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行きは酔い酔い、帰りは……。
話し声、笑い声。
店員が注文を取る声。
グラスのぶつかる音。
テーブルいっぱいに並ぶ皿からは、油とタレの匂いが立ち上り、熱気に混ざって押し寄せて来る。
そんな混沌とした場所。
そう、ここは居酒屋である。
俺がどんなに願ってもやはり時間が止まることなどなかった。
周囲の盛り上がりに反して、俺の心はひどく静かで落ち着かない。
ゼミのみんなの笑い声がやけに遠くに感じた。居心地が悪い。
視線を動かせば、少し離れた席に、友人と笑い合っている安達がいる。
ただ笑っているだけなのに、胸の奥が締め付けられる。
不意に零したため息は、周囲の喧噪に混ざって消えていった。
一人でちびちび飲んでいると、がしっと首に腕が回される。
「桐越~! 飲んでるか?」
ぐっと詰められたパーソナルスペース。反射的に体を離す。
「ぼちぼち飲んでます……先輩、重いんで離れてください。」
「え~? いいだろ別に! ほら、飲め飲め。」
目の前に注がれた瓶ビール。しゅわしゅわと泡立つそれに顔を顰める。
「いや、俺はそんなに……。」
「遠慮すんなって! はい、ぐいっと!」
無理やりグラスを持たされ、流石に断ることができない。
仕方なく、ぐっと喉の奥に流し込むと、焼けるような熱さに視界が滲んだ。
「いいぞ、流石桐越! 飲みっぷりだな! さ、どんどん飲めよ!」
次々とグラスに注がれていく酒。
逃げようと試みるも、先輩にがっしりとのしかかられていて、動けない。
「ちょ、ほんとにもう……やめてくださいって!」
顔を顰めながらグラスを口に運ぶ。
その時、ふと視界に安達が映った。
友人の話を聞いているのか、静かに相槌を打っている。
その顔には、微かな笑みが浮かんでいた。
その何気ない笑顔が、どうしようもなく心に刺さる。
――くそ、楽しそうにしやがって。
先輩の声も、店内の喧噪も、次第に遠のいていく。
気がつけば、自分からグラスへと手を伸ばしていた。
ぐいっと熱の塊を飲み干す。苦みが口に広がった。
「新、これ飲んで。」
ふいに涼が水をさし出してくる。
「いや、まだだいじょうぶだって……。」
「いや、お前もう限界じゃ……」
心配を含んだ涼の声を遮るように、先輩が笑いながら口を挟む。
「桐越はこう言ってるんだし大丈夫だって! あ、瓶ビールもう一本お願いします!」
「ちょ、先輩……。」
また、新しい酒が注がれる。
迷わず、飲み干した。また、苦みと熱が広がっていく。
飲まなきゃやっていられなかった。
あいつの笑う姿を見る度に胸が痛む。
そんな状態で素面でいられるわけなくて。
酒の熱がこの痛みを忘れさせてくれると、そう信じていた。
いつまでそうしていただろうか。
頭がふらふらする。
体が熱い。滲む視界はぐらぐらと回っているような気がした。
「あらた、新! おいっ……。」
あれ、涼の声が遠い……、その瞬間、視界が暗転した。
******
ふいに、意識が浮上する。
振動から、誰かにおぶられていると分かった。
体にじんわりと伝わる熱が心地よい。
離したくなくて、思わずぎゅっと抱きしめてしまう。
その人は一瞬、ぴくりと肩を揺らして止まった。
けれどまたすぐに歩き始める。
ゆったりとした振動と、心地よい熱。それにまた意識が沈んでいく。
沈み切る直前、ふわりとせっけんの匂いが鼻を掠めた。
あれ、これどこかで……?
そこで俺の意識はぷつりと途切れた。
店員が注文を取る声。
グラスのぶつかる音。
テーブルいっぱいに並ぶ皿からは、油とタレの匂いが立ち上り、熱気に混ざって押し寄せて来る。
そんな混沌とした場所。
そう、ここは居酒屋である。
俺がどんなに願ってもやはり時間が止まることなどなかった。
周囲の盛り上がりに反して、俺の心はひどく静かで落ち着かない。
ゼミのみんなの笑い声がやけに遠くに感じた。居心地が悪い。
視線を動かせば、少し離れた席に、友人と笑い合っている安達がいる。
ただ笑っているだけなのに、胸の奥が締め付けられる。
不意に零したため息は、周囲の喧噪に混ざって消えていった。
一人でちびちび飲んでいると、がしっと首に腕が回される。
「桐越~! 飲んでるか?」
ぐっと詰められたパーソナルスペース。反射的に体を離す。
「ぼちぼち飲んでます……先輩、重いんで離れてください。」
「え~? いいだろ別に! ほら、飲め飲め。」
目の前に注がれた瓶ビール。しゅわしゅわと泡立つそれに顔を顰める。
「いや、俺はそんなに……。」
「遠慮すんなって! はい、ぐいっと!」
無理やりグラスを持たされ、流石に断ることができない。
仕方なく、ぐっと喉の奥に流し込むと、焼けるような熱さに視界が滲んだ。
「いいぞ、流石桐越! 飲みっぷりだな! さ、どんどん飲めよ!」
次々とグラスに注がれていく酒。
逃げようと試みるも、先輩にがっしりとのしかかられていて、動けない。
「ちょ、ほんとにもう……やめてくださいって!」
顔を顰めながらグラスを口に運ぶ。
その時、ふと視界に安達が映った。
友人の話を聞いているのか、静かに相槌を打っている。
その顔には、微かな笑みが浮かんでいた。
その何気ない笑顔が、どうしようもなく心に刺さる。
――くそ、楽しそうにしやがって。
先輩の声も、店内の喧噪も、次第に遠のいていく。
気がつけば、自分からグラスへと手を伸ばしていた。
ぐいっと熱の塊を飲み干す。苦みが口に広がった。
「新、これ飲んで。」
ふいに涼が水をさし出してくる。
「いや、まだだいじょうぶだって……。」
「いや、お前もう限界じゃ……」
心配を含んだ涼の声を遮るように、先輩が笑いながら口を挟む。
「桐越はこう言ってるんだし大丈夫だって! あ、瓶ビールもう一本お願いします!」
「ちょ、先輩……。」
また、新しい酒が注がれる。
迷わず、飲み干した。また、苦みと熱が広がっていく。
飲まなきゃやっていられなかった。
あいつの笑う姿を見る度に胸が痛む。
そんな状態で素面でいられるわけなくて。
酒の熱がこの痛みを忘れさせてくれると、そう信じていた。
いつまでそうしていただろうか。
頭がふらふらする。
体が熱い。滲む視界はぐらぐらと回っているような気がした。
「あらた、新! おいっ……。」
あれ、涼の声が遠い……、その瞬間、視界が暗転した。
******
ふいに、意識が浮上する。
振動から、誰かにおぶられていると分かった。
体にじんわりと伝わる熱が心地よい。
離したくなくて、思わずぎゅっと抱きしめてしまう。
その人は一瞬、ぴくりと肩を揺らして止まった。
けれどまたすぐに歩き始める。
ゆったりとした振動と、心地よい熱。それにまた意識が沈んでいく。
沈み切る直前、ふわりとせっけんの匂いが鼻を掠めた。
あれ、これどこかで……?
そこで俺の意識はぷつりと途切れた。
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