4 / 6
第4章
しおりを挟む
昼間の砂漠のようなカラッとした暑さが嘘のように、空は茜色に染まり、少しだけ透き通った風が吹いていた。
窓から入る風で鈴音は眼を覚ます。先程まで思い悩んでいたことも吹き飛ばされたように、とまではいかないものの目覚めは良かった。
「もうこんな時間。涼介が帰ってくるまでにご飯支度しなくちゃ」
涼介の会社は17:30までだ。定時で上がれれば18:30には家に着く。今日は金曜日。残業もきっとないだろう。
鈴音は冷蔵庫の中を見る。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、そして豚肉が入っていた。カレーを作ろう。そう決めたあとの行動は無駄がなく、手際が良かった。
ぐつぐつと具材を煮込みながら鈴音は涼介のことを考えていた。あの光景、あの感覚。頭からどうしても離れない。涼介が帰ってきたら話を聞こう。
窓際から夕陽を眺める。とても美しく輝いて見えた。ベランダには黒く焦げた跡。赤く照らされて霞んで見えた。少し遠くに目を向けると、いつものゴミ捨て場。鈴音に持たされたゴミ袋を気怠そうに放り込む涼介の姿が浮かんできた。
毎朝繰り返される日常。その光景を思い出していると不思議と涙が溢れてきた。だんだん霞んでいく日常。その中ではっきりと目に写るものがあった。
黒い羽根。鴉の羽根だ。
先程まで夕陽で赤く輝いていた空が暗くなってきた。
「縁起悪いし、なんだか雨降りそうだな…」
鈴音は傘を二本持って外に出た。何か嫌な予感がする。雨とは別の何かだ。家を出て間もなく、ぽつりと空から雫が落ちてきた。静かに少しづつ数を増していき、あっという間に本格的な雨へと変わっていった。
鈴音の思った通り、涼介は無事に定期で仕事を終えていた。しかし、予報にはなかった雨のせいで会社の前で立ちすくんでいた。
それから5分ほど経った頃だろうか。後ろから麻里子が駆け寄ってきた。
「涼介くん!お疲れ様。なんとか仕事終わったよ。あれ、雨降ってるの?」
「あ、早川さんお疲れ様です。いつの間にか降ってたみたいですね。結構降ってるんですけど、傘持ってなくて…」
「それなら私、折り畳み傘持ってるから大丈夫。一緒に帰ろ!」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
麻里子は花柄の可愛らしい傘を開き、涼介へと差し出した。
「僕持つんでいいですよ。早川さん濡れちゃうんでもっとこっちに寄ってください。」
二人は身を寄せ合いながら歩き出した。雨は降り続いている。折り畳み傘ではどうしても肩が濡れてしまう。でも、不思議と冷たさは感じなかった。
昼間、青い空の下で弁当を食べた公園の前に通りかかったときだった。
「ねえ、涼介。その人誰?なにしてるの…?」
「鈴音?どうしてここに…?」
鈴音はさしていた傘を落とし、一瞬で全身が濡れてしまっていた。見たくなかった光景。また見てしまった。なんとなく感じた嫌な予感の正体はこれだったのか。
涼介と鈴音はお互い目を見開き、そこには黒い景色が写っていた。逆さまに落ちた傘にもまた、雨が溜まり黒い空を写していた。
窓から入る風で鈴音は眼を覚ます。先程まで思い悩んでいたことも吹き飛ばされたように、とまではいかないものの目覚めは良かった。
「もうこんな時間。涼介が帰ってくるまでにご飯支度しなくちゃ」
涼介の会社は17:30までだ。定時で上がれれば18:30には家に着く。今日は金曜日。残業もきっとないだろう。
鈴音は冷蔵庫の中を見る。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、そして豚肉が入っていた。カレーを作ろう。そう決めたあとの行動は無駄がなく、手際が良かった。
ぐつぐつと具材を煮込みながら鈴音は涼介のことを考えていた。あの光景、あの感覚。頭からどうしても離れない。涼介が帰ってきたら話を聞こう。
窓際から夕陽を眺める。とても美しく輝いて見えた。ベランダには黒く焦げた跡。赤く照らされて霞んで見えた。少し遠くに目を向けると、いつものゴミ捨て場。鈴音に持たされたゴミ袋を気怠そうに放り込む涼介の姿が浮かんできた。
毎朝繰り返される日常。その光景を思い出していると不思議と涙が溢れてきた。だんだん霞んでいく日常。その中ではっきりと目に写るものがあった。
黒い羽根。鴉の羽根だ。
先程まで夕陽で赤く輝いていた空が暗くなってきた。
「縁起悪いし、なんだか雨降りそうだな…」
鈴音は傘を二本持って外に出た。何か嫌な予感がする。雨とは別の何かだ。家を出て間もなく、ぽつりと空から雫が落ちてきた。静かに少しづつ数を増していき、あっという間に本格的な雨へと変わっていった。
鈴音の思った通り、涼介は無事に定期で仕事を終えていた。しかし、予報にはなかった雨のせいで会社の前で立ちすくんでいた。
それから5分ほど経った頃だろうか。後ろから麻里子が駆け寄ってきた。
「涼介くん!お疲れ様。なんとか仕事終わったよ。あれ、雨降ってるの?」
「あ、早川さんお疲れ様です。いつの間にか降ってたみたいですね。結構降ってるんですけど、傘持ってなくて…」
「それなら私、折り畳み傘持ってるから大丈夫。一緒に帰ろ!」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
麻里子は花柄の可愛らしい傘を開き、涼介へと差し出した。
「僕持つんでいいですよ。早川さん濡れちゃうんでもっとこっちに寄ってください。」
二人は身を寄せ合いながら歩き出した。雨は降り続いている。折り畳み傘ではどうしても肩が濡れてしまう。でも、不思議と冷たさは感じなかった。
昼間、青い空の下で弁当を食べた公園の前に通りかかったときだった。
「ねえ、涼介。その人誰?なにしてるの…?」
「鈴音?どうしてここに…?」
鈴音はさしていた傘を落とし、一瞬で全身が濡れてしまっていた。見たくなかった光景。また見てしまった。なんとなく感じた嫌な予感の正体はこれだったのか。
涼介と鈴音はお互い目を見開き、そこには黒い景色が写っていた。逆さまに落ちた傘にもまた、雨が溜まり黒い空を写していた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
古書館に眠る手記
猫戸針子
歴史・時代
革命前夜、帝室図書館の地下で、一人の官僚は“禁書”を守ろうとしていた。
十九世紀オーストリア、静寂を破ったのは一冊の古手記。
そこに記されたのは、遠い宮廷と一人の王女の物語。
寓話のように綴られたその記録は、やがて現実の思想へとつながってゆく。
“読む者の想像が物語を完成させる”記録文学。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる