ戦闘奴隷の所有者の身元は冒険者ギルドが保証する場合がある。ギルド側としても実力のある者が所属してくれるなら、それが一般人だろうが戦闘奴隷だろうが構いやしないからな。…で、ここには手配書に載るレベルの盗賊を倒せる実力のある元奴隷と冒険者ギルドを纏めるギルド長がいる訳だが…」
そこまで続けて、ヒライスはじっと俺を見つめた。
ここまで聞けばヒライスが伝えようとしている事は薄々理解出来る。
理解は出来るが納得も承諾もしたくない内容だった。
ルニーはフルフルと首を横に振っていて、どうやらルニーも知らなかったようで、俺とルニーはヒライスの後ろで先程から控えている役人に視線を向ける。
俺達の視線を浴びた役人はコクコクと頷いていて、それを見て俺は再びヒライスに視線を戻す。
俺と目が合うとヒライスは悪戯が成功したような顔でニヤリ、と微笑んだ。
「ぎ、ギルド長さんがどうして…?」
「あ? そりゃお前…中々捕まらなかった札付きの盗賊共を生け捕りで捕まえてやって来た実力者が身分証不保持で街に入れなくて困ってる、って役人共が言ってたからだよ」
しかも、とヒライスはちらりと自分の後ろにいた役人を見てから続ける。
「それが誰がどう見ても美形の男が一緒、てなったら、助けてやりたくなる役人の気持ちも分からんでもないからな」
この場合の美形って…俺…なんですよね…嬉しいんだけど付け上がりそうになるから、そんなに褒めないで頂きたい…。
でもこの顔のお陰で門前払いにならなくて済んだのだと思えば悪くはないかも…?
(…ハッ! 落ち着け熙! これは美醜逆転世界だからこその扱いなんだ! 元の世界じゃ何処にでもいるありきたりなモブEにすぎないんだぞ!!!)
脳内会議で天狗になりかける自分を宥め透かして、ふと俺はヒライスが言っていた『札付きの盗賊』の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「あの…」
「あ?」
「あの盗賊って…そんなに悪い奴らだったんですか?」
「あー…まあ、盗賊は基本悪い奴らばっかりだが…アンタらが捕まえたのはその中でも悪どい事ばかりやる奴らでな。商人を襲っては身ぐるみ剥いで殺したりとか平気でやりやがる。中でも主犯の頭領は顔よし腕よしで通った、ある意味名の知れた男でな」
あの熊男もこの世界では美形認定なのか、そうなのか…。
「…ん? でも、ルニー、あいつらの事、めっちゃ簡単に倒してなかった?」
「…正直そんなに手強いとは思ってもみなかった」
心底驚いています、といった様子で俺の問いに答えたルニーを見て俺は察した。
これ、あれですね。盗賊が弱いんじゃなくて、ブチ切れたルニーが規格外に強かったって事ですね。
…ルニーを怒らせないようにしよう。
そっと心の中で誓う俺にヒライスが「続き話してもいいか?」と話を再開させる。
「まあ、そういう訳で、盗賊を捕まえたのが本当にお前達なのかどうかを確かめる為に俺が
直接様子見に来たって訳だ」
「…なるほど」
ヒライスの言葉にルニーはそれでか、とでも言いそうな雰囲気で納得していたが、俺は何も納得どころか理解すら出来ていないので、ルニーに説明を求める。
「…どういう事?」
「要するにこのギルド長さんは手練れの盗賊団を倒したかもしれない二人組がもし暴れたりしても対抗出来るくらいの実力者で、それをこの街の住人が周知している、という事だ」
「…んんん? ええっとつまり…ヒライスさんがめっちゃ強い人、て事?」
「まあ、簡単に言っちまえばそういう事だな! こう見えても若ぇ頃は冒険者として最前線で戦ってきたんでな。滅多な事じゃ負けやしねえから、こういった衛兵達じゃ対応出来そうにない場合は俺が直接来る事になってる」
このメソーゼの隠し玉みたいな存在か。
ほうほう、と頷く俺にヒライスは視線を向ける。
「実力者かどうかは大体この部屋に入る前の段階で分かってた。そいつは俺が殺気を出す前の段階で警戒していたからな。盗賊達を倒したのは真実だろう、と確証した訳だ。そうしたら後はその次。なんで二人共身分証を持っていないのか、だ」
ヒライスはそう言いながらルニーを指差す。
「そっちは奴隷出身って事で、納得出来る。問題はヒカル、お前だ」
「俺ぇ?」
「当たり前だろ。誰がどう見ても良い所の坊ちゃんな色男が、自身の出自を示す身分証を持ってない、てなると問題だろう」
実際には極一般家庭で生まれた平民も平民なんですけどね。まあ、この世界の出身じゃないから、いくら身分証を探した所で出てくる筈は絶対にないんだけど。
じい、と俺の様子を眺めているヒライスに向かって俺は笑みを浮かべる。
(なんだかなぁ…どうも、この人には見透かされてるような気がするんだよな…歴戦の勘ってやつかな? 下手に誤魔化しても良い事なさそうだし、大人しくしておくべきかな)
元冒険者で現ギルド長なら、他者の真偽を見透かす事くらいは出来そうだ。
現にヒライスは口にこそ出してはいないが、俺の記憶喪失っていう話も何処か嘘だと見破っていそうだし。
「…やっぱり、身分証?てやつがないと街には入れないですよね?」
「…まあ、普通はそうだろうな」
「そうですか…」
俺は自身の足元に視線を落としながら、ヒライスの視線から顔を隠す。
隣に座るルニーが心配そうに俺の名前を呼んでるのが聞こえた。
ごめんよ、ルニー。今、打開策を考えるから待っててな…。
「あーこれはあくまで参考までに聞いておいてほしいんだが」
ごほん、とわざとらしく咳払いをしたヒライスに俺は下げていた顔を上げる。
俺と視線が合ったのを確認するとヒライスは右手の人差し指を立てて、口を開く。
「今回の盗賊の捕獲成功に対して、ルニー…だったか? そいつには討伐報酬が出る。一般的な冒険者とかなら、その金は討伐した本人が受け取るもんなんだが…討伐したのが戦闘奴隷なら話は別だ」
ヒカルは嫌がるかもしれないけどな、と前置きしてヒライスは続けた。
「倒したのが奴隷なら、討伐報酬は奴隷の所有者に渡される。奴隷に身分証は必要はないが、奴隷の所有者には身分証が必要で、討伐報酬を受け取れる程の実力を持つ戦闘奴隷の所有者の身元は冒険者ギルドが保証する場合がある。ギルド側としても実力のある者が所属してくれるなら、それが一般人だろうが戦闘奴隷だろうが構いやしないからな。…で、ここには手配書に載るレベルの盗賊を倒せる実力のある元奴隷と冒険者ギルドを纏めるギルド長がいる訳だが…」
そこまで続けて、ヒライスはじっと俺を見つめた。
ここまで聞けばヒライスが伝えようとしている事は薄々理解出来る。
理解は出来るが納得も承諾もしたくない内容だった。
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